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万能召喚士と恵みの女帝  作者: 竜鬚虎
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第二十八話 湖の町の発展

 さて場所は戻って、その女帝に強く心配されていたホタイン達。彼らの村には、活気が戻り始めていた。


「お~~い、魚だぞ! こんなに獲れた!」

「おおっ、すげえな! でもあまり獲り過ぎるなよ! 折角戻ってきた自然なんだ!」


 湖の水面を、いくつものボートが、エンジン音をかき鳴らしながら走り回っている。その中の何隻かが、大きな網に、大量の魚を捕まえている。

 タンタンメンが蘇らせた湖は、村人達に大いなる恵みをもたらしていた。食糧事情に関しては、未だに和己の召喚魔法に頼りっぱなしである。

 だがこの湖のおかげで、その食糧の一部を、自活できるようなっていた。勿論乱獲によって、湖の生態系を壊すわけには行かないので、かなり制限をかけてであるが。


 湖から畑に延びる水路も、屈強なホタインの腕力と、ライムの分身のおかげで、早々に完成している。

 ライムは、あの分身能力を、あまり乱用せずに、一定の数に増やし、村の復興の労働力として、大いに活躍していた。


 ちなみに数日前に畑に蒔いた種(和己が召喚した)は、もう芽が出てきて、成長し始めている。

 この成長の速さは、少し異常である。これが召喚の祭に、種に特殊な力が与えられたか、又は召喚した肥料のおかげか、又はタンタンメンが潤した湖水のおかげか……そのいずれかなのかは定かではないが。


 ちなみに村の変化はもう一つある。村人達の服装の変化だ。以前は粗末で汚れた布の服を着ていた。だが今の彼らは、まるで時代劇の役者のような、着物姿であった。






 さて村の中で人々が笑顔で働いている中、和己達はある作業のために、村から少し離れた、丘の上にいた。

 その作業とは、精霊の宿ったあの木の、二度目の植え替えである。ちなみにこの作業に、カーミラは参加していない。彼女は町から少し離れた荒野で、魔法の特訓中である。


「オークさん! こんな感じになりましたけど、どんな感じですか!?」

『おおっ、いい感じだぜ! ここからなら、村と湖がよく見えるし!』


 丘の上に植えられた一本の木。それは最近オークという名前が付けられた、精霊の木である。

 セイラの言葉に、機嫌良く応える彼。精霊=オークの本体である樹木は、以前より更に大きく成長している。もう樹高が二十メートル以上ある。

 これ以上巨大化されると、あの家の庭に置いておくのは限界が来ていた。そのために、また新たな植え替えを行ったのだ。

 あそこまで大きくなった樹木を、掘り返した根元から移動させるのは、普通なら大変な作業である。だがホタイン二人と、和己の腕力ならば、それほど大した労力ではなかった。


『でも……家から結構離れてるな。オレとしても、一人だと寂しいしさ。毎日こっちにも寄ってくれよな?』

「そうですね。じゃあ毎日挨拶に窺いますね」

『それよりお前が自分で来たらどうだ? もう少しで、家まで霊体を送れるんじゃないのか?』


 最後に口にしたのはジャック。この精霊の木は、巨大化と共にあるもう一つの変化が起きていた。


『確かにな……どんどん遠くまで動けるようになってたし』


 そのオークの言葉と共に、彼の本体の、今植えたばかりの根元に、何かが現れた。それは幽霊だった。赤い着物を着た、伸びた黒い髪を、頭に天辺に束ねた、十歳ぐらいの中性的な容姿の少年。

 それは見た目は人間だが、明らかに人間とは……というより、一般的な生物とは明らかに異なる特徴があった。

 それは彼の身体が、うっすらと透けているのである。遠くから見れば判らないが、近くで見るとはっきりと判る特徴。これを見たものは、誰もが即座に幽霊だと思うだろう。


『召喚された途端、喋れるようなって……更にでかくなって……そして今度は分体を飛ばせるようになったからな。まさか只の街路樹だった俺が、ここまで出世できるとはな、世の中判らないもんだぜ』


 そう口にする幽霊少年。その声はオークと同じだ。というかこの少年は、オークの魂の一部である。つい最近になって、彼は喋れるだけでなく、こうやって分身を生み出せるようになったのである。

 しかも本体から移動できる距離は、日に日に伸びている。


「ああ、運が良かったな。何ならしめ縄かけて、ご神木っぽくしてみるか?」

「それは面白そうだな。丁度ここに、和の神官の装いをしたものがいる。まあ私と違って、何の魔力もないなりきりだがな」

「これって似合うものなんですか?」


 和己達の言葉に、不思議そうなセイラ。今メガとセイラは、村人同様に、二人とも着物である。

 メガは時代劇のイケメン浪人侍のような、灰色の着物に、黒い襟三の着物。セイラの方は、日本の女性神職のような赤と白の着物と袴の服装である。

 何故彼らがそんな服装であるかというと、和己が自分の趣味で、村人達に和風装束を大量に召喚して配ったのである。






「大丈夫か、お前ら? さっきからずっと働いてくれてるけど……」

「大丈夫だよ~~。これって結構楽しいし」


 以前より更に面積が拡大した村の農地。いやあれはもう村ではなく、町と呼んだ方がいいだろう。

 トントンとトンカチを打つ音が聞こえてくる町の方では、既に数万人まで増えたホタイン達が、一生懸命新しい家を建て始めている。

 そしてその町の隣に広がる農地には、ホタインの農夫達と、彼らか農作業を習ったライムの分身達が、農作業にふけっていた。

 一時は世界を埋め尽くすのではと恐れられた、ライムの増殖能力。今はその力を使って、彼女はホタイン達に、豊富な労働力を提供していた。

 彼女らには全体的に、雑草取りをしている者が多い。先程も説明したように、ここは作物の育ちが、女帝の魔法ほどではないがかなり早い。同時に雑草も、同じくよく生え良く伸びる。そのため普通の農地と比べて、雑草対策の労力が、これから多くなりそうである。


「しかしここもあっというまに変わったよな。あんな綺麗な湖を、この目で見ることになるなんてよ。あれと比べると、帝国の領土がゴミみたいだぜ」

「ああ、人妖が世界を滅ぼす前は、世界中にあんな風に生き物がいっぱいいたらしいが。これも和己とタンタンメンさんのおかげだな。ああ、そうだ……最初はゲド様が、俺たちに助けるよう言ってたんだっけ?」

「ええ……な~にが、土地を奪った極悪魔道士よ。本当の極悪人は、女帝の方じゃない。全く、あんな奴を先祖代々崇めてたなんてね……」


 ライム達と働きながら、農夫達が明るくそう会話している。以前までの絶望的な暮らしが嘘のようである。

 彼らの会話も、希望に満ちあふれたものから、次第に女帝に対する悪口と恨み言が増えて、やや剣呑な雰囲気になってきたが……


「お~~~い大変だぞ!」


 そんな時に、畑の端の方で働いていた農夫が、仲間達に慌てた口調で声をかけ始めた。


「帝国だ! 帝国の部隊が、こっちに来てるぞ! しかもいつもと違って、大部隊だ!」

「「!!!」」


 彼が見つけたのは、畑の向こうの荒野を、こちらに向けて走ってくる、帝国の機械車両の集団であった。たった今、帝国の悪口を言い合っている最中での、突然の訪問者に、皆が絶句した。


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