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万能召喚士と恵みの女帝  作者: 竜鬚虎
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第二十七話 女帝

 場所は移り変わり、和己達がいる湖の村より、遥か北方になる大地にて。

 そこまでの道のりは、相変わらず荒れ果てた荒野が続いているが、ある地点から、その風景が一変する。それは明らかな、人間の生活圏であった。

 広大な農地と、用水路で繋がった溜め池が幾つもあり、その所々に、ポツリポツリと建物がある。それは今和己達の村が開墾しようとしている土地よりも、遥かに広大な農地である。

 その農地の奥先を進むと、農地に取り囲まれた土地に、大規模な都市があった。現代世界の都市のような、高層ビルなどはないものの、結構な大きさの、石造りの建造物が、各地に建てられている。

 住宅街と思われる所には、大型のアパートが、まるでドミノのように大量に並んでいた。そこには今でも人が住んでいるのだが、町の中はあまり衛生的ではなかった。

 町には街路樹などは無く、緑は全く見えない。あちこちに、不法投棄されたゴミが溜まり、建物の壁や道路もどこか汚い。見ようによっては廃墟にも見える町並みである。そこの住まう人々も、あまり活発では無く、良い暮らしをしている風ではなかった。


 まあ、街のことは今は置いておくとして、今要点を抜き出すべき部分は、その街の更に先。この生活圏の中央にある大型の建物であった。

 そこには亀の甲羅のような、ドーム状の建物があり、その周囲を実に高い、コンクリート製の城壁で囲まれている。

 城壁の上の通路には、重機関銃の銃座が一定距離ずつ、規則的に配置されている。街を守らず、この建物だけを守る、何とも限定的な砦である。

 さてその見た目ごつい建物の中に、この都市圏で、最も重要とされる人物が居住していた。


「はぁ……はぁ……」


 建物の更に中央部の、大広間の中。円形の大きな部屋の中で、魔方陣のような奇怪な円形の陣が張られた床がある。その床の真ん中を、一人の少女が、苦しそうに座っていた。

 その少女は和己やカーミラと同じ、黄色系の人種で、年齢は十代半ばほど。丸顔の短髪の少女である。

 ゲームで見かける、女性神官のような、紫色の法衣を身に纏っており、その生地の良さから、それなりの身分であることが窺えた。


「女帝陛下! 今日も恵みの力をありがとうございます!」


 魔方陣の真ん中で、域を荒げて座り込んでいる少女の前に、そんな声を上げながら、一人の男が近寄ってくる。

 豪華な装飾が施された、騎士のような板金鎧を纏った、大男である。金髪碧眼の白人種で、年齢は三十代半ばほど、整った容姿のナイスミドルな騎士である。


「ごめんなさいガイデルさん……今日はここまでみたいです……」

「いえいえ! 何故謝罪などするのですか!? 女帝陛下のお力は、十分なほど、この国に恵みを与えていますよ」


 汗だくでふらつきながら立ち上がる少女=女帝に、大勢の使用人と思われる者達が、彼女に寄り添い、汗を拭き、彼女の歩く道に付き添っていく。大柄の男=ガイデルが、そんな彼女に恭しく敬礼する。


「実は先程、討伐隊から連絡が来ました。西方に巣くっていた邪竜を、ハリエット達が見事討伐に成功したようです」

「本当!? 良かった……」


 ガイデルの言葉に、女帝は大いに驚き、そしてホッと胸を撫で下ろす。だがすぐに、顔を引き締めて、ガイデルに詰問する。


「それで部隊の被害は!? また誰か、亡くなったり、怪我をしたりした人は!?」

「大丈夫です! 今回はこちらに、犠牲者は一人もおりません! 前回の大きな犠牲に伴い、この街の防備を薄めてまで、討伐部隊の増強を決断した陛下のご意志のおかげですよ! 圧倒的な火力で、邪竜を抵抗する暇もなく、見事粉砕したようです!」


 この報告で、女帝は更に大きな安堵の域を吐く。自分が送り込んだ部隊に、一人も犠牲者がいなかったことに、心底喜んでいる様子である。


「邪竜がいなくなったって事は……これでこの国の呪いは、無くなるのかな……?」

「それはまだ何も……。呪いというものは、術者を倒したからと言って、そうすぐに消えるものではないのですから」

「そうだったよね……。本当はすぐにでも、ホタインの人達を、また帰してあげたいのに……」


 女帝は、今和己達と一緒にいる、ホタイン族の事を思い出し、強く胸を痛めていた。

 農地がどんどん弱っていき、このレイン帝国の食糧難が深刻になる中、彼女の元に驚くべき話しが来たのだ。

 この国に住んでいた獣人族のホタイン達が、この国を離れ、遠い荒野の地に新しい土地を探しに行くというのだ。この国の食糧事情の深刻さと、女帝の魔力の負担の多さを知った彼らは、女帝のために自ら口減らしになると、決めたのである。


 女帝はすぐに考え直すよう通達したが、彼らの意思は固いようで、数日後に足早にこの国を去って行った。すぐに連れ戻すよう使者を送ったが、取り合わなかった。

 女帝は、本当ならば、自らこの王宮を出て、彼らを説得したかった。だが残念ながら彼女は、この国の恵みを与えるための、大事な柱。この特殊な魔方陣を敷いた王宮からは、一歩も出る訳にはいかないのである。


「ガイデルさん……本当に、ホタインの人達は、まだ見つかってないの?」

「ええ……我ら帝国軍も必死に捜索しているのですが……何しろあの広大な荒野の中を出て行ったのですからね。おそらくはもう……」

「駄目だよ! まだ諦めちゃ駄目! お願いガイデルさん! あの人達を助けて!」

「はっ……ははっ!」


 必死に懇願する女帝に、ガイデルは即座に敬礼する。だがすぐに、ガイデルは難しい顔をして、諭すように言葉を続けた。


「しかし陛下……彼らは陛下のためを想って、自らを犠牲にする道を選んだのですよ? あなたがいつまでも彼らに執着していることは、むしろ彼らの陛下への想いを、踏みにじることになりかねません……」

「そんな想いなんて、いらないよ! 私は誰も犠牲になんてしたくない!」


 目に涙を浮かべ、そう強く声を上げる女帝。ガイデルも、それ以上は口答えすることはなかった。


「そうですか……しかし例え呪いが解けても、彼らを迎え入れる食糧を得るには、時間がかかります……。頼みの綱は赤森王国とゲドの生み出した大森林ですが……あそこと相変わらずです」

「判ってる。私も最後まで説得するよ! あの国の天者達も、私と同じ日本人だったんだし……絶対に諦めない」


 数ヶ月前に、この国のある王宮魔道士達が、食糧難を解決するためのある計画を立てて、それを見事一歩前進させた。

 それは異世界に繋がる次元の門を作り上げて、そこから外側の世界から、食糧を手に入れようとするもの。その次元の門事態は、見事生み出すのに成功した。

 その門の先にある世界は、赤森(あかもり)王国という、巨大国家の領土にあった。女帝がかつて普通の人間(・・・・・)だった頃よりも、遙かに優れた機械文明を持った国である。

 女帝は赤森王国に書状と使者を送り、この国に援助を求めた。だが返ってきた返答は厳しいもの。このレイン帝国のような、野蛮な小国に、力添えすることなどないと、一蹴されてしまったのである。


 これにはゲドに関しても同じで、彼女の開拓した大森林の一部を、こちらの居住区として貸してくれないかと、懇願の書状を出した。引き受けてくれたら、今この国で支払える、どんなものでも対価として差し出すつもりでいた。

 だがやはり彼女の出した答えも冷たい物。それどころか、自分に慈悲を求めるなら、国民の半分の命を生贄に差し出し、もう半分を一生奴隷としてこちらに差し出せと、言い出す始末である。


(私は絶対に諦めない……きっと皆、どうにか助かる方法を見つけなくちゃ……)


 食糧難で苦しんでいる、帝国の民を想い、女帝はそう強く心に決めていた。

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