第二十三話 大花火
ドン!
そこで召喚された物は、実に大きなものであった。細長い卵のような形の金属製の物体だ。大きさは全長三メートルぐらいある。
細い先端部分には、飛行機の尾翼のようなものが、三つついている。本体には何か大きな文字で、何かが書かれているが、日本語ではないようで、和己には読み解くことができなかった。
「何だこれ? 映画の不発弾ぽいけど……もしかして爆弾か?」
『そうね。しかしすごいもの召喚したわね……。これほどものを呼べるなんて、あんた只者じゃないわ』
「そうなのか?」
爆弾の扱いなど全く知らないので、これをどう扱えばいいのか判らず困惑していた和己。
だがタンタンメンは、凄いと言ってきたので、俄然興味湧いてきた。
『あんたどこの世界の出身か知らないけど……核爆弾って知ってる?』
「……えっ?」
興味が湧いてきたら、凄すぎる発言が聞こえてきた。言葉通りの爆弾発言に、和己は一瞬で固まってしまう。
『知ってるみたいね。まあ……これは厳密には核じゃないし、放射能も撒き散らさないから安心して。殲滅弾っていって、TNT換算で、二メガトンぐらいじゃないかしら?』
「その数値は、どのぐらいの威力なんだ?」
一先ず核ではないと聞いてホッとした和己。何やら聞き慣れない単語で、数値を言われたが、それの具体的な威力は判らなかった。
『広島原爆の130倍ね。爆発すれば、ここらの半径数キロが消し飛ぶわ』
「んなっ!?」
『しかもそれ、今起動してるわよ。内部でもの凄いエネルギーが膨張してるのが判るわ。多分後数分もすれば、ドカン!と行くんじゃないかしら?』
「はいぃいいいいっ!?」
トンデモ発言の二連発。爆弾の扱いが判らず困っていたが、生憎その心配はいらなかった。この爆弾は、召喚と同時に、勝手に起動していたのだから。
確かにこれなら、近くにまで接近している機械部隊も、和己が指定したとおりに丸ごと吹き飛ばせるだろう。
「ちょっとやばすぎだろ!? 止められないのか!?」
『自分で喚んでおいて、何で私に聞くのかしら? まあ大丈夫安心して』
「止められるのか?」
『止められないけど、私は丈夫だから大丈夫よ。私を殺したきゃ、数千メガトンぐらいの爆弾は用意してくれないと。まあ、あんたとあいつらは死ぬでしょうけどね』
「うぉいっ!? ブッ、ブラック!? 飛べ!」
完全に他人事で、あっけらかんというタンタンメン。それに和己は大慌てで、ブラックに頼んで飛び立とうとするが。近くで浮いていた目目連達が、咎めるように制止してきた。
『ちょっと待て和己。ゲドからの依頼はどうする?』
「そんなこと言ってられるか!? ていうかあいつは大丈夫って言うし、それであの戦車共もぶっ飛ばせれば、それで依頼完了だろうが!」
『まあ、そうだけどさ。私の寝床を壊すのは止めて欲しいわね』
タンタンメンがそう言うと、突如そこに風が吹き荒れた。しかも一帯を吹き飛ばすような風ではなく、部分的に空気の流れが速くなる、自然ではあり得ない風である。
(この風は!? タンタンメンの魔法か!?)
局地的な小型竜巻は、何と爆弾の周りを浮いていた。まるでコマが回っているように、その爆弾の周りを円形に流れる風。その風の浮力なのか、その数トンの重さはありそうな爆弾が、風船のように浮き上がった。
最初にゆっくり浮いたかと思うと、急に速度が速まる。まるでロケットを発射したかのように、一気に空へとその巨大な物体が飛んでいった。
(すっ、すげえっ!)
タンタンメンが発したと思われる、膨大なエネルギーに驚愕する和己。風に舞い上がられた爆弾は、ある程度の高さまで上がると、横上に向きを変えた。
とてつもない速度でどんどん上昇しながら、西方へと飛んでいき、こちらから見える大きさが小さくなっていく。そう遠くないうちに、雲の流れる場所を突き抜けるだろう。それから数分ほどして……
ドォオオオオオオン!
爆弾は打ち上げ花火のように、その爆弾は空の上で爆発した。いくつかの雲が消滅し、空に真っ赤な火球が生み出され、空に太陽が二つできたかのような光景が出来上がる。
やがてその火球も消滅し、空には膨大な煙だけが残された。
「すげえなこれ……俺たちがこいつを守る意味あんのか?」
『一応依頼だから、あの者達だけでも、倒しておけばいいのでは?』
「ああ、そうだった!」
うっかり忘れたいたが、あの機械部隊は、まだこっちに進軍しているのである。見てみると、先程の爆発に動揺しているのか、部隊は一時荒野で停止している。
あのまま退いてくれるといいのだが、残念ながらしばらくして、部隊は再びこっちに向かって動き出した。
「仕切り直しだ! 今度はあまり派手に壊さない感じの武器を喚ぶぞ!」
『頑張れよぉ~~』
再度召喚を試みる和己。その様子に、守られる側の立場であるはずの者は、実に気楽な声で応援するのであった。
(それにしてもさっきの爆発力、想像以上に凄かったわね……。さっきは二メガトンとか言ったけど……実際はそれより一桁多い爆発力だったかも……。もしかしてこれって……)
さっきの爆弾の爆発力が、自分の計算と違っていたことに、不思議そうなタンタンメン。
そんなことを考えている間に、和己が二つ目の切り札を召喚した。
ドン!
そして召喚されたのは、またもや似たような物体であった。さっきより、やや細長い形の大型爆弾である。文字が書かれているが、相変わらず日本語ではないので読めない。
ただし判りやすいマークが一つ。海賊旗のような黒い髑髏マークが、かなり大きく描かれている。
「またこれかよ!? 派手にぶっ壊す物じゃなくてな……」
『いや……それはあんたが望んだ通りの物よ。それは爆発して、当たりを破壊するだけの物じゃないわ』
望んだ通り物ではないように見えるそれに苛立つ和己。だが今回もまた、タンタンメンはこの召喚物が何か判るらしい。
「じゃあ何なんだ? 爆弾じゃないのか?」
『爆弾は爆弾だけど、それは爆発で壊すのが主目的じゃないわ。それは毒ガス弾ね』
「はぁ!? もっとやべえじゃん!?」
確かに先程のように、行きすぎた破壊をするものではないだろうが、場合によってはもっと酷いものであった……
『それはグールポイズンね。爆発したら、範囲数キロの生き物は残らず死滅するわ。しかもそれで死んだ生き物が、グール……判りやすく言えば、ゾンビになって生き返って、周りの物に手当たり次第襲いかかって、二重の被害を与えるわ』
「どこの誰だ!? こんないかれたもん作ったのは!? まさかこれももう起動してるのか!?」
『大丈夫、動いてないわ。起動しやすい状態にはなってるみたいだけど、あまり叩いたりとかしない方がいいわね』
「誰がするかそんなこと!」
そうこう言っている内に、こちらに無数のエンジン音が聞こえてきた。見るとあの機械部隊が、常人でも肉眼で見える距離まで接近してきている。
すでに大砲の射程に入っているようで、皆停車し、ここに砲塔を向け始めていた。
「やばっ!」
ここに砲弾を撃ち込ませるわけには行かない。今起爆されると、もう逃げても間に合わない。和己は大慌てで、駆けだした。
超人的な身体能力で、機械部隊の真ん前に飛び出し、両手を振って大声を上げた。
「待て! 撃つな! 毒ガス弾が起爆しちまう!」
機械部隊の後方を走る装甲車。その中に、この部隊の指揮官がいた。狭い車内の中で、その人物に通信が入る。
『ハリエット中将。標的の前に、人がいます。何か叫んでいる様子ですが……』
「人だと? 一体何者よ?」
それを受け取ったのは、まだ若い女性だった。大体三十歳ぐらいの、金髪の女性である。
彼女と運転手は、軍の制服と思われる、統一された服を着ている。白いラインが入った黒いズボンと上着の上に、裾の短い黒いコートを着ている。
胸元には水滴をモチーフにした帝国の紋章と、階級章と思われるバッジがついていた。
『判りません。こちらに向かって何か叫んでいる様子ですが……』
女性指揮官=ハリエットは、しばし考え込んだ後、即座に命令を下す。
「撃ち殺せ。こちらの作戦の邪魔をするなら敵よ」
『いっ、いいのですか!? 迷い込んだ民間人だったりしたら』
「こんな所に迷い込む奴などいるかしら? まあそうだとしても構うものか。後で邪竜の加担者が出たとか、適当に理由を作っておけばいい」
その後、和己の警告もむなしく、その場に無数の銃声や砲声が発せられた。




