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万能召喚士と恵みの女帝  作者: 竜鬚虎
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第一話 恋する少年

 最初の舞台は、とある世界の日本という島国の中にある、ごく普通の中学三年の教室に始まる。

 登校時間が終わりに差し掛かり、多くの生徒が、既に教室で待機し始めている時のことであった。


「おはようございま~~す!」


 何やら上機嫌な声を上げながら、教室に入ってくる少年。教室に何人もいる生徒の中、彼はただ一人の女子生徒の姿を追い、その姿を見る。

 すぐに視線を逸らすが、何やら幸せそうな顔をしながら着席する。


(えへへ……雨宮さん、今日も可愛いな……)


 そんな気持ち悪い思考をしながら、自分の席で授業の時を待つ少年。いちいち説明するまでもないが、この少年は、先程の雨宮という少女に惚れていた。

 窓側に近い席で、友人と楽しそうに話している少女。彼女の名は雨宮 奈々心(あまみや ななみ)。この少年とは、ただのクラスメイトでそれ以上の関係はない。

 以前彼女への好意を友人に話したところ……


『あれのどこがいいんだ? 別にそんな可愛いわけでも、勉強とか運動が出来るわけでも、胸がでかいわけでもねえし。物好きだなお前……』


 とそんな風に言われて笑われた。確かに彼女は、丸顔のごく平凡な顔立ちで、特段の美少女というわけでもない。また実技で、特に目立つ特技があるわけでも無い。

 胸の大きさも普通で、巨乳派にも貧乳派にも受けないだろう……というか、これはかなり個人的趣味の話しであるが。


 だが彼は知っている。雨宮 奈々心の持つ、他の女子にはない魅力というものを……






 それは十日ほど前のこと。休日で新刊の漫画を見に、とあるデパートに来たときのことである。


『この付近に、忍者のコスプレをした不審者が相次いで目撃されています! この周辺を通られる方は、常に周りが見渡せる場所へ、誰かに声をかけられても……』


 デパートの大通りには、そんなパトカーの警戒放送が鳴らされている、そんな日に、その出会いがあったのだ。


 棚に並んだ本を、今日買うべきかどうか悩んでいるとき、近くでかちゃましい声が聞こえてきた。それは小学校低学年ぐらいの少女の泣き声である。

 どうやら迷子になったらしく、周りに大人の姿はない。ただ泣きじゃくる少女の姿に、少年はかなり苛立ちを覚えていた。


(くそっ、何だあの小うるさいガキは!? とっととどっか行けよ!)


 あまりにもの五月蠅さに、正直すぐにでも蹴り飛ばして黙らせたい気分にかられた。

 だが勿論そんなことしたら、児童への暴力で警察行きなので駄目である。さっさとここから立ち去ろうかと考え込んでいたとき、不意に少女の泣き声が止んだ。

 どうしたのかと思ったら、その少女の前に女性が一人立っていた。最初は母親かと思ったが……


(あいつは同じクラスの……誰だったっけ?)


 誰かだったか思い出せずにいる中、そのクラスメイトは、少女の頭を撫でて優しく問いかけていた。


「どうしたの? お母さんかお父さんはいないの? ……そう、はぐれちゃったんだ。判った一緒に探してあげる」


 そう言って少女と手を繋いで、デパートの中を歩き出す女子生徒。その光景を遠目から目撃した彼は、とてつもない直感を覚え、偶然を装って歩き、彼女らの後をつけた。

 そして女子生徒が、少女の母親と思われる女性と出会い、母親にお礼を言われている中を顕著に「大したことはしてません」とか言っているところを見て、彼の中のあるものは確定した。


(信じられねえ! まさかあんな、アニメの清純ヒロインみたいな……男の願望を具現化したような女を、この目で見ることが出来るなんて! おおう! 俺の中で何か決まった!)


 この時彼は、自分でもよく判らない決意を、その胸に固めることになった。その女子生徒の名が、雨宮 奈々心という名であることを、後から知ることになる。






 それから十日間の間。彼は雨宮とどうにか接点は持てないかと、毎日考え込んだ。全く接点のない男子が、急に話しかけてきても、確実に変に思われて遠ざかれるだろう。

 古い漫画のように、偶然を装って、廊下で激突イベントも考えた。だがあまりにわざとらしい上に、相手に怪我をさせる恐れがあることで却下。

 いっそ、デパートでの事を目撃したことを正直に良い、率直にあのことであなたに惚れました付き合ってください、と直球で言ってしまおうかとも考え始めている。

 雨宮には見たところ、男っ気は感じられないので、こういうことをいきなり言われたら、多分相当動揺してすぐには断られないはずだ。


(だけどタイミングをどうするかだよな……やろうにもかなり勇気がいるしな)


 彼が色々考えを張り巡らせながら、やがて始業のベルが鳴り、授業が始まった。






 数時間後、彼らは学校の体育の授業に出ていた。全員が学校指定のジャージを着て、グラウンドに集まっている。

 この時彼は、今朝と違って、少々憂鬱な気分であった。何故ならこの少し前に、雨宮が早退してしまったからだ。


(あ~あ、何かやる気でねえな。たく一体何があったんだよ?)


 何でも家の方で何か事故があったらしく、それで急いで自宅に戻っていったのだ。連絡では事故と言われていたが、それが具体的に何なのか説明がなかった。

 何だか雨宮の自宅近くで、化け物が出たとか、そんな馬鹿らしい噂が流れていたが……


(事故って何だろな? 家に自動車が突っ込んだとか? もしそれだったら、落ち込んでいるところを慰めに出て、好感度アップという手も……。でもこれが原因でしばらく学校に来なくなったらどうしよう?)


 彼がそんなことを考えている時、突如異変は起こった。グラウンドで陸上競技の練習の準備が始まる中、ふとその場の空気が変わった。


「何だよあれ?」

「蜃気楼……なわけねえよな?」


 グラウンドにいた生徒や教師が、上空を見上げて困惑している。グラウンドより百メートルほど上空に、円形の歪みが現れたのだ。

 水面が揺れるような奇妙な空間の歪み。それが突然現れて、そして急に消える。その代わりに歪みがあった空間がパックリ割れて、そこに赤い大穴が下向きに現れた。空間を突き抜ける、まるでSFのブラックホールのような穴である。

 皆が驚き騒ぎ立てる中……その空間の穴から、何か動く物が這い出てきた気がした。だが彼は、それが何なのか知ることがなかった。


(えっ!? 何!?)


 それが目に入った瞬間、彼の視界は、白い光に覆われ、直後に彼は、一時意識を手放した。

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