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万能召喚士と恵みの女帝  作者: 竜鬚虎
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第十三話 湖の誕生

 翌日の朝になって、かつて何もない窪地だった場所に、大勢の人々が集まり、大騒ぎになっていた。


「おい、マジかよ! 本当に水辺が出来てるぞ!」

「何で……まさか本当に、あの和己って奴が?」

「何でもいい! これだけ水があれば……」


 その地には、かつての荒れ地とは様変わりして、多くの水が満たされた湖が出来ていた。しかもその湖は、今も水量が増え続け、水位と面積が上がり続けている。


 これを見て歓喜する人々。

 水辺に飛び込んだり、水をがぶ飲みしたりして、恵みの見ずに歓喜する人々。

 他の村々の者達にも、このことを伝えようと、走り出す者達。

 すぐにでも移住しようと、各々の村から、資材を持ち出す者達。

 そんな様々な反応を示す人々が、実に騒がしく動き出す。

 前に和己から食糧を貰って、栄養補給をした者達が、一番活発であった。さすがは強靱な肉体を持つホタイン族。つい最近まで飢餓状態だったのに、実に活発に働いていた。


「おお~~い! お前ら~~!」


 水辺の近くで人々が慌ただしく動いているところ、この現象を引き起こした張本人である和己が、機嫌良く人々の前に、手を振りながら姿を現した。


「おい、もしかしてあいつが和己か!?」

「ああ……やっぱりあいつがやったのか?」

「うぉおおおおっ! 恵みの神だ! 女帝なんかより、よっぽど役に立つじゃねえか!」


 数多くの人々の賛美に、和己が酔いしれているところ。ジャックとメガ&セイラが、水辺の近くで、どんどん広がっていく、湖の姿を眺めていた。


「いや、本当にすごいぜこれ……たった一夜で、こんなに水が? ていうかこれ以上やると、水害になるんじゃないか? 昔本で、水は多すぎても危ないって書いてたんだが?」

『和己の話じゃ、一定時間が経ったら、水の排出量が下がるようにしてるそうだ』

「ふ~~ん。でも随分上手い具合に、水が溜まっていくんだな? 良くこんな都合の良い場所があったもんだ」

『それも既に解明済みだ。どうやらここ、元々湖があった場所らしい。土を調べてみたら、貝殻や亀の骨が見つかった。まあ、元の生態系に戻すには、他所から生き物を連れてくる必要があるだろうが……』


 ともかくこれで、ルシアから頼まれた、農業用水は十分確保できるだろう。後はこれを糧にして、彼らが自律して食糧を作れるようになるのを待つだけだ。

 すると湖面を見つめていたセイラが、何かに驚いて声を上げる。


「ちょっと! あれカーミラさんじゃないですか!?」


 セイラが指差すのは、数百メートル先の湖面で、プカプカ浮いている、見覚えのあるマントと帽子を被った人の姿。

 即座にメガが、湖面に飛び込んでいった。






「うえええっ……まさかこの大魔女カーミラが、水神アリスの魔の手にかかりそうになるとは……。いくら力が弱まっていたといえ不覚……。だが私はこれで終わらない。いずれ私の魔法が、世界を支配するときまで……」

『うん、そうか? とりあえず安静にしてろ。今から服脱がすから、セイラ、手伝ってくれ!』


 引き揚げられ、腹から水を吐き出されたカーミラの第一声がこれであった。全身にずぶ濡れになって、力なく湖岸に倒れていながらも、相変わらずよく判らない設定を口にしている。

 あの激流の水圧を喰らいながらも、しっかり生き残っている辺り、さすがは大魔女と言ったところか?






「何かまだ、腹減ってそうな奴がいるな……。よし、俺からの新たなプレゼントだ! お前らの畑が上手く出来るまでの間、俺がどんどん飯を出してやる! ありがたく思え!」

「「おおおおおおっ!」」


 そう言って和己は、ここにいる多くの人々に、食べ物を召喚して分け与える。もう色々吹っ切れたのか、廃棄食品を盗むのにも迷いはない

 。更に、人々の要望を聞いて、鍬やシャベルなどの道具類も、次々と召喚していく。


(うわあ……使えない古物って指定したのに、どれも新品状態のばっかしだ! やっぱジャックの言ってたことは本当だったのか?)


 与えられた道具を喜んで手に取る人々を見て、和己は大分自分の能力を理解し始めていた。






 さて場所は変わって、ここは新たに出来た湖の岸辺。ただし和己がいる場所とは遠く離れた、向こう側の岸辺であるが。その水辺に、何かおかしな生き物がいた。


「水もお日様もたっぷり、幸せ……」


 それはスライム女だった。和己が前に召喚して、どこかいったあれである。彼女は湖に飛び込み、浮き輪のようにプカプカ浮いている。

 上から注ぐ太陽の光を浴びて、何やら幸せそうな顔だ。しばらくそうやって、日光浴と水浴を楽しんでいた。だがあるとき、このスライム女の様子に、異変が起こり始めた。


「うぉおおおお……?」


 スライム女の、人型の姿が急に崩れ、その姿が一時不定形になる。そしてそれが何と、二つに割れた。

 突然二つに分裂したスライム女。その質量も最初はそれぞれ二分の一だったが、それら風船が膨らむように大きくなり始める。

 そして不定形だった姿が再び変わり、元の人間の女性の姿となった。しかも身体の大きさも、最初の一体だけだったときと同じぐらい。

 水を吸ったのが原因なのか不明だが、このスライム女は、急に増殖を始めたのだ。


「初めまして!」

「初めまして!」


 二体のスライム女が、そんな風に互いを言い合う。その姿はとても嬉しそうだ。

 その後しばらくして、二体のスライム女は、再び分裂を始めていった。





 さてそんなこんなで、多くの騒ぎが起きながら、和己がこの世界に来て、三日目の夜を迎えようとしていた。

 太陽が地平線へと沈んでいき、辺りも少しずつ暗くなっていく。一時は人がいなくなったあの村も、近くに湖が出来たことで、人が大勢戻り始めていた。

 中には湖が近いという理由で、近隣の村人の一部が、こちらに移住を試みている。村内に植えられた、精霊の木に、人々が楽しそうに水をやっていたりもした。


「ああ~~まだ何か寒いし……」


 先程あの村に設けられた、ジャックの臨時診療所から退院したカーミラが、そんなことを言いながら、和己の元へと戻ってきた。

 先程まで干していた魔道士服もちゃんと着ている。この辺りの気候は暑いので、ずぶ濡れになっていた服は、以外と早く乾いた。


「ところで和己、あんたの宿はどこなわけ? こっちを呼び出した上に、働かせたんだから、ちゃんと住処は用意するのよね?」

「ああ、勿論だ。あれだよ」


 和己は昨日自分が止まった場所を指差す。そこはメガが暮らしている、テントがあった。木材の骨組みに布を巻いた、適当な作りの建物である。

 元々降水量が極度に少ない地域なので、雨対策も施されていない。


「ちょっと待って!? あの中で寝るの!?」

「ああ、ちなみに中にはベッドもなくてな、昨日はメガ達一緒に、あそこで雑魚寝した。まあ、元々この世界がこんな状態だからな……」

「くうっ、高貴なる私が、あんな所で安眠を取らねばならんのか!? これは新天地に足を踏み入れた者の、試練なのか!?」


 和己は仕方がないとすぐに割り切って、メガ達の家族とあそこで就寝したが、カーミラの方はすぐに受け入れられないようだ。

 近くで聞いていた家の住人=メガが、何か苦々しい顔をしていた。すると近くにいた木の精霊が、また何か言ってきた。


『だったら和己に家を召喚して貰えば良いんじゃないか? さっきの話しなら、例え元がぼろ屋でも、結構いい家が召喚できるんじゃね?』

「そうだ、それだ! 和己! この私の相応しい、素晴らしい豪邸を、すぐにでも呼びなさい!」

『俺からも頼むぜ! 何か一日中、村人から珍しげに見られるのもきつくてな。俺を植えるに丁度いい家を、ずばり頼むぜ!』


 家屋召喚の話が出て、カーミラと木の精霊が、勢いよく和己に飛びつくように懇願する。和己の方も、今の話し納得した様子であった。


「まあ、そうだな……。無理にあんなぼろ屋に住まなくたって、自分で家を呼べば良かったんだな」

「……俺の家を、あんまぼろ屋とか言わないでくれるか?」


 早速和己は召喚の準備を始める。ただしこの場ですぐにではなく、一旦村を出て行った。


「どこ行くんですか?」

「どこって、村の外で召喚すんだよ。多分今まで一番でかい召喚になりそうだし、それを村の真ん中でやったら不味いだろ?」


 村を出て、数百メールほど進む。何人かの村人達が、話を聞いて彼らについていったが、召喚場所を決めると、危険だからとそこから制止された。


(ようし……今は誰も使っていなくて、今度も誰も使う予定がなくて、元は立派お屋敷だった家を頼む。……召喚!)


 そして召喚が行われた。恐らく今までで、一番広面積の白い光が現れた。


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