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万能召喚士と恵みの女帝  作者: 竜鬚虎
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第十一話 心の無い命

 二人がそんな会話をしている中、ジャックは倒れた魚竜の元にいた。

 丸焦げの焼き魚になって倒れた魚竜を、特殊な探知機能がある目で、注意深く見る。最初は体温と脈拍の計測による死亡確認。

 その後は、魚竜の鱗や血液を、マジックハンドで採取し、体内に取り込んで、色々調べていた。


『何か変だなこいつ?』

「変ってこいつがか?」


 ジャックの元に来た二人が、ふと漏らした言葉を聞いた。どうもまた何か判らないことが出てきたらしい。


『こいつ見たところ竜っぽいが、生態的におかしな所があってな……』

「ほう? 魔法界とはほど遠い、鋼の世界の住人が、まるで本物の竜を見たかのように言うのだな?」

『ああ、いっぱい見たぜ。俺は昔、軍と一緒に魔法のある世界に渡ったことがあってな。その時に、竜だの河童だの人魚だのと、いっぱい見たぜ』

「えっ? ああ、そうなんだ……」


 意外な返答に戸惑うカーミラ。SF世界の住人かと思ったら、ジャックは実に色々な経験を積んでいるようである。


「それで何を悩んでるんだ? こいつは、お前の知ってる竜とは違うのか?」

『いや、肉体は間違いなく竜だ。遺伝子形質も、俺のデータにあるのと同じだ。だがな、肉体以外の部分がな……。中身が空っぽっていうか? こいつには魂というものが、全くないんだよな』

「魂がない?」


 和己からすれば、今更霊魂があるか否かの二元論の正否など、もはや意味がない。このような超常的なものを、散々見せつけられれば、霊魂が実在したって、別に驚くような話しではない。

 SF的なキャラのジャックが、魂という概念を口にしたのは意外ではあるが。


『言葉通りの意味だよ。俺たちロボットの電子頭脳にさえ、霊魂は宿る。だがこいつにゃ……肉体は生き物なのに、それが無いに等しい状態だよ。恐らく知性なんてものも無かっただろうな。プログラム通りに動くだけの、肉人形さ』

「何だよそれ? そんな生き物、普通いるのか?」


 魂の概念に詳しくないものでさえ、この話は奇異に聞こえる。確かにこの魚竜、ただ本能のままに獲物に襲いかかるばかりで、知性というものは全く感じられなかったが……


『普通はないな。恐らくこいつは人工生物だ。クローンで肉体だけ作られた、操り人形だろう……。こんなものを作る奴は何もんだろうな? お前はこいつの出所は判らねえか?』

「そんなの俺が知るかよ……。とにかく村に帰るぞ。メガ達が心配だし……」


 どうにも別の世界で、色々曰く付きのものを召喚してしまったらしいが、彼にとってはどうでもいい話。

 とにかく招いてしまった一時の難題は解消されたので、運べそうにない死体は放置し、一行は村に戻っていった。


「ところで……長き眠りから覚めたばかりで、私の身体には十分な栄養がない。黒山羊の血や、マンドラゴラが一番良いが……そこまでなくても、何か食べ物はないか?」

「そうか? まあ山羊なら召喚できるし、ここで捌くことも出来るだろうけど……」

「(えっ!? マジで出せんの!?) ……いや、よい。血を飲み干すのも飽きてきた所だ。たまにはお前ら下民の庶民の味というのもいいわ!」


 カーミラが食べ物の話をしているとき、そこを遠くから、一匹の空腹の爬虫類が、その様子を眺めていた……






 さて戻ってきた村は、見事に空っぽであった。一時は数千人まで増えた村人達は、今は誰一人としていない。いや、よく見ると二人だけ残っていた。


「和己さん達、おかえりなさい!」

『おお……生きてたか? あの魚はどうなった?』

「何か見ない顔が二つあるな? そいつらも召喚したのか?」


 残っていたのはメガとセイラの二人。すっかり静かになった村の中、木の精霊と色々会話していたが、一行が戻ってきたのに気がついて、彼ら迎え入れた。


「ふっ、下民共に名乗る名など無いが……」

「この人はカーミラって言って、さっき俺たちを助けてくれたんだ。それで……さっきから気になってたんだけど、こいつは?」


 和己はカーミラの他に、もう一人増えた面子。彼女の足下にいる、一匹のオオトカゲを指差して聞いてみた。


「こいつはブラックサラマンダ。私の使い魔の、暗黒の地竜だ。お前に召喚されて、あちらに残しておくわけにはいかぬので、先程召喚して連れてきたのだ」

「そうなのか? 俺が前に間違って召喚したトカゲに似てたから、てっきりそいつを途中で拾ったのかと……」

「(……えっ、そうなの?)相変わらず失礼な事を言う! 高貴なる私に仕える使い魔を、そこらのトカゲなどと一緒にするな!」

「そんで結局ドラゴンは?」

「あのドラゴンなら、ここにいるカーミラが倒してくれたよ。そんで何か人が見事にいなくなってるけど、何でだ?」


 和己はすっかり閑散とした村を見渡し、今一番の疑問を口にした。


「ふっ……愚かで軟弱な者共め……我が圧倒的なオーラが近づいてきたのに耐えきれずに逃げおおせたか」

「えっ? そうなのか?」

『そんなわけあるかよ……。あんなとんでもない化け物が呼び出されたんだ。びびって誰もここに近寄らんだろうが?』


 あの魚竜が召喚されたとき、和己だけでなく、村人全員が蜘蛛の子を散らすように逃げ去った。

 あの魚竜がまだ彷徨いているかも知れないと思うと、正直相当な勇気がないと、ここにはこれないだろう。


「ああ、俺も少し前に戻ってきたんだけど……俺たち以外は一人も……。もしかしたら、もう誰も帰ってこないかも?」

『それは困るな。まだ診療や薬が必要な患者がいるんだが……』

「俺もだ。あいつらが、食い物に困らない状態になるまで、こっちに付き合ってくれないと、依頼が果たせねえし……どうしよう? ドラゴン死んだの教えて、地道に連れ戻すか?」

『難しいな……。そもそもあんな危険なものを呼び出す奴を、皆がそう簡単に信頼するかね?』


 それは尤もな話だ。いつとんでもない爆弾を落とすかも知れない奴など、好きで付き合ってくれる奴など、そうそういないだろう。

 だがこれでは和己の望みは叶わない。


『物で釣るか? 食糧不足は何も解決してないし、頼まれた大量の水が出れば、自然と集まってくるんじゃないか?』

「それじゃあ、こいつをどうにか使うしかないか……」


 和己は村に残された、あの転水装置を見る。一応使い方は判るが、肝心の海にはまだ辿り着けてはいない。魚竜の出現で忘れかけていたが、彼らはさっきまで、そこへの乗り物を探す途中であったのだ。


「また新しいのを召喚するしかないか……」

『おいおい、また何かやばいのが出たらどうすんだ? 少なくも、化け物を召喚するのはやめてくれよ……』

「言われなくてもやらねえよ……考えてみれば俺、竜の乗り方なんて知らねえし」


 一般には、馬を乗りこなすにも、結構な鍛錬が必要である。それが竜となると、かえって乗りこなすのが難しそうだ。

 和己の考えは、最初から無理だったのかも知れない。しかしそうなると、どうすればいいのか?


「カーミラ、お前の魔法で一っ飛びで、海まで行けないか?」

「残念ながら、私の魔力は、長き眠りについていたせいで弱まっている。今は無理だ……」

『都合の良い設定を思いついたな……』

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