表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
万能召喚士と恵みの女帝  作者: 竜鬚虎
10/60

第九話 大魔女(?)召喚

「はぁ~~助かった……。マジ死ぬかと思った……」


 生まれて初めての命の危機の体験に、一気に脱力して、和己は片膝をついた。

 異世界召喚とは、良いことばかりではないとは思っていた。だがまさかここまでの恐怖体験を、召喚して一日経たない内に、こんな急に味わうとは思わなかった。


『助かった、じゃねえよ! あれ、どうすんだよ!?』

「どうするって?」


 何やらジャックが怒った風に、和己に問いかける。


『あんなもん野放しにして、もしどこかで人が襲われたらどうすんだ!? 言っとくが、あれはお前が出したんだから、何かあったら、全部お前の責任だぞ!』

「うげっ、そうだった! どうしよう!?」


 “責任”という言葉に大きく反応して、和己は慌て出す。

 ゲドの話しだと、一度召喚した者は、二度と戻せない。このまま何もしなければ、あの魚竜が何をしでかすか判らない。


「でも本当にどうしよう!? 元の世界に帰せないんじゃ、倒すしかないか?」

『よし! じゃあ、お前行ってこい!』

「馬鹿言うな! あんなのと戦えるか!」

『意外とできんじゃないのか? 今のお前、ホタイン以上に怪力になってるみたいだしよ』

「だからって勝てる保証あんのかよ! 武器もないし、俺格闘技なんてやってねえし……そうだ! あいつを倒せる奴を、俺がまた召喚すればいいんだ!」


 自分が招いたものを、自分で片付けずに、結局は他人頼みであった。


『召喚って……またやばいのを呼び出したら、どうする気だよ?』

「大丈夫だ! その辺ちゃんと指定するから! ようし……」


 そう言って和己は再び召喚術の術式を組む。今回は、今までで一番真剣な面持ちであった。


(俺が勝手に呼び出しても怒らないで、あのドラゴンを倒せるぐらい強くて、それで悪人でないこっちが協力させてくれそうな奴を頼む。魔王を倒した勇者か。ドラゴンさえ従える大魔道士か。……ええい、もう誰でもいい!)


 そう言って召喚術が行使された。今まで一番に力を込めた術式で、その場に何かが現れた。


『これは……魔道士か?』


 その場に現れたのは人間だった。

 ジッパーのある白いジャージの様な服の上に、灰色のローブを着込んでいる。頭にも同色の低めの三角帽子を被っており、そこにスキーヤーのようなゴーグルが付けられていた。

 顔つきと目や髪の色は東洋系で、和己と同年代ぐらいの少女であった。魔法の杖こそ持っていないものの、その外見は確かに魔道士に見える。

 だが何故か、手作り的なものが感じられる衣装であったが……


「ここは何処だ? この私をこのような場所に誘ったのはお前か?」

「えっ? はっ、はい! そうです! 俺は召喚士の和己です!」


 少女は、最初は動揺していた風だったが、すぐに顔を引き締めて、目の前にいる和己に問いかける。

 指定通りならば、この少女はあの魚竜より強い力があるはず。ここは下手に出るのは正しい判断だろうと、和己は腰を低くして答える。


「ふむ……暗き静寂の世界で、安らかな眠りについていた私を、いきなりこの様な汚らわしい場所に呼び出すとは……よほど命が惜しくないと見えるな……」

「命!? いえ、そのような無礼をする気は……」

「ではこの私に何用だ、小僧? 私は下民共にも寛大な女だ。とりあえず聞いてはやるが、話しによっては只では済まぬぞ」


 何やらやばそうな雰囲気である。和己は内心びくつきながら、目の前の少女に問いに答える。


「実は俺たち今、恐ろしいドラゴンに襲われているんです! どうしても助けが欲しくて……それで召喚術を使ったら、あなたが呼び出されてしまって……」

「竜か……まあたかが亜竜ごときならば、私の敵ではないな。だが私に願いを申し立てるなら、相応の代価を払う覚悟はあるのだろうな?」

「もっ、勿論です! ……そういえばあなたのお名前は?」

「この私の名を知らぬのか? 何とも無知な小僧だ……。ならば教えてやろう。とくと覚えておけ! 私の名はカーミラ! 漆黒の世界を支配し、神々を恐れさせる、高貴なる大魔女なり!」

『……ちょっといいか?』


 何やら芝居がかった風で、随分壮大な名乗りを上げる少女=カーミラに、ブロックジャックが呆れた様な口調で問いかける。


「ひゃっ!? 何っ!?」


 するとどうしたことなのか? 今まで不遜な態度で色々喋っていた少女=カーミラが、ジャックの姿を見た途端に、まるでとんでもない物を見た様に驚き戸惑い、子供の様な悲鳴を上げている。


『俺はブロックジャック。お前と同じく、こいつに召喚された医療ロボットだ。しかしよ……高貴なる大魔女様が、たかがロボットを見たぐらいで、びびるなよな?』

「別に恐れてなどおらぬ! ただこの私とも渡り合える力を持つ、火の女神ルカの使いに似ていたゆえに、若干動揺しただけだ!」

『まあ、いいや。とりあえず言っておくけどさ……カーミラってのは、古い小説の吸血鬼の名前であって、魔術師の名前じゃねえぞ……』

「えっ、そうなの!?」


 再び驚きの声を上げるカーミラ。ただしそれは恐怖を伴った驚きではなく、初めて知る知識への、意外性に関する驚きの声であった。


『大魔女だか何だか知らんが……格好いい名前を名乗るなら、ちゃんと元ネタぐらい調べておけよ……』

「ええと……それは……」


 何やら会話の雲行きがおかしい。大魔女と名乗ったカーミラだが、どうも台詞にある様な、威厳が、今は全く感じられない。

 その様子を見ている和己も、カーミラを見る視線が、懐疑的になり始めている。


『それとお前、さっき和己のことを、小僧だとか言ってたが……お前の方は幾つだよ?』

「えっ? 三十一です」


 女性に年齢を聞くという失礼な質問に、カーミラは実にあっけらかんと答える。

 しかし大魔女と言うからには、何百歳とか言う数値が出そうなものだが、出てきたのは意外と平凡な数値であった。


『お前……自分の今の顔を見てみろよ』


 ジャックの前に、一枚の空中ディスプレイが現れる。特に何か文字や画像が表示されるわけではなく、純粋に向かい合う物を映し出す、普通の鏡が投写されているようだ。


「えっ!? 何この子!? まさか……私なの!?」


 鏡に映し出された自分の顔を見て、何故か驚愕しているカーミラ。その鏡を凝視し、自分の顔をつねったりしている。

 その様子に、ジャックは何かに納得した様で、鏡を表示させたまま和己の方に声をかけた。


『一つ判ったことがある』

「何がだよ? 判らないことが増えすぎて、こっちは困ってるんだが?」


 先程のカーミラの挙動の変化に戸惑っている中、急にそんな事言われても、とても和己には話しが呑み込めなかった。


『お前の召喚術のことだよ。何となく予想ついていたが、今のでようやく確信した。どうやらお前の召喚術は……召喚した対象の状態を改良する力がある様だな』

「改良?」

『ああ……実はな、俺がお前に召喚される前までは、ボディがもう古くなりすぎて、もう全く動けない状態だったんだよな。要するに、もう機械として、寿命を迎えていたわけだ』

「寿命って……それじゃあ何で今動いてんだ?」

『要点はそれだ。どういうわけか、お前に召喚されてから、何故か俺のボディは新品同然になってやがる。いやはや、これにはマジで驚いたよ。どうやらお前の召喚の力で、俺のボディは最盛期の頃に戻されたらしいな。お前が召喚した食糧の鮮度が上がってるのも、それが原因だろう』

「それじゃあ、あいつは?」


 和己の視線が、未だに鏡の前で呆然としている、カーミラの方に向けられる。


『多分、自分が若返ってることに、驚いてるんだろうな』

「人間が召喚されると若返るのか……。あれ? そういえばゲドの奴、人間は召喚できないって言ってたような?」


 前にゲドから力の説明を受けたときのことを、思い出そうとしていた時だった。

 その場に、少々厄介な気配が戻ってきた。重い足音を立てながら、その恐怖の元凶が、こちらにどんどん近づいていることに気がついた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ