序章
「こんちきしょうがぁああああ~~!」
荒れ果てた荒野の中を、一人の若者の声が、狼の遠吠えのように、一帯に響き渡る。
その場所は、見渡す限りの荒野が広がる、とても見晴らしの良い大地。木々や水辺はなく、剥き出しの土に、疎らに草が生えている。何やら西部劇の舞台に似合いそうな土地である。
その荒野の上を、一人の少年が全力疾走していた、学生の運動ジャージのような、緑色の服を着ている、顔つきは十代半ばぐらい。身長は百六十の間ほどで、中肉中背の平均的な東洋系の若者である。
この過酷そうな環境な土地では、あまり似つかわしくないような身なりのこの少年が、必死な顔でひたすら走る。
ちなみに彼のすぐ隣には、走り行く彼についていく謎の物体が浮いていた。
それは青い金属製のブロック状の物体であった。メタリックな外装に、表面がルービックキューブのような面の、サイコロのような正方立方系の物体。大きさは一片一メートルぐらいあり、かなり大きい。
そんな謎の物体が、彼と一緒にこの荒野を低空飛行で走り続ける。
『おいおい……あれどうすんだよ? そもそも、何であんなの呼んだんだ?』
「あんなの呼ぶ気は無かったよ! 海までいくなら、ファンタジーらしく、竜に乗っていけばって思ったら、なんであんな凶暴なの出てくるんだよ!」
『残念だがそれは無理だ。あれは水竜だから、空は飛べねえし』
「今大事なのは、そこじゃないだろ!?」
走りながらそんな会話をする、ブロックと少年。何と最初に喋ったのは、ブロックである。どうやらこのブロックには意思があるらしく、電子音声のような声色で喋っている。
今少年とブロックは、自動車以上の速度で、長時間走り続けている。これは常識的な人間の身体能力からすれば、驚くべき超人的な走力である。
だが彼らの後ろには、もっと驚くべき存在が、彼らを追っていた。
(ちくしょう! 何であんな化け物が!? そういうのも指定しなきゃいけないのかよ!? 召喚士なのに?)
ズンズンと、地面を鳴らしながら、進むのは、一匹の恐竜のような謎の生物。
体型は肉食恐竜のような、長い後ろ足で立ち、胴体が横に長い爬虫類の姿であった。だがその全身に生える鱗は、魚のような鱗で爬虫類らしくない。しかも四本の足の指には、魚のような水掻きが、指の間の半分くらい張っている。
後頭部から尻尾の途中までにも、魚のような背びれが生えている。そして顔の部分は、角の短い西洋竜のような顔だ。恐竜と魚類と竜を混ぜ合わせたような、実に奇怪な生物。これには“魚竜”という呼称が似合うだろう。
身体は大きく、体重はティラノサウルスの2倍ぐらいありそうである。しかもこの大きさで、外観からして、かなり凶暴そうだ。
事実この魚竜は、鰐のような鋭い歯の口を開けて、少年とブロックに後を追っている。まあ要するに、この少年は巨大な猛獣に追われて走っているのだ。
そもそも彼らは何者で、何故このような状況に陥っているのか? それを説明するためにも、少し時間を遡ろう……