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2015年/短編まとめ

ふゆ、ですね

作者: 文崎 美生

ぬくぬくなコタツに入って、ガッチャガッチャ、と携帯型のゲーム機のボタンを叩いていると、携帯が鳴った。

シンプルなその着信音は、私を足の間に挟んで雑誌を読んでいる彼氏様のものだ。

ちなみに私の着信音は、個別設定で懐かしのアニソンだったりする。


「誰々?浮気相手とか?」


ケタケタと笑いながら問いかければ、軽く頭を小突かれる。

ンなわけねぇだろ、と鼻で笑い表示された名前を見て、ほんの少しだけ眉を顰めた。

顔が綺麗なだけあって、そういう顔をしても綺麗なのは変わらないけれど、ちょっと迫力がある。


ポーズ状態のゲーム機片手に、彼を見ていると、居心地悪そうに頭を撫でられた。

申し訳なさそうにして、鳴りっぱなしの携帯を持って立ち上がる。

別室へと移動する彼の背中を見ながら、ポーズ状態のゲーム機を持ち直して再開。

きっと、お兄さんからだろうなぁ。


私は彼がいなくなって減った温もりを補うように、もそもそとコタツの中に潜って行く。

下半身全体がぼやぁ、と温かくなって、それに伴って上半身にも熱が回る。


私も彼も同じ中学高校と進んでいって、大学は実家のある場所から離れたところを選んだ。

彼は、まぁ、野球が出来ればどこでもいいんだろうけれど。

取り敢えず、そっちだけじゃなくて普通に教養を蓄えるのも大切だと考えているってことで。


「うーん、年末も近付いてるしなぁ」


キャラクター同士が会話をしている場面で、私の視線はゲーム画面から壁にかけっぱなしのカレンダーへ。

カレンダーはまだ十一月だけれど、本日は十一月最終日で、明日からは十二月。

どんどん寒くなるなぁ、なんて思いながらクリスマスや年末の大掃除を考えると、テンションが上がったり下がったり。


私も実家に帰ろうかなぁ、とか。

彼が帰る頃に合わせようかなぁ、なんて考えていたら、彼が別室から戻って来る。

携帯片手に顔を歪めていたのを見て、私はコタツに潜って彼の方に顔を出す。


「帰るの?」


私が出て来たことに驚いた彼が、足を止める。

ぱちぱちと瞬きをして、壊れるんじゃないかって勢いで握っていた携帯をコタツの上に置いた。

そのまま私の頭の上ら辺でしゃがみ込んで、前髪を掻き上げてくる。


私の視界いっぱいの天井と彼。

表情は困ったような悲しそうな、何だか面倒臭い感情がグチャグチャな顔。

私の前髪を丁寧に掻き上げた彼は、どうすっかなぁ、とどこかぼんやりした声音で言う。


彼の家は、両親もいるし二つ年の離れた兄もいる。

ただ、少しだけ過保護なんだよなぁ。

「帰ろうよ、一緒に」と私の額に触れる彼の手を掴みながら言えば、彼の視線が私の方に向かう。

目が合うと口を開いたり閉じたりする彼。


「あんまり、好きじゃねぇんだよなぁ」


「家族が?」


誰も見てないのに点けっぱなしのテレビからは、夕方のニュースが流れている。

今年の冬は寒くなるとか、そんなことを言っているけれど、右から左へ流れてしまう。

多分彼も一緒。


「あの空気が」


へらり、と締りのない笑顔を見せたけれど、眉を下げていた。

情けない顔をしてるなぁ、なんて思っている私の横には、ポーズ状態にもなっていないゲームから、だらだらと軽快なBGMが流れ続ける。


「心配してるだけなんだよ」


「お前との同棲だって、反対されてたのに?」


くすくすと笑いながら零した言葉は、彼の低い声にかき消されるようにして、私の笑いは止まる。

口元にピタリと張り付けられた笑みは、酷く不格好で、彼の瞳に映る私から目を逸らす。


私の家は、一般家庭で考えられる教えとか、そういうのはあったけれど、私が本当にしたいことに関しては、特に反対されることはなかった。

例えば、高校の頃にバイトをしたいと言い出しても、母子家庭だけれど大学に行きたいと言い出しても、私が本当にしたいことなら、本気なら反対はされないのだ。


彼の家は私の家とは少し違う。

そりゃあ、家族構成も違うし考え方とか、同じ人間じゃないから当然だけれど。

ご両親は彼が大事だから、野球で怪我をした時なんて、彼の話を聞かずに辞めさせようとしたり、野球に妥協したと思ったら登下校送迎付きとか。

どこのお坊ちゃんだよ、と突っ込まれるような溺愛っぷり。


形は違えど、子供を大切にしているってことだとは思うけれど、彼からしたらそれが苦痛だったりするんだろうなぁ。

実際のところ同棲は反対されていたし。


私の方はお互いがちゃんと話し合って、親の了承を得られるならば、親同士で話して決定出来るならってことになったけれど。

彼の方は彼を出すなんて、ましてや女と同棲なんてって感じだったんだろうなぁ。


「愛されてる愛されてる」


手を伸ばして彼の頬に触れる。

コタツから出たせいで少し冷たい彼の肌に、私の指先の熱が奪われていく。


「俺にはさっぱり」


「形は違うけど、私と一緒」


顔を歪めて笑う彼は、イケメンで綺麗だけれど、やっぱり何だか悲しそうだ。

私は冷たい肌に触れながら、表情筋を完全に緩めた状態で笑いかけた。

撫でる手を止めれば、彼の方から甘えるように擦り寄るから、どうしようもないくらい愛おしくなる。


「寒くないの?」


「寒ぃ」


私の問い掛けに食いつくように答えた彼のために、私はコタツを捲り上げる。

どうぞ、と告げれば冷気と一緒に入り込んで来る彼。

胸に顔を埋めるように抱き着く彼に対して、あやすように背中を一定のリズムで叩く。


寒いね、冬が終わればいいね、春が早く来ればいいね。

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