1-2-1:教導の始まりの朝
pi、pi、pi~♪
「…あぁ、もう朝、か…」
枕元に置いていたPlateに設定していた目覚ましのアラームの音で夢から覚めた。
部屋の窓からは朝日が入っている。
教導官としての始まりの日が晴天なのは良いが、
「ふぁ…眠いな。いかんな…」
体を起こしつつ欠伸をする。
頭がまだ覚醒に至っていない感じだ。
昨夜は”対話”をしたこともあり、気分的には十分な睡眠をした気がしていない。
しかしこのままはいけない。
今日から教官となるのだ。
「とにかく目を覚まさないとな。シャワーでも浴びて来るとしようか」
どこの誰を指導するかは知らないが、流石に見っともない姿はさらせないか、と思い完全に目を覚ます為シャワーを浴びに行った。
+
「はぁ~、スッキリとした。ん?Plateにメールが……初音か」
シャワーを終えた後部屋に戻ると枕元に置いていたPlateに連絡通知があった。2件あったが学院と初音からだった。
連絡は両方ともメールだった。
学院は後でいいとまず初音の方のメールを開く。
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初音です。
後でも言いますがまずお早う御座います先生。
今日から私もエアリーズの学生魔法師としてデビューです。
ですがやはり最初と言うのは緊張しますので、学院まで御同伴頂けませんか?
あと15分くらいで先生のお家に到着すると思います。
よろしくです。
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初音が家に来るというメールだった。
「あと15分か。急ぐか…」
初音が迎えに来るまでそんなに時間があるわけでないので、チハヤが用意してくれていた新しい教導官用の制服に着替える。
着替えると両腕に巻いていた布を外していく。
片腕ずつ外していく。
まずは右腕から。
外していくと少しずつ黒い腕の部分が見えてくる。
そして全て外し終えた。その途端右腕から黒い魔力が零れ始める。
「クッ…”抑えよ”」
急ぎ零れようとする黒い魔力を白い魔力が絡め抑える様に腕に戻っていく。
「よし。あとは―」
机に置いていた調整済みの封印式拘束ガントレットを右腕に着ける。
次に同様の行為を左腕に行う。
そして左腕にも封印式拘束ガントレットを取り付け終える。
軽く朝食を摂った。朝はそんなに食べないので軽く御飯と卵焼きと味噌汁くらいだ。
特に和食洋食と好みはない。ただチハヤが和食とか子供向けのカレーライスとかオムライスを好み注文してくるので何時の間にか和食を用意している事の方が多い。
ピンポー―ン♪
朝食を摂り終えたタイミングで、家のチャイムが鳴り響いた。
どうやら初音が着いたようだ。
銃と短剣、耳にしているイヤリングと各種魔導器。あとはPlate。
他忘れ物がないかを急ぎ確認。
忘れ物は無し。
「よし、行くか」
そして玄関の扉を開けた。
そこにはエアリーズの制服を纏った初音の姿があった。
「先程メールでもお伝えしましたが、改めてまして。おはようございます。先生!今日からまたご指導御鞭撻を宜しくお願いします‼」
と初音はニコニコした表情で元気よく挨拶してきた。
その表情からは嬉しさ、楽しみと言った感情が溢れ輝いているように見えた。
とりあえず挨拶を返す。
「朝から元気だな、初音は。おはようだ。しかしだ、宜しくとはどういう事だ?」
「ん?…あれ、先生、もしかして、まだ御自分のPlate、ちゃんと確認されていないのですか? 私、先生が受け持つ教導する小隊チームの一人ですよ♪」
そうなのかとPlateを取り出す。
そう言えば初音以外に学院から一件メールが来ていたのを忘れていた。
どうやら忘れ物無しは訂正する必要がありそうだ。
初音のメールで急いだから忘れた事にしよう。
「あれ?何だか先生、何か私のせいにしようとしたりしてません?」
「…いや。そんなことはない」
じとーと疑う目を向ける初音。勘が鋭い。
まあ気にせずメールを開いてみよう。
で表示されたのがこれだ。
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:学院本部より……
4回生教導科所属【アシュレイ・バークレイン】へ、学院統括より汝に、この度結成する新規小隊、以下の3名の教官として魔法指導を命ずる。
『指導担当チーム』
:初音・フュードリッヒ(魔法科・1回生)
:ミツキ・フォン・トリニティ(魔技科・1回生)
:レスター・リディエル・カルテット(魔法科・1回生)
……
――――――――――――――――――――――
確認して納得する。
確かに今後受け持ち指導する者の中には初音の名前があった。
3人の中に初音の名が入っているのは恐らく偶然じゃないだろう。
チハヤあたりが手を回してくれたんだろう。
大方、初めてのエアリーズ。そんな初めてで一人知り合いのいない場所では何かと不憫だという理由で、顔見知りがいる方が良いだろうと考慮したのだろうな。
「なるほど…」
「はい。そう言う事です。お分かりいただけましたか先生♪」
何だかしてやったり、と言うような笑みを浮かべている初音。
「…ああ、理解した。今日からビシビシ扱いてやるから覚悟しておくんだな初音」
「ははっ、お手柔らかにお願いします。でもビシビシは望むところです先生!」
アシュレイは右腕の拳を初音に向ける。
初音もアシュレイに右の拳を向ける。
そして、アシュレイは不敵そうな笑みを、初音はやる気満々な笑みをもって「コツン」とお互いの拳を合わせ合った。
「ふっ、行くか」
「はい。行きましょう。初日から遅刻なんて格好の悪いですからね」
「それは大変だ…」
そうして二人は学び舎への道を進み始めた。