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1-1-7:帰ってきた家と魔導器(デバイス)調整

エアリーズ魔導学院を後にした。

エアリーズに戻ってからは直ぐに空港から学院直行便のバスに乗ったので街には立ち寄っていなかった。


浮遊島はその中央部に【魔核獣】に対する為にと設立された魔導学院が存在する。

中央に建てられているのはもっとも全方位で警戒に出れるからだ。

魔導学院はたんなる魔核獣に対抗する魔法師を育成するための施設ではない。

魔核獣と言う脅威に対抗する迎撃施設でもあるのだ。


市街地にまず向かったアシュレイと初音の二人。


1年前以降エアリーズには立ち寄っていなかった為、記憶している部分が違うこともあったが、アシュレイは初音を案内した。

ある程度の生活する為の必需品は持ってきているが、足りない物が出るかもしれないと、買い物をして回る。


ふと隣の初音に視線を向ける。

何だか初音が好きだと言っていたアニメの曲だったかを鼻歌で歌いながら笑みを浮かべて歩いている。


「どうだ、だいたい必要なものが出てきた際に活用できそうな店を案内したと思うが」

「はい。色々と参考になりました、先生♪」

「…楽しそうだな、初音」


楽し気な初音にそう聞いていた。


「はい!すごく楽しいですよ♪」


即答だった。偽りない笑みで答えてくれた。

「そうか」と返しつつ、かつて、と言うには短いが、数か月前の初音との違いに「変わるもんだな」と小さく声を零すアシュレイ。


「……それは貴方のおかげですよ、アシュレイさん」

「ん?何か言ったか?」

「いいえ~何でもないですよ。さあもっと回りましょ、先生♪」


初音に手を引かれ、初音の両親が無事に着いたと連絡が来るまで、色んな街並みや店を回った。

内心では、何が楽しいのかいまいち理解出来ていないアシュレイだったが、初音が楽しそうでいるのに自分を投影するように楽しい気持ちを抱いていた。



「えぇ!?先生はこのままお家の方に帰られるのですか?」

「ああ。チハヤが以前のままにしてると言ってたが、色々片付ける事や明日以降の準備もあるからな。だからこのまま行くよ」


初音を家に送り届けた後、初音の両親から感謝の言葉と夕飯くらい御馳走になってはと提案されたが、丁重に断った。

先の言葉通り帰ってする事が沢山あった。

凄く名残惜しそうな初音に、「また今度な」と詫びを入れた。


初音達と別れた後、自分の家に向かう。


「……」


家に着くと鍵を出し開ける。

中は誰もいない空気ばかりだ。

いままで主であるアシュレイが不在だったので冷たい雰囲気しかない。


「……」


そんな空気など既に慣れているので気にせず、まずはリビングルームに向かう。

街で購入した食材が痛む前に冷蔵庫に入れる為だ。

冷蔵庫の扉を開ける。

すると思わず目を丸く驚いた。

冷蔵庫には色々な食材が入っていた。


「…そうか。気を回してくれたか。チハヤの奴は。まったく…」


学院でチハヤが『家は以前のままにしている』と言っていたがどうやらそれだけではないようだ。

こうして冷蔵庫に食材の類や調味料も用意してくれていた。それだけでなく玄関からリビングに辿り着くまでの間埃一つなかった。

「サンキュな」と冷蔵庫に買った食材類を入れながら呟く。


「……ただ、これ1人分じゃないな。たぶんチハヤの奴、自分の分も入れてるだろ」


「まったく」と呆れつつ感謝する。


アシュレイの普段は冷たい氷の様な雰囲気を相手にもたれる。アシュレイ自身が他人を拒絶しているのが大きい。

ただ昔はもう少し温かみがある方だった。拒絶もそこまで酷くはなかった。

そうなる要因があったと言う事だ。

アシュレイには家族がいた。

『いた』と言うのは過去形である。

昔はいたと言う事だ。


アシュレイの家族は母親と3つ年下の妹の3人家族だった。

父親は妹が生まれて暫くして亡くなった。

アシュレイもそこまで親しくしていなかったので正直顔もほとんどうろ覚えだった。

母と妹。そして後に後見人となってくれている母の知り合いだったらしい黒姫チハヤ。

昔から膨大な魔力を秘めており、雰囲気が冷たいと怖がられ易かったアシュレイにとっては、母と妹、そしてチハヤの存在は、アシュレイの心に確かに温かみを与えていた。

その温かさがアシュレイの人らしさを維持していたと言えた。


だがある日――突然母と妹が姿を消した。

行く先は今も知れない。

なぜ自分を置いていなくなったのか?

そんな感傷をほんの少しの温かさの心に抱かせた。

だが直ぐに心が冷め居なくなった者に興味もなくった。

母と妹がいなくなったその日から自分の心は完全に冷えきってしまう。

自分でもそう思っていた。

だが微かに温かみを残してくれる人がいた。

それがチハヤだった。


拒絶と言う冷気を、チハヤと言う温かさがアシュレイの心を完全に凍て付かせずにいさせてくれた。

だからこそ、アシュレイにとって黒姫チハヤと言う存在は大きい。


当時はまだ年齢不詳であるチハヤの方が背が高ったのでお姉さんに見ていた。

しかし成長と共に身長は大きく超えた。

今では言動も含めて子供にしか見えなかったりするが、それでも感謝の気持ちは強く残っている。

だからこそチハヤが勧めてきた学院入学もした。

入学前までは当時には既に魔法師として高いポテンシャルを発揮していた事もあり、チハヤの護衛役も務めた。

とある者達からは『ゼロ』と呼ばれ恐れられることも増えた。

勿論正体は隠しているので『ゼロ』がアシュレイだと知る者はチハヤくらいである。


買った物を入れ終えた後、夕食オムライスを作り食べる。

なぜオムライスか?それはチハヤの好物だからだ。

チハヤは料理が得意でないので、母と妹が消えた後、アシュレイが作ることが多くなった。

アシュレイを知る者は『意外』と言うだろう。

チハヤのリクエストがオムライスが好物と言う事でよく作った。今では一番上手く作れるようになった。


(…今日は来ないか?2人分の材料があったかてっきり来るかと思ったんだが)


チハヤが来るかもと思い作ったのだがどうやら今日はこれなさそうだった。

意外と学院長とやらは忙しいらしい。


皿を洗った後は自室に向かった。

入ると部屋の中が澄んでいるのが分かった。

掃除もしてくれていたらしい。


衣類等の荷物を棚に片付けると、それとは別の鞄を自分の横に置き机に着く。

ふう、と椅子に座り息をついた後、左耳の耳朶に付けていた金色の四方形型のイヤリング式魔導器(デバイス)を外し机に置く。

さらに両腕に付けている見た目が拘束具にも見える装具を外す。


ガチャ…

ガチャ…


外した装具も机に置く。

置きつつ己の両腕に目を向ける。


アシュレイの両腕、手首の辺りから肘くらいまでが黒く染まっていた。

数か月前に起きた事件の際にこうなった。

己が黒色に染まった両腕を目に入れてもアシュレイは特に何とも思っていないようだが、他の者が目にすれば背筋に悪寒を感じさせられるだろう。

それ程に彼の両腕は異質な状態であると言えた。

ただ、この状態はまだマシな状態なのである。



「さて…」


鞄の中から一つの布を取り出した。

その布には呪文の様な文字が刻まれていた。

アシュレイはその布をまず右腕に巻き付けていく。

きつくきつく。解けない様に念に入れ巻き付けた。黒い部分が見えなくなるまでしっかり巻いた。

そして逆の左腕も同様にきつく巻き付ける。


「これで、よしっと…」


巻き終えた後、鞄の中からいくつかの魔導器(デバイス)魔導器(デバイス)を調整する器具を取り出し机に並べる。

『事件』後、アシュレイは魔法行使を行う際には魔導器(デバイス)の補助が不可欠となった。

必要な為にと数週間と言う僅かな期間で魔導器(デバイス)作製能力と調整技術を会得した。

この際に周囲の、特に魔導器(デバイス)を扱う魔導師の者には「あり得ないものを見た!?」と驚愕した。


「とりあえず今後の必要なやつから調整しておくか」


まず取り掛かったのは普段から左耳に付けている四方型イヤリング式魔導器だ。

名称は”エアリル”と付けている。

本来魔導器に名称を付ける者はほとんどいない。付けている有名どころだとデュオ・レルクザード・アーサーくらいだろうか。

しかし、アシュレイの自論では「名は表すもの。名こそ存在の証明である」で、その為に付けている。

けっしてカッコイイとかと言う理由ではない。


この”エアリル”は主に、魔法師にとって最も重要不可欠である”飛空間制御”の術式がメインとなっている。


魔法師は空を飛ぶ。

空を駆け、人々の脅威である魔核獣を魔法をもって討滅する。

その為に何より重要なのが飛行魔法なのである。


「それと…」


明日から受け持つことになる小隊教導を行うに当たって使用するであろう魔導器(デバイス)を選び調整していく。

短刀型魔導器(デバイス)と、拳銃サイズの銃型魔導器(デバイス)

一先ずこの二つを念入れに調整を施す。


「よし。一先ずはこんなもんだろ―――っ!?…」


約30分程掛けて魔導器(デバイス)の調整を終える。

終えた後ずっと座った状態で集中していたこともあり背筋を伸ばそうとしたその時だった。

頭の中に”ノイズ”に近い音が一瞬走って思わず顰め面になる。


(くそ、待ちきれないから早くしろってか…アイツっ)


ノイズを走らせた正体と目的理由を理解しているからこそ舌打ちをする。

”ノイズ”は痛覚的なものは特にない。しかしながらこの”ノイズ”には一種の嫌悪感を抱かせられるのだ。だからこそ腹立たしいくなる。


「しかたない」、とまた”ノイズ”を送られてもかなわないので、明日から着る学院の制服の準備をし、その準備を終えた後やはり再び”ノイズ”が走ったので、その日はシャワーを浴びることなくベッドに横になる。


(はあ、寝不足は嫌なんだがな)と溜息をつくと目を閉じる。

すると”何か”に引き寄せられるかの様な感覚の後、アシュレイはあっという間に眠りに入った。


============

【その他】

≪アシュレイデータ集≫

所有魔導器(デバイス

左耳…イヤリング式魔導器:名称【エアリル】:機能…飛行魔法と制御術式。通信系魔法。他いくつかあり。

短剣型魔導器:名称【不明(付けているので今後出ます)】:機能…刃の部分に振動を発生させる近接専用武装。

拳銃型魔導器:名称【不明(付けているので今後出ます)】:機能…光線魔法等中間遠距離攻撃武装。

両腕…ガントレット型魔導器(正確には封印拘束具)。異質な力で黒く染まっている手首辺りから肘の前くらいを覆う形状。

○家族構成…

父親:妹が生まれた時期に亡くなる。仲はあまり良くなかった為よく覚えていない。

母親:幼少期に妹を連れ失踪。以後の詳細不明。最初からいない存在としている。

妹:アシュレイの3つ年下の妹。つまり女の子。ある日に母に連れられ失踪することになる。母同様に気にしていない。

黒姫チハヤ:年齢不詳で子供にしか見えない、そして子供扱いするとすぐキレる面倒な女性。一人称は【(わらわ)】。母親経由で知り合い、2人が失踪した後も見守り後見人となってくれている。普段は表に出さないが深い感謝を持っている。




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