初めての蜥蜴人 釣り始めと森の恵みの食料と
リザードマン集落にて滞在1年と3ヶ月目。
今日も日課として、朝早くから集落の周辺にて食糧を探す予定である。
俺たちの家に迎えに来てくれた大人の下位蜥蜴人と一緒に出掛けて行く。
採取する場所では何がどの地点に生えているのか、また何を目印に探せばいいのかを大人の下位蜥蜴人さんに聞きながら食料を探す。
文字通り草の根を掻き分けて探していると、未発見の赤色に黒の斑点のあるキノコを発見した。
このキノコは毒キノコのように見えるが、見掛けに反して美味い普通の食用キノコ【マルガダケ】である。
幸先よくGETした俺はその後も何本か形もよく大きなマルガダケを入手して採取用の丈夫な草で編まれた背嚢へと入れていく。
他にも傷口に塗ると僅かに回復の速くなる薬草の【ナオリソウ】、解毒を行う際の治療に用いられる薬草【ゲンキダソウ】とキノコ【ゲンキダケ】の見分け方を教えてもらい、どんどん摘んで行く。
探索の途中で青色のバナナのような甘みのある星型のフルーツを発見したり、食べれる木の実を沢山集めて背嚢の籠の中はイッパイとなった。
元々こう言った作業自体は好きなので調子に乗ってはしゃぎ過ぎたのか、大人達の苦笑に場の空気は和んでいた。
集落に帰って早速集めた物を全て出す。
今日はキノコ、木の実やフルーツの他に大人達は猪を仕留めていた。
下位蜥蜴人であっても獰猛な猪程度の動物に負ける程戦闘能力は低くないようだ。
獲物を解体する事も勉強であり、俺たちも大人に混じって解体すのを手伝う。肉を切り分け、初めての解体場面だったが血が噴き出してなかなかにグロい映像だった。
しかし、そんな場面を目の当たりにしても不思議と気持ち悪くも無かった。
寧ろ、食欲が湧き出て抑えるのに必死だった。
人間の時は抵抗がある絵だったが、この変化もやっぱり種族が変わった性なのかしら??
次に今度は集めて来た薬草類を集落の調合してくれる蜥蜴人の所へ運ぶ。
集落の中では90歳と最長老の次に年齢の高い蜥蜴人である。
バルザと呼ばれており、かなり小柄の身体だが引き締まっている事が良く分かる身体付きだった。
持ってきた薬草類を手渡すとニッコリと笑って、お駄賃を渡すように俺たち一人一人に小さな干し魚を数匹もくれた。
天日干しされて乾燥した魚身はじっくりと旨味が反映されて、充分に口中に広がってウマーだった!!
食べている間、バルザの仕事を見学する。
集めてきた新しい薬草を敷物の上に並べて乾燥させたり、乾燥させた薬草をすり潰して鍋に入れ、弱火で煮込だりと過程を見る。
乾燥用は傷薬としては質が落ちるが保存用になる。
すり潰して煮込んだ物は、保存期間はそれほど効かないが、効果もそれなりで万が一用のために使う物なので必ず常備しているモノだと言う。
古い物から交換していくため、保存期間が大体近いものを破棄用としてもらった。
干し魚を食べた際に刺激された食欲と戦いつつ、どうにか子供でも魚をGETする方法を考えていた。
この集落の魚の取り方は、主に直接素潜りして捕まえるか、銛で突いて魚を捕まえていた。
近くの沼や川には魚は大量に住んでおり、時に大きな魚型の魔物も住んでいる大湖と大沼もあった。
このリザードマンの集落には網や釣りなどと言う概念はない。
また、大人のリザードマン達は泳ぎが達者な者が多いので、それで間に合ってしまうからだ。
しかし、魚を捕まえる為に割かれる人数は少ないため集落全体に行き渡るほどの漁獲量はない。
取り敢えず釣り道具を拵えてみるか…と思い立つ。考えるより行動だ。
大森林で食料集めの際に、大型の動物の骨が落ちている事があった。
それらを時々拾って集落へと持ち帰って来ていたので、収集した様々な形の骨を、石や岩で形を研磨しながら加工してみる所から始めてみた。
小さい手で動物の骨を折ったり、削ってみたりとなかなかの力仕事の為に、根気よく作業を続けていく。
ドルゾィとルタラも興味があるのか骨を片手に俺の真似し始める。
釣り針の形を地面に描くとイメージが固まったのかドルゾィは器用に形を整えていき、返しのついた小振りな針が出来上がった。
ルタラは骨を釣り針の形まで削るまでは良いが、仕上げの繊細な作業に入ると力があり過ぎて壊してしまう事が多々あった。
お互い苦労しながら何とか針を完成させ、この日はこの作業で終了した。
後の時間はこの3人でチームを組み、あの日からこの集落近辺に生息している比較的弱い魔物を狙って狩りを続けていた。
そのお陰でLvも全員が既に2を突破している。
今戦っている魔物は、昆虫タイプの大きな芋虫型で体長50㎝。名前は勝手にエンドワームと名付けた。
植物があれば喰らい尽くしていくタイプで、繁殖力が高く数だけは相当多い。
牙のナイフでも体皮を十分に傷つける事が出来て、短い角による突進は素早い事はないので、気を付けていれば子供の俺たちの力でも充分に対応する事が出来ていた。
脅威なのは偶に口から吐き出す糸束で、結構な粘着力があり、大人の蜥蜴人でさえ破るのに時間を要する代物だ。更に乾けば固まる特性があり、この集落の武具や建築物作成の際にとても重宝している。
俺がエンドワームと付けた名の由来は、出会えば確実に勝てる終の意味を込めていた。
そのためエンドワームはこの大森林の中の食物連鎖からは底辺に位置しており、他の魔物の餌になったりもしている不憫な魔物でもあった。
しかしそれらの試練を乗り越えて実力もあり運の良い個体達は、数少ない成虫へと進化が待っている。
成虫後の姿は蛾のような飛行形態をとり、120cmもの大きな魔物となると言われている。
しかも食事形態も変化し幼虫であったエンドワームの時と違う。
植物中心から肉を中心とした生活へと一変する。
逆に餌として食べられていた魔物を食べるといった奇妙な食物連鎖を生んでいた。
現在俺たちの手にある武器は牙のナイフだけ。
俺とドルゾィの武器は牙のナイフでも大丈夫なのだが、折角〈腕力〉のskillのあるルタラにはもう少し重量のある武器を渡したい。
かと言って俺たちではこれ以上の武器は持ち合わせていない。
ルタラに合う武器…集落にある種類の武器には大まかに分類すれば近接には剣と斧と槍、遠距離には弓がある。
この中かは選べと言われれば重量もある斧か剣が無難なんだろうけど、更に突いて良し、切って良しのバランスの良い武器は無いのか?
俺の前世の知識とこの世界にある斧と槍の特性を併せ持つハルバートという武器を模す事にした。
言うわけで、無いのなら作ればいい。
大人の下位蜥蜴人の人達に頼み込んで、彼等が使っていて持ち手の折れて使い物にならない細槍や、錆びて木材が切れなくなった斧を引き取らせて貰う。
子供のオモチャに使うのだろうと判断した彼等は、武器の危険性を説きながらも快く提供してくれた。
その武器を一度解体し、使えるモノと使えないモノへと分けていく。
如何にか欠けてない斧の刃を2つと、細槍の穂先、少し年季は入っているが細槍の頑丈な木材を手に入れた。
俺も記憶を呼び起こしながら、研磨用の道具を用意。
使い込まれて錆びた斧の刃はドルゾィと一緒に時間をかけてじっくりと錆を落としていく。
こういった研磨作業は流石にドルゾィが上手く、器用な人材なのだと改めて感心させられる。
時間はかなりかかったが、その甲斐あって赤銅色の綺麗な色を取り戻した。
頑丈な木材に斧刃を差し込み、エンドワームの粘液と体液で更に補強する。
最後に斧刃の頭上に細槍の穂先を付けると、ようやく完成した。
素人が作ったものでモノはなんちゃってかも知れないが、苦節1ヶ月を掛けて銅製のハルバートの完成だ。
もう一つの斧の刃は替えように俺が〈時空間収納〉にて保管済みだったりする。
ズッシリとした重量は流石に俺やドルゾィの手には重たかったのだが、ルタラには程よいそうで、プレゼントしたその日に嬉しさの余りブンブンと振っていた。
最初こそまだ扱い慣れていないようだったが、徐々に感触を確かめていったようだ。
まさか一振りでエンドワームの胴体をプチプチと押し切った時はかなり驚いたもんな。
そんな甲斐もあってか順調に狩りを進める事が出来た。
そんな俺たちはおおよそ子供らしくないと周りのリザードマン達から思われ始められているが、気にしない気にしない。
そんな毎日を繰り返し、あくる日も大人の下位蜥蜴人の人達と共に近くの森まで食糧集めに出かけた。
この日も食糧を持ち帰り、薬草類である【ナオリソウ】よりも効能が高い【スグナオリソウ】の群生地を見つける事が出来た。
早めに集落に帰れた俺たちは早速兼任の調合士である蜥蜴人爺ちゃんに渡し、ご褒美に干した小魚を貰う。
そして今日は最長老ボルテッカの所へ向かい、釣竿になる木材と糸を調達する為の交渉を行う予定だ。
釣り竿の元となる木材は目星を付けてある。集落の屋根の一部に使われている家の木材に、俺の欲しいと思う釣竿の当てはまる条件が一致したのだ。
それは竹のようにしなる弾力を持ち合わせていたので、貰えるならば一度試験的に転用して見ようと考えている。
更に倉庫には乾燥して水分が抜けた事でより弾性のあるモノも多く、しなりの良いモノが多い。
そして糸に関しては、大人の革装備に使う補修する糸が丈夫で水にも強そうなので、オッケーが出れば使ってみるつもりだ。
本来ならば族長であるシュシュバルガに交渉などを行うべきなのだが、生憎と遠征中であった。
実は最近この集落近くで森林狼と呼ばれる魔物を良く見かけるようになったと大人のリザードマン達が話しているのを良く耳にしていた。
森林狼は森林に生息し群れで行動する魔物だ。上位個体のリーダーが率いて20匹くらいの集団を形成する。
森林狼ならば例え倍以上いようが殲滅出来ると、集落の戦士階級である蜥蜴人達は自信を持って話していたので大丈夫だと思っているが、下位蜥蜴人に至っては何度か狙われ、襲撃を受けていた。
その都度交戦し、死人こそいないが怪我人が幾人も出てきている。
事態を憂慮していた族長は、準備を整え森林狼討伐の為に戦士階級の武装したリザードマン15名を引き連れ、拠点とされている場所に遠征へと出かけていった。
殲滅するまでの暫くの間は帰って来ないだろう。
留守の間は集落の防衛の為に残していった成り立ての戦士階級である若い蜥蜴人2名がいる。
上位蜥蜴人である最長老が族長代行として責任者となり、そして集落に残った下位蜥蜴人達の指揮をとる事となっていた。
考えている間に最長老であるボルテッカの家へと到着する。
そこを守る戦士階級の若い蜥蜴人に話しかけ、最長老に会いたい事を伝えると、ちょっと待ってろと1人が中へと入っていった。
了承が下りたと伝えられ、そのまま中へと案内される。
通された先にボルデッカは座ったまま出迎えてくれた。
そこで要件である釣りの概念を話し、釣りに使う木材と糸を頂戴と、3人で可愛く頼んでみた。
ニコニコと聞いてくれていた後は、やってみなさいと快く快諾してくれた。
釣りの話の際中に一瞬鋭い表情と眼光が走った時は、思わずチビリそうになった事は内緒だ。
倉庫から吟味した資材を広場まで運びだし、竹のようにしなる木材に糸を通せるように加工して、最後に糸を手元へと括り付ける。
途中蔦で補強しながら針穴に糸を通して即席の釣竿が完成した。
早速釣竿をもったままルタラとドルゾィを誘って近くの小川まで行き、餌となる虫を探す。
川の石をどかして虫を捕まえたり、地面を掘ってミミズもとぎを捕まえた。
こうしてると俺が小さかった頃を思い出すなぁ。
捕まえたミミズもとぎも川底の虫も、2人とも食べたそうにしていたが我慢して貰う。
名残惜しそうに見つめてもダメだからね!
小川には時折小さな魚影が見えた。
絶対釣ってやるかんな。と決意を新たに釣竿から糸を垂らした。
俺の真似をするようにドルゾイとルタラも糸を垂らす。
そして釣り始めてから1時間経つも………なかなかヒットがこない。
長い間集中など期待出来るはずもないルタラとドルゾイは早々に飽きたらしく、川辺の近くにある綺麗な石探しを始めていた。
うーん、魚影は見えるのだが当たりはイマイチだ。
俺だけもう少し下流へ移動して、水場は浅いが広く、水草と岩もある沢へと場所を変えた。
ここで暫く粘る事にする。釣り糸を垂らし、待つ事2分…3分…突然糸が引き始め、手に持つ釣竿に負荷がかかった。
この世界にはリールなどない。慌てながらも釣竿を立てながら魚が弱るのを待つ。
格闘する事5分、何とか弱らせて釣り上げると針には緑が美しい色合いの魚が釣られていた。
体長は20cm程でピチピチと尾を揺らして跳ねている。
釣れた嬉しさと感動の余り、その場でかぶりつきたくなったが何とか自制し、ドルゾィとルタラの元まで駆けた。釣り上げた魚を見て、大喜びしている。
また、森林狼警戒のために付き添いで来ていた大人の下位蜥蜴人は、子供達が遊びをしているのだと勘違いしていたようなので、実際に釣った魚を見て驚愕していた。
釣れた場所まで案内して全員で釣りを行う。
釣竿は無いが下位蜥蜴人の大人にも手伝ってもらう事にして、彼には糸と釣り針のみを渡して即席で釣りを体験してもらう。
大人の力なのだ、道具が無くても大丈夫だろう。
そこはまさに………入れ喰い状態の穴場だった。
その結果、皆大満足で餌が無くなるまで釣り続けた。
ここは良い場所だな。
釣った分は皆で分け、1人頭3匹分として緑魚を頂いた。ウマウマ…小骨が多いが気にならない。いつも食べる魚よりも泥臭さなどは全くなく内臓すら美味い感じる。
大人の下位蜥蜴人はもっと食べたそうにしていたが、我慢したようで割り当てで残った緑魚を最長老ボルデッカへと持って行き、釣りの素晴らしさを広げると語ってくれた。
後にこの下位蜥蜴人が新たな釣竿を作成し、釣りの英雄と呼ばれるようになるのはまた別のお話となる。
集落の食糧事情は、釣りを導入してからは必ず食卓に魚が並ぶようになったのだ。
そんな事がありながら、もう一ヶ月が経とうとしていた。
遠征に出かけた族長と集落の面々はまだ帰って来ない。
その頃には俺たちにも、集落の近くのエンドワーム以外の魔物を狩る事を許されるようになった。
name【ルタラ】
下位蜥蜴人 Lv4
normal skill
〈腕力〉〈半水棲〉
今ルタラのステータスを確認中である。俺とドルゾィも同じLvだ。
エンドワームでは幾ら倒してもこれ以上Lvが上がらずに効率が悪かったので、渡りに船って奴だ。
ここの一帯は〈白鱗の氏族〉が長い間守り続けている縄張りである。
支配地である拠点から半日歩き続けた場所に沼地が存在する。
そこには60cm程の魔物である沼蛙と呼ばれる魔物や、その上位種たる大沼蛙が存在している。
他にも存在しているが、主に戦い方を覚えた下位蜥蜴人の魔物の狩り方の勉強として(マーシュフロッグ)が定番のようなのだ。
いつもは1組の戦士階級の蜥蜴人や下位蜥蜴人が組んで狩りへと行っているのだが、今回は遠征の為に討伐の為のメンバーが足りない。
そこで最近エンドワーム狩りを続けている俺たちに実戦経験をもう少し積ませるという名目も兼ねて、今回討伐の流れとなったのだ。
念の為、今回戦闘慣れした女性の下位蜥蜴人1人が付き添われ、討伐する事になる。
Lvをなるべく上げたい俺にとっては逃してはいけないチャンス。有難く行かせて貰おう。