初めての蜥蜴人 ステータス編
ブックマーク数が増えておりました。読んで頂いて有難う御座います。充分に見直しをしている積もりですが、表現が違ったりおかしいなと感じたりした所は所々修正、加筆していきますのでよろしくお願い致します。
下級魔力強化→魔力強化へと編集しました。
産まれたばかりの俺は、現在大人のリザードマンから食糧を貰って食べていた。
産まれたばかりの頃は流石に授乳して頂いたが、もう2週間が経つ頃には離乳食を開始していた。
少し逞しくなった顎に挟まれているのは、先程与えられた20㎝ほどの生魚。
それをしっかりと噛み締めて美味しく頂く。
最初こそ違和感を感じていたが、流石に毎食だともう慣れてきた。
俺の顔立ちはシャープな線を描き、切れ長の眼は生前よりも鋭い輝きをその瞳に宿している。今は可愛い系だろうが成長すれば凛々しくなれるだろう。
何だか雄叫びを上げたいくらいにイケメンになるんじゃないの!?
おっと、落ち着け落ち着け…俺はもう冷静だ。
そんな妄想で現在の状況をワンクッション置き、リザードマンとなった自分を受け止められるように整理していた。
俺が生まれ変わった赤ちゃんは蜥蜴人の中でも変わった種類らしい。
と、言うのも周りにいる赤ちゃんと比べてまず色が違う。
他の赤ちゃんが薄緑色の綺麗な体色を持つのに対して、俺は全身真っ白だったからだ。所謂アルビノ種って奴かな?
生まれた時には既に両親のリザードマンはいなかった。
と、言うか誰が親かもワカンネェ。少なくともリザードマンは皆一緒に見えるし。
この集落では俺のように何らかの理由で親がいなくても産まれた卵は、全て一箇所に集められて赤ちゃん全員を一緒に育てていくようだ。
以前はこのケースの赤ちゃんは最低限の施しのあとは自然に放置されていたのだが、それでは亡くなる確率も高く駄目だとこの集落の最長老がその仕組みを変えた。
それ以降親がいない子供達は集落皆の子供として認知し、大事に厳しく育て上げる事でこの世界を1人でも生き抜いて欲しいという願いから始まったのだと、大人のリザードマンが教えてくれた。
因みに親のいる赤ちゃんは5年間は親元にいるが、それ以降は全員纏めて一緒の場所で教育されながは育て上げる習慣が理解され、認知されていったのだと言う。
まぁ日本で言う学校のような育成の仕方かも知れない。
リザードマンは種族的に強靭な肉体を誇り、ゴブリンやコボルトなどに比べれば比較的恵まれた種族に入るが、弱肉強食の世界に成り立つ生活に絶対はない。
また滅多に無い事でもあるが、魔物以外にも森の奥深い所まで来た人族の冒険者によって命を断たれるケースもあるのだ。
この大森林には強力な魔物や他の種類の種族が住んでいるため、リザードマンと言えどもこの大森林の中では最強種族ではない。
正確な場所は分からないが周りの大人リザードマン達に聞いた情報から統合すれば恐らくこの場所は辺境の未開拓地と呼ばれ、その中でも南の大森林と呼ばれる地域だと推測されてれた。
明確な情報がある訳じゃないが、俺が死んだ大森林だと思っている。
さて、リザードマン達が暮らしている場所には、周りには水辺と広大な沼地がある。
過ごしやすい環境と食糧事情を考慮した結果、ここを縄張りとして選び集落を構築したようだ。
乾燥させた木材と石材から出来た建物はどうやら家のようだ。なるべく統一した木材を使用しているのか、揃えられたように並んでいる。
また集落の周りを木製の頑丈な柵で覆い、更に川から運んできたと思われる大小の石を重ね、4m近く石垣を築いて二重に防備されていた。
リザードマンの集落で暮らす事自体は初めてなのだが、これまでの構築された建物などを見ると、文明が高いものだと解る。
俺の暮らしているリザードマンの集落は《白鱗の氏族》と呼ばれるギリギリ中規模集落の1つらしい。
〈白鱗の氏族〉の名の由来は300年もの昔に、俺と同じアルビノ系の白鱗のリザードマンが起こした集落だったからだそうな。
この集落ではその白いリザードマンを〈白鱗の英雄〉と称えている。
嘘か本当か分からないが、伝承として残る情報ではリザードマンの存在にして驚異的な戦闘力を秘めていた存在で、亜竜すらも単体で倒す程の実力があったそうだ。
そのため昔はもっと集落の規模が大きかったそうなのだが、突如としてその英雄が行方不明となってからは有数のリザードマンが独立を果たした為に散り散りとなり、現在この集落は全部で50人程のリザードマン達で生活している。
大人のリザードマンは160㎝から70㎝ほどの身長で、緑色の体色と鱗で覆われた個体であった。名の由来となる白い個体は俺以外だれもいない。
珍しがられているが、基本的に集落の皆は優しく温かい目線で見守られている。
早めの離乳食には魚以外にも大きな蛙のような脚が偶にでる。
人間だった頃は食べなかった食材を気にしたら負けだ。
それに自分で食糧を調達出来るわけでもなし、有り難く頂くべきだ。
それにカエル特有の鶏肉のような淡白な味わいにポキッと小骨が折れる感触が心地よい。
細かな歯もビッシリと生え揃ってきているので、問題なくガツガツとかき込む。
そして産まれてから更に1年が経過した。
身体つきも赤ちゃんから子供へとすくすくと育っていた。
人間の赤ちゃんよりは弱肉強食の世界の家庭環境のせいか成長過程も早い見たいだ。
俺と一緒の時期に産まれた3人のリザードマンは、体力作りと言う名の遊びと教育も兼ねて、早速仕事を与えられる。
仕事と言っても食糧確保の為に、下位蜥蜴人の大人と供に森へと入って、食べれる食糧を区別する為に教えて貰いながら採取する事であった。
うむ、サバイバルとしてとても勉強になるし食べるモノを増やして身体を大きくしたい俺は一生懸命だ。
現在の俺の身長は75cmにはなっていた。どうだ、1年間にしては大きいだろう?
しかし、他の2名は既に100cmは有に越していた。
あぁ、一番小さい…悔しくなんかないやい。
肝心な事だがこの集落は上位蜥蜴人たるシュシュバルガ と呼ばれるリーダーが率いている。
蜥蜴人の平均身長が160㎝ほどに対して、なんと190㎝と他の蜥蜴人よりも更に大きい体格を誇っている。
また重量ある武器を担ぎ、身体を覆う様々な魔物素材の鎧は、見るものに安心感を与えている。
補足だが、亜人種の一種と呼ばれるリザードマンも長い年月を得て資質のある個体ならば【種族進化】と呼ばれる特別な恩恵を得られるそうだ。
何度も言うが資質が無ければいくら長い年月や経験を得てもその恩恵には預かれないらしく、大人のリザードマン達の一部にも未だ下位蜥蜴人として働く者達もいた。
もしかしたら種族進化には、Lv制度も一枚絡んでいるのだと俺は思う。
50人からなる現在集落では2人の上位蜥蜴人、戦士階級の25人程の蜥蜴人、あとは俺たちのような下位蜥蜴人と呼ばれる存在がいて構成されている。
集落のリーダー以外の上位蜥蜴人である最長老のボルデッカに、この事を教えて貰った時には亜人特有の生態にかなり驚いた。
因みにリザードマンの平均の寿命は大体80年くらいだそうで、現在最長老であるシュシュバルガの父親であるボルデッカは100歳近い年齢だという。
これには個体差があり過ぎるが、ボルデッカは上位存在の蜥蜴人だ。もしかするとそれで寿命が延びてるんかしら?
そんな100歳の爺ちゃんであるボルデッカの鍛え上げられた筋骨隆々の身体は、全盛期よりは衰えたが未だ健在である。
またどうやら普通のリザードマンとは違うと集落では有名な話だ。
感覚の眼と呼ばれる複眼器官があり、外観的には眼があるように見えないのが、様々なモノを感じる眼を使い熟す事によって、最強の戦士として君臨していた実績を持っている。
今は末っ子である息子に族長を任せて現役を引退したが、背中には鋼鉄製と思わしき大剣を担いで腰には長剣を吊るしてある。
戦士階級のリザードマンや下位蜥蜴人の指南役として豊富な実戦経験を活かして活躍している。
因みに金属製の装備は集落では少ない。
特に鉄から鋼鉄への精製はリザードマンでは生産ラインが確保出来ず生産が難しい。
そのため鋼鉄武器は少量であり、非常に貴重な武器として受け継がれている品だ。
今年生まれた赤ちゃんとしてボルデッカの前に連れて行かれた時、長い白髭を撫でながら、顔を皺くちゃにさせて笑顔になっていた。
かの〈白鱗の英雄〉の再来だと喜んでくれた事が印象的だった。
また集落の子供達全員の事を何でも世話したがる好々爺見たいな存在で、彼の周りには常に子供のいる印象が深い光景があった。
俺には生前から祖父母がいなかったから、こそばゆいようなとても温かい気持ちに包まれる。
さて、俺たち下位蜥蜴人の殆どは細身でヒョロとした身体付きである。人間と比べれば筋力が少しばかり上である事ぐらいだ。
武器は軽めの細い槍。
防具は局所や急所を守る最低限の皮を鞣した装備で覆われているのみで、上半身は天然の鎧である鱗を活用した裸のままだ。
俺たちも産まれたばかりの下位蜥蜴人となるため、それに準ずる子供装備を頂いた。
ようやく全裸から卒業です。
武器に関しては長い槍が身長に見合わず返って危険なので、15cm程の野獣の牙を加工して出来たナイフを貰い、腰に括り付けた。
そして長い年月をかけてこの下位蜥蜴人から〈種族進化〉を果たせた蜥蜴人は、戦士階級の仲間入りの蜥蜴人となる。
それなりに鍛えられた肉体と骨格、鋭い牙と爪はそれだけでも充分な武器だ。
そして、リザードマンが保有する貴重な武器の中でそれぞれに適した武器が与えられ、大森林の〈白鱗の氏族〉の領域以外も自由に探索出来る権利を得る事ができた。
下位蜥蜴人のままでは領域以外人出掛けるには不都合が多いので、当座の俺の目標として、まず蜥蜴人に進化する事に決めている。
そして大勢の者達はこの蜥蜴人に進化するまでが頭打ちと言われている。
それはその先へ進化する者が少ない事が挙げられているからだ。
実際にシュシュバルガとボルデッカ以外には現在見当たらない。
そのため上位蜥蜴人と到れるまで進化した個体は、資質、才能共に優秀だと認められている個体である。
他とは画を一線するほどの肉体性能、全てにおいて違い過ぎる能力を持っているとされる。
参考の為にも今度2人の戦闘を拝見させて欲しいもんだ。
食材集めと体力作りを繰り返している毎日だが、この生活が案外悪くないと満喫し始めていた。
湿度も身体に馴染んで程よい湿り気が、リザードマンの体質に馴染んでいるからだろうか?
主な食料としてはこの沼地で取れる川魚や大きなナマズのような魚を食している。
時には森へと入って自然の恵みである木の実や植物採ってきたり、森の動物や魔物を狩って食糧とする事もあるそうだ。
この身体になってからは魚類系がとても美味しく感じていた。
川魚は滅多に俺たちには回ってこないが、あの脂や魚の鱗ごとバリッと生きたまま喰いちぎる感触と魚の脂の甘さが堪らない。
今日も森から帰って夕食を終えた面々は、仲良く同じ小屋の下で寝かされている。
スヤスヤと寝息を立てている御同輩を微笑ましい気持ちで眺めながら、日中の体力作りとは別に行っている日課となった夜の秘密訓練を始めた。
俺の身体が育っていく中、不思議と体内に別の力が流れている事を感じていた。
日に日に強くなるこの力は馴染みがあった。俺にはもしかして…と言うある種の期待が胸を支配していた。
それからと言うもの集落の皆が寝静まるのを待って、秘密訓練と称した瞑想を続けている。
ただの瞑想ではなく、イメージを鮮明にして体内の魔力を探っていく。
すると特に心臓の辺りに強く引っ張られる感覚がある…やはり懐かしいものだ。
いつもは此処までで、集中力が持たずに限界がきて、魔力を引き出す前に途切れてしまうのだが…今回はより鮮明に頭と心を繋げるようなイメージで認知する事で、やっと自身の魔力を解放する事に成功した。
魔力の通りを確認出来た俺は非常に安堵していた。
もしかしたら気のせいかも知れないと…実は不安もあったのだ。
〈時空〉を司る魔力を確かに感じる事ができた。
ならば次の段階として是非階梯魔法を試してみたい。
逸る気持ちをなんとか抑え、脳裏に1つのワードを思い浮かべた。
【時空魔法】第3階梯〈時空間収納扉〉
一瞬の間に、確かに〈時空間収納扉〉が発動した事を感じとった。
何故なら脳内には馴染んだ言葉の羅列が湧き起こっていからだ。
やったー!!
歓喜を抑える事が出来ず尻尾でパンバンと地面を叩く。これで生き残れる確率が上がるぞ。
すると、振動と音で隣で寝ていた子がむくりと首だけ起き上がる。
が、静かにしていたらまた眠っていった。
ヤバ…気を付けないと。
そう思いながら、俺は勇者の力を引き継いでいると確信した瞬間だった。
早速、〈時空間収納扉〉に仕舞ってあったアイテムを確認していく。
オルグフェン王国から支給金として渡されていたかなりの現金もそのままに残っていた。
その他に〈時空間収納扉〉の中から、お目当てのモノを探し出して取り出した。
脳裏に描いたその瞬間、俺の小さな手には指輪が出現した。
これは愛用していたカドゥケウスの杖に万が一何かあった場合、即座に対応出来るように予備の魔力媒体として収納していたモノだ。
【彷徨う探求者】名付けられているこの指輪は、杖のような戦闘特化タイプの魔力触媒でないが優秀な集約量を誇る。
それに魔法構築力が底上げさせられ、装備者への魔力追加補正が付与されていた。
灰色の無骨な作りで指輪自体を包む金属は、少量でも多くの魔力を含むマナダイトと呼ばれる魔導合金で作られている。
その中央部に設置された紫水晶のように光る魔石が紫瞳水晶。
稀少過ぎて発掘量が少なく、特定の場所では採掘出来ない事から彷徨う魔石と名高い。
察しの通り、この【彷徨う探求者】の由来となった。
その価値の高いリングを人差し指へと嵌めた。
俺にとって唯一の攻撃階梯魔法である〈重穿〉は魔力触媒を必要とする魔法である。
この指輪が無かったら何らかの他の魔力触媒を手に入れるまで、物理攻撃一直線だったろう。
指輪を眺めてしみじみと【彷徨う探求者】を手に入れた出来事を思い出した。
確か、アレは俺が〈重穿〉を覚え始めの頃に、偶然襲われて返り討ちにした魔獣の牙に挟まっていた代物だ。
当時は知らなかったのだが、襲ってきた魔物は討伐依頼が出てから何年も倒されていない恐るべき魔獣だった。
その都度報奨金が上げられて挑む者も増えたのだが、逆に討伐にしにくる者達を返り討ちにして魔力を喰らっていく内に必要以上に存在値を貯めて、異常な進化を遂げた個体のようだ。
あるパーティが前衛の戦士達を30人も揃え、物量で押さえ込み、包囲して殲滅を計ろうとした。
更に念のためにと高い報酬を払い、それぞれシングルの属性持ちの火・土・風の3人もの魔法使いを後衛にして万全の体制で臨んだ。
魔獣型の魔物は兎に角身体能力が高く素早い。
彼等は包囲には成功したものの黒豹を完全に押さえ込めなかった。
戦士達を簡単に手玉に取るほどの身体能力を有しており、呆気なく包囲は崩されたからだ。
そのため、後衛の魔法使いも充分な援護と詠唱が出来ないまま高速で突っ込んでくる黒豹を相手にするのはかなり厳しい。
それでも属性の階梯魔法を完成させ攻撃した魔法使いもいたが、一撃では倒れず二撃目を放つ前には既に殺されていた…というパターンで戦線は瓦解していった。
しかも戦闘中は風属性は弾かれていたと報告があり、他の属性にもどうやら複数の高い魔法耐性を有していたと思われる。
今までは初見で殺される事が多かったために、黒豹の魔獣の情報は圧倒的に少なかった。
この貴重な情報は先程上記の説明の前衛を増やし、幾人かの属性を使える魔法使いを揃えて討伐に臨んだパーティの生き残りからもたらされた。
彼は後に避ける事も出来ない程の広範囲の殲滅魔法などが使える程の高位魔術師で無ければ、あの魔獣の対応は難しいはずだと語る。
それまでに魔法が弾かれる、耐性があるかも知れないという可能性の情報がなく、多くの魔術士と戦士達が挑んで犠牲となっていた。
特に魔術士を好んで襲い、食べていたようで出会えば最期と恐れられ、名だたる魔術士が殺されてきた。
正に魔術士殺しの名称を付けられるほど討伐困難な黒豹。
俺は当時オルグフェン王国から強制レベリングの為に、幾人の騎士と共に魔物討伐に向かわされていた。
念願のLvも上がり、ようやく〈時空〉魔法の第2階梯〈重穿〉を扱い始めていた時のこと。
とある森へと差し掛かる。夕暮れ近くまで長い行軍を行っていた為、休憩の為にこの付近で比較的安全だと思われている場所でテントを張り一泊する事になった。
そこで準備をしている間にピリッと何か越えてはいけない線を踏んだような気がした。
またその瞬間にシュッと音がして俺に影が射した。
気付けたのは偶然に近い。
ハッと仰ぎ見れば、突然上空から高速で滑空してくる存在に気付く。
反射的に杖を上へと向けて〈重穿〉を詠唱して放った。
黒豹が避けようとしなかったのは、魔法に対して絶対の自信があったのだろう。例え一撃当てられても、今までのように二撃を放つ前に食い破ればいいと思っていたはずだ。
火・風・水・土の殆どの魔法耐性を持っていると言っても、流石に属性自体が初の〈時空〉の魔法の耐性は無かったようだ。
その油断がメイジキラーとまで恐れられた黒豹の死に繋がった。
黒豹が飛び掛かり、俺との距離は僅か5m。
しかし、その慌てて放った1撃が黒豹の頭部を貫通させて、そのまま絶命に至らさせた。
討伐証明として、腐らないように黒豹は俺の【時空間収納扉】へと仕舞われた。
余りにあっさりと倒してしまったので、付き添いに来ていた幾人の騎士と魔法使いは口裏を合わせて、黒豹は私達で倒したのだと、オルグフェン王国に報告したようだ。
勇者としての俺の存在自体まだ国民に秘匿されており、明るみに出す事は早いと思っていた国王、大臣達の王国上層部は騎士達のその意見を採用した。
その意見が通ってしまった事により、この国の連中にいつかロクでもない事に巻き込まれてしまうと、思い始めたのはこの時からだ。
俺の抗議は当然の如く無視されたが、討伐の報奨金と黒豹の牙に偶然挟まっていた指輪だけは、杖に代わる魔力媒体として頑として譲らず貰ったのだ。
その指輪は誰か高名な魔術師が装備していた指輪なのだと思う。
おかげで今、大変助かっています。
知らぬ魔術師に感謝をしながら思い出に蓋をした。
そして時間をかけて収納してあったアイテム類を全て確認し終えると、その中から希少な金属で出来た一枚のカードを取り出した。
コレは生前勇者だった時に、王国側から何かスキルは発現していないか?また成長を確かめて逐次報告するようにと渡された稀少品。
前述述べていた存在値による上昇するあのLvと呼ぶモノとskillを簡単だが測定出来る魔法が込められている簡易型のLv測定カードであった。
使い方としてはこのカードに触れ、念じる事で普段知る事のできないステータスを板に写し取れる。
このカードに掛けられている永続的な効果をもたらす魔法は、今は遺失魔法として扱われており現在は誰も使える者がいない。
このカードは召喚された勇者用の支給された特別なアイテムであり、簡易版であるため流石にオルグフェン王国に残存しているオリジナルLv測定器よりは劣った性能で表示される。
カード故の限界はあるのだが…それでも充分に使える品だ。
前にも説明したが、Lvなどの情報自体は一般社会には目に触れる機会もなく秘匿されている情報のために、殆どの人種はステータスやskillの概念すら知らないだろう。
稀に冒険者が未発見の遺跡などにある宝箱から発見された時でも、この類いの品は必ず全てのどの国でも高額で買取されるように法律できまっていた。
重度の情報規制をかけ、この秘匿情報は5つの全ての大国で徹底されていた。
これは国民に余計な情報を与えさせず、どうでも良い国民などの他大勢に余計な力を蓄えさせない処置でもあり、反乱の目を摘む行為に繋がっている。
使う人間を限られさせる事で、5つの大国にとって忠誠を誓う優秀な者だけを囲い、さらなる飛躍を遂げて自分たちが甘い汁を啜る為に居続けるための…一部の人間しか知らされていない暗黙の事実なのだ。
勿論、何事にも例外はあるだろうけど人間社会に至っては徹底的に管理されている。
とまあ、随分と嫌な事を思い出した。
もう関わる事など無い王国の事など脳裏から忘れ去り、早速取り出した簡易型Lv測定カード…通称ステータスカードに触って念じる。
カードに一瞬の発光の後、美しい文字の配列がカードに記されて俺のステータスが浮かび上がった。
name【ーーー】
下位蜥蜴人・アルビノ種 Lv1
special skill
〈時空属性魔法:5階梯〉〈潜在能力開花増強〉
rare skill
〈白鱗〉〈紅眼〉
normal skill
〈魔力強化〉〈半水棲〉〈生命力脆弱〉〈環境適応補正〉
あら??まず俺のname欄に名前がない。
確かに人間だった頃の名前は現在リザードマンの俺には関係無いし…誰かに名付けられない限り付かないんだろうか?
疑問に思いながら、ステータスカードに浮かび上がった文字には確かに〈時空〉の文字が記されていた。
勇者Lv40だった時に得ていた〈短縮詠唱〉と〈魔力集約〉などの優遇skillである魔術系統のskillはなかった。
まぁ、この身体もLvが上がればまた覚える可能性が有るかも知れないけどね。
とりあえず、今の俺にとっては使い親しんだ〈時空〉魔法が有るだけでも大感謝です。
後は記されたskillの数も多くて驚いていたが、その中に他は見慣れないskillも多くあった。
まず〈時空〉の他のspecial skillである同ランクの〈潜在能力開花増強〉。まぁ、何となく意味は分かるような気がするけど。
あとはrare skillの欄に〈白鱗〉〈紅眼〉ってのは何だろう??
念じるてみると、其処には〈白鱗〉と〈紅眼〉簡単な補足説明が見えた。
〈白鱗〉は簡単に言えば魔力の増幅器のようなモノらしい。
常に鱗に魔力を貯蓄しておけるようで、成長すればもっと魔力量も上がり、進化していくようだ。
〈紅眼〉もセットで勇者だった時の〈魔力操作〉に該当するskillらしく、これも成長する。
コレがあるお陰で【時空魔法】に関するスムーズな補正が働くようだ。
しかし、この2つの常時発動skillの併用によってその分蜥蜴人の身体に負担がかかり〈生命力脆弱〉skillが発動しているようなのだ。
これはアルビノ種特有のskillのようでハイリターンのハイリスクの避けられない問題だ。
しかし、これも成長する事で身体能力が劇的にアップすれば解決出来そうな問題なので、なるべく早く成長した方がいいと思う。
この爆弾のような〈生命力脆弱〉skillは危険だ。
直ぐにでも進化する為に魔物を屠って行った方が良さそうだと心に決めた。
そしてSpecial skillの欄を念じて見るも何も表示されない。どうやらこの簡易型ではrare skillまでの説明しか無理なようだ。
そう考えていると、ふと視線を感じた。慌てて振り向くと先程上体を起こした子がじっと見つめていた。
「ねえねえ、そのきれいなキラキラのはなあに?」
瞳をキラキラとしている子は確か…ドルゾィって名前だったかな?
小さな手を嬉しそうに合わせている。
【時空魔法】に興奮し過ぎて注意を疎かにした俺のミスだ。バレてしまったのなら仕方がない。
それにどうやら浮かび上がった文字も読めない見たいだし、自らのskillと比較する為にも一般的な下位蜥蜴人のステータスにも興味がある。
「俺の宝物なんだ!触らせて上げるから皆には内緒だよ」
「うわぁ、ありがとう。ないしょにするからルタラにもおしえてもいい?」
ルタラ??ってああ…隣で寝ているもう一人の子の名前だった。
言いよって答えると、嬉しそうにドルゾィは隣で眠っているルタラを起こし始めた。
眠そうに目を擦りながら起きたルタラだったが、幻想的な光を放つステータスカードの存在に興味を示すのに時間はかからなかった。
俺の進化を早める為にも、この子達にも協力願おうとちょっと不純な動機をあったのも事実で…キラキラとした瞳で眺めていると心がチクリと痛む。
せめて共に強くなり、彼らを利用する以上は必ず守ってみせると己に誓約を課した。
順番を決め、最初に触ったのはドルゾィ。この幼体の子はキメの細かい薄緑鱗をしたすらっと背が高い下位蜥蜴人だ。
ドルゾィにこのカードに手に触れて念じて…と教えると、好奇心を抑えきれないように手に触れた。カードが認識して発光する。
その現象に一層喜ぶドルゾィを見ながら俺はステータスに目を走らせた。
name【ドルゾィ】
下位蜥蜴人 Lv1
normal skill
〈両利き〉 〈半水棲〉
とnormal skillが2つあった。
ルタラも薄緑色の鱗を持ち、俺たちの3人の中では1番大きな体格をした子だった。
カードに手を触れるように促して見ると、興味はあるけどおずおずといった感じで魔法のカードに触る。
name【ルタラ】
下位蜥蜴人
normal skill
〈腕力〉 〈半水棲〉
同種族である2人がどんなskillを持っているか分かっただけでも、収穫がある。
今の俺のskillがどれだけ異常なのか分かった気がした。
折角、今世で出会えた仲間だ。先ほどの誓約を強く心に刻んだ。
その後、たわいのない話をして友情を育んだ俺たちは、この事は3人だけの秘密だと固く約束し、この日はお互い並んで仲良く眠った。