初めての蜥蜴人 それぞれの旅立ちと別れ
本日2話目です。
早朝出掛けていったボルデッカ達が帰ってきた。
時刻は夕前。
持参した土産を渡すと、彼方からも土産を貰ったと言われた。
多少壊れたモノもあったが直せば全然使える。
沢山の槍と軽量鎧に混じって、青いツナギ服と、小さな弓が目立っていた。
どうやら彼らが向かう先に何故か問答無用で冒険者が襲ってきたそうで、返り討ちにした際の戦利品のようだ。
他にも兵士なども次々に襲われたが、誰一人として怪我もなく返り討ちにしたらしく。さすが戦闘民族リザードマン。
この大森林は魔物よりも人の方が物騒だと笑いながら言ったらしい。
鹵獲された武器を戦利品として渡された。
銅製の槍等もあったが、彼等は自前の装備の方がより良いらしく快く土産として持たしてくれたのだった。
銅の槍や軽量鎧などは戦士階級のリザードマンに優先的に渡され、戦力の増強が見込まれた。
やはり魔物の革で作られた鎧は金属に比べて軽いが防御力に関して不安が残る。
実際に森林狼などの牙を貫通させるときもある。
金属に変われば傷は付くだろうが貫通することは防げる可能性が高くなる。
俺がその土産品を確認していくと、青いツナギ服と小弓は驚いた事に凡用術式具だった。
魔宝石に込められていた術式を読み解くと青いツナギ服は適温に保つ効能があった。
小さな弓には弦に常時威力増加の効能が付与されていて、また、使用者が魔力を込めれば魔力コーティングされた矢が放たれる仕組みの術式が込められた珍しい小弓だった。
青いツナギ服に関してはどうやら緑鱗の里を襲った冒険者のリーダー格の装備品だったらしく、憎々しげに緑鱗の族長となった年若きリザードマンは見ていた。
シュシュバルガはそれを感じ、逆に戦利品としてこのリザードマンに小弓を渡した。
青いツナギ服でも良かったが、尻尾がつまって動けなくなりそうだったからだ。
強張った顔で受け取った緑鱗の族長は、暫く小弓を睨み付けていたがシュシュバルガに深く頭を下げて小弓を背負った。
今後彼はこの小弓を使い、今回殺された同胞以上に敵を屠り、味方を救うことになるはずだ。
念のため、後でドルゾィやルタラと共に行う魔力訓練にボルデッカも興味を示していたし、彼を誘って貰おうっと。
僅かでも魔力に目覚めれば、十二分に小弓を使いこなせるかもだし、そうなれば儲けものだしさ。
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さて、ボルデッカやシュシュバルガが集落全員を集めて彼等の目的についての説明を行った。
それはとても信じられない内容の話だった。
今のこの状況に話が噛み合い過ぎているからだった。
内容としてはこうだ。
彼等リザードマンはここより遥か西、馬を使えば20日もの長距離を越えて大森林の抜穴から来たと言う。
その先には迷宮と呼ばれ魔物や宝が眠る場所があり、その周辺にリザードマンの国を立ち上げたのだと言う。
この巨大なダチョウ擬きも国を上げて育て上げた魔物で、今ではなくてはならない戦力の1つなのである。
このダチョウ擬きのお陰で戦力以外にも、走力の確保と労働力の向上に繋がっているらしい。
これに騎乗する事で広範囲に渡り生息圏を伸ばし、防衛率を高めた事で支配圏は建国時よりも更に拡がったようだ。
走破力は流石に馬に劣るものの、2本脚で平地以外の場所の環境にも強く、馬が通れなさそうな凸凹道や山道でも対応し、持久力は馬よりも高いそうだ。
その原産はその迷宮産の魔物であり、懐くダチョウ擬きを迷宮から連れ出し、時には戦って持ち帰った。
従順になるようにしつけ、交配を繰り返し品種改良をさせながら、ようやく育て上げた優れた騎乗能力に特化した魔物なのだという。
正式名はダチョウ擬き……ではなく、【キンドル】と呼んでいるそうだ。
因みにこの【キンドル】を乗りこなした熟練のリザードマン戦士だけで構成されたキンドル騎戦団が、リザードマンの子供達の中で1番の憧れだったりすると教えて貰った。
そして彼等の国の興りは、白きリザードマンが、黒き鱗のリザードマンや緑鱗のリザードマン達数名を引き連れて彼等の集落を訪れた事から始まる。
湿原に居を構えていた彼等リザードマンは50名ほどの集落を作り、魔物や動物を狩りながら平和的に暮らしていた。
しかしある時、住んでいた湿原近くに迷宮が突如発生した。
その迷宮の意思が彼等のリザードマン集落の長を主として商館した事で、強制的に主とされてしまった。
操られた長は迷宮へと向かい、彼等は取り戻しに迷宮へと挑んだ。
長には集落一の狩人が選ばれる。
おりしも近年は不猟の年続いていた。
彼がいなくては狩りが困難となり、集落全員にいずれ食料が行き渡らなくのは必至であった。
それに迷宮の発する魔力が魔物を引き寄せ、動物を遠ざけた。
悪循環は続き、尚更食料確保は必須となる。
そのため、是が非でも連れ戻す必要があったのだ。
不幸なことにリザードマン達は迷宮を守る主がどのような存在か知り得なかった。
自らの狩りの腕前や戦闘を得意とする種族としての本能だけで挑んだのだった。
出来たばかりの迷宮は育ちきっておらず、階層も少なかった為に何とか長がいる階層までたどり着いた。
しかし、長だったリザードマンは多大に強化されており、人外を軽く越える戦闘能力に変異した強化肉体は並みの者達では戦闘にすらならない。
実際に連れ戻しにいったリザードマン全員は生きて戻れなかった。
狩り手と戦士を失い、存続の意義を問われたリザードマン達に待っていたのは絶望しか無かった。
そこで、国を興すきっかけとなった白いリザードマン一行が偶然にも集落へと立ち寄った。
非常に高い戦闘力を持った彼等はこの現状に憂慮し進んで迷宮へと入り、操られた長を倒して迷宮を攻略した。
迷宮の宝であった【炎を発する槍】を手に瀕死の長を連れ帰った白いリザードマン一行は、無類の活躍を見せて集落をもり立てていく。
強き戦士であった黒鱗のリザードマンは守護者との戦いで重傷を負った。
その治療の為に集落に置いてもらい、腕の立つ緑鱗のリザードマン達もここを守り、残る決断をした。
最後に迷宮の魔物を手懐け、戦力とする知恵を授けた白き鱗のリザードマンは、1人炎を発する槍を持って旅立っていった。
その伝承が、彼等の国の興りだった。
現在の王族となるリザードマンは黒鱗の血族のリザードマンとされ、その血脈は受け継がれていく。
そして、彼等のリーダーであった白き鱗のリザードマンを称え、国を大きくしていったのだった。
……その白いリザードマンってやっぱり初代の族長、白鱗の英雄の事だよね?
やらかし過ぎて本当にリザードマンか怪しむわ~。
<セルメドラ>は語る。
「私はその王族の末裔であり、先祖が受けた恩を返しにきたのがきっかけ……である」
巫女とは。
リザードマンを頂点とした国では、王の他に巫女と呼ばれる特別な役職を持つ者が1人いる。
未来を予見する事が出来る非常な稀有な存在で、それは巫女が望んだ未来ではなく一方的に伝えられてくるモノなので選ぶことは出来ないが、その未来の的中率は100%。
従うも従わないも自由であるが、先代王が巫女の権力を嫌い疎かにした時に大損害を被ったとされた。
普段権力はないが、国を支える者として時として王や宰相以上に発言力がある存在なのだと言う。
「巫女の予見により、貴公らを受け入れるに辺り【棘翼外套】なるリザードマンの強力な秘宝とやらを此方に渡して頂きたい。
それを王へと献上する事で更に磐石なモノにし、多大な功績を持って私の治める領地を独立領とする。
そこに貴公らをそこへ招待したいのだ」
リザードマンの秘宝とは、現在緑鱗の里に伝わる【棘翼外套】しかない。
白の集落の秘宝はようとして行方がわかっていない。
「我ら白の氏族の秘宝の行方は、先々代の族長より不明であり、解らぬ」
「なるほど、白の里の失われし秘宝の在りかは此方でも調査してみよう……しかし、今回必要なのはそのリザードマンの秘宝のみなのだ。
して、如何かな?」
年若き緑鱗の族長は一旦、長老であるボルデッカの弟の腕を見た。
この間の戦いで棘翼外套を操り、片腕を戦で失くした。
沈痛な面持ちだったが、長老が優しい笑顔で見守っている事に勇気付けられて発言した。
「よかろう。
我らに伝わりし秘宝が大恩ある白鱗の氏族と我らを助けてくれるのであれば、是非もない……いや、受け取って頂きたい」
肩に手を置き、長の決断を称えた。
「年若き族長よ、長年に渡り我らを守ってくれた秘宝を渡す決断を下したのは断腸の思いだったろう。
良く決断した……我らはモノを守るのではない。人を守るのだ」
白鱗の氏族側も、ざわめきこそあったが緑鱗の族長の決断を見守った。
「そうであれば、我らに異論はない」
シュシュバルガも白鱗の族長としての決断を下し、長老達も頷いた。
それを黙ってにこやかに見守っていたセルメドアは、ようやく口を開いた。
「これはめでたい。
国を上げて歓迎しよう。この非常に鍛え上げられた戦士達は我らの所有する迷宮でもトップクラスで活躍出来ることだろう。
シュシュバルガ殿は無双の戦士であり、我が国屈指の戦士と遜色なく……まるで白き鱗の英雄が連れてきた緑鱗の強者を彷彿とされる腕前とお見受けする。
更にそのお父上である、剣の精霊の祝福を受けたボルデッカ殿は、恐らく我が国最強の戦士に匹敵する」
巫女の神託はあったが、この事実だけでも貴公らを招くのに何の障害も不都合もないのだ。
セルメドアは自身の交渉が成功した事を悟り、ほっと胸を撫で下ろした。
あとは彼が内密に頼まれた任務を1つ、果たすだけであった。
ある子供を連れていくだけなのだが、それは簡単な極秘任務だと思っていたのだった。
ともあれ、めでたい事に代わりはないのだから。
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こうしてリザードマンの国へと行くことになった集落の面々は、新たな仲間の出会いと行く先を祝い、歓迎の宴を開いた。
そしてバリフェル達もこれを機に旅立つ事となった。
祝賀会のあと、壮大なお別れ会も始まり、バリフェルはボルデッカや怪我を治した蜥蜴人に連れられて飲み会を始めた。
ドルゾィとルタラは仲良くなったシーとの別れを涙して惜しんでいた。
シーもようやくリザードマン言語を解り始めていただけに、さよならを何とか言えたようだ。
リザードマンと人間の絆は深い。
そして、更に深くひっそりと静まった夜。
バリフェルはシーと共に出発の準備をしていた。
世話になったこの集落の行く先は気になるが、いつまでも此処へはいられない。
「シーや、お主は残っても良いんじゃぞ?」
「そんな事は言わないで下さい!貴方の行く所がアタシの行く先です」
「やれやれ、危ないと言うのに気の強い弟子に育ってしまったわい」
「若い頃からやんちゃだった先生よりもマシでしょう?」
(言うようになったわい)
フフンと笑うシーは、確実に此処へきた事で精神的にも強くなっていた。
また、次々と負傷者を癒すことで回復魔法の腕前は格段に上がっている。
弟子の成長を喜びながら、ここへ残していくリィザを思う。
何の因果か死ぬ前の勇者だった彼と、死んだ後に転生した彼と出会った。
因果というより……これも神の与えし縁なのだろうか。
そんな事を考えていると当の本人と使い魔であるベルがやってきた。
「やっぱり行くのか……俺たちと一緒にこないのか?」
「フォフォ、有難い誘いじゃがリザードマンの国に人間である我らはいけないじゃろうし、行くとなれば迷惑がかかる」
「そうよ、此方の事は気にしないで。
あの時助けれてくれただけでも充分助かったんだからね」
バリフェルもシーの気持ちは変わらない。しっかりと決断を下していた。
「それにね……昨日別れたマンジュさんっておじさんが、行く宛のない私達を迷宮に誘ってくれててね。
実は大森林を抜けた先で野宿して待っててくれてるんだ」
「あの御仁が昨日の内に旅立ったのもこれを予見しての事かも知れませんの。
夜でも私達が大森林を抜けれるように粗方魔物を狩っていってくれたのだろうて」
「そっか……そう。
シーもバリフェルも寂しくなるけど元気で、な」
「バリフェル様、シー様。貴女方はご主人様であるリィザ様の恩人です。
行く先に祝福がありますようにお祈りしています」
「ありがと、ベルちゃん。アタシも貴方達に神の祝福がありますように」
お互いに別れを噛み締めていると、バリフェルがすまなそうに声をかけた。
「うぅむ、別れの挨拶中に失礼して申し訳ない。その事で話があるんじゃか……確かベル殿のskillには<回復技能>があったはずしゃろ?」
俺はステータスカードでベルを確認してみた。
name【ベル】
煌魔・準戦闘型 Lv1↑ New
unique skill
〈光焔保持〉
〈魔王刻印〉
rare skill
〈炎属性魔法:1階悌〉
〈覚醒因子〉
〈物理耐性【小】〉〈魔法耐性【小】〉
〈属性強化〉
〈回復技能〉〈補佐技能〉
normal skill
〈身体強化【小】〉〈下級魔力強化〉〈魅了〉〈魔力飛翔〉〈魔力制御〉〈戦闘感〉〈成長促進〉
〈魔力感知【小】〉〈外部魔素吸収〉
〈補助魔法〉
familiar skill
〈上位使い魔契約→【同調】【記憶共有⚠】【心話(テレパス】〉
未発動〈???〉
「うん、あるね。これがどうしたの?」
「やはりか……それなんじゃがの、ベル殿を此方に預けて見ないかの」
バリフェルが言うには、skillで<回復技能>をステータスに持つ人間は、後に上級の回復魔法を使えるようになる可能性の者が多いのだと言う。
<回復技能>は恐らく回復魔法や回復する才能の持ち主だと推測しているようだ。
しかも、この技能持ちは魔法の効果をも重複させ向上させる。
これは若い頃から勇者と共に旅をし、様々な経験や行く先々の神殿での知識から導き出されたバリフェル独自論だ。
実際にバリフェル自身もこの<回復技能>を授かっていた。
例えば同じ魔力量を持ち回復魔法を使うのに、回復効果が明らかに高かったバリフェルは昔からどうしてなのか悩んでいた。
これは考察と実施を重ねて辿り着いた結論だ。
聖人と呼ばれる程の腕前を持つ回復魔法を使えるバリフェルが正しく導く事で、この<回復技能>がどう変化するのか。
また回復魔法の使い手と相性が良い<補助技能>skillに、既に<補助魔法>までも持つベルは、もしかしたら当代最高の回復魔法の使い手に育つ可能性が高いのだと説明してもらった。
流石は最高素材である魔王心核から生み出された魔導王【マリウス】製の使い魔。
羨ましすぎる才能の塊。
「ええっと、……ベルはどうしたいの」
「……リィザ様は私に残れとは言って下さらいのですか」
涙目で話すベルを見ると心がかなり騒ぐ。
美少女の姿だから尚更罪悪感に苛まれる。
ぐっと堪えて、口を開く。
「スッゲー寂しい気持ちを抑えて冷静に考えれたら……ベルさえ良ければ、俺はバリフェルにお願いしたいと思った。
聡明なベルなら俺の考えをお見通しだよ……ね」
実際にベルは俺の子供のような、妹のような存在になってしまっていた。
それを生まれてすぐ他所へホッポリ出すのは、親として最低な行為なのだとも思う。
しかし、俺にはベルの持つ多才な才能の内の1つ……いや2つである<回復技能>と<補助技能>を育て上げる事が出来ない。
いや高位術式である【叡知の魔導理論】があるから説明等は出来るが、実地で訓練してやれる事は出来ない。
それは補助魔法にしても同じこと。
最高の才能の前に凡人の俺がしてやれる事は、この才能を伸ばす事の出来る人材に託すことだけ。
それが目の前にいるのに、何を躊躇する事がある……いや、やはり躊躇するわ。
思考に感情がおいつけてないよ。
寂しいし誰にも渡したくない俺だけの使い魔だけど。
ここで俺が行くなと言えば、絶対にベルは行かない。
どっちにしても後悔はきっとする。でも、鬼に……鬼にならねばならぬ。
ぐむむと歯を噛み締め、考える。
無意識に尻尾がビターン、ビターンと激しく上下に揺れているがそれにも気が付かない。
それに、勇者の時に導いてくれたバリフェルを信じて送り出したい気持ちもあるのだ。
最上の好条件である今を逃す手は……あ、いな、ない。
これらの事を絞り出すようにベルへと伝えると、彼女も俯きながら聞いてくれていた。
静まり返った深夜に余りにも痛い静寂。
やがてベルが小さな口を開いた。
「例えリィザ様のお望みでも、私個人としては離れがたいご主人様を前に、それはお聞き入れ出来ません」
絞り出す声で告げられた。
「そうか、ベルの意思は解ったよ」
不安と期待をごちゃまぜにした心情は複雑に絡み合う。
ベルの同行を断ろうとバリフェルとシーの側を向くと、何故か笑いを堪えている表情の2人が見えた。
何故かと思った瞬間。
「しかし」
と、ベルの声が続く。
「リィザ様がそこまで望まれるのであれば別です。これは大きな貸し一……ですわよ」
と、泣き笑いを隠すような笑みを浮かべたベルがそこにはいた。
俺は身を切られる思いで別れを済ませ、彼等を見送ったのだった。
こうしてベルはバリフェル達と共に旅立っていった。
後で知った事だったが、どうやらベルと俺は<心話>のようなfamiliar skill<同調>と、<記憶共有>によって少しの時間ならばどんな事をしているか解るらしい。
互いに望んで、許可を得られればだけれどもね。
それをベルから教えられた俺は、硝子のハートが砕け散った感覚を味わうと共に暖かな安堵の想いが胸を支配した。
それにしても思う。
ベル、ずるいよ。




