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初めての蜥蜴人 進化とボルデッカ大復活

とりあえず、地面に頭を付けたままの土下座マシーンと化したマンジュさんを宥めること一時間。

ようやく落ち着いて貰えたので、気になっていたボルデッカの状態を見に行くと伝えた俺とベル。

アイシャはマンジュさんに危険がないと判断した時点で呼び直し、紹介を済ませていた。


ラムセイダさんは先ほどからマンジュさんの話す内容に興味津々なご様子で、トークが弾んでいた。


「いや、ラムセイダ殿。このメナージュ大森林に住む者達がいようとは思いもしやせんでした」


「大森林の恵みはあれども、強い魔物が群れをなしていたり、竜が住まうとされる土地に居を構える人などはいませんものね」


「そこのアイシャお嬢ちゃんはダンピールだとか。

この大陸では非常に珍しい存在に加えてこの美しさ。そして聡明さ。

お父上として色々と心配が付きませんな」


「ふふふ、自慢の愛娘ですがまだまだ若輩者です。一般常識や錬金術の基礎と色々と教えていかねばいけない事もあって毎日が楽しいですよ」


うーん、同じおっさん(年齢)の筈なのにかたや美少年、かたやそのままおっさん…解せぬ。


















誰もいなくなった治療室に響く音。

ビィー、ビィーと繰り返しけたたましい音でアラーム音が鳴り響いた。





ボコッ…ボココッ…液体で満たされたフルカプセルに水泡が泡たつ。


中で眠っていた老いたリザードマンが目覚める。


そして覚醒と共に治療液体は繋がれていたチューブが回収していき、閉じられていたカプセルの扉のロックが外れて開いていく。


完全に開ききって露となるボルデッカ。

熱したカプセルを急速冷却液により周囲に蒸発した蒸気が上がり、うっすらとした影だけが見えた。



「あの状況から生き残る事が出来たのは…お前さんのお陰じゃぞ」




そう優しく右手へと話し掛けた。以前にはないその手には黒い刻印の痣があった。

そして、カプセルの中を覗いても、魔呪剣ヘイトは見当たら無い。最初からそんなものは無かったと言わんばかりに、すっかりと消えていた。


治療中のボルデッカは意識がない状態ではあったが、主人と認められた魔呪剣ヘイトと繋がりがあるために、魔呪剣に残っている意識に触れあう事が出来ていた。


遠い古の時代、度重なる魔王の出現した時代があった。

戦力を強化するために、当時の人族はあらゆる手段を試し、その一つの成果として暫定的だが人工的に精霊を造り出す秘術を産み出した。

しかし、人工精霊の誕生により、世界の均衡と疲弊は進み、歪んだ精霊を産み出した罰として、精霊の殆どは人族との親和性を失ったのは皮肉な結果となったのだが。




さて、人工精霊であるヘイトが当初産まれた存在意義は、人類を脅かす敵(魔王や魔物)との戦いだった。


産まれたばかりのヘイトは意志が殆ど存在していない。

純度の低い量産品の劣化精霊石に存在を埋め込まれ、対魔物武器として組み込まれて活用されていた。

それでも追い込まれている人類には有能な武器である。

ヘイトが宿った劣化精霊石は、装備する使い手の能力を僅かでも底上げさせる能力だった。


量産品とはいえ、性能においては只の鋼や鉄の武器とは違う。

選抜された優秀な使い手と共に戦場で戦い抜いていく。

最下級の人工精霊(ヘイト)は、魔物を倒す度に使い手の存在値の僅かなおこぼれを身に蓄えていく。


その度に毎回徐々に個を確立させ、無意識に存在固定させる為に自身のランクアップ図っていった。

ある時遂に劣化精霊石は初級精霊石へと純度を上げ、ヘイトも剣の初級精霊としての格を宿し、下級の魔剣と化した。


それからも数々の敵を倒してきたが、ある戦場で現れた強敵との戦いの最中、倒した魔物()により強力な呪いを負わされ、使い手もろとも呪われた。

それは対象が死ぬまでより敵に憎しみを持たれる強力な呪い。

戦場で重傷を負っていた使い手は、呪われなことにより、敵と戦い続け戦場で倒れた。


呪われた魔剣になったヘイトは味方により回収された。

だが、呪われた剣は次第の使い手を死地へと追いやり誰も生還しない曰く付きの武器と噂なり…事実使い手達は誰も戦場から帰れず、戦果をもたらすためにヘイトは回収のみされてきた。

いずれ命知らずな戦士はいなくなり、以降永い時を誰も扱いきれずに倉庫の肥やしとなっていく。


廃棄されなかったり潰されなかったのは、戦時において呪われていても下級魔剣は強力な武器だったからだ。

一般倉庫に置かれていたのも、少しでも多くの魔物を倒すために誰でも使えるなら使い、敵と呼ばれる存在と戦ってもらう為だった。


敵の侵攻から施設は遂に陥落し、半分を自爆させて破棄された。

そうして誰もが存在を忘れていった。

ヘイトは何百年と流れる時間を過ごす。


人工精霊として産まれ、初級の精霊まで成長したヘイトは自身の存在意義として欲していた。


優秀な剣の使い手に出会えることを。


そして、身を蝕む呪いに負けない精神力を宿す者を。


死なない優秀な使い手であることが上げられる。


その条件全てを満たしたボルデッカと出会わなければ…いずれ呪いの力で自我を保つことが困難になり、精霊力が崩れて魔呪剣ではなく呪剣として、災いを振り撒く精霊と変貌していた筈なのだから。













今回ボルデッカは強者(カトプレパス)相手に存分にそのチカラを振るった。


闇雲に正面から戦いを挑まず、群から離れた個体を一頭ずつ狩る。

罠を利用する、逃げ道を確保しておく等、手段を選ばず老練さも用いて3頭以上のカトプレパスを葬った。

無論、無傷とはいかなかったしカトプレパスの鋭角を受け損ねて抉られたり、魔呪剣が欠けたりもした。


4頭目以降は流石に群れから出る個体はいなかった。

最後には見付かり追われたが、それでも逃走中にカトプレパスの身体で一番堅い鋭角を切り捨て、また一頭倒す快挙を成し遂げた。

その際に深手を負ったが、何とか追手から逃げ延び、生き残れた。


カトプレパスは上位蜥蜴人同等以上の格を持つ魔物。

それを倒したボルデッカは、見事ヘイトを蝕む呪いを打ち破る程の存在値を与え、魔呪剣から下級魔剣へ。

下級精霊まで格をランクアップさせたのだった。


しかし、カトプレパスを討伐し逃げ延びたものの、深手を負ったボルデッカの容態は日に日に悪くなる一方。

施設まであと少しと言うところで、遂に倒れた。


ようやく認めた真の主。死なせたくない思いが絶望に沈むことを許さない。

魔呪剣から解放され、下級の剣の精霊へと導かれたヘイトは懸命にボルデッカの身体に自身の本体核となった下級精霊石を溶かし、精霊力をゆっくりと直に流し込む。。


死に瀕したボルデッカの身体が僅かに活性化する。

それでもまだ命を救うには奇跡が足りなかった。生命の火は徐々に灯火のように弱く消えていく。


そらでも諦めずにヘイトは弱っていく灯火に自らのチカラを溶かして注いだ。

奇跡を信じて。


そんな際に、偶然ラムセイダの警備ゴーレムに救助されたのは、本当に運が良かったとしか言えない。

出血量も多く、血の臭いを嗅ぎ付けた魔物にいつ襲われるかわからなかったのだから。


その後救助され無事にフルカプセルへと入ったボルデッカとヘイト。

ヘイトの核となった下級精霊石の精霊力を身に宿していたボルデッカは、意識の深層下で混じり、より繋がった。

それだけ自身(ヘイト)を形成する精霊力を分け与えたのだ。もう自身はこの世界に維持するだけの存在感は保てないだろうと直感していた。


それでも永い間蝕まれた呪いを解き、自我を持てるほどの精霊として存在出来たことに後悔などなく、それを成し遂げてくれたボルデッカが助かるのならば感謝しかなかった。


このままボルデッカの流れる血の鉄分を吸収し、今度は自らの魔剣(からだ)を僅かに溶かしつつ、肉体へと融合させていく。


魔力と精霊力。還元された呪いは存在値を吸収して進化する。

そのチカラはボルデッカの肉体には異物として認識され抵抗を受けたり、時に破壊されるもその殆どが適合する。


ボルデッカが持つ上位蜥蜴人を超えた進化する資質を有していた事も適応できた条件だった。


魔呪剣からの解放され、曖昧な存在から子供のような自我が芽生えた新たなヘイト。


本来ならばあり得ない超常現象の全てが同時に重なりあった奇跡が、希望を生んだ。


(ゼッタイニ、タスケル…)


そう誓い、ヘイトは最期まで懸命に尽くした。

その誓いの記憶を、目覚めたボルデッカは感謝と共に祈る。


(有り難うよヘイト。お主の命、大切に使わせて貰う)





蒸気が晴れた後は、まごうことなきボルデッカの筈なのだが、上位蜥蜴人・剛鱗種から更に進化した姿がそこにあった。


丁度アラーム音を聞いて駆けてきたベルと共に到着した俺は、ボルデッカの新しい姿に絶句しながら見つめるのだった。







リザードマンは下位蜥蜴人に生まれ、一生そのままの者もいるが殆どの者達は蜥蜴人へと進化していくのが一般例だ。

そこから天才と呼ばれる程の資質のあるリザードマンは、蜥蜴人の上位存在である上位蜥蜴人へと進化するとされる。



そこから更に上の進化がある。

100年に1人出るか出ないか…それだけ進化出来る者がいないとされる進化を、リザードマン達は覚醒進化と呼んでいる。


実際に白鱗の氏族では過去、上位蜥蜴人の先へ進化出来たリザードマンは殆どいない。


白鱗の英雄たるリザードマンのみがそれに当たるとされ、代々伝承として伝えられてきたのだった。







俺は個人としての考え方は、恐らく上位蜥蜴人を越える条件として、○○種のような存在で無ければ超えられないと…推測する。


理由としてはステータスカードを使って初めてボルデッカを見たときは、既に上位蜥蜴人の段階で剛鱗種と記されていた。

ただ、どの段階で只の上位蜥蜴人及び上位蜥蜴人の○種と別れるのか?

もっと早い段階…シディアンさんのように下位蜥蜴人に現れている者もいるのでこれはまだ情報不足だね。




進化した。ハッキリとそう考えるボルデッカは違う。

改めてボルデッカを見ると、以前の上位蜥蜴人・剛麟種との違いが如実に現れている。


まずは姿。全身が列なる大きな鱗…甲鱗に覆われていた。

また年齢と共に色褪せた鱗や、戦闘で傷付いた鱗は見当たらない。一度再再生でもしたのだろうか?


そして全身は上位蜥蜴人の時よりも細身だ。

しかしそれは痩せた訳でも無く、より筋肉が凝縮し引き締まった屈強な肉体に思えるほど存在感が違う。


尻尾の躍動感も増して格段に以前より肉体性能は上がっていると実感出来た。


次に種族。

ステータスで確認してみよう。





name 【ボルデッカ】


天位蜥蜴人・亜種 Lv1


super Rare skill

〈リザードマン流:闘剣術→New(剣の匠、リザードマン剣術【極】と統合skill)〉

〈六之武王の末裔〉→(蜥蜴人・亜種覚醒skill)

Rare skill

〈武の境地:→New(戦闘才覚rank up)〉〈身体能力強化【中級】→【上級】へとrank up〉

〈止水の心:→New(水鏡の開眼)rank up〉

〈戦闘指揮【小】→カリスマ指揮【中】へとrank up〉

〈魔力適合〉 New〈反応速度上昇〉New 〈六甲鱗〉New〈超回復〉New [呪い耐性]New


normal skill

〈半水棲〉〈痛覚鈍麻〉New



称号

魔呪剣(ヘイト)の解放者 New→(呪印譲渡)

剣の精霊の認めし者 new→(闘剣術の統合補正)

闘剣の使い手 New→(闘術派生)

先祖返り New→(血統保有者)

百人斬り→(戦士の資質補正)




【呪印譲渡】→魔呪剣だった頃のヘイトの特性付与(敵意を感知。攻撃した相手の敵意を一辺に受け止める)


ヘイトは身を削ってボルデッカにチカラを与えた為、魔呪剣も体内で融合された。


ヘイト自身は力を使い果たした事で括りから解放され、剣の下級精霊として世界に還った。




「ほう!!リィザのステータスカードとやら、やはり便利よの。

儂の種族は天位蜥蜴人と言うのか…カカッ、この年でまさか伝承にある上位の壁を破れるとはの」


これはバージョンアップ?したステータスカードのお陰でさー。

以前より詳しく表示が出来るようになった見たい。



「爺ちゃん…怪我大丈夫なの?」


「うむ、流石に死を覚悟した場面もあったが、何処も不具合ない」


ニカッと笑う顔にやっと安心させられた。

この人は生まれてからずっと俺達を慈しみ、見守ってきてくれた人だ。


言わなくてはいけないことがある。


「お帰り、爺ちゃん」


「うむ、ちょっとばかり心配させたの」


そう朗らかに笑うボルデッカ。


その姿に頬が濡れている事に気付いた。

自分の人生で大切な誰かが失ってしまう恐ろしさ、悲しみが。

自然と涙が伝う。

生きていてくれた事実を噛み締め、思わず抱き付く俺だった。


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