初めての蜥蜴人 マンジュの秘密とエンシェント・ウェポンとのお話
グランドコンドル・異形種の巣穴から珍品を引っ提げてアイシャ達の待つ拠点へと戻った俺達。
喜んで出迎えてくれたアイシャとラムセイダさんに巣穴で拾った珍品の説明と、人間達が大森林へと入り込んでいた事を説明した。
驚いたものの直ぐに状況を理解したラムセイダさん。
それと俺達が転移で巣穴に戻っていった頃と入れ違いでボルデッカが戻ってきていた事を話してくれた。
しかし、無事に戻ってきた訳では無かった。
ボルデッカを最初発見したのは周辺を警戒する警備ゴーレム達。
身体の至るところに抉られた痕、身に付けていた防具もなく裸同然の姿は痛々しいばかり。
逞しい肉体を守る丈夫な鱗も激しく傷ついていた。
傷のない場所がないほどの満身創痍の状態に普通の者ならば息を飲む場面だ。
捻れた左腕や飛び出ているあばら骨などから、複数の骨も折れているに違いないとの見立だった。
右手に剣身が少し欠けてボロボロな魔呪剣ヘイトを手に、俯せで血だらけのまま、倒れ込んでいた所を警備ゴーレムが正規の入り口付近で発見。
恐らくはそこで力尽きたのかも知れない。
ボルデッカは生体登録してあった為に警備ゴーレムは要人と判断。
しかも生命反応が僅かしか感じ取れないボルデッカ。
優先順位を上げてラムセイダさんの前に運んできてくれたそうなのだ。
そのまま直ぐに治療室へと運び込む。
診察した結果、息はしているが呼吸は弱く意識のない。身体は何とか生にしがみつき、死ぬ一歩手前。
至急治療を要する状態と判断し、身体に薬用ポーションを振りかけつつある場所へと急ぐ。
この施設でも非常に重要な治療液の詰まった大型治療装置へ、放り込んだそうな。
運んでる最中、呪魔剣ヘイトを手から離そうとしたが、外れなかったので剣も一緒だ。
現在はカプセル内は血だらけで濁っていて全く中は見えない。
怪我の具合から、非常に激しいカトプレパスとの死闘を演じたのだと解る。
ボルデッカ爺ちゃんの様子にも驚いたけど…魔法的な近未来の治療装置見たいの、この剣と魔法のファンタジーな世界にあったんだね。
SF映画などや、漫画などの現代知識として何となく知ってる。
俺のポカンとした表情を、ボルデッカの心配だと勘違いしたままラムセイダさんは喋る。
「いや、ボルデッカ殿の状態を見てビックリしたよ。
常人ならとっくに亡くなっていても不思議じゃないからね。
…でも大丈夫。
あの装置は私も以前実験の為に入ったんだ。
治療装置に入れば四肢の欠損でもない限り大抵の怪我は治るから。
それに液体の中なのに不思議と息も出来るし…息苦しいことはないのさ。
あと、重傷のボルデッカ殿が治るにはどのくらい期間がかかるかは予測も出来ない。
まあ、ここまでして逆に治らないなら現状どうにも出来ないし」
そう言って心配そうな俺をラムセイダさんなりに励まし??てくれていた。
このフルカプセル・メディカルタイプの治療装置はまだまだ実働・稼働出来て欠陥もないそうなのだが、いかんせん治療に使われている不思議な液体は有限らしく…ラムセイダさんの錬金術でも新たに作り出せない。
つまり代えのきかない超が付く貴重な液体だった。
「娘の恩人の身内に使うのだから、これくらいはさせて貰うよ。
それに、不思議な治療液体に使われている物質の何個かは素材の検討がついている。
今後、更に成分を分析していつか私でも作れるようにするつもりだよ」
研究している最中なのだと明かしてくれた。
「わかりました。本当に爺ちゃんの為に有り難うございます」
ボルデッカの爺ちゃんが酷い怪我だったとしても生きて戻り、助かるために治療を受けさせて貰っている。
まずはこの事を喜ぶべきだよね。
もし無事に怪我が治ったら、流石に一度里へと変えるべきだよね。
爺ちゃんなら〈転移〉を見せても問題はなさそう。
ボルデッカの保護と治療のお礼に、巣穴にあったグランドコンドル・異形種の巨大な卵を1つ進呈させて貰った。
ポンッと取り出す様子にビックリした様子だったラムセイダさんは、この巨卵があのグランドコンドル・異形種のモノだと聞いて非常に天才的な表情で目が煌めいていた。
早速ゴーレム達に運ばせ、今からどうしてくれようかとホクホク顔のラムセイダさん。
きっと脳内では色々な使用方法が駆け巡っているに違いない。
此れもかなりの貴重品だし、釣り合いはとれると思われます!!
巨卵を手放した事は全く惜しくはない。
幸いあと1つあるし俺には良い使い道がわかんないしなぁ…最終的に何も使い道が思い無ければ、超贅沢な巨大卵焼きでも作ってみますかね??
▼
そんなこんなで一段落。
次の話は、巣穴で見付けたオルグフェン王国の兵士の死体と老剣士の話となる。
この大森林奥深くに王国兵士達が一体何をしに来たのか?
どの死体も何か巨大な力によって引き裂かれている。老剣士の胸に穴あいた致命傷は何かに抉られていた。
これから解る情報は非常に少ない。
そんな俺の話を注意深く聞いていたラムセイダさんは、老剣士の装備が魔力を帯びていると言う話になると、実際に見せてくれないか?とお願いされた。
別に構わないので〈時空間収納扉〉から装備のみをポンッと出す。
ラムセイダさんはざっと見聞したのち、1つの魔剣に目を留め、手に取る。
「まさか…このように素晴らしい造形美がこの世にあろうか。
正に拝める為の美術品としての価値も高い古代文明の遺物産だよ。
かの古代の代物を手に触れる日がこようとは。
魔剣の構造と施してある紋様からして、かの魔導王の時代の産物に間違いないだろうね」
万感の籠った一言は感動に溢れていた。
「えっと聞きなれないんですけど、古代文明遺物って…何なんです?
迷宮産の魔法武器見たいなものですかね?」
思わず聞き返すと、ラムセイダさんは剣に目を留めたまま説明してくれた。
「リィザ君、この剣は魔剣と中でも珍しい種類だよ。
その殆どは古代遺跡から発掘・発見される事が多く、その多くは古代人の手によって作られていた。驚くべき事だよね!!?」
魔剣とは属性魔力を有した剣の総称である。
斧であれば魔斧、杖であれば魔杖と分類が別れ、skillを宿したモノや特有のアビリティ、様々な魔法が込められている。
常時魔力を宿しているため、使い手が魔法や魔力を有さなくとも武具に込められた魔力を解放することで限定的な使用が可能となる。
魔力を有した武具は宝具級からとされ、大概は等級が上がるにつれて貴重な魔法や上位skillなどアビリティに優れた品が多い。
そう説明を加えるラムセイダさんの口調は興奮し、熱くなるばかりだ。
「更に古代遺跡で発掘される品の中でも格別な代物があるのさ。
それは、失われし秘術【無と有の極致と融合】をコンセプトに、魔導王と呼ばれた当時最高の魔法使い達が最上級の魔法や叡知の込められた限られた最高傑作品を…畏敬を込めてエンシェント・ウェポンと呼ぶんだ」
この魔剣自体は…魔力素材と構造からしても宝具級~良くて魔導級辺りと検討がつく。
それより後の時代で作られた凡用性術式武具もその一種だけれども、結局は宝具級の域を出ない。
また当時は戦場で散った魔法使いの不足と、魔力の乏しい平民を兵士として戦力増強させるために開発されていた凡用術式武具は、実に都合の良い武具だった。
装備者が僅かなりとも最低限の魔力が求められることが上げられるが…知識の欠片と術式を集め、新たな形とす。
その為に如何に低コストで運用するか、どうその時代に活かすのか考え抜かれた画期的な開発だったに違いない。
おかけで現代において凡用術式武具は、魔法使いが極端に減ったこの時代において大いにチカラとなっているかねぇ。
さてさて、エンシェント・ウェポンにおいては英雄級の等級の武具が基になっているとされているんだよ。
その触媒となった英雄級を其々の魔導王が独自の【無と有の極致と融合】理論を用いて独自に性能を引き出し、最適化させた規格外品…そして持ち主を選ぶと噂される唯一無二の傑作品。
その条件に当てはまる総称がエンシェント・ウェポンと呼ばれているんだ。
何せ【無と有の極致と融合】理論は具体的な資料が見付かっていない。
資料がない訳は、完全に魔導王の頭の中で構成・構築された独自理論だった…と推測される。
その根拠を裏付けるように後世には全く伝わってない。
推測や予測は立てられるけれども、この解明者の称号を持つ僕でさえ完璧に解き明かせていないんだ。
実は、【魔導王】と呼ばれた最高の魔法使いはこの独自の分野での理論を完成させた超越者達が呼ばれた名称とも言われているらしいね。
勿論、ベルちゃん誕生のキッカケとなった魔導王マリウス・クレイマンもそうさ。
彼は【使い魔】などの専門だったみたいだけど。
そう話している俺とラムセイダさんは熱中していて、ベルが誰にも聞こえない声で喋った事について気が付かなかった。
「そうですね…マリウス様は他の魔導王の中でも突き抜けた方でありました。
私の主となられたリィザ様。
魔導王マリウス様より認められし正統な〈魔杖器〉の後継者。
終焉の煌めきを司る《レーヴァティン・グロウケウス》を託されし御方。
御身のチカラを高め、全ての能力を解放して下さいませ。
さすれば、あの大戦を生き残り、マリウス様亡き後も城を守り続けているお兄様方やお姉様方[シングル・ナンバーズ]から、いずれ直接ご招待される事もありましょう」
片隅で美しい姿勢を保持したまま見守り、そう静かに微笑むのだった。
そんなベルの呟きも聞こえず、話は続いていた。
実はエンシェント・ウェポン以外でも【無と有の極致と融合】理論は使われているんだよ。
それは貴重なskillを特別な書に封印したり、神の力をお借りて製作された強力過ぎるマジックアイテム等と…。
それ故、魔導王と言えども簡単には行えず、何十日もかけた魔法儀式を行ったり、貴重な素材を湯水の如く使ったりと…それでも失敗例もあったようだよ?
非常に貴重品な為に今現存しているエンシェント・ウェポンやそれに該当する特別な力を有する書物は、全て大国が買い取り、各国々で厳重管理している。
禁書やアイテムの他に確か…一般には知られてないけどエンシェント・ウェポンの武具に関してはオルグフェン王国に1つあったはず。
【魔法王】の2つ名の勇者メイと仲間達が人類未踏破領域にあった古代遺跡を攻略し、最下層にて高位守護者と思われる存在を犠牲を出しながらも死闘の末に倒した。
何故戦った存在が守護者ではなく、高位守護者として思われ、扱われるのか?
彼女達は過去2回ほど守護者と戦い、打ち勝っているからだ。それにより新しい領地と莫大な富を得たオルグフェン王国は、大国の仲間入りと果たしたとされる。
その勇者メイにしても、高位守護者の戦闘に勝てたものの勇者へ復帰出来ないほどのダメージを負い、代償として魔力が回復せず魔法すら一切使えなくなったとされた。
その高位守護者を撃破した際に入手した武器をオルグフェンへと持ち帰り、献上した。
それこそが人類にとって【エンシェント・ウェポン】と呼ばれる存在の発見と始まりとされた。
その武器はオルグフェン王国の象徴として、王を守る最強の魔法使い【宮廷魔術師長】が代々引き継ぐ。
いや、その武器に認められた者が【宮廷魔術師長】になると一部の者達の専らの噂だったりする。
あぁ、未知の知識の一端の解明の為にも…分解したくてしたくて堪らなくなる…って、ラムセイダさん。
そんな物欲しそうな…もとい、切なそうな瞳を俺に向けないで下さいまし。
うん…改めて俺ってば超ヤバい代物をオルグフェンから持ってきていたのね~~なら、使魔創造もエンシェント・ウェポン級のお宝だったんじゃない?
はっ、ざまぁ(笑)
そして本来有り得ない【英雄級】を超えた終焉の煌魔杖【反逆英雄級】の存在…何となく見えた気がする。
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気持ちもスッキリしたところで兎も角、最上級のエンシェント・ウェポン等は入手が非常に困難かつ貴重品。
現代でも良くわかっていない事が多い。
実はこの施設自体も、発見当初から半壊していたが古代遺跡と似たような役割を果たしている事から(タイラント・ゴーレムが守護者の役割を担う?)、この大森林には他にもあるのではなかろうか?
等の可能性を含ませた考察を踏まえ、熱く語り合う。
因みに〈時空間収納扉〉で判明した剣の名称【魔導剣ダイダロス】や他の武具の名前をラムセイダさんに教えた。
ダイダロスの名前を聞いた瞬間、ラムセイダさんは子供のように純真な瞳で更に興奮して顔が真っ赤になってしまった。
【魔導剣の由来~ダイダロス~】
ダイダロスとは古代文明時代の有名な鍛冶職人の1人。
それに術式開発や魔導考古学にも通じていた研究者でもあった。
そのため、一癖二癖もある一風変わった職人だったそうだが、彼の作る作品は優れたモノが多く後の時代の基礎となった。
その中でも彼自身の名を付けた【ダイダロス】と呼ばれる武具類は後に通称【ダイダロス・シリーズ】と呼ばれていた。
1番有名なのは、後に〈剣王〉と呼ばれる凄腕の剣使いに成長する者の為に打った魔剣の一振りの物語。
当時魔剣を入手する為には迷宮内を探索して宝箱から手に入れるか、王公貴族並のコネを使って超一流の鍛冶職人にしか作成出来なかった。
若き日の〈剣王〉は、幸運な事に縁あってダイダロスの出会う。
〈剣王〉の実直かつ誠実な人柄を気に入られ、彼が求める魔剣を一振り打つこととなった。
鋼よりも硬く、魔力伝導率の高い魔法金属で作られた魔剣。
等級は宝具級でありながら、本来ならもっと等級が高い武具に付与されている貴重なskill〈剣技成長:小〉のアビリティが付与されていた。
魔法が使えない〈剣王〉となる若者は、素養が有りすぎた為に並の鋼の長剣程度では魔物を切り捨てて行く内に磨耗に耐えきれず、折れてしまう事が多かった。それだけ使い方が激しいからでもある。
それに敵には魔法のチカラしか通じない、もしくは魔力じゃないとダメージを与えられない敵もいる。
この剣ならば常時魔力が込められており、耐久性も高い魔剣は喉から手が出るほど渇望していた貴重な代物なのである。
ダイダロスから贈られた魔剣を胸に抱きしめ、非常に喜んだと伝えられている。
『この時代、お前のような者は稀だ。
今後、今以上に強力な魔剣が必要なら俺に言え。
俺を満足させるくらいの素材を集めてこりゃあ、いくらでも作ってやるからよ』
若者が〈剣王〉と呼ばれるまでに数多くの敵を葬り、度重なる激戦をくぐり抜けても決して剣身が折れる事はなかった。
遂に〈剣王〉と呼ばれる程に、比類なき剣の腕前と技術を身につけた。
しかし、これより先の戦いで出現するであろう強大な敵に立ち向かう際、この贈られた魔剣では些かの力不足を感じ取っていた。
ふと、ダイダロスが以前声掛けてくれた言葉を思いだし、その事をダイダロスに打ち明けた。
再会した二人はじっくりと相談した結果、〈剣王〉は長年愛用してきた魔剣をダイダロスへと返却した。
それからダイダロスが〈剣王〉が希望する新たな魔剣の材料として必要な素材を集めさせて完成した剣は、自他共に〈剣王〉の魔剣に相応しいと称された。
そうして新たな脅威へと立ち向かっていったとされる。
この後日談として、返却された魔剣は鍛冶職人ダイダロスが丹念に精製し、特別な方法で強化して戦の神を奉る神殿へと奉納した。
その際に魔剣に宿っていた剣の魂が精霊へと昇華したとされる。
こうしてこの魔剣の使い手達は、各時代において非凡な剣の使い手として様々な活躍を残す事となる。
それは、かの〈剣王〉の技を伝える【魔導剣ダイダロス】として生まれ変わった…のだと、人々からまことしやかに噂された。
そんな不思議な物語が作られるほど、鍛冶職人ダイダロスが作り上げた作品は完成度が高い。
それらの武具は一様に特別な力を宿し、装備者を高みへと導いたとされる。
ダイダロスの作品は人々からは魔の脅威を取り除き、導くイメージが強い。
敬意を込められて魔導の名を冠とした【ダイダロス・シリーズ】と呼ばれ始めたのだ。
「効率良く流れる魔力に精霊の宿るコア、実に計算し尽くされた完成美…恐らくこれは本物の【魔導剣ダイダロス】に違いないよ!」
まだまだ話をしたい様子だけれども、時間が足りないしこの辺りにしておいて貰った。
「分解すれば知の一端が…」と、非常に不安な一言と共に名残惜しそうに剣から手を離していた。
そうやって色々話して解っていくと、今の時代は古代文明自体よりかなり衰退した時代なのだと改めて実感。
その優れた古代文明すら殆ど灰塵に化した魔王達って、どんだけ破壊神やねん!!
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そうして次に拾った珍品の事になった。
空いてる部屋の寝台に寝かせているが、イビキを小さくかきつつ、この状況でも見事に起きやしねぇ。
因みに起き出した途端、寝ているおっさんが暴れる(オルグフェン王国など周辺の人族は他種族を偏見で見る存在が多いため)等の危険を考慮し、アイシャにはボルデッカの入った治療装置を見守って貰っている。
治療が完了するか、もしくは途中で死んだりしたらアラームがなるそうな!!
…うん、どちらにしてもアラーム音がなれば心臓に悪そうだ。
しげしげと寝いるおっさんを見やる俺とベル、ラムセイダさん。
「いや、しかしこの人間は珍しい格好だね。重ねて着る服の習慣なんてこの大陸にいたかな。
少なくとも私は見たことがないよ」
「本当、変わったお召し物ですね、
それに相当お強いとお見受けします。
旅人にしてもあの巣穴にいる時から怪我1つもない様子でしたし」
「何のために彼処にいたんだろ?」
俺達の疑問は尽きない。しかし、唐突にその疑問は終止符をうった。
寝ているおっさんから凄まじい唸り声が聞こえたからだ。
グォゥゥゥルルル!!
まるで餓えた獸のような大きな唸り声が響いたかと思うと、パチッと目を開けた。
突然の事に咄嗟に警戒体制をとる俺達。
しかし、そんなモノを気にしないのかキョロキョロと辺りを見渡し、がしゃがしゃと頭を掻き始めた。
そして申し訳なさそうな表情を浮かべて一言。
「ハハハ、申し訳ねぇんですが何か食べ物を恵んでくれねぇでしょうかい?」
綺麗な発音で腹を擦りながらそう言ったのだった。
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目の前には食欲を刺激する良い香りを放つ食べ物。
コショウと塩で味付けされた猪肉のビックステーキー、鳥の魔物肉のサラダ巻き、澄みきった黄金色の具沢山スープが小山のように盛られている。
それが瞬く間にがつがつと腹におさめていく気持ちの良い喰いっぷり!
全てを食べ終わり、ようやく一段落終えたのか、小山のようにあった料理に満足そうな笑みを浮かべたおっさんは、テーブルに手と頭を付けた。
「いやぁ、美味い飯をご馳走になりやした。誠に感謝しております」
「いやいや、見事な食べっぷりでしたね。満足して頂けたのなら良かったです」
「ここへ来たのは、このメナージュ大森林に用事がありましてね。
いやぁ、お恥ずかしい事にその用事が予想を超えた事になってましてなぁ…用事が無事解決出来たのは良いものの、トラブルが重なって更に3日ほど飲まず喰わずとウロウロしてたら、不覚にも帰り道にも迷っちゃいましてねぇ」
照れ笑いを浮かべながら、事情を話していくおっさんは、名をマンジュと名乗った。
「それで何やら食べ物を探してウロウロとしている内に、空からおっきな鳥の魔物にうっかり掴まれましてね。
こりゃあご飯が丁度良く来たと思いまして。
そのままそよ風にユラユラと運ばれるままにしてたら眠気に負けて寝ちまいましなぁ。
で、そのまま此処で助けて頂くまで寝ておりましたのよぅ」
おお、皆呆れ顔。何というスケールの大きな話だよ、其れ…。
信じられるかどうかはまた別問題としても、嘘は言ってる雰囲気は微塵もないよなぁ。
本当にそのまま素直に言ってる感じにしか見えない。
「…マンジュさんとおっしゃいましたか?
私はベルと申します。此方におられる方は私の主たるリィザ様。そして、隣の方はこの場の責任者のラムセイダさんです。
それは兎も角、マンジュさんのご用事とは何だったのですか?差し支えなければ教えて頂く事は出来ませんか」
「おっ、それは俺も聞きたいです」
「おお、助けて頂いたのは貴殿達だった。感謝を伝えるのが遅れて誠に申し訳ない。
有り難うございます。
………そうですなぁ、助けて頂いたのも縁でございましょうや。何の面白味のない話ですが聞いて頂きやしょう」
そう言ってマンジュは佇まいを直して、ポツリポツリと話始めた。
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【大森林でのマンジュの経緯】
クレフトの町より大森林へと入り、徒歩にて歩くこと半日。
魔物を置き去りにする程、凄まじいスピードで森を駆け抜けて目的の場所を目指す。
ようやく着いた場所は、巨大な沼地のある湿地帯であった。
可笑しい…目指す場所は沼地でなくて古代遺跡だった筈なのだが?と、首をかしげているマンジュ。
以前来た時はこんな場所など無かった筈だった。
昔の事ゆえ何ともうろ覚えだったが、やはり、こんな沼地はなかった筈だ。
しかし、マンジュはこの場所で間違いないと確信出来ていた。
それは彼だけが持つskillがここで間違いないと教えてくれていたからだ。
確かな存在値が、この大沼地の下から脈動を放っている。
しかも、とても強い生物の反応も伴って…。
何せマンジュは遥か昔、この大森林の未踏破の一画であった守護者を倒し、存在値の詰まった巨大結晶へと変えたのだから。
(回収するのが大分遅くなってしまったから完全に純粋なモノに変換している筈だと思っていやしたが…この反応はおかしいでしょうや)
巨大結晶化していれば、高すぎる存在値の塊と化した高水準の濃度エネルギーが放たれている。
それは生物にとっては有害で本能的に周りに近寄れないし、仮に近寄れたとしても次第に生体細胞が過剰な存在値を感じとり、自己崩壊を起こす。
似たような話にマンジュの住んでいた故郷にあるお話をぼんやりと思い出した。
殆ど覚えてないが…確か九尾の狐と言われ魔人が変化したとされる絶世の美女がいた。
その美しさは国を傾ける程で、王様は彼女に惚れ込んでしまい、望むがままに非道な行いと贅沢をし、国は大いに荒れたという。
その脅威から討伐されて殺生石となり、辺り一帯を近づけない程の毒気を放ち、生物の住めない土地と化した…などの逸話とされる程の有名なお話だった。
そんな状態にあるはずなのに…多数の生命反応がある。
訝しげに待っていると、大沼地から沼蛙と呼ばれる魔物が大量にマンジュ向けて殺到してきた。
様子を見ながら、迫る沼蛙を叩き伏せ、撃退を繰り返す。
しかし沼蛙達はどんどん増え続け、総数200を超えた当たりからマンジュも数える事を止めた。
こんな魔物達の異常行動は何故起こったかはハッキリ解らない。
「まぁ、難しく考えずにシンプルにいつも通り行きやしょうか?」
そう笑うと、元凶たる大沼地に単身飛び込んだ。
それからそれからバッタバッタと現れる沼蛙達を片っ端から錫杖で薙ぎ倒す。
途中息継ぎに水面まで上がり、腹が減れば沼蛙を生で喰い、疲労すれば途中蛙をskillで結晶化させた存在値を貪った。
水底では、化け物蛙と呼ぶに相応しい異形が待ち構えていた。
全長10メートルもの巨大な身体の登頂には目が8つの蛙顔。
ガバッと目の近くまで開く巨大な口は、一度掴まえられた2度と逃れることの出来ないほどひと呑みにされると確実に想像出来る。
身体は鰻のようにうねり、尻尾の先には矛のような長く鋭利な目と牙の生えた顔がもう1つある。
その巨大な腹には金色と黒色に輝く大きな結晶がへばりついている。
間違いない。
当初より小さくなっているが、アレはマンジュの目的のブツだった。
(こりゃあ…2色とは珍しい。内包する存在値も単一のものよりも上質。内包した存在値は高まり合う相乗効果で上々上々)
予想以上の出来に、にんまりと嬉しくなる。
さあ、ここまで美味しく育ったのだ。合掌して、頂きましょうや!
錫杖を手にマンジュは戦う。
全長10mの相手と成人男性。
端から見れば、一瞬で決着する無謀すぎる挑戦に思えよう。
化け物蛙の1枚舌は4つに分裂する。
そして粘着力の高い唾液を舌へと絡ませ、一度くっついたモノを決して逃さず口元まで瞬時に運ぶ。
両腕には細長く尖った毒爪。
正面の8つの目があり、尾の先にも顔がある奇形種。
尾の2つの目も駆使して死角からの攻撃を許さない。
水中で蠢く巨体は大きな水流を操り、敵対者の身動きを制限させた。
背からはトゲが生え、両足は巨大なヒレと化していた。
腹には蠢く何百の卵がびっしりとついている。
卵を時に孵化させて弾丸おたまじゃくしとして、自動追尾遠距離攻撃。
時折、尻尾の先顔の口から放たれる青い毒液は水中に分散され激痛と体調不良を伴わさせる。
膨大な筋肉に覆われた巨体は攻防一体を兼ね、生半可な物理攻撃や魔法攻撃程度では傷付かず、逆に近付き過ぎた代償としての体当たりを喰らっただけでも容易に死ねる。
おたまじゃくしになりかけの蛙を想像…それ、どこの怪獣?ってのが初見の感想。
などなど、守護者級の敵を相手に果敢に立ち回ったマンジュ。
これまで培った膨大な戦闘経験、修業によって自身の持てるチカラ、skillを満遍なく使いこなす。
錫杖を操ってたった1人終わりの見えてこない激闘を繰り広げた。
そうやって慣れぬ水中戦をこなしながら丸々1日…何とか倒したマンジュは予定よりも小さくなったが、高濃度の存在値を固めた2色に輝く大結晶を回収することが出来た。
(うむ、これだけ在れば一気に進む…彼女の喜ぶ顔が目に浮かぶのは嬉しいですなぁ)
マンジュの特異かつオンリーワンなskillの1つで、倒す事で自らに入る存在値を砂糖のように食べられるモノヘと変化することが出来た。
倒す相手が強ければ強いほど、出来上がる結晶は色鮮やかに美しく、天上の甘露のように甘味も増す。
そしてその結晶はマンジュ以外には使用出来ない。
だけれども、マンジュが認めた者にだけ食べる事が出来る。
稼いだ存在値を他者へと譲り渡す事が出来るため、絶対に明かせぬ秘密だった。
余韻に浸っていたマンジュは大沼地の泥底で、ふと何かを見付けた。
朧気だが、あの化け蛙がいた場所に何かの物質があるのが見えた。
(こいつぁ…あの化け蛙の体内にでもあった奴ですかなぁ??)
不思議な物体を手に入れたマンジュだった。
現代では一般的に知られていない事だが、守護者とは魔導学における産物である。
古代の錬金術師などや魔法使いによる古代文明の粋が集まって造られた上位の生命・無機物・契約生物であると定義される。
大概は魔法生物で寿命の概念のないゴーレム等や特殊なスライム、長命の生物や魔物と言った場合もある。
その場合は未踏破領域の中にある建造物。
特に宝物庫などの前の大広間などに配置されている事が多く、報酬は倒した守護者の素体と膨大な存在値。
守護者によって守られていた大広間奥に納められた手付かずの宝の山の価値は、国が3度滅んでもお釣りがくると言い伝えられている程だ。
その噂を信じ、歴史上初めて人類未踏破領域を守る守護者に戦いを挑んだ国があった。
運良く国内に現れた迷宮を1つ管理し、人材、資源を共に急激な成長を遂げた国ザンスルー。
その国の国境沿いには、誰も踏み入れたことない未踏破領域があった。
正確には踏み入れても誰も帰ってこなかった…だったが。
そこは豊富な鉱物資源と水、緑豊かな広大なる肥沃な土地。
誰もそこを支配出来ないのは、既にそこを支配する強大な存在がいたから。
ザンスルー王国が興る前に存在しており、初代国王の遺言から代々の王は絶対に手を出してはならぬ土地だと言い含められてきた。
支配している存在とは、翼の生えた竜型の守護者。
しかし、当時のザンスルー王は守護者が守っていると言われる膨大な宝物に目がくらんだ。
直ぐ隣に莫大な富がある…長年押さえてきた思いは膨らむばかり。
迷宮を得て、人材・装備品も質は揃っている…今やらずしているやるのか!と決意した国王は遂に初代王の遺言を破る決断をした。
国の期待を一新に背負い、兵士数千人が差し向けられたのだった。
…結果、激怒した守護者の苛烈な反撃よって兵士は勿論、全国民とザンスルー国もろとも滅ぼされたとされる。
その教訓から守護者相手に立ち向かうには数は関係ない。
勇者のような非常に強い個に優れた者達で無くては太刀打ち出来ないと認識された一件であった。
魔法全盛期の古代に【魔導王】と呼ばれた最高の魔法使い達が存在していた。
その彼等が最高の技術を用いて作り上げた特別な守護者は、より高位次元の存在として守護神と区別されて呼ばれた。
その強さは他の守護者を超越し、どれ程の戦力、また数多の英雄、魔法使い、更に勇者までをも屍へと変えてきた。
ある領域を守っていた守護神を勇者メイが倒すまで、実に有史以来不敗を誇る絶対的な存在だった。
守護神と呼ばれる存在は一様にエンシェント・ウェポンを有している。
エンシェント・ウェポン自体が守護神を構成する核であったり、格別な強化として使われていると考えられてきた。
どの優秀な研究者達が挑んでも未だに解明すらされていない【無と有の極致と融合】理論。
相反する事柄の事象を当時の魔導王達は独自に研究して解き明かす。
超越した存在として君臨し、最高の魔法使いとしての名誉がそこにあった。
そのため守護神は魔導王に付き従う最高最強の存在でもある。
契約した生物型も、造られた魔法生物も、エンシェント・ウェポンとの相性が良い素体のみが選別され、融合を可能としていたと思われる。
今もどこかの領域で魔導王の命令を守り、領域に踏み入れる者達を裁いてる。
▼
マンジュがskillを行使して倒した化け蛙も、例外なく存在値を含む結晶へと変化していった。
今回は一度出来上がった結晶を再固定した事もあり、それほど時間もかからずに結晶化することが可能だった。
あまりに存在値が膨大な相手だと結晶化するのに時間がかかってしまうのが難点だったが。
かつてこの地で倒したマコンティア・変異種は、マンジュを持ってしても苦戦した存在であり、完全な結晶化までかなりの時間がかかると思われた為に放置されていたのだ。
以前ら遺跡級の武具を有してマンジュを襲ってきた人間や、迷宮にて門番のように全身装備で身を固めた戦闘型ゴーレム等と戦った時もそのskillを使って倒してきた。
その時は遺跡級の武具を含めた人間もろとも存在値の結晶へと変わり、戦闘型ゴーレムも装備を含めて結晶化した。
対象の存在を変換して結晶化していくskillなのだから。例外等なかった。
今回も化け物蛙の全てが存在値へと一点凝縮のように変換され、結晶以外一切何も残らない筈だった…のだか。
何故か目の前には2色の美しい色の大結晶の他にナニカがあった。
恐らくは化け蛙を倒した時に腹にでも消化されずに残っていたモノか、それとも別のナニカなのか?
こんなことは初めてであり、興味深くはある。
広大な砂漠の中で金一粒を拾うくらい有り得ない、そんな奇跡的な確率で取り込めた例外的な魔物が今回戦った【化け蛙】。
そんな存在ならばそのような不思議な事もあるかと思い直し、泥で濁った水をかき分けながら、ソレを抱えて急いで浮上していく。
大沼地の主を失った沼蛙達は最早襲ってくる気配もなく、その場に呆然とした状態で全く動かなかった。
そうした過程を踏み、ラムセイダ達に先程話した内容と繋がる経緯をざっくり伝えた。
勿論、リィザ達にはマンジュしか使えないskillなどは秘密で大まかなことを伝えず、大森林へ来た目的は大沼地に住んでいる化け物蛙の討伐である事だけを伝えた。
かくしてマンジュが手に入れた不思議な物体とは?
それは見せて貰えたのだが…。
此って蛙の形した全身タイツやん!!かなり伸びる素材で何だかビニールっぽい。
半身ずつに金色と黒色別れていて見事にマッチしてて無駄にカッコいいじゃん!!!
情報が少なく今解ったのは名前(時空間収納扉で確認)とskill(ラムセイダさんの称号:解明者のチカラで判明)だけ。
フロッグスーツ 魔導級
【水中補正:大】
【敵性感知】
はしょりながらもこうして経緯を伝え終えたマンジュは、今更ながら白いリザードマンの子供が引きつった笑顔を浮かべている事に気付いた。
「…………マンジュさん」
「ん、何ですかい?」
「多分なんだけど、マンジュさんの目的地の大沼地ってもしかして蛙の魔物が一杯出てこなかった?」
「ええ、そうですとも。おやおやリィザ君も行ったことがあるんで?
彼処は子供だけで行くには些か危険な領域だから充分に気を付けるか、大人に着いてって貰った方が良いと思いますぞ」
危険な事はお止めになった方が良いと、忠告がてら心配そうにマンジュは戒める一言を伝える。
引きっていた俺の表情を怖さと勘違いしたのだろう。
「まあ、魔物を産み出していた沼地の主も倒しましたし、もう蛙型の魔物が住み着く危険も無いでしょうがね」
その言葉を聞き、更に俺の顔色は悪くなり、引きつっていく。
「そうですね…ご親切に有り難うございます。しかしですねぇ…恐らく何ですけどその大沼地、ウチの…正確には【白鱗の氏族】の所有する物件だと思われます」
「へっ?」
「あのオーグル沼地はウチの氏族の代々が守り、狩場としてきた場所なんです。
俺の一存では何とも言えないですが、流石にマンジュさん…見過ごせませんよ?」
一瞬で空白の間が辺りを支配した。
(つまり、大事な場所を荒らしてどうしてくれんじゃいって事ですかい)
ようやくマンジュ脳が俺の言っている意味を理解したその時、
「Oh!NO!!!!!!!」
マンジュの大絶叫と綺麗に頭からのジャンピング土下座が決まった。
▼
〈白鱗の氏族にて〉
白麟の氏族に緊張が走っていた。
かつてこの氏族から独立した〈緑鱗の氏族〉から久しぶりに使者が参った。
もたらされた情報より、近日中に人間達の襲撃が迫っているとのことだった。
族長宅にてシュシュバルガが上座に座り、右には戦士階級の戦士長、左には普段は薬草を扱う役職だが有事の際は、長老役を担う1人であるバルザの3人が緑鱗の氏族の使者を囲んでいた。
「折角なのだが、生憎と父ボルデッカは旅へと出てまだ戻らぬ。
それに族長たる俺も救援へと向かう訳にはいかん。そこにいる
戦士長も…同様だ」
上位蜥蜴人として名うての戦士たるボルデッカとシュシュバルガは不参加。
それは仕方のない事だとしても、更に戦士階級の長たるリザードマンすらの助けは得られないと聞き、絶望に顔を歪めた。
「ならば、白は我が氏族を見捨てるおつもりか!」
激昂する使者をバルザは冷静に諭す。
「緑の使者殿、まずは落ち着きなされ。
族長自身と戦士長は行けぬと仰っただけじゃ…ほれ、この薬湯でも飲みなされ」
そう言えば喉がカラカラであり、緑鱗の氏族の里から碌な休みもとらぬまま駆けてきた事を思い出した。
張り詰めていた気がイライラを生み、思い出したかのように疲労感が使者にのしかかる。
差し出された薬湯に黙って口に含むと、ハッキリとした香りが鼻を突き抜けて気分が緩み、少し疲労感が無くなり冷静差を取り戻させた。
「…ご配慮感謝致します。申し訳ない。どうやら冷静差も失っていたようだ」
ニッコリと目を細めたバルザは、族長へと向き直る。
そこでアイコンタクトをとったようにシュシュバルガは頷き話し出す。
「謝罪を受けよう。
それに此方も誤解させた物言いもあった。許して欲しい」
互いに謝罪を受け入れた事で、話の続きか始まる。
「緑の叔父御が作った新たな里は、我等白鱗の氏族にとっても兄弟の間柄。
救援の申し出は受ける。我が氏族から有能な戦士を向かわす…誰かシディアンを呼べ」
暫くして族長宅に蜥蜴人となったシディアンが出向いた。
「族長、お呼びと聞きましたが?」
鍛え上げられた身体は歴戦の戦士の風格を備え、凛とした佇まいにギャップのある優美な顔立ち。
入ってきたシディアンを見た緑鱗の氏族の使者は思わず呟く。
「何と美しい…」
そこでハッと我に返った緑鱗の氏族の使者と顔合わせをし、事情を説明する。
「うむ、かの者は我の娘である。まだ未熟者ではあるが親から見ても腕前は相当のモノ。
動けぬ我の代わりに名代として緑鱗の使者へ救援に向かってくれ」
直ぐ様頷き返したシディアンを満足そうに見やり、更に付け足す。
「他にも下位蜥蜴人10名、補佐として蜥蜴人2名を付ける。
鉄製の槍を与える。見事率いて来い。では直ぐに準備に取り掛かれ」
食糧等や武具も後より届けさせる事が決まり、シディアン一行は使者と共に救援へと旅立つ。
緑鱗の氏族と人族との戦いは迫っていた。
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