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初めての蜥蜴人 秘伝書とか連絡とか

当初では、このあとリザードマンの集落に帰る予定だったのだが、アイシャとラムセイダさんの拠点で暫くお世話になることにした。


と、いうのも突然ボルデッガが最低1ヶ月程の暇をくれと頼み込んできたからだ。

そう告げる1つの理由として、この近辺にあの魔牛カトプレパスの群れ(10頭程度)が出現した痕跡を見付けた…とラムセイダの率いるホムンクルス隊の偵察から情報がもたらされた…からだ。


数が少ないカトプレパスが群れとして発生することはとても珍しい。

強靭な肉体と魔眼の力を前に、町程度の守備隊ならば容易く全滅すらあり得る戦力でなのある。


そうだとしても、ここの守護の要たるタイラント・ゴーレムがいた頃は特に心配もいらなかったのだが…現在全壊状態に近く、全稼働整備(フルオーバーホール)中のため、全く動かせない。


残った戦力の作業ゴーレムや戦闘用のホムンクルスでは、総動員すればカトプレパスの群れには勝てるかも知れないが被害が甚大になるとのこと。





進行ルートにこの場所が予想されているため、最悪戦闘になる可能性が高い。


頭が痛い問題だよ…とラムセイダさんが苦笑していた。



…ハイ。仕方なかったとは言えタイラント・ゴーレムが壊れた原因は壊した俺にあります。


そこで、ボルデッカが名乗りを上げたのが理由だ。



「今の儂ならば群れであろうが討伐は不可能ではない、これまでの修行の成果を試してくる」と言い残し 、準備を整えてカトプレパスを倒しに1人旅立ったからだ。


と、言うか里に連絡や報告に戻らなくて大丈夫なのか?

その事を問いかけると、儂長老だから大丈夫…それにちゃんと戻ってこれない可能性を託して里には息子に任せてあるそうなのだ。


「此れが初めての遠出じゃないしの。アヤツは里長なのだ。わかっておるとも。

それより、この件を以て若き日に助けられたラムセイダ殿の恩を返すとする故、儂がいない間余り迷惑をかけぬようにの」


「はーい」


ちょっと~まるで人をトラブルメーカーのように言わないでくれ爺ちゃん。



身に付ける装備を整え、回復薬などを背負い袋に入れて肩へとひっさげる。

予測した進行ルートを頭に入れたボルデッカは、有利な場所で迎え撃つべく頼もしい足取りで出掛けていった。










一応、長期の滞在期間の延長はアイシャにも喜んでくれたし、家長であるラムセイダさんもステータスカードの分析もまだまだかかるから…助かります。

と、喜ばれた。


ただ暇をしているのも申し訳ないので、俺はベルを連れてここ一帯の探索を初めて見た。


アイシャは俺達と来たそうにしていたが、父親であるラムセイダさんにここに至るまでの無茶と無謀を叱られ、良い機会だからと勉強がてら助手として基礎から学び始めた。

若干脳筋に近い思考のアイシャは苦手そうでもあるが、父親の期待も嬉しいのか嬉々としている。



知識の継承…錬金術師の卵として彼女の持つ知識と技術が伸びる事を祈ってます。

まぁそれもみっちり毎日ではなく、空き時間もあるからその時はアイシャも連れて遊ぶことにしていた。



俺も時々、アイシャと共にラムセイダさんに勉強を教えてもらっている。

と、言うかアイシャに無理やり拉致られた。

まぁ、俺にもプラスになるから構わないんだけど。


俺は魔法も全て我流で、聞くことはあっても誰かに指示する事が無かったので内心ワクワクしている。


魔法学から魔法を使った模擬戦闘、そしてみっちり鎌を使った武器戦闘まで。


ラムセイダさんの指導の元、アイシャの成長力と吸収力は高く、先の戦いで見せた未熟さが嘘のように見違えた。

嬉々として表情で、高い身体能力を活かすように降り下ろされる鎌はかなりおっかない。


ダンピール種のアイシャは見掛けによらず、筋力は成人男性と比較してもかなり高い方に位置付けられる。

俺も魔力で強化して対応しているが…まともに受ければ余りの威力に手が痺れてくる。


2歳未満の俺には結構命懸け。


お陰で鎌の扱いに関してや受け流しに関しては初期に比べてかなりマトモになってきたと思う。


そうそう、俺の月鎌Ⅱ(ムーンサイズ)はアイシャの血月鎌(ブラッディサイズ)の元となった月鎌と同じだ。


月鎌自体は魔力を宿す素材で作られた宝具(レア)級の凡用術式武具と呼ばれる1品。

武器としては異例で物理攻撃と魔法触媒による杖効果を兼ね備えた、正に魔法戦士のような人材に需要のある代物だ。

三日月の刃鎌に宝具級ながらに高い魔力伝導率を誇る事が特徴である。


持ち手側の下方柄頭に魔宝石がコーティングされている。

幼体の俺には少し大きいくらいだが、大人になれば片手で扱えるサイズでもある。



それをアイシャの場合は生体錬金術師たるラムセイダさんの大規模な魔改造…いや、親愛情(ラブ・マックス)によって血鎌(ブラッディサイズ)と名の付く魔導級(ハイレア)にまで引き上げられた傑作だ。






つまり、使われる素材と腕前、先を見越したセンス次第で宝具(レア)級でもその一歩上のランクまでカスタマイズ出来る事が証明された訳だ。


念の為にラムセイダさんに確認したら、自分1人ではここにある素材と施設の設備では、宝具(レア)級の品に手を加えるくらいで精一杯らしい。


それだけでも十分ですとも!!



俺の要望によってカスタマイズされた月鎌Ⅱは、耐久性の向上と特殊能力が何か付与出来ないか?というお願いだった。







研究室の一画にて目の前で匠の技のような…非常に美しい工程で調整が行われていた。


難しい素材加工と高度な作業を難なくこなし、その武器に狙った能力の発現なんてものは熟練の錬金術師でも易々とはこなせない。


例えば、耐久性の向上には元々月鎌に使われているムーンライト鉱石と親和性の高い希少金属スターアイアンが少量使われた。

スターアイアンは決められた温度でしか融解しない。その融解時に煌めく星屑のような光を放つとこから名付けられた金属だ。

流し込んだスターアイアンは混ざり合うように月鎌に溶け入り、耐久性が限界ギリギリのとこまで引き上げられてカスタムされた。


そして、もう1つお願いしていた特殊能力を発現させる為に月鎌の魔宝石を一旦取り外して、調整しなおしたそうだ。

簡単に説明したラムセイダさんだが、これも熟練した錬金術師どころか、現在の錬金術師のトップに立つ集団(国お抱えの錬金術師級の腕前を持つ者)くらいしか、古代の叡知の知識の理解や魔宝石の調整など出来ないそうな。


本当にこの人は賢者(ワイズマン)の名に相応しい人なんだけど、どうしてこんな辺境にいるんだろうか?


王公貴族や大きな国家研究所にいても可笑しくない人材なのに…そんな疑念が増すばかりだ。



まぁ、人生色々ある。俺も人の事は言えない。

ラムセイダさんも話したくなさそうだし、いつか話してくれる日を待とう。

怪しいのかも知れない。でも、何だかんだで協力してくれるこの人柄が俺は好きになっていた。





さて、月鎌に関しての俺の要望を聞き届け、ラムセイダさんが装着されている魔宝石に使おうと考えた素材は、加工された魔物素材だった。


レイクサーペントの幼体の生き肝、それは聞いたこともない魔物の素材だった。



生き肝とあっても加工されているいて、金属のような光沢を放つ握り拳大ほどの大きさがあった。

見ているだけでもその素材から魔力を感じる。


レイクサーペントは大きな湖に住むとされる水陸両用の大蛇型の魔物で、獰猛な性格をしていてこの大森林にも生息しているそうだ。

大蛇型の頭部と長い身体には水掻き用の鋭い背鰭が付いていて、獲物に対しては巻き付いて絞め殺す方法と、鋭い牙で突き刺し丸のみする攻撃方法が一般的だと言う。



昔この大森林の調査の際、ラムセイダさんに襲いかかってきた個体を討伐した時のものを使ったようだ。

成体では全長10mを越す…幼体ならば5m近くはあるだろう。やはり強いなラムセイダさんは。



それを研究室にある何かしらの装置へと置かれた魔宝石に、魔力ポットと呼ばれる魔動筒へと入れられた魔物素材は魔宝石へと同調してあっと言う間に消費(・・)された。

これによりスキル【ノックバック(小)】が月鎌の魔宝石へと上書き追加され、凡用式術武具としては特殊能力も付く性能の高い傑作となった。


使用者が対象武具に対し、魔力を上乗せすることで一定時間だが元々の月鎌の威力を高めることが出来る…らしい(ラムセイダさん説明)


今回の場合は(小)が付くので効果は高くないらしいが、刃による斬撃と柄頭によるノックバックでバランス崩し…物理攻撃力強化…イイネ!!




そして、この改良された月鎌Ⅱでも「君の全力には耐えられないと思うよ?月鎌の魔宝石の性能ギリギリまでチェーンアップしたものだから、替えは利かないし壊れたらお仕舞いだから」

と、俺の簡易魔人化(シム・ミディアン)した際の魔力には耐えきれないから…と十分な注意を受けた。













そんなこんなで1週間が過ぎていった。



今日はベルとアイシャが外の大森林にて魔物狩りに出掛けている。

その為、本日は俺は研究書庫を訪れていた。


四方を隈無く敷き詰められた本棚でいっぱいだ。


さて、今日はどの本から読もうかな?

何せかなり昔に存在した古本が、全く綺麗な保存状態で保たれているのだ。

読まずにおられるか!!


こうやって至福の時を過ごしていたのだ。


俺の〈時空間収納扉〉に収納されている王国(オルグフェン)から無断拝借した【技能封印書】と、奥義や戦闘スキルが記された【奥義書】などの書が無数残っている。

俺に適正が在りそうなものを直感的かつ無造作にし舞い込んだため、そろそろ何を持ってきたのか確認する必要がある。



えーと、頭に浮かぶ目録(メニュー)には術式型はもうないな…こんなん出ました。





〈屈強な古闘士が記した比類なき秘伝書〉

受け流す基礎【パリィ】


〈一流の縫士が記した比類なき秘伝書〉

更なる縫い士の高みに…【魔力編み】


〈柳の如く理を記した秘伝書〉

歩法【体捌き】





因みに秘伝書は奥義書の前段階として存在しており、確実では無いがキッカケを掴めると言われている。

大まかに言うと、

奥義書=技能封印書>秘伝書(魔法、スキル、術式)>>

教本といったランクに分かれている。

教本は初級知識から修められており、文字通り読み込み、指導、実践すること覚えることが出来る。

魔法や特殊なスキル等といった特別なモノを除かぬ限り、大抵の人間は何度でも使用出来る。



その上の秘伝書からは別で、これはスキルや魔法が修められている。

技能封印書と同じで一度の使い捨てであり、使用する為には最低限の資質と才能が求められる。

教本と更に違うことは、現在では秘伝書からは作り方自体が不明で伝わっていない。

何の素材で作られてどうやって書に込めるのか…一切わからない遺失物(ロストアイテム)の1つなのであった。


稀に古代遺跡や迷宮で見付かることもある。

秘伝書自体は大変高額だが大きな街の専門商店には置いてある事もあり、貴族は自分の子供に、商人や薬剤士、鍛冶士も注目し、名の売れた冒険者などや戦士は自らの生存率を上げる為に必要とするものも多い。



しかも、それだけの金を払い手に入れたとしても確実に覚えられるモノでもないと…されている。

低確率だが、秘伝書は確実に消費されたのに失敗もあることも報告で上げられていた。




そのため、命懸けで迷宮や遺跡で入手したばかりの秘伝書などは自らの適正のある書でも使用せず、売り払う冒険者はかなり多い。


高額かつ、失敗する可能性もあるので一般の人は書に頼らず、師に弟子入りなどして時間をかけて学んでいくのが一般的な認識だ。


それでも秘伝書が引く手あまたなのは、自身にスキルとして認証されればスキルによる補正が付くからである。

同じ作品でもスキル持ちとそうでない者との作品は出来映えや質がはっきりとわかるほど違う。


(まあ、この失敗(・・)って言うのも間違いなんだってラムセイダさんに教えて貰ったけどね…)


ラムセイダさん曰く、書を使用してもスキルや魔法を使えなかったのは個人の経験によるものだという。

例えば火魔法が修められていた秘伝書を使っても、本来の魔法の理や魔力の使い方などを知らなければ第1楷悌の魔法まで習得するなど不可能な事だと思わないかい?と逆に聞かれてしまった。

直ぐに使えた者はそのための修練を積み、基礎が出来ている者に限られるって事だ。


キッカケは秘伝書によって導かれたのだから真面目に基礎を整えれば、使った分、同レベルの者より確実に早く使えるようになると教えてくれた。


最低限の適正や資質を覚えた者と下地を整えてから覚えた者との個人差…とでも言うのだろうか?

俺にはステータスカードがあるから解るけど、一般公開されていない人達にとってはわからないからなー。


新しい知識に興奮しつつ、やはりラムセイダさんの知識量の凄さには脱帽するかしない。





話はそれたが、最上位ランクであり希少すぎる魔法やスキル、術式が修められている奥義書や技能封印書。

何度も繰り返すが、これも本人の才能がなければ最初の本を開くことですら無理であり、また記されている語学を解読しなければ内容に触れることすら出来ない。

文武両道且つその先の記された知識、奥義、術式を完全に覚えられる者は更に一握りの非常に秀でた持ち主でなければ不可能なドM仕様となっていた。


素養があって持ち出せた技能封印書は3冊。



〈ハイエルフが(いにしえ)の上位精霊語で書き、文字の1つ1つに自然の息吹を封じ込められたの技能封印書〉


適正のある精霊に契約を捧げ、服従させる【下位精霊使役(適正必要)】



そして同じ技能封印書でも紹介する残り2冊は桁が違いすぎる。




〈滅び去りし、封印された神々の恩恵。遺失神語を施された特別な技能封印書〉


新たな可能性の枝【系統保有域(クラスチェンジ)



【賭神の褒美】


自らのskillを贄として賭け、新たなskillをランダム(同ランク)で獲得する【賭神宴(ギャンブル・サバト)







てか…最後の神の名の付く技能封印書〈skill〉だけは流石王国(オルグフェン)中から集めた厳重禁書庫にあっただけはある。


高位術式である【叡知の魔導理論】並みの明らかに別格…桁違いの一言に尽きる。

多分、入手しても扱える奴がいなかったから書に込められた魔力のみで判断したんだと思う。

保管した人間も価値がわからなかったんだろう。




持ち出せたから良かったものの…今更ながら考えたらおっかないわ!!

整理しといて良かった。


全部使いたいが、まずはとりあえず秘伝書の【パリィ】と【体捌き】…最後に【魔力編み】っと…。




順に秘伝書を読み込み、目を閉じる。

確かに何か頭に流し込まれ、身体へと循環されていくイメージが俺を包み込んだ。


目を開いた時には3つの秘伝書は何処にも見当たらなかったが、確かに新たな力として身体へと受け継がれた感覚が残っていた。



次に技能封印書だ。


しかし、今回は直勘に従って技能封印書の精霊に関しては今はまだ使い時ではないと告げているし、他の2つは未知数過ぎて論外だ。


系統保有域(クラスチェンジ)】は男心を擽る素晴らしい響きだが、この書は使う相手を決めている。

その相手に適正がなければ自分で使うおうと思ってる。




賭神宴(ギャンブル・サバト)】は試すにもチップにするskillが無い。どうせなら賭けるチップは高い方かいい。

でも、現時点での最高skillである【時空】の魔法は俺の生命線だ。


遊ばせとくのは勿体無いけど、少なくとも賭けられないから保留です。

ま、焦らず行こうz!











秘伝書と技能封印書の件については余談だがリィザの感じた通り、ここのオルグフェンの禁書庫の管理者は、持ち出されたこれだけ希少かつ貴重な書について何の知識すらなかった。

歴代の管理者は世襲制となっており、現在の管理者も賄賂とコネで就いた者だった。

一応教育は受けていたが、その学力では語学力もなくタイトルすら読むことも出来なかったのである。

寧ろ、無くなった事に対して処罰の対象になることを恐れ、偽造書を置いて隠し通そうとした。


オルグフェン側がこの事態に対して発覚するのはかなり後の事となる。





などと、考えながら本棚から貸してもらった種類別魔物図鑑、動物図鑑、初級属性魔法辞典、植物図鑑(ラムセイダさんからの好意で)を時空間収納扉(ゲート)へ入れておく。


ここに来てから本を開く回数が多くなり、大いに満足しているリィザだった。












さて、他にも色々と準備も出来たし、今日のお土産に夕食の1品でも取りに行きますかね。


『私に命じられば整えましたのに…』


と、俺の上から声がした。

白く輝く長髪に白磁の肌。クリっした大きな目が印象的なお人形のような美貌を誇る10才前後の子供が浮いていた。

どこか高貴な貴族の子供と言われても可笑しくない容貌をしている。


「いや、今回は自分で使うものだから自分で用意するよ。ベルにはまた今度お願いするね」


『…わかりました』


しぶしぶ…と言った表情も非常に可愛い彼女の名前はベル。俺の使い魔だ。


一見すれば小人族の子供に見えるが、それと比較しても身長はそれほど高いわけではない。


フリフリが似合う白を基調としたドレスアーマー【アイシャのおさがり】を着込み、両手には表面を金属で加工してあり中身は革で出来た【小人(ホビット)グローブ】をはめて、腰には30㎝程の鋭利な茶鞘に収まる【サンダーダガー】を身に付けている。


腰から下の膝から脚にかけては、防御力向上がエンチャントされている黒タイツと、【風霊の靴】。


これら全ての武具はなんと魔力が込められている宝具(レア)級であり、人族の戦士や魔法使いにしてもおいそれと持ち得ない品であった。

纏めて売れば一財産築ける程の価値がある。


(リィザ)様がお望みなら売ります』


いや、売りませんけど。


どうやら俺の思考は使い魔の持つスキル【心話(テレパス)】に繋がってしまったようだ。


こんな子供のような成りでも魔王の心臓と数々の希少素材を用いて産み出された彼女(ベル)は、その容姿と反してかなりの高性能な実力とスキル、潜在能力(ポテンシャル)を宿している。

誕生したてながらも既に上位存在なのである。


ベルはサンダータガーを巧みに使い、1週間もあれば既に手足のように馴染んでいた。

ベルは最初こそ経験のなさからアイシャのような危うさはあった。

俺ごと炎魔法で包み焼きになりそうだったのは良い思い出だ。


それから魔法を使うタイミング、武器を使った範囲での間合いの取り方など考察、指導を受けて1週間を過ぎた今では、小さな体を活かして危なげなく立ち振舞う。

襲ってくる森林狼の攻撃を器用に避けながら短剣を振るい、カウンターにより首の後ろへとザクリと突き刺して急所による攻撃を成功させていた。



サンダーダガーは、珍しい雷の属性魔力を帯びた短剣であり普通の鉄の剣などよりは断然切れ味がある。

しかし、付与されている雷の魔力自体はかなり弱く、これだけでは当てには出来ない。

実はサンダーダガーには攻撃した相手に蓄電させる効果があり、今の段階で多少手こずる魔物でも何回か傷を付ける事が出来れば徐々に行動阻害させていく効果があることが判明した。


こういう時、ラノベで良くある【鑑定】なんてskillや魔法があれば分かりやすいんだけどなー。

傷口から雷属性が神経に侵入して不調でもさせてんだろうか?

原理は解らないけど、役に立ってるからグッジョッブだ。






そんなこんなで魔物に出会っても危なそうなら逃げる、勝てる相手を見極めつつ経験を積みながら楽しい毎日を送る日々だった。


































それから半月が経過したそんな中での1日。


ベルとアイシャはラムセイダさんの依頼でお出掛け中だ。

日々の模擬戦と戦闘訓練、魔法実習は2人の実力を更にメキメキと上げさせた。

あ、勿論俺もね?


そんなこんなでこの周辺では上位魔物以外ならば負けはしなくなっていた。


それにより今回は勉強もかねてラムセイダさんから依頼が出された。

ここから少し遠い場所だが貴重な植物が生える湿地帯に行く予定だ。

そこでの素材採取と、フォレストウルフ・リーダーの中でも希少部位の素材を複数頼まれたのだ。


いつもと違う雰囲気を感じ、2人とも意気揚々と手掛けていった。

何かあれば【心話】が使えるので連絡するようにベルへと伝え、快く送り出した。



さて、俺はというとラムセイダさんと一緒に探し物の。

と、言うのも本日は巨大魚の胃袋より見つかった黄金のカードを使い、ワイバーンキングの魔石が見つかった部屋を訪れていた。

ここの上位管理者だったと思われる者のカードである。何か他にも得るものは無いのか…とラムセイダと共に調べに来ていた。


並べられている本棚から一冊の本を手に取りながら、ラムセイダが魔法について話し出す。


リィザは魔法学を学んでいたつもりであったが、実際は非常に高度な魔法理論をラムセイダより授けられていた。


難解な授業や本の資料もリィザの持つ高位術式【叡智の魔導理論】が自動でサポート、そして時空属性の【異種族間言語(ランゲイジ)】が自動翻訳してくれる為に、勝手にスイスイと知識として吸収していってくれるのだ。



「リィザくん、君が使う属性は【時空】は私が知っている中でも聞き覚えがないよ。

正に()だけにしか使えない強力で希少な魔法だね。それだけに…惜しい…とも思うよ」


「…ラムセイダさんには俺の転生前が異世界から召喚された人間って知ってますもんね」


「ああ、召喚は聞き馴染みがあるけど、転生なんて神話以外にそんな存在は知らないからね。

こんな貴重な実験材…げふん。

貴重な体験者は例外(・・)なのかも…知れないから気を落とさないように」


ラムセイダがリィザを慰めるように言うには、理由があった。


「確かラムセイダさんの持論で…この世に生まれた際、魂と肉体を繋いだ時に魔力と呼ばれる世界の神秘を吸収出来たモノだけが、肉体から魔法を引き出す権利を有する…でしたっけ??


だから、人の精神を持つ俺と今のこのリザードマンの身体じゃ、授かった時空属性の魔法を充分に発揮出来ないかも知れないし、この先の楷悌魔法を覚えることが出来ないかも知れない…ですよね」




「うん、そう。

元々一致していたものが、片方だけで成り立つなんて…弊害が起きる可能性が高い。

けど、可能性は低いけど何も起こらないかも知れない。

あと、その他にも考察は色々とあると思うけど、概ねその解釈で間違ってないよ。


まあ、私の研究自体もまだ途中だし、検証事例が少な過ぎて今ある理論から導き出したから何とも言えないね。


今のところリィザ君から聞く範囲では時空魔法は使えるし、魔力の練りや術式なんかも転生前と変わらないみたいだね。

恐らくは…だけど今はまだ使える魔法に関しては心配しなくても良いんじゃないかな?


魔法は奥深い…細かく言えば誰がどの属性に目覚めるか…どこまでの楷悌を操れるまで成長出来るのかはある程度の法則…まぁそれでも良くわかって無いけどね。

それに肝心の魔力はあっても魔法を使えない者や、逆に魔力が少なくても強力な魔法を授かる人もいるよね」


そうキラキラとした瞳で話すラムセイダはイキイキとして外見と相まって、美少年のようだ。オノレ。





この眩い表情はショタ属性の方々には涎ものだろう…そんな属性のない俺には関係ないけど。



「さて、君と同じ勇者であり多属性を操った古代の勇者【魔法王のメイ】は僕の持論とは違った意見で魔法理論を確立しているから…魔法とは神秘であり、更なる未知を求めよ…だったっけ?

そう言えば魔法による楷悌を最初に系統化し、大まかに定めたのも彼女だった。

何せ個人で最高とされる10楷悌を操ったのも古代の一握りの魔法使いだけだったのだから。

彼女が生きていたら是非、秘匿され喪われた魔法や魔導についても討議(ディスカッション)したかった」



残念そうに語るラムセイダさん。


「そう言えば僕たちリザードマン種には魔法を使える者が殆どいないってボルデッカの爺ちゃんが言ってたんですけど、何でなんでしょうね?」


「基本的にはリザードマン種にも魔力はあるし、属性魔法を使える筈だよ。

但し、魔力を知覚する事が難しくらしくて…ね。

ただ、魔力の流れを見ていたら、ボルデッカ殿も無意識的に魔力を身体能力へと当てている傾向があるよ。


流石にそのくらいの上位種になれれば希に知覚することもいずれ出来るようだけど、自覚してない魔法を生活の中で魔力を使う機会が無いから自然と身体能力強化の方へと循環していく事を感覚で行えていく事が圧倒的みたいなんだね」


正に天才的な感覚って奴で、無自覚で行える事は寧ろ難しい。

希なケースなんだけど…とラムセイダが付け加えた。


ふぅーん、魔力を知覚しにくい種族なのか。

リザードマン種族の魔法使いの数が少ないのはそう言う訳なんだね。

その分、才能があるリザードマンでも環境によって身体能力増強特化になりやすい。


て、ことは逆に魔力を知覚する術があれば…皆もっと強くなれるかも知れないって事だ。


「じゃあ、ボルデッカの里の初代族長さんは、俺のように魔法が使えたって話だけど余程魔法に精通していた人だったんですよね?」


「……そこだよ。リィザ君。君と同じ白いリザードマンのヴォルリーザ殿…だったかな?」




「ボルデッカの爺ちゃんはそう言ってましたね。爺ちゃんのお話に出てきたのは、槍から炎を纏わせて一人で亜竜を討伐したり、咆哮1つで向かってくる魔物の群れを止めたり…って言ってたような?」


リィザの話を聞いたラムセイダは少しの沈黙のあと、真剣な面持ちで話し出した。



「そこまでの腕前を持つ恐るべきリザードマンは伝承以外に私も聞いたこともないね。

しかも、魔法を知覚して使えるなんてかなり珍しいね。

伝承って形での不確定な情報からだけだけど、槍に付与した炎(火の上位)魔法の件からも考えられるに…もしかしたら2属性(ダブル)持ちなのかも。

基本複数の属性を持つ魔法使いは、とても珍しいけど存在しているよ。

本人の資質や才能にも依存させてるけど、水属性の魔力に近い体質を持つリザードマンでも火属性の1楷悌くらいならば扱えるかも知れない…よね。

相性から魔法の威力は最低限度になることも多いけど」


そこで一旦区切り、


「初代リザードマン族長のヴォルリーザさんは其処までの強者だったのに、何故突如として行方不明になったんだい?

亜竜を単独で狩るなんて、人間で言えばA級上位~S級の腕前を持つ冒険者に近い実力を持っているはず。

何にせよ、個人的にはとても気になるけどね」



そう話を締めくくったきり、俺たちは無言で作業に勤しんだ。



(しかし、解析者(ワイズマン)の称号を持つ私の授業を聞けば大抵の者は訳もわからないままなのに…この(リィザ)は全く異も介さず理解していくなんてね)


そんな事情を知らないラムセイダは頼もしさと知識を授ける者として満足感を覚えている。


またリィザの語る元の世界での異界英雄譚(現代アニメ)の話は面白く、非常に興味をそそられていた。


(巨大なロボットや兵器など…何とも知的好奇心がそそられる。丁度いまフルオーバーホール中だし…色々と弄ってみようかな?)



幸い時間はあるし、ゆっくり調整しよう…そんな新しい玩具を見付けたときの楽しさを思い出したラムセイダだった。




しかし、そのあとにベルから使い魔skillによる【心話】により、状況は一変する。


『リィザ様、申し訳ありません。不覚をとり〈アイシャ様共々閉じ込められました』


『へっ?…どゆこと!?』


その報告が元でラムセイダのささやな思惑(たのしみ)が始められるのも、後の事になるのであった。

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