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初めての蜥蜴人 森の賢者ラムセイダ4

身長が4mもあるタイラント・ゴーレムと炎の化身のような化け物の隙間を縫って、アイシャは真っ直ぐに駆けていく。


凄まじい熱気がアイシャの行く手を阻むが、その走りに恐れは全く感じさせない。


先にアイシャの存在に気付いたのは炎の化身だった。

それはまるで火山にしか生息していない溶岩(ラーヴァ)巨人(ジャイアント)のようにも見えた。


『ウォォォン』


振り返り、燃え盛る炎が雄叫びのような駆動音を上げた。

炎の化身からの攻撃が止まったその隙にタイラント・ゴーレムがラウンドシールドを下げ、剣を振るう。

剣身が胸に当たってぐしゃりと何か潰れた音が響いたが…その痛みに関係なく炎の化身はタイラント・ゴーレムを拳で打ち据えた。

バァンと装甲が弾け、更に連撃を受けてミシ、ミシリ…と亀裂が走るような嫌な音がした。



[タイショウヲ、優先保護タイショウ固体名【アイシャ】トハンテイ…]


そこまで言ってあと、タイラント・ゴーレムはガクガクッと揺れた後、両膝を付いて崩れ落ちた。


[警告…パワーダウン、パワーダウン。至急メンテナス要請…]


そう喋っている頭部を、炎の化身は左右から両手で合掌して挟み込んだ。

ベキャッ…嫌な音が響き、頭部が潰れた。


他にも良く見れば装甲の所々は剥げ落ち、激しい殴打による攻撃からかひしゃげている部分が多い。

タイラント・ゴーレムが得意とする剣は度重なる熱ダメージでガタガタ。

それもまだ良い方で大きなラウンドシールドの表面は何度も何度も攻撃を防いだのだろう。

見事に潰れきって原型を留めていなかった。


更に熱気によるダメージで融解こそしてないものの、熱エネルギーは体表に蓄積して耐物理コーティングされた装甲は悲鳴を上げている。

どうして今まで動いていたのか不思議なくらいのダメージを負って尚、壊れきれていない状態は奇跡に近い。





動かなくなったタイラント・ゴーレムに興味を失ったのか、それとも飽きたのかは解らないが、ようやく此方を向いた炎の化身。


目を凝らして観察すれば、炎の化身ではなく生物でも無かった。

最初は大きな精霊のような存在かと思っていたのだが、きっと精霊には無い焦げ臭い金属特有の臭いと…何より体表が()けているんだよ。

生物で自らを焦がし、溶かしながら生きている存在なんていないだろう?少なくとも俺は見たことがないさ。

だからアレは炎を纏っているのではなく、内側から滲み出るように溢れ出ているに過ぎない。



彼方こちらの箇所がグズグスに融解しかかっていて崩れかけている。

特に胸の辺りが大きく融解して留め具が外れて中身が丸見えだ。


莫大なエネルギーを燃やし、煌々と輝くのは恐らくゴーレム等に使われている…所謂【核】って奴だ。

炎の化身がタイラント・ゴーレムと同じならば…間違いはないと思う。

決断出来たのも、あの部屋で見付けた手記のお陰だ。

この状況下において判断材料は決して多くはないが、俺にあるモヤモヤとした推測を確信へと抱かせた。


炎の化身…長いし火ダルマと呼ぶことにする。





思考にふけっていると、アイシャの声が聞こえて我に帰る。



「そこをっ、退いて!!」



アイシャが父親へと向かうに当たり、立ちはだかる障害に血月鎌(ブラッディサイズ)を向けた。

ブラッディサイズを媒体に急速に魔力が宿っていくのを感じられる。




その間に火ダルマはのっそりと此方の方へと歩き始めた。

間もなくアイシャが火ダルマの射程範囲へと入る。

全長4mもある巨体から繰り出される腕も長く、アイシャに向かって容赦なく降り下ろしてきた。


「あまねく闇の理よ、我に力を貸したまえ…前に立ち塞がる者に死を与えよ…血爪(ブラッディ・クロウ)


魔法を媒介したブラッディサイズの刃先から半透明の爪が3層出現し、鎌に連なってノコギリのように積み重なった。


迫り来る炎腕をヒラリとかわし、追撃が来るまえに伸びきった腕に即座に攻撃した。

身に纏う銀星(シルバースター)が火ダルマの熱気を遮断させているのかアイシャは熱がらず、躊躇なく攻撃を叩き込んだ。



ギィィィギュン!!


火花が散り、おおよそ聞いたことのない破砕音が響きアイシャの怪力を弾いた。

たたらを踏んだアイシャに火ダルマが追撃を加えようとして……。


やっと追い付いたボルデッカは火ダルマとの合間に割って入る。

紅い目をギラつかせて魔呪剣ヘイトで先程のアイシャの攻撃した箇所と同じ腕の部位を狙って斬りつけた。




シュパン!と、歯切れの良い音と一緒に火ダルマの前腕部の亀裂が一層深まり、切断へと至った。

先程の攻撃を見ていたボルデッカがアイシャの攻撃で前腕部に僅かな亀裂が入ったのを見逃さなかったのだ。

恐るべし技量と観察眼。

こと戦闘に関しての才覚は上位蜥蜴人のこの御方(ボルデッカ)にはまだまだ勝てないわ。




そんなボルデッカの事が見えていないのか、構わず再度攻撃しようとするアイシャにボルデッカの大渇が飛んだ。



「バカモンがぁ!!相手の得意とする土俵で勝負するとは何事じゃあ。

…焦っておるのは解るが、小娘一人が粋がってもコヤツは倒せんぞ?」


最後にニカッと牙のようにズラッと並ぶ剣歯を見せた。

何とも男前なんだが、それ。人間から見たら威嚇してるようにしか見えないからね。


「解ったら今はそこを退()けぃ、儂が手本を見せてやるワイ」




その言葉にビクッとしたアイシャ。焦りと怒りでカッとした心が冷えた気がした。素直に俺のいる場所まで駆けてくる。


「アイシャ、怪我は無い?」


「…ごめんなさい、私」


「ボルデッカは里の中でも最強の戦士だから…さ。

そんな先達の全力の戦闘なんて貴重過ぎるから、一緒に見て学ぼう。

俺達には得ることがきっと多いはずだよ」


そう宥めて臨戦態勢を維持した。



タイラント・ゴーレムが元となっている為か燃え盛る装甲は、魔法で補強した攻撃でも物理攻撃が通用しにくい。

どうやってボルデッカはお手本を見せるんだ?


そのまま大剣を振り上げて火ダルマを威嚇する。


(アイシャ、遠距離か中距離魔法って使える?)


(ええ、中距離なら1つだけあるわよ。どうするの?)


(ああ言ったものの、火ダルマはボルデッカ1人だけじゃ危ない。いつでも攻撃出来るように魔法の準備をしておこう)


(解ったわ。準備しておくわね)






「魔呪剣ヘイトよ…儂ら力で、奴の意識を釘付けにしてやろうではないか」


目が紅く染まり、ボルデッカの身体にもうっすらと赤い靄が覆う。

剣の能力(のろい)で、斬りつければゴーレムだろうと意志が存在している全てのモノが、ボルデッカを標的として狙うようになっている。

つまり、殺すか殺されるまで…修羅の能力(のろい)仕様なのだ。




火ダルマの巨体から繰り出される一撃は重く、ゴーレムで有ることからパワーは果てなしなく高いだろう。

俺やアイシャがマトモに喰らえば潰されたトマトのようになることは想像に難くない。

武装は帯びていないが、全身が脅威だと思った方がいい。

そして、核が見える胸部から膨大な熱エネルギーが放出されており、熱せられるボディは既に高熱になっている。

その事から武器以外の攻撃はしない方が懸命だろうし、攻撃した武器にも熱ダメージが蓄積されて下手な武器なら一撃も耐えられないかも知れない。

熱を纏う攻防一体の、俺達からすれば厄介で嫌らしい仕様だ。


幸いだったのはスピードはそこまで無かったと言うこと。

もしくは先に戦っていたタイラント・ゴーレム戦で脚部に損耗や損傷があったのだと思われた。

お陰でボルデッカや身体能力の高いアイシャ、魔力で強化すれば俺でも避けれそうなスピードまで落ちているようだ。



そんな事を思いながら、何合か斬り合っているボルデッカがふと此方を向いた。

そして、俺に気が付くと来いと叫ばれる。


そしてアイシャからそそくさと離れていく。



「何をやっとるんじゃ。お主は儂のサポートに入れ」


「ハハ…分かったよボルデッカの爺ちゃん」



まぁ、いつでも行けるようにはしてたんだけど…ね。

さて、俺も頑張って見ますか!

きっとボルデッカはアイシャに1人で頑張らず、協力する(すべ)を覚えろって言いたいんだと思う。


戦闘能力は高いアイシャだけど今までずっと1人だったし戦闘経験も浅すぎて、敵と自分との戦力差も理解が未熟だ。


身体能力の高さで今は何とかなっているが、放っておけば敵わない敵と当たってその内死ぬのは間違いない。


今後の課題として、見極めと協力を見せ付けたいんだ。

1人で勝てない格上の敵にも、協力すれば何とか成るかも知れないよっ…てね。


しかし俺もまだ産まれて一歳半くらいなのにボルデッカお爺ちゃまはスパルタだね…まぁ期待されてるってことで良いんだよねぇ?



そんな事を考えながら即席でチームプレイを行っていく。

付け焼き刃に過ぎないかも知れないが、傭兵団の連中に仕込まれた訓練の成果。


ボルデッカを良く見る。次にどうしたいか?どう動くのか頭と体にトレースしていく。

自然と身体に魔力を纏わし、強化をしながら四肢に、五感に働きかける。


そうしてボルデッカの意図を汲み取ろうと火ダルマへと近寄ると…。








って、近寄っただけでも結構熱いやないかい。


しかも…息苦しい。

魔力を身体に巡らす内臓強化。うん、少し楽になったかも。


逆に近寄りすぎて、火ダルマが俺の方を強く認識した。


すると、すかさず魔呪剣ヘイトで斬りつけ注意を自分(ボルデッカ)へと引き寄せてくれてる。

危ない危ない、有りがと爺ちゃん。

さて、失敗はあったけどその間に火ダルマに攻撃を…っと。



右手に持ったショートスタッフに魔力を通し、火ダルマの後ろから〈重穿(グラヴティライン)〉を放つ。



いくら装甲に耐魔コーティングしてあろうが完全に遮断は出来ない。

それは先程アイシャの魔法ブラッディ・クロウ…だったかがダメージを与えたことにより証明されている。


それにキチンとした魔導媒体から放たれた本気のグラヴティラインは今までとは違う。


火ダルマの背へと衝突し、激しい摩擦音が魔法の威力を物語る。

しっかし硬いね。〈重穿(グラヴティライン)〉の範囲は狭いが貫通に特化してるんだから…下手な属性魔法よりは何倍も威力は高いはず。

その証拠に火ダルマの背には浅い窪みと拳くらいの黒染みが付いていた。


…流石に子供の俺の魔力の質はまだ弱い。


威力は勇者の時ほどでは無いけどね…頑張ればまだ威力は上げられるし、ちまちま行きますか!





ボルデッカが敵の注意を引き受け、俺が魔法で撃つ。ボルデッカは基本的に攻撃よりも回避に主体を置いて行動し、どうしても避けきれない時に限り大剣で反らして直撃をいなしていた。

相当熱いのか、苦悶の表情が見える。簡単そうに見えるが押し負けないパワーといなすだけの体感コントロールと技術、冷静な見極め…大切なのは自身よりも格上の存在にも負けない不屈の意志。

どれか1つでも欠けていては今頃既にここには立っていないであろうことが解る壁役(タンク)をこなしていた。



暫くすると、火ダルマに唐突な変化が訪れた。


火ダルマは攻撃を急に止め、後ろを向いて身を屈めた。

そして…一瞬で身を包んでいた炎が消えた。


チリチリチリチリ…と空気に触れて音が聞こえてくる。かなり長い間高温にさらされていたボロボロの装甲が痛々しい程に覗いていた。


変化があった時点でボルデッカは警戒し、後退して回避行動をとれていたが、俺は〈重穿(グラヴティライン)〉を準備していて行動が少し遅れた。


火ダルマ(炎は消えたが名称は面倒なので火ダルマで)がボルデッカではなく、此方を向いた瞬間猛ダッシュで近寄ってきたのだ。


あっ…と思った時には俺まで残り5歩くらいの距離まで詰められていた。

迫り来る巨大な金属の塊に対して何とかギリギリでかわせたものの、余熱を含んだ余波の熱風をモロに浴びてしまったのだ。





アチッ、アチチチ!!全身が燃えるぅーー!


必死で地に転がり、頭をパタパタと叩き続ける。


毛が、俺の大事な頭髪が燃え盛…る?

あれ、そういえば俺、リザードマンでした。毛なんて最初から無いんだったわ!!


ふぅ、安心ですよ。ハゲは危険だからね、ハゲは!

親父は若い頃からハゲだった…俺は大丈夫だったけど決して気にしていたなんて事は無いからね。


てか、思ったよりダメージが少なくて驚いた。


この耐熱&耐火クロークのお陰なのかもな!


〈生命力脆弱〉状態で深刻な火傷とかシャレにならないからなぁ。



気を取り直して立ち上がると、火ダルマは俺に追撃をかけようと迫っている最中だった。


うわーおっかねぇ。


魔力を身体に注ぎ、身体能力を飛躍的に向上させて回避に徹していると、ボルデッカが追い付いて来てくれていた。

背後から魔呪剣を振るい、注意を反らしてくれたお陰で一息付ける。


「無事か!」


「ありがと爺ちゃん。俺は大丈夫だよ~」


良く見ればボルデッカの全身は焼け爛れた部分も少なくない。避けていてもあの熱気はヤバイってことだ。


汗だくで疲労の色は隠せない。

リザードマンにとって大切な水分も体内から失われて鱗にもハリもない。


特に酷いのは剣を持つ()だった。

あれだけの熱量の敵を斬り結んでいたのだ。熱は金属である大剣を熱せられ…酷い熱傷を負わせていた。

それでも取り落とさなかったボルデッカを尊敬する。



あれじゃあ体力の損耗も酷いし、痛みも凄いはず。そう思って何とか治療薬を渡しそうとしたのだが。


「カカカ、いらんいらん。

ダメージなんぞ当たり前。何せ何十年振りかの格上の敵がお相手じゃ。これくらいのダメージなぞ軽いほうじゃて!

それに儂がいる以上むざむざとヌシを殺させん。安心して格上と(たのし)め」


上機嫌で嗤うボルデッカ…そう言えばこの御方は戦闘狂(バトルジャンキー)だった。


体力的にギリギリでも、上位蜥蜴人の血が騒いで仕方がないんだろうなぁ。


「じゃが、このままだとジリ貧じゃの。生物である以上儂らの不利はいなめんじゃろうのぅ。

何か策を見付けねば死ぬのは儂らじゃ…カッカッカッ」




火ダルマが攻撃してくる度に融解し熱せられた金属の飛沫が飛び散る。

床に落ちる度にジュワァ…と煙を上げてる。おっかない。


タイラント・ゴーレムにとっては防げた事も俺達にとっては深刻なダメージに繋がる。



「やっぱり…動力源の核を抜くしかないのかな」


胸に光輝く核。あれを抜けば確かにゴーレムは活動停止するんだろうけど…まず俺と火ダルマとの身長差が有りすぎて手が届かない。

それに、膨大な魔力エネルギーが満ちていて下手に触れば腕が蒸発しかねない。


まぁ勿体ないけど最悪あそこに魔法を撃ちまくって破壊するかしかないよね!





一度消えた炎は火ダルマに再び灯ることは無かった。炎が無い分、熱気はマシになった。

時折、ピキピキと火ダルマから音が聞こえてくるけど…これは。


まさか…無茶なゴーレム自体が出力に耐えきれずに、限界を越えてオーバーフローを起こしかけている?


アイシャの話だとラムセイダが帰ってこれなくなってから結構な時間が経過している。

ラムセイダとタイラント・ゴーレムとのタッグを組んで火ダルマと戦い始めたのはいつかは解らないが、少なくとも昨日今日以上の時間を丸々戦いに費やしている筈だから…。


いくら魔王の心臓を核として作られた超エネルギー源でもそろそろ限界が来てても可笑しくないよな?

本体の部分も魔王なら兎も角、核を使っているのは古代の高性能ゴーレム何だし…。


俺も積極的に攻撃に加わろう。ボルデッカに声を張り上げようとしたら、


「お爺ちゃん、お願い。私にも手伝わせて下さい」


アイシャの声の方が早かった。


「頭は冷えたのか、アイシャ?」


「うん、ごめんなさい」


しょんぼりしているアイシャに優しい口調で話すボルデッカ。火ダルマと戦ってるのに余裕あるなぁ。


「解ったのなら良い…これからはアイシャ1人で頑張らなくてもいいのじゃ」



「そうそう、俺達は仲間だから…ね。

今なら火ダルマもかなり弱っているし…今の内にお父さんの所へ行っておいでよ。

良いよね?ボルデッカ爺ちゃん?ここは何とかなりそうだし」


「うむ、この様子なら儂らでも何かあっても押さえきれそうじゃしな」


火ダルマの狙いが解らないことが怖いが、先程と違って魔呪剣ヘイトの能力も証明されたし、今なら安全面はかなり上がっているはず。




「えっ…でも…。ううん、解ったわ。お願いします」


アイシャの迷う素振りはあるが、ここで遠慮しても無駄だと悟る。

言葉に甘えるようにポーションを握りしめて倒れている人影…ラムセイダの元へと走っていった。


それを見届けたあと、俺も火ダルマとの戦闘に加わる。

此方の思惑通り、火ダルマはアイシャを見送るだけで俺達二人に対しての戦闘行動を止めていない。


火ダルマのボディはボルデッカによって斬りつけられた痕が無数にあるが、流石に金属の塊はボルデッカの技とパワーを以てしても容易に切断は出来ないほどに硬いようだ。

歴戦の戦士でも致命ダメージが与えられないなんてどんだけ頑丈なんだよ!



ゴーレムには痛覚がないし、余程自信があるのかこの火ダルマは攻撃してくる相手の攻撃を避ける…といった動作を一度も行わなかった事が観察していて解った事だ。

敵の攻撃を受け止め、真っ正面から斬り伏せるコンセプトなのかも知れないけど。


今はそれが有り難かった。


「切り札を使うね爺ちゃん。準備終わったら呼ぶからちょっと離れててーー」


「言うのぅ…流石に儂も歳じゃし、疲れてきおった。このままじゃとトドメは刺せんし、充分堪能したから構わんが…任せても平気か」


「うーん、やってみて駄目だったら宜しくね?」


「解ったぞい」


この短いやりとりで、ボルデッカは俺の切り札を楽しみにしている様子だ。






派手に…行こうか。


ドクンッ…ドクン。この身体(リザードマン)になって初めて使うな。


魂に刻まれた魔装術式【簡易魔人化(シム・ミディアン)


アストラルに直接リンクして、高度な術式を用いて活性化した魔力構成された己のアバターを引き出す…だったかな?


その為、人によって魔人化(ミディアン)は違うと言われている。

有名所を聞いたとこでは、ある人は強力な炎属性を宿した籠手やマント等が出現したり、腰ベルトや翼が表れ、風を自在に操ったともされる。

取得者の例がいなく共通なのは、武器ではなく、身に纏うモノが現れるってことだな。


魔力をベースに術式を発動した時、そこで魔力に似た純粋なナニカへと変換されている。


どれも自身の強く持つ属性が引き出され、多大な魔力と体力を注がれるが、短い期間で強力な力を酷使する切り札となり得る。


俺の勇者だった時は髪の色と同じ青色の衣装のような全身装備を纏っていたのだけど…。

予測だが、これは多分この術式に干渉して弄ってあるから、きっと開発した本来のゼクロスの意図とはまた違う仕様になっているのだと思う。




魔法を使う才能はあるか?

魔人化(ミディアン)】の術式を受け入れるだけの器が足りているのか?

そして発動出来るほどまでに優れた適正があるのかる…最初の入口ですら最低3つの関門を抜ける必要ごあり、そこから上手くいく試しもない命をかける程の狭き門なのだ。


成功には運も有る筈だし、そこまでの使い手は殆どいない。

逆に極めれば、どれも強力な装備であったことに間違い無かった。








異変に気づいたのは両者同時にだった。

途方の無いチカラが蠢き、場を支配しようとしている。



闘いの場だと言うのに、無視できないチカラをおって互いに致命的な隙を晒していた、


其れほどまでのチカラの発生源は直ぐ近くにあった。



普通の者では感じ取れない程僅かな残滓は、視覚的な眼には写らないが確かに…この場にて青い魔力が渦巻いている。


ボルデッカは闘い抜いてきた(かんかく)で、火ダルマは外部センサーに付いた魔力を感知する単眼精査(モノアイスキャナー)によって。






透き通る青の奔流は白い子供の蜥蜴人を包む。




暴れだしそうな活力、魔力を体内に無理矢理押し込めている感じ…だ。

身体の中で爆薬を爆発させていると思ってくれた方が分かりやすいかも知れないね!


そう余裕はない。てか、今の自分じゃ前のようにこの【簡易魔人化(シム・ミディアン)】を充分に維持出来ない。


持って30秒。いや…それ以上は困難だ。


余り時間がない。さっさと決める。


魔力粒子と共に一瞬で身に纏うは青色。ここまでは勇者時代と同じ。


術式によってアストラルから引き出された青い衣装のもう半分は()



疑問に思うのは後だ…。





術式正常起動…マニマ接続。


補正レベルⅢで固定。

思考加速Ⅲで開始…マキシマムフィジカル・アシストⅢ、マジカル・ブーストⅢ…全完了。






俺は、左手にも〈時空間収納扉(ゲート)〉からロッドを取り出して持ち、左右の魔杖に魔力を通す。


建物が倒壊する恐れがあるため、余り高出力の魔法は撃てない。

思考加速状態を継続…魔力を絞り、細くしなやかなレーザー状の〈重穿(グラヴティライン)〉を一凪ぎする。


鉄よりも遥かに硬く、魔力耐性を帯びた魔鋼製の火ダルマは一瞬チュン…と抵抗するも頚部分を支える頭部をあっさりと切断。



そして、半壊している胸部へと手を伸ばす。

非常に高温だが何とかなる…動力源である火ダルマの核を握って抜き去り、咄嗟に〈ゲート〉へ入れる。


抜き去った火ダルマはガクッと痙攣のような振動が起こる。


そのまま火ダルマの脚に自らの足を乗せてジャンプし、真上から〈重穿(グラヴティライン)〉を撃つ。


今度はショートスタッフに過剰に魔力を注ぎ、ミシリミシリと嫌な音を立ててしなっているが、構わずに放つ。

極太に伸びた円形状の一条が、美しくも無慈悲に頚部から足元まで潰した。



実に呆気なく火ダルマは沈黙。残骸が虚しく横たわっていた。











これが俺の【簡易魔人化(シム・ミディアン)】の能力。

全能力強化に加えて魔法補助である思考加速。

それに耐えうる為の極限肉体補正と極大魔力の増幅…それだけの単純だがチート過ぎる能力。

パワードスーツのような全身装備が顕現されるのも例外、時空属性も例外…と、破格過ぎる。


本当の切り札だけに、使い所を見極めて使わなきゃ…いけない。





コレがあっても、俺は殺された。

何度も襲撃にあって事前に使わされており消耗していた時に殺されていたから…いくらチートでも使い手がボンクラな俺ではまた死ぬこともあり得る。




取り敢えず、無事上手くいったことに満足しながら、術式が解けていくのを感じながら気を失った。



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