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初めての蜥蜴人 森の賢者ラムセイダ2 マンジュの行く先

暴力的な表現があります。ご注意下さい。


オルグフェン王国、最辺境の町クレフト。

歴史ある町で開拓者達が長い月日をかけて完成させた石壁があった。それは古くから町を守る城壁となって町全体を囲んだ。

東西に兵の詰め所と門を設けて管理していた。草原や大森林からの魔物を防ぐ防波堤の役割も果たしていた。その為、腕利きの冒険者や兵達が集っていることでも有名だ。

辺境に隣接するように並ぶ大森林から豊富な森の資源や、そこにいない魔物の素材などで賑わいを見せる町だった。


そんなクレフトの町にマンジュが入れたのは、昼を少し過ぎた頃であった。


「さて、先ずはギルドへ向かいやしょうかね」


現金と言うものを殆ど持たない彼は、今夜の宿賃と美味い飯を喰うために道中に狩ってきた岩蜥蜴の素材を大量に売るつもりだった。


このクレフトの町には、他の町よりも大規模に冒険者ギルド支部がある。

冒険者ギルドとは、町や国からの要望を依頼と言う形にしてサービスを提供しつつ、仲介する組織の総称でもあった。

数の多い魔物の討伐依頼から大森林で採取される素材の確保、町の巡視や果てはおつかいまで何でもござれの仕事を要領よく分類し、暫定的にrankを付ける。それを会員…ではなくギルドに登録した者を通称 冒険者と呼び依頼の斡旋をしていた。


冒険者ギルドに加盟すれば訓練所の貸し出しや、素材の買取り、ギルド加盟店の一割引などの補助を受けることが出来た。

その恩恵は馬鹿にならず、大概のものはギルドに登録する。


依頼の達成率などからrankを付けて、初心者(ビギナー)から始めるF級を最初としDrank冒険者まで上がれば一人前。

信頼と実績を積み重ね1つ上のC級冒険者でベテランになり、稼ぎも段違いに多くなる。


更に一握りの才能を持ち、生き残った者達がB級rank。一流と呼ばれるようになる。B級冒険者までになると、指名依頼と言って名指しの依頼を受けたり、ギルドの特典などは計り知れない。

(冒険者ギルドの宿舎無料貸し出しや税金の一部免除など)

そして、その最高峰たるA級に至っては殆どなれるものがおらず…人外と言ってもいい。

現在、このオルグフェン王国でも僅か2名という狭き門なのである。

因みに王都のギルド本部とこのクレフトの町の冒険者ギルドに各1名いて、両者は現在特定指定依頼を受けてこの国を離れていた。




この辺境で腕利きの冒険者達は一旗上げるためにこぞって一攫千金の夢を見る。そんな腕利きな彼等の中でも特に腕の良いC級の者に限り、クレフト領主からの依頼を達成した暁には高額報酬が提示された依頼募集がかかっていた。

先の先見部隊の失敗を受け、今度は腕利き揃いの冒険者も交えて調査することとなったのだ。


冒険者ギルドはガヤガヤと喧騒に包まれ、賑わいを見せていた。誰もがこの依頼を受けたがり、実力に少し不安のある者は少しでも自分達が採用されるようにと互いに眼を光らせていた。


そんな事を知らないマンジュは、ギルドのカウンターに立つと殺気だった視線が幾つも集中する。

それに気付いているものの特に気にせずに受付の男性に話しかけた。


「魔物の素材買い取りはここであってるかい?」


「あ、此方で大丈夫です。ここの場所へと素材を置いて下さい」


指定された場所に岩トカゲの素材を順々に並べていく。

対応した男性職員はその余りの多さと丁寧な剥ぎ取り素材に思わずと言った感嘆の息を漏らしていた。


覗き見ていた冒険者達の驚愕、善望、幾ばくかの嫉妬を含んだざわめきが起こった。


「嘘だろ…」「ありゃ岩トカゲなのか。あんなに沢山」「ハッ、見たところ一人だし絶対違ーよ」「そ、そうだよな」


マンジュは気にせずにせっせと背負い袋から取り出して素材毎に並べる。


単体でも手強い岩トカゲという魔物を相手にソロで討伐出来る実力と、更にこの並べられた綺麗な処理をされた素材は群れに遭遇しなければありえないほど大量にある。


底知れない実力を感じ取った職員は、目の前の男に対して畏敬の念を知らずに抱いた。


「これで全部。よろしゅう頼んます」


「ハ、ハイ。数が数のため時間がかかます。彼方のテーブルでお待ち下さい」


量が量だけに他の職員も慌てて駆けつけ、買い取り作業が始まった。



マンジュが指定されたテーブルに腰掛け待っている間、数人の冒険者達がニヤリとほくそ笑んでギルドを出ていった。








マンジュが素材の買い取りを終えてギルドを出た時間は夕暮れ闇近く。良質な状態と素材の量にかなりの金貨がつまった小袋を胸に仕舞い込む。

宿もまだ決まっていないが、腹が減っていたしまずは適当な酒場で飯を食べ、酒を飲むことに決めた。


次第に暗くなる景色に、己の跡を追いかけてくる数人の気配を感じた。


(こりゃあ、お粗末な追跡の仕方じゃありやせんか)


気配もまともに消せず、稚拙な尾行に追跡者は大した技術も実力もないと感じ取った。

巻いてもいいが、あとで厄介毎になるのも面倒。


とりあえずの事情を聞いてから、物理的(・・・)に消えて貰うか平和的に解決するか選ぼうと判断する。


そうと決まれば建物沿いの小道にサッと入った。

すると、釣られて追跡者も慌てて跡を追いかけようと駆ける。

わざとギリギリ姿が見えるように追跡させ、通りから更に人気のない道まで誘導させた。


ここいらで大丈夫…と判断したマンジュは次に気配を消し去り、驚異的な跳躍力を駆使して壁を駆け上がった。両足を真横に開き、ピタッと貼り付いた。

そして、じっくりと追いかけてくる者達を観察する。


息も切れ切れに5人の男達が走っている。

何となく見覚えのある顔が混じっており…良く見れば冒険者ギルドで見掛けた男達だとわかった。

息も荒めに、丁度マンジュのいる真下で休憩を取ろうとしている。


「はぁはぁ…あのハゲオヤジ何処に行きやがった?」


「ヒヒヒ…中年だったしそう遠くには逃げてねぇさ」


「ケッ、必死こいて逃げやがってよぉ…はぁはぁ」


「ソロで岩トカゲなんて狩れるわきゃない。絶対に何か穴場があるはずだ。

お前ら……それを奴から吐かせたら、ぶち殺していいからな」


「わかってるって…へへ、あの小袋の金貨は約束通り山分けだぜぇ」


歪んだ思いをそれぞれ口走っている。それを聞いたマンジュは救いのない奴らと認定する。


(せめて他の人に害を及ぼさない内に…南無)


予定通り物理的(・・・)に消し去る事にした。



休憩をしている5人の真上にいたマンジュは、伸ばしていた両足を閉じて錫杖を片手に上空から落下していく。


ポコォ…重力を味方につけた重い錫杖の一振りで、一人の男の頭蓋骨が有り得ないほどに砕けて弾けた。


「安らかに…そして供養だけはしてやろうじゃありませんか」


片手で眼前にて南無と眼を閉じて印を組む。すると、血生臭い死体は、飴玉のような小粒の透明な固まりとなった。


「カ、カ、カイル?」


恐らくは砕けた男の名を呼んだ追跡者の男が次の犠牲者だ。


「余所見している場合ですかな?」


マンジュはその場から一瞬で肉薄し、シッと掛け声を上げて豪快な蹴りを放った。

男の顎は強打され顎はひしゃげ、下顎は割れる。

更に天高くに蹴り上げた脚が踵落としになって脳天を打った。


あっという間に物言わぬ骸が出来上がる。


「ヒィ…なんでこんな」


ようやく自分達が相手にしようとした男との実力差が解ったのだ。

残った男達は悲惨な光景に腰を抜かして、脅えているだけ。


「いやいや、先に手を出そうとしたのはそちらさんじゃありませんか。自分達が狩られる覚悟は無かったんでさ?」


そう言いながら、片手で印を組んで残った男達を相手取る。

普段サイクロプス相手に修練を行うマンジュには、駆け出しに少し毛が生えただけの冒険者など数の内に入らない。


「た、助けて」「がフッ」「ブベッ」


哀れな嘆願を聞き入れず、錫杖によって物言わぬ骸になるまで、そう時間はかからない。

そして、印を無言で組む。

死体は瞬時に全て小粒な飴玉状に変化した。

それらを全て拾い集めたマンジュは、何事も無かったかのように酒場を探して歩き出す。



「南無」


と、一言唱えるのは忘れなかった。

クレフトの町に数日滞在して人の生活を堪能したマンジュは、大森林と呼ばれた場所に向かって歩き出した。

奇しくも辺境の町クレフトより、剣聖オーギュストと領主が集めた冒険者達が出立する1週間前の事であった。



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