夕食時に御薬を
スープをこれみよがしに飲んでいる保安官。
それに腹を立てたタツミは感情を表現するため行動に出た。
「あ」
声をあげ、保安官の注意を引く。
カップから口を離し、苛立った様子で注目を浴びる。
「黙っていろ」
それを見計らい親指で隠し持っていた錠剤を弾き、スープの中に入れる。温かな液体のなかで錠剤は解け、一瞬だけ泡を立てるが保安官は全く気がついていなかった。とんでもないボンクラである。
舌打ちしてから保安官はスープを飲んだ。それからすぐに、泡を吹き椅子から転げ落ちた。
「タツミ……毒薬でも使ったのか?」
プチドラゴンが浮き上がる。
「別に。ただ睡眠薬を使っただけだよ」
「睡眠薬ぅ? なんでそんなのもってるんだ?」
「前にアカネが寝付きがよくないっていってたから、ほんのプレゼント
「ふざけんなバカ! このおっさんの顔を見な! トリップしちまってるじゃないか!」
たしかにおっさんの表情は恍惚と幸せそう。口の端っこからヨダレをたらし、数秒の感覚で両足が痙攣を繰り返していた。どこから見ても幸せになれる薬物を摂取した状態であり、タツミは自分が配合を間違えたかもと首をひねった。
「おかしいな、気持よく眠れるように造ったはずなのに。何を間違えたんだろう」
「気持よくなりすぎだろ! も、もういいから! いいから早く出るぞ!」
「はいよ」
がらん
音を立て鉄格子が落ちる。タツミが特別なことをしたようには見えない風景であったが、しっかりと武器を使い牢屋の格子を切り裂いていたのだ。プチドラゴンの視界には何が起こったのか映っていた。
髪の毛よりも細い、鋭利な物質で鉄を粘土さながらに切ってしまった瞬間を。
「まったく……出られるのにどうしておとなしく捕まったんだよ?」
「猫さんがね」
「はい?」
「猫さんがカワイそうだなぁ、って思ったんだ。それだけ、俺が逃げようとしたらあの子、きっと今よりひどい目にあいそうだったから。あとね、疲れてたから休みたかったんだ」
「何を言っているのか意味不明だけど、あんたがバカだってことは十分に伝わってきたよ」
「そっか。じゃあ、行こうよ」
「あ、いい忘れてたんだけど」
「アカネ?」
慌てふためいたような感じのアカネは、自分自身を抱きしめ言った。
「例の、あんたが殺した【ソード&ダガー】の連中が、そろそろ到着するんだって。さっき外から聞こえてきた」
アカネはうたた寝していて起きれなかった。
だから言うのを忘れていたらしい。けれど別に、問題はないだろう。
もしも相手のほうが強いならば逃げればいい。それだけなのだから。
「空腹が痛いくらいだよ。早く出て、ご飯にしよう」
「はあ、飯の心配より命の心配をしろっての」
アカネは溜息ついてから、タツミの頭に着陸した。
「あ、忘れるところだった。スープ、スープ」
「アホ! そんなの飲んでる場合じゃないだろ!」
タツミはテーブルに置いてあった鍋のオタマを手にすると、脇に置かれた予備のコップにスープを注ぎ飲み始める。温かな液体が喉を滑り落ちる、焼いた鶏肉の香ばしさ、ほどよい塩気に野菜の旨味が溶け込んでいる味は空腹に痛いくらい美味しかった。
「うわぁ、これ美味しい。アカネも飲もうよ」
「う、うーん……空腹には逆らえないし、ちょっと貰おう」
人間とプチドラゴンは互いに一つしか無いコップを奪いあうように、スープと具を味わい出すのだった。