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異界を流離う無法者(アウトロー) 色物武器を造って使う  作者:  ・ω・
1章 無法者に容赦なし
3/13

旅は道連れ二匹連れ

 中肉中背の少年がひとりいた。

 黒く長めの髪をはやし、男とも女とも似つかない顔立ちをしていた。

 表情は感情が浮かんでおらず目は輝きがなく人形さながらの印象を醸し出している。

 彼は草原地帯を歩いており平和で長閑のどかな風景を満喫しているのだった。

 ときおりに吹く風がマントを羽織った体を撫でてくれて心地よい。

 まだ昼過ぎ程度の時間帯であるゆえに太陽はまだまだ高い位置にある。青空が綺麗だった。

 これといった目的も持たずして歩いている流浪るろうの旅人は足をとめ空を仰ぎ見る。


 ゲームをしていたら異世界にいた。


 なんか聞いたことあるような事態に遭遇してしまった。

 オンライン・ゲームをしていたはずが気づけばオフラインになっていた。

 けれど、そうなってしまったのであれば仕方ない。ありえないと騒いでも疲れるだけ。

 非現実的な出来事を受け止めゲームの世界から一緒だった相棒を引き連れ旅する毎日。

 設定では世界が混迷しているらしいからか、面倒事に遭遇したのは一度や二度ではない。殺人もする。

 異世界ドミリアの記念すべき初日のイベントは愉快と言いがたい出来事だ。

 簡潔に述べれば殺されそうになったゆえ、逆に人間を殺してしまった。


「初日で野盗に襲われるとはおもわなかった。とか言ってたくせに、ずいぶん旅に慣れたもんだよ」


 甲高い少女の声が耳元で響き渡る。

 慣れた御蔭でうるさいと感じはしないが、顔の周りを飛ばれると面倒くさい。

 子犬ほどの大きさをした赤色のプチドラゴン。彼女は旅の道連れであった。

 ただドラゴンと呼ぶにはディティールが二次元的で、2D化されたデフォルメ体型。

 平たく言えばアニメに登場するマスコットみたいな姿をしている。

 プチドラゴンのアカネは少年の眼前を飛んでいた。

 羽ばたいていないため浮いていると表現すべきか。


「野盗には気の毒なことをした。けれど正当防衛だ」


 冷たさを感じない程度の抑揚ない声色で少年は言った。

 しかしすぐに血溜まりに沈む野盗の亡骸を思い起こした。


「いや。つい皆殺しにしてしまったから、割りと過剰防衛だったかな」


 やり過ぎれば正当性は薄れ、害悪でしかなくなる。

 彼は10人ほどの柄の悪い面々に襲われてやむなく殺害した。口にするほど罪悪感はなかった。そういう事態に陥ってしまった程度の感覚。

 生き残っていたら後々に仕返しされる危険性も考えられる。あれでよかったに違いない。


「ゲームのプレイヤーとして楽しんでいたはずなのにな。なんでドミリアで冒険しているだろうね、俺は」


「あたいが聞きたいよ。まあ、情報の中でしかなかった体は血肉を得られたし、満更じゃないね」


「それは結構なことで」


 ただのフィクションであった世界がノンフィクションとなり自分のプレイするアバターと同様の能力を手に入れた。別に幸運とは感じていない。自分より強い者が多々いる世界にほっぽりだされて、ありがたくもない。

 何しろ目的がないのだから、したいことも無いに等しいのだ。

 加えて襲ってくる生物ほか知的生命体ニンゲンの相手も面倒だった。


「現実世界で命のやりとりとか、よくない」


 少年は実際にそう思っていなくもない。

 しかしながら行動が全くともなっていないゆえ説得力はなかった。


「よく言うよ。その手で何人の生き物をあやめてきたんだ? やーい、人殺し」


 ふざけ半分で罵られるも怒りなどわかない。事実だからだ。


「こんなことならゲームなんて辞めればよかった。ゲームだから楽しいのに、現実じゃあな」


「無理無理~、絶対に無理」


 アカネは尻尾を振り否定した。


「あんた中毒者ジャンキーになってたじゃん」


「そんなバカな」


 少年は負けじと否定する。

 言葉だけは驚いたようなものであるが。

 声に感情は込められていなかった。


「俺は正常なプレイヤーだったはずじゃないか」


 反論するも相棒は鼻で笑った。


「ハッ! あたいに会ったとき地球からログアウトしてきた、現実はいいよな。なぁんて何度も言ってたくせに」


 人間が歩き出し、プチドラゴンが()()進む。

 けらけら笑うアカネの言葉に、元プレイヤーの少年は首をかしげる。


「言ってたな。でも冗談のつもりだった」


 現実からログアウトし、ドミリアの世界へ戻るというジョークが誕生するほど中毒性のあるゲーム。

 社会問題になった《ドミリア・オンライン》に熱中ハマった少年の名は、御堂辰巳。今ではタツミ・ゴドウと名乗っている。ゲームでの設定が自分に影響しているからだった。

 そんなタツミは熱狂的なファンと呼んで差し支えない。学生でありながら勉学をサボりぬき、休日は寝食を忘れ1日中ゲームのテクニックを磨いていた廃人予備軍であった。


「タツミの冗談は冗談に聞こえないっての。もっとこう、感情を込めて話してもらわなきゃね」


「声に感情がこもることがあるのか?」


「……うわぁ。元々はデータだったあたいに、人間のあんたが聞いちゃオシマイだよ」


「そういうものか? 今のも冗談だったんだけど」


「だから! あたいはタツミの冗談で笑ったことは一度もない」


 言葉にも態度にも感情を表してくれない人間に、プチドラゴンは火を吹く勢いで声を荒げる。


「そもそも冗談に聞こえちゃいないんだってば! 感情をこめて、変顔したり何かしてくれなきゃ! そんなんだからネットでもぼっちだったんだよ!」


「善処しよう。訂正するとぼっちじゃない、ソロプレイヤーだ」


「はいはい、ぼっちのスタイリッシュな呼び方ね」


 プチドラゴンは嘲笑い肩をすくめてみせるのだった。

 それを見つめる人間は石像のように曇った瞳をやりつつ、興味を失ったみたいに目を逸らす。


「あ、待ちなよ。怒ったの?」


「いま怒るタイミングなかったでしょ」


「……ふぅ、なんでこんな人間があたいの相棒なんだか。意味分かんないし」


 中肉中背、中性的な顔をした少年は。

 すこしばかり性格がネジ曲がっており一般的ではなかった。

 独自の論理というか、わがままを貫くタイプでもある。


「さっさと地球に帰りたいよ。いいことなんて、全然ないしな」


「なに? 地球に戻る方法なんか探してたの?」


「そうだよ。言ってなかったっけ?」


「一度も言ってない!!」


「怒ったの? ごめんね」


 素直に謝る相棒に、アカネは口をへの字に曲げてみせた。


「別にいいけど……相棒に目的くらい教えてくれてもいいじゃない。ずっと一緒だったんだから」


「付き合い長いからねぇ。ゲーム始めた時からだもの」


 タツミは歩きながら、ぼけっとした目を空に向けていた。

 地球に帰るとはいったものの、今までこの世界に迷い込んだのは一人や二人ではない。

 もっと大勢の人間がドミリアを放浪していると考えて間違いないだろう。

 なのに、一度も帰還したプレイヤーの話を耳にしていなかった。噂にもない。

 恐らく元の世界に戻る方法は確立されていない。

 だから、あてもなく彷徨う他になかったのである。


「何か良いことないかな」


 生暖かな風が頬を撫で、タツミは呟くのだった。


 ふと。

 タツミは立ち止まり、手を打った。


「ドミリアに来てからいいことあった」


 アカネは興味を抱き目を輝かせた。


「え? なに、何があったんだよ?」


「アカネとこうして旅立ってる。仮想世界じゃなくて、現実世界でさ」


「……ふ、ふん! どうでもいいだろそんなこと」


「冷たいな。俺は気に入ってるんだけどな」


 満更でもないアカネは腕組みそっぽを向いていた。

 相棒の心境の変化に気づかないタツミではない。

 ちょっと照れくさそうにした彼女を見つめ、ほんのり口角を持ち上げた。

 誰にも見えない、鏡を見ても気づけない。ささやかな微笑みだった。


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