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さようなら世界

作者: 白髪大魔王

どうも、白髪大魔王です。ひさしぶりに投稿します。楽しんでもらえたら幸いです。最後までよろしくお願いします。

俺は世界に絶望している。

辞書で調べてみると、望みや期待を全く絶たれること、とある。成る程、正にその通りだと思う。

嘘や欺瞞が蔓延る社会。媚びやお世辞で塗り固める上辺だけの人間関係。傷付くのも傷つけられることも怖い臆病な現代人。ほとほと嫌気が差してくる。

この世界には希望が無い。多くの人間は救われることなく、惨めに人生を送る。その上であぐらをかいて座る金の亡者だけが甘い密を独占する。戦争だって無くならないし、飢饉も無くならない。こんな世界なんてゴミクズだ。

「おやおやぁ?こんなところで何してるの?」

人を嘲笑うかのような気持ち悪い笑みを浮かべて二人の男子がやってくる。よく僕や他の人を馬鹿にするゴミみたいな奴だ。

こんなところで何してるのかだって?それはこっちの台詞だ。僕が座っているのは自分の席だ。そこでなにしようが関係無い。むしろお前らが何でここに来た?

「何してるって、この絶望君のことだ。この世界を絶望しているんだろ?ああ、世界はなんて救いようが無いんだろぅ~」

ゴミの隣でクズが僕の真似をしている。いや、真似のつもりなのだろうが全然僕の真似になっていない。僕はそんなことを言わないし、言ったことも無い。

「ギャハハハ、お前サイコー似てるわ」

どこをどう見たら似ているのだろうか?この低脳共め。

「おいおい何も言わねぇのかよぉ~」

生憎僕にはゴミクズと話すような口は無い。

「早く何か言えっつってんだろ!!」

「あ、ひぃや…その」

「やめろって、そいつコミュ障だから何も言えないって」

隣のほうがなだめるように言う。

「チッ、気分わりぃ」

僕にくるりと背を向けると、後ろからでも分かる程不機嫌そうに歩いて行く。隣にいたほうもその後を追いかけていってしまった。

「…社会のゴミが」

最大限の憎悪を込めて一言呟いた。

人を攻撃して、自分の力を誇示したいだけの奴等だ。本当は自分が弱いのに、それを隠すため他人をいじめる。臆病者のすることだ。

「世の中何てクソだ」

誰にも聞こえないように言ったつもりだったが、隣の席の奴がこっちを向いたのを横目に映した。僕の席は左が窓の一番後ろの席だ。だから隣というのは右隣、もっと言うなら右隣の一度も話したことの無い女子のことだ。

「ねぇ」

「……」

「訊きたいことがあるんだけど」

なら早く言え。

「自分に酔って楽しい?」

「えっ!!」

何を言っているんだこいつは?僕が自分に酔っている?一体どうしてそう思えるんだ。

「世界に絶望しているんでしょ?」

そのことはこのクラスの誰でも知っている。最初の自己紹介のときにそれだけ言って座ったからだ。

「えっと…。そ、そうだけど」

「だったら死になさいよ」

「し、死ぬ?」

「ええ、死ねと言ってるの」

顔を背けながらチラチラと右隣の女子を見る。髪はやや茶色がかかった黒。肩に届くか届かないかくらいの長さだ。顔は美人でもブスでも何でもない。一般平均のレベルだ。制服を着崩したりスカートを短くしたりしていない。まるで人間の顔から個性を奪い去ったようだ。

そんな凡庸な、人間に俺は死ねと言われている。理解が追い付かない。

「絶望している世界に生きていてもしょうがないと思わないの?早く死にたいと思わないの?」

「だって……、死ぬのは、痛いし、怖いし…」

「死ぬのが怖い?」

そういって彼女はケタケタと笑う。 そこに一切の邪気はない。

「だから貴方は自分に酔っているって言ってるの。世界に何て希望が無い。絶望だけだ。なのに自分は死にたくない。自分だけは絶望したこの世界において特別だと思っている。世界に絶望している自分が大好き。それを自分に酔っているって言うんじゃないの?」

「ちが……」

「だから私が希望を教えてあげる。世界にはまだまだ貴方の知らない未知や希望があるの。一緒に探してみない?」

さっきとは違う、慈愛の笑みを浮かべながらこちらに手を差し伸べてきた。

理性では分かっている。絶望したこの世界に、こんな漫画みたいな出来事が起こるはずがない。誰かのイタズラやドッキリのほうがまだ信じられる。仮に本当だとしても、いきなり死ねと言われた相手の言うこと何て信じられない。

けど俺の心はその手を取れと言っている。理由は分からない。けど理由が無いことは、手を取らない理由にならない。

「わ、分かった…」

恐るおそる差し伸べられた手を取る。ひんやりとした手に触れて、一瞬手を引っ込めてしまった。

と、今度は相手からグッと握られて引っ張られた。

「さあ行きましょう。手始めに次の授業はサボりましょう」

それが彼女と初めて出会った昼休みだった。


「あ、あの、さあ…」

「どうしたの?」

学校の裏門からこっそり抜け出して何とか一息付ける程度まで離れてから、僕は色々疑問を訊くことにした。

「僕、まだ……君の名前知らない…」

「名前何て要らないわ。私がいて、貴方がいて、世界がある。それだけでいいじゃない」

それだけでいいのだろうか。それだけでは呼び方にも困るのだが、本人が言いたくないのだろう。それに名前くらいなら後で調べることも出来る。

「じゃ、じゃあさ、君はよくこんなふうに、こう…、抜け出すの?」

「いいえ」

「そうなの?」

これは意外だった。彼女は悪びれる様子も無く、さも簡単そうに学校を抜けたのだ。一方の僕はいつ先生が来てくるのでは無いかと気がきでならなかった。

「貴方、私の隣なのにそんなのも知らないの?遅刻欠席共に全く無し。成績は中の中。委員会は図書委員。こんな平均的な人間が、授業をサボるなんてことをするはずないじゃない」

現に今サボっているのは考えないのだろうか。

「小難しいことは置いといて、早く行きましょう。先ずはゲーセンよ!!」

彼女が意気揚々と走り出す。僕は運動不足の体に鞭打って、前を走る彼女を追いかける。情けないことに、差はどんどん開いていくばかりだ。

「まっ、待ってよ…」

「遅いよ、早く早く」

くるりとこちらを向いて急かす彼女は、体の全てで青春を謳歌しているように見えた。柄にも無く、こっちまで楽しくなってきた。


それからの毎日は鮮やかな日々だった。彼女と一緒にやること為すこと全てが新鮮で、僕の心に暴力的に殴り込んできた。

学校を抜け出して食べるパンの味はいつにも増して格別だった。ゲーセンでは財布が空っぽに成る程ゲームに熱中した。深夜に二人で落ち合って、意味もなく徘徊もした。勿論、先生には何度も見つかって、その度に怒られた。けど、それすらも僕にとっては楽しいものだった。

灰色の世界に光が灯り、色が付き始めた。

「こんなところに呼び出してごめんね」

ある日の放課後、僕は彼女に呼び出されて屋上に来た。また僕の分からないことをするのだろうか。今からもうドキドキしている。

「今回ここに呼んだのは、人がいないところで貴方に訊きたいことがあるからなの」

訊きたいことがある。彼女との初めての会話もこんな切り口だった気がする。まだそんなに経っていないはずなのに、もう遠いことのように思える。

「今まで私といて楽しかった?」

切なそうに、消え入りそうに訊ねてくる。

「うん…。す、凄く…楽しかった」

「そう、なら仕方ないわ」

彼女はそう言ってポケットに手を入れると、そこから何かを取り出した。

それは、一本のナイフだった。

凶悪な刃は、太陽の光を反射して鈍色に輝いている。長さこそそれほどでもないが、人を一人殺すには充分である。

「私もね、世界に絶望しているの」

彼女は語る。

「世界には仮初めの平和しか無いし、偽物の人間関係しかない。世界に希望はもう無いの」

ああ、そうだったのか。彼女は僕と同じなのか。僕と同じかそれ以上に世界に絶望しているのだ。だから僕はあのとき彼女の手を取ったのか。

「だから貴方を知ったとき、私は心が躍ったわ。私と同じ人間がいたのだもの。私の中に希望が初めて出来たわ」

「でも、僕と一緒にいたときの君は、その、楽しそうだったけど…」

「あれはごめんね。貴方を試す演技だったの」

あまり反省しているようには見えない。

「本当に世界に絶望しているのか試したかったの。自分本位で絶望しているだけじゃないのかって。結果は、貴方が一番知っているんじゃないの?」

その通りだ。自分さえ良ければ、僕の世界は虹色だった。僕の言う世界とは、自分の視野だったのだ。

「だから私は決めたの。世界に絶望しかないなら、私がこの世界から去ろうって」

「や…やめて!!ぼ、僕は君といたい。君といて楽しかった。だから、し…死なないでよ!!」

生まれて初めて自分の本音を口に出せたような気がする。自分で自分に驚く程だ。

「そう言ってくれて有り難う。でもね、私が絶望している世界には、貴方も含まれているの」

ナイフを両手で握り締め、彼女は自身の喉元にその刃をあてる。

「さようなら」

僕の目の前で、希望が死んだ。

最後までお付き合いいただき、有り難うございます。絶望とか希望とか言ってもダンガン○ンパとかは関係ありません。

僕は何だかんだ言っても世界には希望があると思います。

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