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胡蝶の夢  作者: 秋澤 えで
中学生
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兎と狗

更新遅くてすいません!

現在の状況。

目の前に笑顔のイケメン。備考、髪の毛は深い青。

左手には目をキラキラさせた同室者。備考、面食い。

右手には不機嫌そうなイケメン。備考、髪の毛は白。

右手後方には笑いを堪えているイケメン。備考、髪の毛は黒。



Q:何がどうあってこうなった?

A:蓮様をからかい過ぎてたらこうなった。



いやいやいや、訳が分からない。取り合えず無理やり答えだしてみたけども我ながら意味が分からない。

何故?ほんの数秒前までここの所珍しい可愛げのある蓮様を堪能していたはずなのだが……?いったい何があって僕の腕の中にはこの目に優しくない色をした頭の男子生徒がいるのだろうか。誰得ですか?


そして正直右手のイケメンは不機嫌じゃあ済まされないオーラを放っている。黄色頭の某生徒会長との初対面レベルの威圧感だ。もっとも、この場にはそんな空気を察して何とかしようという人間はいないので不穏な空気は垂れ流しである。一応僕もそんな彼を何とかしたいとは思っているのだが、それよりも目の前の青頭を早急に何とかしたい。切実に。




「…………えと、どちら様ですか?」



完全にキャパシティーオーバーで職務放棄しようとする思考回路を何とかつなぎ留め、口からでた言葉はどことなく間抜けであったがその言葉以上に今の僕にふさわしい言葉はない。



「んー?僕は青柳あおやぎじん!隣のクラスでC組だよ」



抱きついたままハキハキと話す彼にたじろぐも残念ながら僕が下がると彼も一歩踏み出す。



「あー……どこかでお会いしたことありましたっけ?」



あるわけもないが一応聞いておく。



「ないね!初めまして、よろしく涼ちゃん!」


「……僕のことをご存じで?」


「もっちろん!入学式の時から可愛い子がいるなぁって思ってたんだ!こんなに可愛いのに男装してるなんてもったいないよ」



彼の頭が目立つように僕もまた人目を引く頭であると思いだし苦虫をかみつぶす。可愛いとかわけのわからないことをぬかしているがそれについては気にしないことにした。そしてどさくさまぎれて引っぺがそうと彼の肩を持ち押すが全くどかない。地味に力強いな。先ほどの言葉と唐突の『涼ちゃん』呼びも相まって肌の上にはおそらく蕁麻疹と見紛うであろう鳥肌が浮かんでいることを確信した。



「……何かご用ですか?」


「いや?可愛い子に声かけるのに理由なんている?お近づきになりたかったんだよ」



ああ、できればお近づきになんてなりたくなかったよ、なんて流石に口に出すわけにもいかず心の中で悪態をつく。張り付けた笑顔が引き攣るのも致し方ないことだろう。そして、右手の彼の方が怖い。爆笑していた黒海もいい加減笑えなくなったらしく蓮様と青柳の間に視線を彷徨わせている。一方で左手の日和は楽しそうに僕らの方を頬を若干染めて楽しげに眺めている。大変愛らしいのですが助けてほしいです。他人事のように眺めていないで助けてください。



「……いきなり何なんだよ、お前。初対面のくせに随分と馴れ馴れしいな、いつまで抱き着いてるつもりだ痴漢野郎が。気色悪い、さっさと離れろ」



ああああ、温度がより一層下がった。もはや初夏の気温とはとても言えない。彼の半径五メートル以内だけ極寒だ。


ついっと、僕から身体を離した青柳が億劫そうに蓮様を見る。



「……あれ、いたの?気付かなかったよ、なんか用?」



満面の笑みが一瞬にして失せ、ひどく冷めた視線を返した。ゾワリと背筋が冷たくなる。それは静かに怒る蓮様に対してなのかこの青柳に対してなのかは分からない。取りあえず隣にいた日和を半ば縋るように引っ掴みその背に隠れるように前へ突き出す。……体のサイズ的に隠れきれていないとかそういうのは置いておく。



「え、何涼ちゃん?」


「日和、イケメン好きなんでしょう?この状況を何とかしてください。イケメンしかいませんよ、この状況。さあ喜べ」


「……イケメンは好きだけど、流石にこんな絶対零度の空気を放つ二人の間に入っていく勇気は持ち合わせていないかな?そういう仕事は涼ちゃんデショ?」


「無茶です」



少しずつ後退しながらぼそぼそと日和と話す。ちなみにいち早く危険を察知していた黒海はすでに避難済みだ。抜け目ない。


片方は明らかに不機嫌。片方は若干の笑みを含むものの敵視するような視線を浴びせている。

誰か何とかしてくれ。



「……なんか用、とはこっちのセリフだ。公衆の面前で初対面の人間にいきなり抱きつくほどのたいそうな用ってのは何なのか教えてもらいたいものだな」


「何言ってんの?君になんか用はないよ白髪頭。自意識過剰なんじゃない?僕が用があったのは涼ちゃんとそっちの可愛いお友達の方だし。お近づきになりたかったんだよ」


「知り合いになりたくて抱き着いてくるとは、いまどきそんな原始的なコミュニケーションを使う奴がいるとは思わなかったな。……知っているか?お前みたいなやつのことを一般的に痴漢と言うらしい。覚えておいた方が良い」



初対面とは思えないレベルの悪態の応酬。いったい何をどうすれば出会って数分でこんな険悪な空気を醸し出せるのかを聞きたい。先ほどまで引いていた日和だったが既に慣れたらしく二人のにらみ合いをニコニコしながら見ていた。完全に他人事だが、いつ巻き込まれてもおかしくないってことにぜひ気付いてほしい。



「いやあ、だってさ?涼ちゃん廊下で会っても絶対逃げるんだもん。逃げないように最初に捕まえておかなきゃ。ねえ涼ちゃん?」



突然こちらに話を振られてビクリと肩が跳ねる。同時にこの場の視線が僕に集まり冷や汗が流れた。しかも日和が口を開こうとしていたので余計なことを口走る前に片手で塞いでおいた。



「……気のせいではありませんか?逃げるも何も、今初めてお会いしましたし、逃げる理由なんてありませんよ」



心の中で舌打ちをする。


青柳の言う通り、僕は入学式以来蓮様と黒海を除く攻略キャラクターらしき人物をことごとく避けてきた。特に同学年であるこの青柳と緑橋を。顔を合わせそうになるタイミングは何度かあったが必死に目を逸らし、行く先々で緩やかに方向転換し、すれ違いそうになるときは他の人の陰に隠れたり俯いたりしてやり過ごしていた。何度かこの青柳に話しかけられそうになることもあったがそういう時は遠くにいるクラスメイトの名前を呼びながら、さも用があるかのように駆け寄ったり、決して一人にならないようにしていたのだが。


この青柳の想定外の奇行を引き起こす原因となると知っていたなら、いっそさっさと話しかけられておけばよかったとうなだれた。



「そう?それにいつ見てもだいたい側にこの白髪かそっちの黒いのと一緒にいるし、特に白髪。君なんなの?ストーカー?ストーカーなの?それとも何?一人じゃ寂しくて死んじゃうの?ウサギなの?白ウサギなの?」


「お前みたいなのがいるから一人にさせられねぇんだよ痴漢野郎。お前の方がよっぽどストーカーだっての警察呼ぶぞ。そんなに女子とお近づきになりたいなら他の女子にでも尻尾振ってろ盛りのついた駄犬が」



さっきまで冷え込んでいた空間が急速に温度を増していく。日和も流石に笑えなくなってきて不安げな顔で僕を見る。……僕を見るな僕を。


そして蓮様が怖い。いろいろと崩壊してる。あれだ。『どこでそんな言葉覚えてきたのこの子はっ!』っていう気分だ。いや、本当。どこでそんな言葉を覚えてきたのですか蓮様。



「……兎野郎」

「……ワン公」


「寄生虫」

「ストーカー」


「もやし」

「色魔」


「……因幡の白兎みたいにしてほしいの?」

「……去勢されたいのか?いや、むしろしろ」



……そのうち放送禁止用語が飛び出してきそうな殺伐とした様子に現実逃避したくなる。ただ逃避するものの、この場を収めてくれる宛てはない。今にもお互い手を出さんとする。流石に手を出されるようなら巻き添え覚悟で止めるしかない。こっそりと深くため息を吐いた。


「……やんのか、もやし」

「上等だ駄犬が」




青柳が空を舞う。


ああ、そういえば。前随分と豪さんに一本背負いのやり方を聞いてたなぁ……。

青柳の敗因は蓮様の線の細さに騙されたことだろう。



実は同じクラスだった翡翠が青柳を回収しに来たのはまた別の話だ。

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