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胡蝶の夢  作者: 秋澤 えで
中学生
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癒しからの氷点下

一試合目を終え、二試合目が入っていないバスケメンバーは各々見に行きたい試合やクラスの応援のために散らばる。僕と蓮様と黒海は日和に連れられるままにドッヂの試合を観戦することになった。



「ドッヂは極端に男子が少ないな」


「そりゃまあ。男女混合じゃ男子は白い目で見られるでしょうし、手加減してたら楽しくないでしょうから」


「手加減してる奴の、セリフじゃあない、な……」



三人でコートを眺める。球技系の部活に入っている生徒のほとんどがバレーもしくはバスケに参加してしまったらしく、ドッヂにはあまり動ける人は入っていないようで、ボールを投げるのは専ら外野にいる生徒でコート内の生徒はほとんど避けることに徹している。ただ時たま運動神経の良い子がいるようで少しずつコート内の人数が減っていった。



「……なんか女子だけの試合って怖いな……、」


「蓮……分からないことも、ない、けど……それ、絶っ対他の女子の前では、言うなよ……?」


「頑張ってる子を笑っちゃいけませんよ。みんな必死なんですから」



まあ仕方ないよね。勝負事だし。


ただなんとなく、こういう勝負事のときの女子の必死さと男子の必死さには見るからに差があるように見えてならない。……こう、鬼気迫るような?



「あっ!赤霧くんだぁ。ドッヂ見に来たの?」


「あ、こんにちは。……友達が出てるもので」


「そっか、赤霧くんは何出るの?」


「バスケですよ」


「やっぱり!スポーツ得意そうだもんね!」



突如として話しかけてきた二つ隣の生徒と恙なく歓談する。


 何故わざわざ僕が他の友達と一緒にいるのに堂々と割り込んできてまで話しかけてくるのかが分からない。今話さなくてはならないような話でもないのに、もう少し場を読んでほしいと中学生に思ってしまうのはダメだろうか。もっともそんな心中などひとかけらも滲ませない鉄壁笑顔を装備しているので相手には伝わらないのだろうが。



「なあ黒海、今の女子で今日涼に話しかけてきた女子何人目?」


「クラスメイトを除けば……4人目。まだ、午前中なのに。しかも全員……涼のこと君付け」


「本当に……安定の『赤霧君』だよな」


「どういう意味ですかそれ」



全く楽しくない歓談を適当に打ち切り蓮様達に向き直る。



「どういう意味も何も……完璧で優しくてイケメンな人当たりの良い猫を着こんでるなって」


「うん……涼のは猫被るって言うよりも、着こんでる。フルで。猫を全身装備」


「なんか人聞き悪いですね、否定はしませんが」



中学に上がっても安定の『赤霧君』を売りにしている。完全無欠の『赤霧君』だ。今は小学校の時のような重い意味は含まれていないが、猫をかぶっていると何かと便利なのだ。むしろ本音を垂れ流しにしたらいろいろと不味い。何よりも、高校に上がる前に自分の地位をスクールカースト的に上げておく必要がある。顔が広ければ集まってくる情報量が違う、信頼を得ていればなおさらのことである。


 まだ中学一年だとしても、土台作りに早すぎることはない。現に今の時点で一年と二年にいるメイン攻略キャラクターの確認に成功している。黒海のようなスピンオフやファンディスクバージョンのキャラクターについては分かっていないが、とりあえずメインの赤、白、緑、青、黄色の五人さえ把握していれば十分だ。顔も一応緑橋を除いて確認している。……女装をしていた時に会った黄師原はともかく六年ほど前に男装の状態でエンカウントしてしまったうえに思いっきり話してしまった緑橋にはできれば顔を覚えられたくない。完全に避けるのは無理だとしてもせめて足掻いておきたい。根拠があるわけではないが、彼に関わるのは本能が警鐘を鳴らしている。危ない、なんてことはないだろうが、十中八九面倒であることは間違いない。



「お前もよくやるよな。あんまりああいう派手というか……喧しい奴ら好きじゃないだろ。今日話しかけてきたのそういうタイプばっかだし」


「ええ、まあ。でもああいう子は口が軽いんでたくさん情報入ってきて便利ですよ?全く好みではありませんが」


「えげつない……似非紳士」


「この外面(そとづら)に騙される方が悪いんですよ」


「意図的に騙してる奴がよく言う」



ぺしぺしと顔を叩いてみせると蓮様と黒海の両方から頬を抓られた。

重装備の猫を脱げるこの間柄が心地良い。



ピ――ッ!!



毒にも薬にもならない会話を甲高い笛の音が割って入った。


わらわらとコートから選手たちが出てくる。一応応援しに来たんだが、しっかり見ていたわけではないし日和はずっと外野にいたのでうちのクラスが勝ったのか負けたのかすら分からない。二人の顔を見るも二人もわかっていないらしい。なら仕方ないか、とさっさと諦める。



「涼ちゃ―んっ!見てた!?ねぇ見てた!?」


「あーうん……眺めてました。お疲れ様、怪我はしてませんか?」


「んー、大丈夫っ!」



コートからこちらへ一直線に疾走し、例のごとく勢いよく飛びついてきた日和を真正面から受け止め勢いのまま抱き上げる。気持ちはさながら年の離れた妹を扱う兄、もしくは姉だ。



「どこの、バカップル……?」


「見た目だけならバカップルだよな。両方とも女子だけど」


「うへへへ、白樺君羨ましいのー?」


「んなっっ!だ、誰がっ!!」


ぎゅうぎゅうと肩と首に回した腕に力が込められる。妹かがいればこんな気持ちなのだろう。一瞬だけ、神楽様もこんな気持ちなのだろうか、などと阿呆なことを考えて速効打ち消した。確かにあの人は蓮様のことを実はかなり大切に思ってるけど、これは違う。少なくともあの二人の間にはこういう距離の近い親愛はない。お互い表面上は『まあ嫌いじゃない』というスタンスで、蓮様はそれが本心、神楽様は性質の悪いツンデレ。改善されつつも、今は神楽様の片思い気味である。



「日和、暴れると落としてしまいますよ?それと、その笑い方はどうにかした方が良いと思います」


「ごめんねー?白樺君が羨ましいっていうからさ?」


「言ってないっ!」



相も変わらずニヤニヤとする日和を抱えたまま蓮様に目を向ける。顔を真っ赤にさせながら泡を食ったように日和に抗議している。最近こんなに取り乱す彼は珍しいのでからかってみることにした。



「ああ、蓮様も抱っこしてほしいなら言ってくれれば良いんですよ?」



抱えていた日和をおろし両手を蓮様の方へ広げながら、さあ来いと言わんばかりにイイ笑顔を向けてみる。日和はニヨニヨ、黒海は躊躇うことなく爆笑、蓮様の背中をバシバシと叩きながら。当の蓮様は顔を真っ赤にさせながら何かを言おうとしているが言葉にならない。


ああ可愛い、主様が可愛過ぎる。最近はいろいろと神経使いすぎてストレスがたまっているので、蓮様が可愛い今のうちに存分に癒されたい。切実に。



「さあ!遠慮しなくて良いんですよ!?」


「ぶっは……!い、行って来い、蓮……っ!」


「~~~~ッッ!!お前らいい加減にッ……!」



「じゃ、遠慮なく~!」


ぎゅうっ!





一瞬にして空気が凍りつく。


説明を乞う。


ついさっきまで僕は顔を真っ赤にさせた最近久しく見ていない可愛らしい蓮様に癒されながら日和や黒海たちとニヨニヨしていたはずだ。


蓮様と言えば、耳まで真っ赤にして怒っていて、いい加減叩かれる頃であったと認識している。


本気で蓮様をだっこするつもりはなかったのだが、中学に上がってからは微妙に距離ができていて寂しいので構い倒してやろう、くらいのつもりだったのだが。


本当に数秒前まではいなかったはずのストレッサーの一因、もとい青頭の少年が僕に抱きついているという状況は一体全体何事なのでしょうか?


どなたかの説明を乞います。

最近短い上に更新遅くてすいません!

いつも読んでいただきありがとうございます

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