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胡蝶の夢  作者: 秋澤 えで
小学生
62/157

叫べ

総合評価4000点突破((((;゜ω゜)))

感謝です!

いつもありがとうございます!


「っ……、」



『何故』と問いそうになった自分が恥ずかしくなり口をつぐむ。『何故』だなんて愚問も良いところだ。……僕が使えないから。


握りしめた左の掌に爪が刺さり、プツリと血をにじませた。



「……っでは、お側付きは……、」

「ああ、それなら、」



翡翠、そう続くだろう。僕が駄目なら必然的に兄の翡翠になる。それがまた悔しくて俯いた。



「お側付きは付けない」

「…………はい?」



今この方は何と?



「だから、お側付きは付けない」

「なっ、にを言っているんですか!?」



思わず俯いていた顔を勢いよくあげ蓮様の顔をまじまじと見るが、表情は先程と変化がないことから本気らしい。



「万が一、次このような事があったらどうするつもりですか!?」

「どうするも何もない。俺が拐われるだけだろ」


「だけって何ですか!そんなことあって良いわけないでしょう!」

「別に問題はない。跡継ぎには神楽がいる。俺が荷物になるならそのまま捨て置いたほうが早いだろ?」


「そ、れ……本気で仰っているんですか……?」



荒くなっていた口調から変わり情けない声が出る。さっきとは違う種類の震え。きっと僕は今ひどい顔をしてるに違いない。


跡継ぎは問題ないから捨て置けだなんて、それはまるで蓮様が必要ないとでも言うような。



「ああ、白樺としては困らない」



耐えるように噛み締めた唇から血がにじむ。


何を考えるでもなく、左腕が蓮様の方へ延ばされる。



ペチッ



小さな音をたてて左手の甲が蓮様の頬を打つ。きょとんとした顔で僕を見る。無意識の内に手加減をしたのか、それとも本気で殴る気力がなかったのか僕には分からなかった。



「……貴方がそんなに馬鹿だとは思いませんでした」



微かに震える声で蓮様に話しかける。



『馬鹿ってなんだよ!!』


「ああ、馬鹿で良い」



反目されると思ったのに蓮様は静かに肯定するだけで言い返そうとはしなかった。


その力ない言葉に冷めきっていた身体がカッと熱くなる。もしかしたら、いやもしかしなくとも僕は蓮様に怒っているらしい。頭に血が上り、まともな判断も出来ず二の句もつげない。



「……失礼します」

「え?」



左手を頬から離し蓮様の後頭部に回してグッと僕の方へ力任せに引き寄せ―――




ゴッ!



「いってえええ!い、きなり何すんだ涼!」


力の限り頭突きをかました。


ええ、盛大な音が個室に響きましたよ。もっとも今の状態の僕の頭突きなので大した威力もなく額が割れることはない。真っ赤になってはいるが。



「謝りませんからっ!」

「謝れよ!」

「絶対謝りませんから!ちょっと話を聞きなさいこの馬鹿っ!」

「なっ馬鹿とは何だっ!仮にもお前の主人だぞ!?」


「……はあ?」



いつもよりも三割低い声の僕に、この馬鹿はやっと異常事態であることに気づいたらしい。一度も蓮様に対して怒ったことの無かった僕の堪忍袋の緒が切れたことに。


「ついさっき言いましたよね?僕にお側付きを辞めるように。つまり貴方はもう僕の主人でも何でもないわけです、お分かり頂けます?それとも何ですか?言ってみただけですか?特に考えもなく言ったんですか?」


「っ考えたさ、それで俺にはお側付きは必要ない、」


「では今から僕は主人である蓮様ではなく今目の前にいる白樺蓮と会話をします。異論は認めない」



逃げられないように左手で肩を掴んでおく。居心地が悪そうに目を逸らすが気を遣うつもりも話を辞めるつもりもない。


敬語を外して話すのは慣れないけれどこれは僕なりのけじめのつもりだ。




「……さっき言ったな。神楽様がいるから自分は捨て置いて構わないと。何?何のつもりだ?貴方がどれだけ劣等感を抱いてんのかなんて他人の僕には分からないしわかりたくもない。そんなことで何年も何年も神楽様も嘉人さまも雲雀様も避け続けて……。三人がどんな気持ちで貴方のことを見てたか分かるか?分かるわけないよなあ、ずっと向き合おうとしなかったんだから」



僕自身極力会話に上げなかった話題を無理矢理彼の前に提示する。尤も、言えることと言えないことがあるのでそこは選り分けているが、そこが今僕の持つ理性の限界だ。



「なのに何?まるで自分は要らないとでも言いたげな投げやりな言葉。言って良いことと悪い言葉があるだろ」


「……っお前に何がっ」

「だから分かんないし分かりたくもない!」



黙って聞いていた蓮様も耐えかねたように反論しようとするがぶったぎる。



「どうせ自分の気持ちは誰も理解してくれないとか思ってんだろ、理解させようともしないくせに。悲劇の主人公気取りか」

「……だから何だよ、」



静かに、しかし明確な怒りを孕んだ声色に一度口を閉じ、続きを待った。



「仕方ないだろ!そうだよお前の言う通りだ!どうせ話してもどうにもならないだろ?!両親に言えば迷惑になるだけ、他人に話しても同情されるだけなんだから!」

「っなら僕に話せよ!」


「お前に話したって何も変わらねえだろ!」

「そういうのは話してから言えッ!」


「どうせ話しても、お前が分かるわけないだろっ!」

「あ゛あ゛?!」



肩に掛けていた手が振り払われた上に蓮様の言い分に腹が立ち胸ぐらを掴む。今の僕はさぞ恐ろしい顔をしているだろう。


全くもって無礼であるし、さっきから自分の言っていることが支離滅裂かつ傍若無人であるという自覚があるが、ここまで来たらもう全て思っていることを言ってしまおう。そして蓮様が思っていることの全てを聞こう。



「じゃあ今から僕は僕の思っていることと嘉人様や雲雀様が蓮様のことをどんな風に思ってるか全部話すから、貴方も貴方なりの考えを全部話せ」

「はあっ?!何でそうなるんだよ?!」


「何でもだ!黙ってて分かり合えないなら話し合うべきだろ」

「それでも分かり合えないかもしれないだろ!」


「分かり合えなかったら肉体的会話を試みる」

「武力行使!?」



「じゃあもう話すから!聞いたら貴方も話せよ!良いな!?」

「なに勝手に話し出そうとしてんだよッ!あー!あー!何も聞こえないー!」



二人してみるみる口論のレベルが下がっていく上に内容もグダクダだ。現に分かってもらえないことを嘆いていたはずの蓮様は分かり合うことを完全放棄しようとしているし僕は僕で何をしたいのか半分見失いかけている。



今はとにかく、蓮様に周りの思っていることを知ってほしい。



パッと胸ぐらから手を離し左手でグイッと抱き寄せた。騒いでいた彼も驚いたらしく黙る。それと共に僕も血の上っていた頭が冷やされる。喧騒で溢れていた病室が水を打ったように静まりかえった。



耳もとに唇を寄せ囁く。



「――――お願いします。今はただ、(()の話を聞いてください」



今から使う敬語は貴方に対するものではなく、貴方を愛する人達の話への敬意です。


静かにそう付け加えた。

次回ガッツリ書きたいので今回は短めでした

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