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胡蝶の夢  作者: 秋澤 えで
小学生
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被ってますか?

「……う、涼?どうかしたか?」

「……っ、あ、大丈夫です。何でもありません」



あまりの衝撃に呆然としていて蓮様の声も耳に入っていなかったらしい。心配そうに僕の顔を覗き込んでいた。



ゲーム製作者に言いたい。


何故黄師原の髪の毛は黄色じゃないんだ……!金髪じゃ普通の人と見分けつかないじゃん!こっちは常に髪の色で見分けてんだから!金髪って金師原になっちゃうよ!


まだ中学生にすらなってないのに攻略キャラクターほぼコンプリートしちゃうよ……!極力関わりたくないのにどうしてこうもままならないのだろうか。


でもまあ女装している分だけ緑橋の時よりもましだろう。万が一にも次に会う機会があっても男装していれば気付かれない。いやそうであって欲しい。



「……本当に大丈夫か?」

「大丈夫です……」



無表情で悶えていたが蓮様にはばれたらしい。



「おいっ無視するな!」

「そろそろ中に戻るか。ハンカチも渡したんだからもうここにいる理由はない」

「え、あ、あの……」



いや、僕もさっさと中に入りたいのだが、ちょっと蓮様のスルースキルが半端ない。これを実際されたら僕でも涙目になるよ。蓮様はすでに黄師原のことなど興味がないらしく全く眼中にない。完全に空気だ。



「俺が誰だかわかったうえでその態度かっ!」



正直に言おう、面倒くさい。いや、実際には言えないけど。とりあえず今はキャラクターがどうとかは置いておいておこう。


下手に自分の約束された地位を知っている餓鬼ほど面倒なものはない。しかも鼻にかけることのできるだけのそれなりの地位。いくら子供の言うこととはいえ、黄師原の子とトラブルを起こすことは得策ではないことは確かだ。



「……はあ?」



ここは下手にでて誤魔化そうか、そう算段を付けていたが蓮様は知ったことかとばかりに返事をした。今まで無視してたのになんで今になって返事するんですか!


止めようかと思って後ろにいる蓮様の方へ身体を向けようとした、がその顔が目に入り全力で後悔する。

尋常じゃなく怖い。心底鬱陶しいという気持ちがにじみ出る赤い目がまっすぐ黄師原を射抜く。自分が見られているわけじゃないのにゾワリ、と皮膚が粟立った。


あ、これ無理だ。諦めよう。申し訳ございません嘉人様。フォローできる気がしません。遠い目をしながら射すくめられた少年をみると先ほどの威勢は勢いを失っていた。しかし完全にそぎ落とされた訳ではなくなんとか虚勢を張っている。



「な、なんだよ!」

「黄師原の息子、だからなんだ」

「っだから、俺に逆らったらお前の家がどうなるか……!」


「餓鬼の戯言一つで家を潰そうとする当主なら先が知れてるな。……だいたいなんで俺の家が黄師原より格下だと思った?俺の家が黄師原よりも力があったなら潰されるのはそっちだよなあ、ええ?おい」



一歩少年の方へ足を進めると後ずさる。黄師原につられ僕も肩をはねさせる。何この子怖い。いつもの蓮様じゃない。エナガと戯れる蓮様じゃない。え、なに恫喝してるんですか。もしかして僕がいないところで喧嘩慣れしてるんじゃないですよね?


補足するならなら家の格は白樺の方が上だ。黄師原はここ数代で栄えた家で成金とも言えるだろう。もっともよく言えばその数代の当主は皆有能であったということだろう。



「ちょ、蓮様それくらいに……」

「涼は黙ってろ」

「はい、すいません!」



話しかけなきゃ良かったぁぁあ!どうしよう、どうやって止めよう!



「お、俺の家より上の家なんて、」

「ゼロじゃないだろ?事実黄師原に潰される家じゃない。不利益はあるだろうがな」

「くっ……な、生意気だぞ!小学生のくせに」



近づいたことで改めて自身と蓮様の体格差に気付いたらしく再び強気にでる。黄師原の方が蓮様よりの十センチ近く身長が高い。あまり覚えていないが、確か彼は主人公の先輩だったはずだから僕らより一つか二つ年上だった気がする。



「だから?小学生相手にこれだけ怯むなんて情けないな。その年にもなって自分の家の力を鼻にかけて威張り散らして、周りの人間を見下して……。こんなのが次期当主なんて黄師原もこの代で終わりか?」

「うるさい!黙れっ!」

「恥ずかしくないのか。お前が振りかざしてるのは自分の力じゃなくて親の力だろうが。偉いのはお前じゃない、お前の親だ。それに気づかずに、また気に食わなければ親に言いつけるんだろ」



いい加減力ずくで蓮様の口をふさごうとするが、蓮様の言葉を聞いてそれを思いとどまった。なるほど、ここまで言われたらプライドの高いこの少年は親に何とかしてもらおうとは思わないだろう。僕が脅威に思っていたのは彼自身ではなく彼の振りかざす権力だけだから親の耳にさえ入らなければ大方問題ない。


目の前にたつ年下の的を射たセリフに黙り込む黄師原。


それを見て満足したのかしていないのか僕の腕を引きホールの方へ歩き出す。本当に自由だなこの子……。



「……待て」

「なんだ」



てっきり無視するものだと思っていたが、予想を裏切り首だけではあるが後ろに立ち尽くす少年を見た。



「敬意を持ったうえで聞く。苗字だけでいい、教えてくれ」



少々目を瞠る。未だ横柄な態度が残るものの、先ほどとは打って変わって落ち着いてそう聞いた。蓮様の言葉に何か思うことでもあったのだろう。



「白樺」


「隣のは」



隣にいる僕も聞かれる。一瞬僕に目を向け悩んだように視線を漂わせた後きっぱりといった。



「俺の妹だ」

「……そうか」



黄師原の返事を聞くともう用はない、と再びホールに向かい歩き出す。


蓮様の少しだけ後ろをついていく。



「すいません。ありがとうございました」

「さっきので別に良いよな?」

「何がですか?」

「えっと、」



涼のことをとりあえず妹ってことにして、親に言わないように口止めして……。と指折り数えて呟く蓮様はいつも通りでちょっと安心した。




そして心の中で呟いた質問は音にせず、そっと胸の内にしまっておくことにする。


「蓮様実は僕の前で猫被ってたりします……?」


これからのためにもこの質問はなかったことにしておこう。


革の扉を押した。

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