兄
更新遅れて大変申し訳御座いません!!
「お久しぶりです、白樺様。今日はもう一人のご子息をお連れしているとお聞きしたのですが……そちらが?」
「ええ、次男の蓮です」
あいさつに来たらしい中年の男が嘉人様の後ろにいる蓮様を失礼にならない程度に覗き込む。素振り自体はどれも品があり丁寧なのだが、瞳の好奇心の色は顕著なものだった。嘉人様の言葉に促されるように蓮様が前にでる。
「初めまして、佐渡様。次男の白樺蓮と申します」
「初めまして。なかなか利発そうな子ですね」
無難な褒め言葉を並べ朗らかに笑う。存在さえ確認できれば良いらしく興味を失ったようだったが、次は側にいた僕に目を付けた。
「そちらは……、もう一人お子様がいらっしゃったのですか?」
嘉人様が答える前に口を開きとっておきの笑顔を張り付ける。
「初めまして、佐渡様。私は涼と申します!」
「……御嫡女ですか?」
僕の限りなく情報の伏せられたあいさつに迷うような表情を見せる。きっと白樺とその親類にそんな名前のアルビノの子供がいたかを考えているのだろう。もっともそんな子供がいるはずもない。
「えへへ。蓮君は私のおにいちゃんなんです!」
隣にいる蓮様の腕に抱きつく。寸の間蓮様が顔を引きつらせるが気にしない。
佐渡様は確認するかのように嘉人様へ視線を投げるが、当の彼はさもそれに気が付かないかのように笑った。
「ははは、涼は蓮が大好きだな」
「はい!おにいちゃんは優しくてかっこいいんです」
敢えて質問には答えずに『兄』とだけ言っておく。そして嘉人様も同様に否とも応とも言わない。僕はひたすらに蓮様に引っ付きながら笑顔を佐渡様に向ける。もはや黙殺といっても相違ないレベルだ。これ以上埒が明かないと思わせるためだけなので必要以上に情報を与えない。
「……そうですか。それにしても―――」
おそらく僕のことは後で調べることにしたのだろう、話は仕事の話へと変わっていくのを見計らってスッと二人のそばを離れて人のいない壁際へ向かった。
「にしても涼。……そのキャラは気、「持ち悪いのは自覚してますから言わないでください」
掴んでいた蓮様の腕を離し一息ついていると今更な言葉を言われそうになり、先回りして黙らせる。ええ、そうでしょうよ。気持ち悪いでしょうよ。誰でもない僕がそんなことくらい自覚してますよ。自分で言ってて怖気立ちますよ、はい。
大きな革張りの扉を開けるとまた目が痛くなりそうなほど煌びやかであった。床はエントランスと同じように毛足の長い絨毯が敷かれているがホールの雰囲気自体はかなり違う。
まず部屋の中心には建前上立食会ということでいくつかのテーブルの上に沢山の料理が並べられている。豪華絢爛というに相応しい料理だが、手をつけているのは連れの子供たちだけである。少なくともこの立食会の前半は挨拶で占められる。その対応が忙しく、とてもじゃないが食べることはかなわない。何より一番感動したのは部屋の隅に立つ白い服を上品に着こなすボーイだ。現実では初めて見た。ああいうのはドラマや映画の演出だと思っていたのだが一流ホテルにはやはりいるらしい。流石は黄師原の系列のホテル。
大方の挨拶は済み、連れの子供たちは子供同士で話していたり皿に料理を乗せたりしている。小学生くらいの子たちは純粋に遊んでいるけれど、中高生の子たちは親ほどではないけれど情報収集に精を出している。
「お前人前から離れた途端顔面死ぬな」
「何が悲しくて蓮様にまで作り笑顔浮かべなくちゃいけなくちゃいけないんですか?勘弁してください」
ぞんざいにそう言うとなぜか嬉しそうな顔をした。解せぬ。
「今からどうしますか?あの小学生の中に混じってきますか?」
「勘弁してくれ、やってられるか」
冗談だが本気で嫌そうに顔を顰める。
「まあ挨拶は終わったので特にすることはありません。神楽様と会う以外は」
「……」
ちらりと伺ってみるが俯いていて表情は読めない。正直なところ、彼としてはほかの者との関わりよりも兄と会うことの方が今回のメインだろう。もっとも特に意図して言った言葉ではないので継いで重ねた。
「料理でも取りに行きますか?普段はいつも和食なのでこんな洋食は珍しいでしょう」
「……いや、やめておく。今なんか食ったらたぶん吐く」
「ちょ、大丈夫ですか!?一旦ホールから出ますか?」
あげられた顔は白を通り越して青く口元に添えられた左手がそれが比喩でないことを語っていた。
とりあえず近くにいたボーイに声をかけグラスに入った水を受け取り、蓮様の手を引いて廊下に設置されたソファに腰掛けさせた。
「水、飲めますか?」
「ん……」
水を渡しソファの横に立つ。もう少し早く言ってほしかったと小言が出そうになるが自重する。彼なりに状況を考えたうえで我慢していたのだろう。引っ込めた言葉の代わりに気付かれないよう小さくため息を吐いた。僕の個人的な願いとしては無理をしないでほしいのだが……。
「辛いのでしたらしばらくここで休んでいましょう」
「……涼は良いのか?」
「いえ、そもそも蓮様がいなければ僕が参加する必要ありませんし」
「料理とかあるぞ?」
「どうでもいいですよ。料理くらい自分で作ります」
「……洋食だぞ?」
「頑張れば作れるでしょう。……ご要望があればまた何かお作りしますよ」
「あのさ、」
「はい」
言い辛そうに隣に立つ僕を見上げて逡巡する。
「中に戻れって言わないのか?」
「何故?」
「……父様から俺のこと頼まれてるんだろ?それならお前の今日の仕事は会の間俺がミスしたりしないようにフォローを入れることだろ。それなら早く中に戻ることを考えてるんじゃないか?」
「…………」
まったく、この方は何を考えているんだろうか。本当に何もわかっていない。僕はくしゃりと癖っ毛を掻き撫ぜた。いつもより少しだけ力を込めてグリグリと撫でまわす。
「ちょ、涼、なんだ?」
「…………」
何が何だか分からないといった風の蓮様には返事をせず無言で隣に腰を下ろした。予想以上にソファは柔らかく軽く沈む。
「涼……?」
「いい加減愛想を振りまくのも疲れたんですよ。だから僕も休みたいんです。今日だけは職務放棄上等です」
ぐちゃぐちゃになった蓮様の髪から手をおろすと不安げに僕の方を見る。いつの間にか僕の身長を追い越した今の彼は少し窮屈そうに僕の顔を覗き込んだ。
「父様にばれたら怒られるんじゃないか?」
「ばれたら蓮様の体調がすぐれなかったと言っておきますよ」
このことは内緒です、と笑いかけると不安の色が薄れ、いたずらっぽく笑い返した。
要は蓮様に合わせてるわけじゃなくて自分がこうしたいからこうしていると言外に言う。きっと心配だからとか辛そうだからと、彼にいったら遠慮した上で不甲斐ないと自身を責めてしまうだろう。それくらいの思考回路は把握している。
僕の気遣いだと気にさせないためにわざと遠まわしに言う。彼には気付かれていないだろう。
しかし蓮様は聞こえるか聞こえないかの声量で呟いた。
「ツンデレか……」
「違います」
気付かれていないと思っていたのはどうやら僕だけだったようで。
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50話目到達です!
ここまで連載できたのも、いつも読んでくださる皆様のおかげです!ありがとうございます!
50話目だというのに未だに中学生にすらならない涼ちゃんに全然出てこない攻略キャラクターに一向に改善されない涼ちゃん蓮くんの兄弟仲。早く神楽くんを出したい……。
大変私事で申し訳ないのですが、今年から世間一般で言う 人生で一番勉強する一年 に突入したためいっそう更新が遅く、もしくはなくなります。もちろん、時間を見つけてちまちまと書いていこうとは思っているのですが……。
遅い更新ですが、もし良ければもう暫くお付き合いください。
更新されていたら、 あ、作者勉強してないな とか思いながら読んでいただけると幸いです。
これからも胡蝶の夢をよろしくお願いしますm(__)m




