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胡蝶の夢  作者: 秋澤 えで
小学生
30/157

お揃い

学校の門の前にたつと蓮様が硬直した。



「蓮様?どうかしましたか?」

「りょ、涼…なんでこんなに人がいるんだ……?」



今日は始業式でクラス替えの日、新しいクラスの名簿が大きく昇降口に貼り出されているため、今はほぼ全校生徒が昇降口に群がっている状態なのだ。慄くのも無理もない。僕としては通る生徒がことごとく蓮様をがん見することだ。見た目が目立つので仕方ないのだが、悪い方向に行かないことを願う。



「クラス替えの結果が昇降口に貼られているんです。僕たちも見に行きましょうか」

「お、おお」



怖いのも分かるがいつまでもここでつっ立っているわけにはいかない。蓮様を連れたって群れの中へ突っ込んでいく。ただやはり100人以上の中から探すのは非常に面倒…かとも思ったが、基本的に赤霧は名簿番号が早いので見つけやすい。



「あ、あった……」

「諸葛っ!志賀っ!」

「四ツ谷……!」



探しているうちに群れの中から四ツ谷が出てきて蓮様と僕にまとめて抱きついた。



「おはようございます、四ツ谷。もうクラスは見てきましたか?」

「ああ、一組、だった。諸葛と、志賀も、一緒…!!」

「三人とも一緒で良かったな!!」

「ええ」



知り合いに会うことができたため蓮様も緊張が解け四ツ谷とはしゃいでいる。その様子を見てちょっと安心した。こんな調子で他にも友達を作ってもらいたい。




三人で二年一組の教室へ向かう。ただ少々この組み合わせは良くも悪くも凄く目立つ。


頭の色は赤、白、黒。僕はこの学年でなら一番顔が知られているし、黒海もまあ変わり者なので結構目を引く。でも僕と黒海は去年から懇意にしているから一緒にいることは特に変わったことではない。でも周りから見ればただでさえ目を引く二人に、更にもう一人見慣れぬ白い髪の少年が加わったとなれば僕ら三人は異常な存在感があるだろう。自意識過剰では済まないほどの視線の数。蓮様も黒海も鈍いことが救いだろう。



教室につくと、どうやら去年と違って自由席なようで、まばらに生徒たちが席についていた。僕たちは一番後ろで窓際の席を陣取った。蓮様と四ツ谷が一番後ろに二席、僕が蓮様の前に座っており僕の右隣は空席である。この位置が最も蓮様にフォローを入れやすい席順なので二人にはばれないように注意を払いつつこの席まで誘導した。



「わぁ!赤霧君今年もおんなじクラスなんだね!嬉しい!」

「僕も嬉しいですよ、カナさん。今年もよろしくお願いしますね?」

「うん、よろしくね!」



最初の頃だけはタメ口で話していたが、言葉遣いの使い分けが面倒になったので今では完全に敬語がデフォルトになっている。むしろ敬語だと誰でも丁寧な印象を抱くためこっちの方がウケが良いのだ。


先頭きって話しかけてきた佐々木カナさんに続き去年同じクラスだった子達や以前声をかけた子達が僕のところまで挨拶に来る。数人目になったところで、二人ほどの女の子、確か二組の子だった、井上さんと工藤さんが僕にあいさつした後に僕の後ろの席の二人に目を向けた。


「ねぇ、後ろの二人は涼君の友達?」

「ええ、僕の大切な友人ですよ」


珍しく自分でも分かった。作り笑顔の中に滑りこませた本心からの笑顔。


「へぇ、よろしくね?」

「ん、よろしく……」

「よ、よろしく……!」



それだけ言うと井上さんも工藤さんも離れて行った。話し方がちょっとそっけない四ツ谷と挨拶を返すだけで精いっぱいで顔を真っ赤にさせている蓮様は、外から見ると興味なさ気に見えるのかもしれない。少し時間がかかりそうだなと思い苦笑いをこぼした。



時間が経つにつれてまばらであった教室の石が埋まっていく。机と椅子は人数分しかないため必然的にいずれ黒海の前、僕の右隣の席が埋まる。その席に座ったのは見たことのない男子だった。僕の右斜め前の席の男子とつれ立ち教室に入りそいつと喋りながら僕の隣に座る。しばらくはその二人は話していたがふと話を止めて僕に向き直った。



「なあ、お前ってあれだろ?去年三組だったあの赤霧涼だろ?」

「ええ、君の言うあの赤霧涼かは知りませんが、僕が去年三組だった赤霧涼です」

「マジ?あの完璧っていう赤霧?」



自分で目立つように行動していたとはいえ、自分の知らないところでいろいろと広まっているというのは少々気分が良くない。あの、ってなんだよ、どのだよ。



「あのって……何?」


僕の心の声を代弁するように黒海が聞いた。


「うおっ黒海か、びっくりした。気付かなかった」

「あの赤霧涼と言えばさ、マラソンとか運動会では必ず一位、書道でも入賞してたし、よく知らないけど頭も良い。しかも女子にもてる!何でもできる出来過ぎ君って感じ?」

「諸葛……凄いんだな……」



隣の男子の言葉に黒海と蓮様が目を丸くする。おい四ツ谷、蓮様はともかく何で四ツ谷までびっくりしてんの?一年間付き合いあったんだから知ってるだろ。まあそれなりに男子にも名前が広まっていて良かった。なんとかして『あの赤霧涼』というイメージに添うようにしよう。



「ところで君たちは四ツ谷、じゃない、黒海と知り合いなんですか?」

「ああ、名前言ってなかったな。俺は前村忠志」

「俺!日野拓真!俺らは去年黒海と同じクラスだった!」

「そうですか。改めて、赤霧涼です。よろしくお願いします」



前村と日野。うん、覚えた。僕の隣の席の前村は坊主頭で身長は僕より少し高いくらい、以前名前は聞いたことがある。噂ではクラス内で面倒見の良い兄貴的な立ち位置だったはず。日野は茶色がかった髪に身長は座っていて分かりにくいけど蓮様より低いくらい。こちらは完全に初対面だけど第一印象としては声の大きいお調子者…という感じか。前村と日野、セットでバランスをとっている雰囲気だ。



「去年廊下で黒海とお前が歩いてるのみてびっくりした!お前ら何の接点もなさそうなのに」

「休みの日に、公園で、たまたま、会った……。それから、友達」

「へえ、そうなんだ。……そっちの窓際の白い奴は誰?多分俺見たことない」


前村の言葉に蓮様がビクリと反応する。さあどうする蓮様!


「こいつは、志賀……」

「四ツ谷、初対面の人にあだ名で紹介しないでください。分からないでしょう。……蓮様」

「あ、えっと俺は白樺蓮。一年のときは学校に行ってなかったから……」

「ふぅーん、俺前村。よろしくな」



前村は去年学校に行ってなかったことには空気を読んだらしく特に言及しなかった。良い子だこの子…!


「あれか、お前。ふとーこーってやつか?」


日野(こいつ)突っ込んできやがった…!空気読め!前村を見習え!


「ふとーこーって何?」

「拓真……不登校のことか……?……自分で分からない言葉は、使わない方が、良い。……馬鹿丸出し」


蓮様はわかっていないらしいが、四ツ谷は分かったのだろう、質問には答えずに辛辣に指摘しながら流した。


「んなっ、八雲!俺馬鹿じゃねぇし!ふとーこーって意味知ってるし!!」

「はいはい、分かったから、うるさい」



前村に窘められむくれる日野。正直ありがたい。日野は悪い奴じゃないがちょっと配慮にかける。小学校低学年ならこんなものなのかもしれないが。



「むう……。にしても蓮の髪の色と目の色って変わってるよな。変」



一番指摘されたくないところをいきなりピンポイントで突いてきやがった……!視界の端で蓮様がビクリと反応する。今までの彼の世界では白髪赤眼は()()だったのだ。誰にも変わってるなんて言われたこともないし、周りと違うことを自覚したこともないのだ。温室育ち、などと言われるほど過保護には育てたくないのである程度知っていてほしいが日野の遠慮のない言葉には少々頭を抱えたくなる。これで蓮様の心が折れないでいてくれると良いが…。



「俺……変なのか?」


どこか心細そうな声にジワリと日野に対する非難が湧く。態度には一切出さないように気張るが。


「うん、変。だって他に白い髪の奴なんていねぇし。なんで白いんだ?」

「それはさ、僕にも言ってるんですか?僕みたいな赤い髪も他にいませんけど、変ですかね……?」


あくまでも笑顔のままだが少しだけ威圧感をにじませた。


「そもそもお前は自分の髪がその色の理由知ってんのかよ?」

「拓真が、馬鹿なのと、同じ。拓真が馬鹿なのは、元から。志賀の髪が白いのも、元から……」



僕の雰囲気を何となく感じ取ったらしい四ツ谷と前村がそれとなく援護した。僕一人だとこうはいかないのでありがたい。



「だからさっきから八雲は何なんだよ!?俺のこと嫌い!?」

「嫌いじゃない、けど、拓真にはデリカシーが、ない」

「でりかしーって何!?」

「変って言っても、僕と蓮様の目の色はおんなじです。お揃いなんですよ?」


羨ましいだろ?とでも言うように蓮様のかたを抱く。


「お、お揃い……!なぁなぁ忠志!俺らもなんかお揃いのもんない!?」

「簡単だ。お前が頭を丸めれば良い話だろ?」

「えっ!俺、忠志みたいにハゲたくない……!」

「ハゲじゃねぇよ、その髪むしるぞ?」

「八雲は……!」

「俺は……拓真と同類に、見られたくないから……」

「さっきから俺に対してあたりがキツイ!!」



一瞬だけ殺伐とした空気になったけど前村と黒海がさり気なくフォローを入れ、それに乗っかるように僕もおどけてみせれば話はなんとか別の方へ流れていった。チラリと横目で蓮様を見ると蓮様ももう気にした様子もなく笑っていた。とりあえず安堵する。



そこでちょうど担任らしい女性教師が教室に入って来ておしゃべりは中断される。日野はそれに気付かず話し続けていたため前村に頭を叩かれていた。



先生のありがたいお話は右から左へ聞き流しつつ考える。


僕はちょっと心配し過ぎだったのかもしれない。僕の多大な懸念は杞憂に終わりそうだ。


このまま何事もなく過ごして欲しい。どうかこのある程度の平和な日常が送れるように。

お気に入り登録900件!感謝です!

いつもありがとうございます、これからもよろしくお願いしますm(__)m

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