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胡蝶の夢  作者: 秋澤 えで
幼少期
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赤霧家之系譜

さて、一歳になった私は完璧にとはいわないが、話せるようになった。私の努力のおかげか、それとももともと赤霧涼がハイスペックなのか、何の意味もなさない喃語から多少意思の疎通ができる程度には話せるようになった。

ついでに少しでも早く歩けるように前々から筋トレが功を奏したのか否か、もう家中を歩き回っている。まだすたすたと歩くことはできないものの、よたよたと一人で徘徊できるようになった。ちょこちょこ襖や障子に突っ込みそうになりこっそり肝をつぶしている。


歩き回って気づいたのだが、この家は本当に大きい、というよりもはや家というより屋敷といった方が正しいだろう。最初は迷子になりかけて涙目だったけど、一周したら無事に間取りを覚えられた。幼児の記憶力侮りがたし。

自由に歩き回れるのを良いことに屋敷中のありとあらゆる本を読み漁っている。ただ中心となるのは、赤霧家と白樺家のことと基本の歴史のことだ。過去に自分が学んだことと違いがあるかもしれないため、不安だったが私が習ったものと相違ないようで安心した。というか私自身日本史が好きだったので大きく変わっていたら相当ショックを受けていただろう。




赤霧家と白樺家のことだがその昔、両家は武家であったらしい。しかし両家が仕えていたのは別の殿様だった、つまり戦乱のその時代両家は敵同士であったのだ。


ある時、赤霧家にはあらぬ嫌疑がかけられた。そして、同じように仕えていた者の中に赤霧家を庇う者は誰一人としていなかった。

最早これまで、と一族郎党皆死を覚悟していたのだが突如そのかけられた嫌疑は消え失せた。どうしたものかと経緯を調べたところ、その嫌疑を晴らしたのは何の親交もなかった白樺家であったのだ。

「何故このようなことを?」と白樺家の筆頭に尋ねた。すると彼は事なさげに「有能な者が無能な者の謀故に殺されるなど、道理に合わん。」とだけ言ったという。

戦乱の世が終わった後、赤霧家は恩を返すために白樺家に忠誠を誓った。



とまあ、大方はそんな話らしい。他にも武勇伝的な形で書かれたものもあるが要は、白樺家を敬え、みたいな感じだ。正しい云々ではなくひたすら白樺家讃歌と化している。

以上が私が本を読み漁った成果だ。


もちろん、家の人にはバレないようにしているつもりだ。人目を盗んでこっそりと読んでいるのだから。流石にあの脳天気な両親と言えども、一歳の娘が教えてもないのにバリバリ漢字の使われている古文調の歴史書をスラスラ読んでいたら気味悪く思うだろう。


そして今も私はコソコソと『赤霧家之系譜』を読んでいる、



「涼ちゃん何読んでるの~?」

「に"ゃっ!?」



はずだった。

背後には今日も今日とて脳天k、いやご機嫌麗しい母様がいらっしゃった。びっくりし過ぎて変な声出ちゃったじゃないか。



「どれどれ…」



いつの間にいたのか知らないが隣でニコニコしていた父様が私の手からひょいっと、本を掻っ浚っていった。幾ら何でもこれを見られるのは不味い雑でも絵本か何かでカモフラージュすればよかったと思うも時すでに遅し。



「涼、これを読んでいたのか?」

「まあ!涼ちゃんがこれを?」



あ、これ完全にアウトですね、はい。ジ・エンドだね。思わず真顔になる。

ただでさえ立ち始めや喋り始めが早かったのだ、気味悪がられるに違いない。

いくら能天気な両親といえど、流石に誤魔化しはきかないだろう。



「すごいな涼は!!もう字が読めるなんて!!」

「……ふえ?」

「そうね!正に神童!流石私達の自慢の娘!」

「ほえ?」

「しかも『赤霧家之系譜』……赤霧の血を色濃く継いでるに違いない!可愛いうえに優秀、しかも落ち着きがあるなんて非の打ち所もないな!」

「将来が楽しみね!お祝いしなくちゃ!」



呆然とする私を置いて狂喜乱舞する両親。どうやら認識を改める必要があるらしい。この二人は脳天気どころじゃない、脳内年中お花畑夫妻だ。ご都合主義の極みだ。


これにより、もう本をコソコソ読まずに済むのは良いのだが、

異様にテンションの高い両親の所為で私が冷め、より子供らしくなくなることにいい加減気がついてほしい。切実に。

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