初めての友達
前回長かったので今回は短めです
「ねぇ、志賀はさ、来年学校に入るのか?」
「うん、その予定だ」
「じゃあ、来年、俺も、志賀も、諸葛も、同じクラスだと、良いな」
黒海の言葉に照れながらも蓮様は笑顔で頷いた。
昼ごろに公園に来て遊び始めてから時間がたちもう太陽は傾き、三人の影を長くさせていた。
「蓮様、そろそろ時間が……」
「ああ…四ツ谷、お前はよくここに来るのか?」
「土曜日か、日曜なら、よく来る」
「……また、ここに来れば会えるか?」
「ん、また遊ぼう。今日は、楽しかった……」
そう言って黒海は僕たちに手を振って、僕らの家とは逆方向に帰って行った。
蓮様と二人並び元来た道を名残惜しげにゆっくりと歩く。
「初めての外はいかがでしたか?」
「うん、楽しかった!それに、」
「それに?」
「……友達ができた」
嬉しそうに、顔を赤くしながらそう言った。正直なところここまでは望んでいなかった。せいぜい外にでて一時間程度散歩して、公園で遊具の遊び方を知る、その程度のつもりだった。黒海、四ツ谷という初めての友人ができたのは本当にうれしい誤算だ。そしてあの公園にいてくれたのが四ツ谷で助かった。四ツ谷の話し方はのんびりとしていて尚且つ一つ一つ言葉を選んでいるため、こちらにしっかりと考える時間をくれている。僕以外の同年代と初めて話す蓮様からすれば、考えもまとまらないまま口に出す年相応な子よりもゆっくりと返事を急かさない四ツ谷の方がずっと話しやすいだろう。
「初めての友達ですね」
「……涼も学校にはたくさん友達がいるのか?」
「……はい、みんな良くしてくれます」
蓮様の質問に一瞬だけ言葉に詰まった。
学校では常に作り笑顔を張り付け、その場に相応しい言葉を探し、打算的に動き続けている。そんな関わりしか持たない同級生たちを友達と呼んでいいものだろうか…?学校で張り付ける『赤霧涼』ではなく、今こうして蓮様や四ツ谷と遊んだ『僕』が答えに迷った。
「そうか、俺も学校に行くようになったら友達がたくさんできるかな?」
「ええ、きっと」
それは僕の願いだった。
学校には友達と呼べる友達のいない僕ではなんとも言うことができない。ただ、蓮様に友達ができることを心から願う。
「今日は今までで一番楽しい誕生日だった」
「それは良かったです。これからも少しずつ外に出ていく回数を増やしましょうか」
「ああ。……最初四ツ谷に会ったときさ、ちょっと怖かった」
「四ツ谷がですか?」
「いや、涼が」
蓮様の言葉にどきりとする。
「僕が…何故ですか?」
「なんだろう……何となくかな?……あっそうだ。涼の顔がすごく怖かった」
「顔ですか……怒ったような顔してましたか?」
もしそうなら僕としては死活問題だ。四ツ谷と最初に話した時、僕は学校で使う全力の作り笑顔を発動していた。それが怖い顔であったならまた笑顔の練習をしなくてはならない。
「ううん、怒ってるんじゃなくて、なんか笑ってるのに笑ってない?みたいな。普段のお前の笑い方と違った。それでお面を着けてるみたいだった」
「お面……」
嫌な汗が背筋を伝う。無意識のうちに繋いでいない方の手で顔を撫でていた。
口の端を持ち上げて、少しだけ歯を見せる。目は少し細めて目じりを下げる。これで笑顔のはずだ。
周りから自分がどう見えるか研究した結果だ。いくつか笑顔を使い分けられるようになって、相手によって違う笑顔を見せる。それぞれの相手にもっとも良い印象を抱かせるために。
ある意味蓮様の言うことは的を射ていた。人によって作り笑顔を使い分ける。正にお面を付け替えているのと同じだ。自然と自嘲の笑いがこみあげてきた。お面を付けた相手と、何が友達だ。
「でもさ、途中から普通に笑ってて安心した」
僕の様子に気づくことなくヘラリと蓮様は笑った。
「……普通に笑ってましたか?」
「ああ、いつもと同じように笑ってた。むしろいつもより笑ってた。なんかほほ笑むとかじゃなくて自然と言うか……。ほら、いつか何年か前に、母様が離れの庭に来て小鳥にナンを千切ってまいてた時みたいな笑い方!」
そんなことあったな。確か雲雀様に蓮様の様子を伝えた後に彼女が奇行にでたと蓮様から教えてもらった。その時に初めて蓮様の前で声を出して笑ったんだ。
「そんな風に、僕は笑ってましたか……?」
「ああ!」
「蓮様……四ツ谷は蓮様の初めての友達ですが、」
「うん?」
「もしかしたら僕にとっても初めての友達なのかもしれません……」
最初こそは他の同級生と同じように接していたけどいつの間にか素で、『僕』として話していた。しかも気付かないうちに。
作り笑いじゃなくて、心からの笑顔で。
打算的なセリフじゃなくて、本心で。
その時目の前に見えることだけを考えて四ツ谷と話していた。
何も気にせずに、気も張らずに話せた同級生は初めてだ。
「……そっか、良かったな」
「はい、本当に」
蓮様は僕に何を聞くこともなく、ただ笑顔でそう言った。
引き際を理解しているこの主人にも、僕はきっと本心で付き合えているのだろう。
さっきよりも少しだけ強く手を繋いで、僕たちは門をくぐった。
ずっと前から出したかった四ツ谷君を出せて良かった!
彼とは長い付き合いになりそうです。




