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胡蝶の夢  作者: 秋澤 えで
幼少期
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予期せぬ邂逅 (2)

ぬかったぁぁあっ!完全に気を抜いてた!まさかこんな所で攻略キャラに会うなんて!少なくとも高校にあがるまでは会わないものだと勝手に思ってた。


ゲームに巻き込まれるのは面倒なので回避するつもりだったから、他のキャラには極力会いたくなかった。

 自分がやってたゲームでもないし、ゲームの世界を間近で見たい、と思えるほどミーハーでもない。なのに何故本名、しかもフルネームで名乗ってしまったんだ。数分前の自身を殴り倒したい。喧嘩なんてほっておいてさっさと帰れば良かった。



「ど、どうしたの?」



名前を教えた途端黙り込んだ僕を不思議そうに見る。



「……いや、何でもない」

「そ、そう…?」



そのまま帰ろうとするも彼は僕の手を離す気はないらしい。お願いです、帰らせてください。これ以上君と関わる気はないよ…。



「待って……涼君は、その、えっと……」



手を掴んだまま何か言いたげにもごもごする。



「何だ……?」

「その、りょ、涼君は、僕が気持ち悪くないの?」

「……どこが?」

「だ、だって僕の髪は……みんなと、違うから……」



片手に持った帽子をギュッと握り、軽く俯いて言った。


サラサラと若草色が流れるように揺れる。



「……僕の髪だって人とは違う」



伸びてきて鬱陶しくなってきた前髪を引っ張った。



「で、でも涼君格好いい色だし……」



ああ、またイライラしてきた。ついさっき発散させたはずなのに、蝉の声にすらかき消されそうな弱々しい声に苛立ちが募る。



「髪の色なんてなんだって良いだろ」

「で、でも皆は変だって言うし……」



なんなんだこいつは。どうしたいんだ?自分を卑下して楽しいのか?



「さっきから、でもでもってうるせぇよ……」



僕の苛立ちが伝わったのか、ビクリと震え、涙目になっている。



「で、でも、んむぅ!?」

「でもって言うな」



先程うるさいと言ったばかりなのにまたでも、と言おうとしたので緑橋の唇を指で挟む。今は所謂アヒル口の状態だ。



「アホ面……」

「むぅ……」



何か抗議したげだが、今は聞いてやるつもりは毛頭ない。



「さっきから、皆が皆がって言うが、だから何だ?言われたから、だからどうした。他の人間がどう思おうとお前の髪は緑だ。…お前の親の髪は何色だ?」



手を離してやる。



「……僕と同じ色」

「ならお前は、親の髪も変だと思うのか?」

「っ思わない」

「だろう?…親から継いだものだ、誇りに思え。堂々としてろ。他人に何を言われても気にするな。分かったか?」

「う、うん!」



自分より少し低い位置にある頭をわしゃわしゃとかき回した。



「せっかく綺麗な髪なんだ、貶すなよ?」

「りょ、涼君……」

「何?」

「ありがとう!」

やかましい蝉の声にも負けない位の声だった。





「やっちゃったなぁ……」



買い物から帰り、一人呟く。何であんな説教なんてしたんだろ…。相手を誰かわかった上に更に印象付けるとか、馬鹿の極みだ。いったい何がしたいんだ僕は…。


まあ唯一の救いは緑橋が僕の事を完全に『涼君』、男だと思い込んでることだろう。後半からは出来る限り男っぽい口調で話したことが功を奏した。というより、そんな余裕あるならさっさと立ち去れという話なのだが。


……ふと気づいたのだが、普段から男装してるから今緑橋に男だと思わせても意味なくないか?彼のなかでは恐らく『涼君』=『男』万が一次に会ったとしたら『目の前の男』=『あの時の涼君』となるのでは……?



「無意味じゃん……」



きっと彼にガッツリ認識されてしまっただろう。希望は薄いが、僕のことを綺麗サッパリ忘れてくれることを願うことにしよう。




家に戻り、机の上に荷物とお釣りをまとめて置いておく。まだ母様はいないが多分夕食を作り始めるまで時間があるだろう。料理の手伝いもしなくてはならないが、今はとにかくこの落ち込んだ気持ちを何とかしたい。


時間は短いかもしれないが行こうか。




「こんにちは~」

「ああ、来たか涼……」

「……どうしたんですか?」



可愛い蓮様を見て癒やされるため離れに訪れたのだが、襖を開けると蓮様は畳の上で溶けかけていた。



「暑い……」

「クーラーをつけてはどうですか?」

「クーラーつけるとお腹痛くなる……でも暑い……」

「なんとも難儀な身体ですね……」



クーラーが設置されていても使えないなら意味がない。というより冬は火鉢なのだからこの部屋のクーラーの存在価値って。

畳に転がる蓮様が視線だけ上げて僕を見上げる。



「なぁ俺って、面倒……?」



不安げに少し揺れる赤い目を見て、僕は蓮様の側にしゃがんだ。



「面倒だったら貴方の側にいようとはしませんよ。嫌なことはしない主義ですから」

「そっか……お前そういうとこ正直だもんな」



…嫌なことはしない主義、をあっさりと肯定されるというのは少々引っかかりを感じる。蓮様の中の僕ってどんななんだろう…。



「なあ、涼」

「はい、何でしょう」

「……ありがとな」



はにかみながらもこの上のない笑顔。疲れや気がかりなことも全て吹き飛んだ。



「貴方は貴方のままでいいんですよ」



何に対してのありがとうなのかは聞かないでおく。聞かずとも何となくわかった。


ただ時間を見つけて彼に会いに来て良かった。


他のキャラクターがどうだとか、ゲームがどうだとかはどうでも良いや。僕はただ蓮様の側にいられればそれで良いんだから。


もう少し日が落ちたら、目の前で暑さに悩む主のために打ち水でもしようか。

25話目にしてやっと他のメインキャラクターを出せた…

展開遅くてすいません。まだしばらく緑橋君の出番はありません…


予約投稿はあと三話…orz

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