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胡蝶の夢  作者: 秋澤 えで
幼少期
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予期せぬ邂逅 (1)

夏のある昼間、僕は母様に頼まれおつかいに近隣のスーパーに行ってきた。

暑くなってきて、蝉も最盛期ではないが元気いっぱい不快な声で鳴いている。奴らの声は本当に暑さを助長させているようにしか思えない…。


ジリジリと肌を差す太陽にうんざりする。チートな身体ではあるが、流石に暑さを感じさせない訳ではないらしい。


カラリ、コロリ、足元の下駄が軽快な音を立てるのが僅かに涼しげで唯一の救いだ。ちなみに僕の今の格好は、淡いストライプの水色の着流しに紺の鼻緒で高めの下駄、少し伸びた赤の髪を細く束ねている。


この格好でスーパーに入ると異常に浮く。

着流しに片手に買い物カゴを持った幼児…。擦れ違う人がことごとく二度見する。まあそれなりに身長はあるし、高い下駄を履いてるから小学生位には見えるだろう。


人に見られるのは最初こそ不快だったが余りにも見る人間が多いので逆に反応を見るのが愉快になってきた。いっそ堂々としていた方が格好良く見えるし。




買い物袋片手に家へ急ぐ。スーパーまでは片道徒歩20分程。近くもなく、遠くもなくといった距離だ。ただ暑いのでイライラしてきた。一刻も早く家に戻って麦茶飲みたい……。


近くの公園からは子供達の声が聞こえてくる。この暑いってのに子供は元気だな……。思考がおばさん臭くなってきた、自重しよう。


騒ぐ子供達のいる公園は丁度僕の帰り道に面した公園だった。



数本の高い広葉樹が生えているが、そう広くはない公園だ。すべり台やブランコ、ジャングルジムにシーソー、良くある遊具がいくつか置かれており、近所の子供達はよくこの公園で遊ぶ。僕は行ったことがないが。だって今更砂場で、さぁ遊べ!って言われても困る。どんなことして遊んでたんだっけ?



騒がしい公園のそばは通りたくないが、この道が家への最短経路なため道を変える訳にはいかない。


しかしその公園に近付くと子供の声は楽しく遊んでいるという雰囲気ではないことに気付く。無駄な聴力をフル活用し、その会話に耳を傾けた。別に何か考えがあった訳じゃないが、なんとなしにそうしてみた。



「そ、それ僕の、だから……返してっ……」

「はあ?全然聞こえねえよ。もっとしっかり話せよっ」

「イタッ……」

「おいおい、ちょっと押しただけだろ?大げさに倒れるなよ!」

「弱っ!本当にこいつ女みたい!」

「実は女なんじゃねえの?」

「……っ」

「かもなぁ!!あははははっ」



……とまあ状況を要約すると、ガキ大将的な少年Aと取り巻きB、Cが帽子を被った少年からボールをとりあげたらしい。すっかり小悪党の様子が板に付いてる。


普段なら人の喧嘩に首を突っ込まないが暑さで無性にイライラしていた僕はガキ大将な小悪党の鼻っ柱へし折ってやろう、という気になった。流石に手を出して泣かれると面倒だから適当に圧力かけて散らせよう。




そのまま公園の中へ入る。少年を虐めるのに夢中な少年ABCは気付かない。

しかし帽子の少年は僕の下駄の音に気付いたようで此方を見た。帽子のつばの所為でよく顔は見えないが明るい緑の目に涙を浮かべているのが見えた。


「ははははっコイツ泣くんじゃねぇ?」

「ほら泣けよチービ!」


先程突き飛ばされ、しゃがみ込んだままだった少年をAが無理矢理引き起こす。しかしCの言葉に反して少年は泣くのをぐっと堪えていた。Aはそれが気に入らなかったらしく右手を振り上げた。…そろそろ止めようか。


パシっ!


Aの振り上げられたただ太いだけの右腕を掴む。


「何をしてる……?」

「な、何だよお前っ!?」

「質問しているのはこちらだ。何をしている、いや何をしようとした?」



ABCを順番に睨みつけるとビクリと身体を震わせた。無論、腕は掴んだまま。子供相手なら下手に怒鳴るより低い声でゆっくり話した方が効果がある。

BCは怯みまくっているがガキ大将Aにはプライドがあるようでビクビクしながらも退こうとしない。



「も、文句あんのか?お前には関係ないだろっ、人の喧嘩に手を出すなよっ」

「へぇえ、喧嘩?三対一で?……楽しそうだな、僕も混ぜてよ」



腕を握る力を強めるとAの顔が引きつった。もっともこの腕をへし折るのは簡単だが、折った後の始末が面倒なので手加減はする。



「は、離せっ!」

「ほらよ」



言われた通り素直に離してやる。Aの腕には赤い僕の手形がついていた。痣にはならないだろう。



「いってぇ……」

「で?やるんだろ?喧嘩。かかって来いよ」



ポキポキと指を鳴らし帽子の少年をさりげなく後ろに庇い一歩前へ踏み出す。


少年ABCは後ずさる。



「ね、ねぇ小嶋君、止めておこうよ?」



少年BがA、もとい小嶋君の手を引っ張った。Cもそれに同意するように頷く。

流石は取り巻きをやってるだけはある、状況がよく分かっているようだ。



「うるせぇっ!」

「それで決まった?やるの?やらないの?……僕はあまり気が長くない」



再び睨みつけるとビクリと反応し後ずさった。



「お、俺たちは悪くないっ!」

「ほぉ、その理由は……?」

「そいつが変な色の頭してるから…!変な奴はいない方が良い!」



ちらりと背後に目をやると今度は背後の帽子の少年が肩を震わす。変な色の頭、かは知らないが帽子を被っているため髪の色は分からない。



「変な色、ねぇ……。僕の髪も黒や茶色じゃなくて赤なんだけど、僕のこともバカにしてるの?」



軽く返すと黙り込んだ。



「それにボールを取り上げる理由にはならないし、殴って良い訳じゃない。そんなことも分からないのか?」



また一歩前に出る。




「こ、小嶋君っ帰ろうよう!」

「くそっ、覚えとけバーカッ!」



小嶋君と取り巻き達はボールを投げ捨て、悪党の三下によく似合うセリフを吐いて公園から出て行った。



その背中を見送った後、振り返ると帽子の少年はビクリとした。足元に落ちたボールを拾い上げ、木の下に座り込む少年の下へ向かう。



「……怪我はないか?」

「……へ?」



恐る恐る僕を見上げた少年にボールを手渡す。



「お前のだろ?」

「う、うん、ありがとう……」



帽子の少年は怯えた目で僕を見ながらもボールを受け取った。



「別に取って食ったりなんかしない」

「あ、えっと、ごめんなさい……」



消え入りそうな声で謝られる。

そりゃあさっきまで人を恫喝してた人間が近づいてきたら危害を加える加えないに関わらず怖いだろう。



「じゃあな」



イライラを発散させる目的を果たした以上、もうここに用はない。

というより、今の僕イケメンじゃないか?紳士じゃないか?虐めっ子から人を助けるって紳士だろ……。


勝手に自己満足してそのまま帰ろうと背を向けた。



「あ、ま、待って……!!」



後ろから声を掛けられ軽く右手首を握られた。



「なんだ?」

「あの、えっと……名前を、教えて?」

「赤霧涼、だ」



この時の僕は無表情で内心舞い上がっていたため、何も考えずに本名を名乗った。

しかしこれは重大なミスだったんだ。



「りょ、涼君っ。助けてくれてありがとう……!」

「別に構わねえよ。お前の名前は?」

「ぼ、僕の名前は緑橋優汰」

「……」



そのまま彼は帽子をとる。


彼の髪は鮮やかな若草色だった。


六つの色の赤、白に続く三色目。


自身の犯したミスに気付いた。

私事で大変申し訳ないのですが、入院することになり、更新が遅れることになると思います。書きためはしておくので、いずれ一気に更新しますm(_ _)m

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