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胡蝶の夢  作者: 秋澤 えで
高校生
103/157

結果発表

「嘘だろ……、」

「えっへへ、やればできる子なんだよ!」



廊下に貼り出された今回の試験の上位50名の名前。名前の下には得点数がかかれている。長々と貼り出された名簿の先頭の名前、そしてその得点に愕然としていた。



1位 進藤 日和 900点


2位……………



「……いや、900点って……満点じゃ……!?」

「頑張ったの!」

「頑張ったの、て……本当にやればできる子なんですね……」



僕らだけではなく、周りの他の生徒も愕然としている。それもそのはず、中等部から上がってきた内部生であれば何であの子が!?知り合いでなくとも満点という異様な点数を叩きだした生徒がいることにざわめいている。学年内ではすでに成績の良い人はある程度知られている。しかしその中に日和の名前が挙がったことは今までなかったのだ。にも関わらず唐突に主席に躍り出たことはまさに青天の霹靂である。



「やればできる子ってほどがあるだろ」

「んふふふ!一応私頭良い子だよ。そもそも学力奨学金受けてるからそれなりの順位だったし、自信もあったんだよね」



ドヤ顔をしてみせる日和の顔を黒海が恨めし気につつく。主席とはさぞ真面目そうな人なのだろう、という皆の想像を裏切り、今回の主席は調子に乗りやすい小さな少女。しかも今回やる気を出した理由は間違いなく僕らの中での賭け事である。哀れなのは2位の生徒だ。今回賭け事を僕らがしていなければ、きっと彼が主席だっただろうに。



「じゃあみんなに何してもらおっかなぁあ!」



心底愉快と言わんばかりの無邪気とも邪気塗れとも見える笑顔で思案する日和に、三人の背中を嫌な汗が流れる。さらっと恐ろしいことを命令されそうで怖い。簡単なものであるといい。三人の心情が一致した。



「と、とりあえず自分たちの名前があるか探そう!?」

「もう私に負けたのは確定してるのに?」

「それはそれ、これはこれ……。今回は、俺たちも頑張ったし……名前あったら嬉しい、から……」



時間稼ぎのように一番端から歩いて名前の羅列を見ていく。すぐ4番目に自分の名前を見つける。今回は賭けに勝つためにいつもよりかは勉強していたのだが、負けてしまっていたら元も子もない。ただなんにせよ満点を取る気はさらさらなかったので日和にはどう頑張っても勝てなかっただろう。



「……!あった、42位……ギリギリ、だけど。……とりあえず、蓮には、勝った……!」

「くっそ、俺がドベか……、名前ないし」

「これに懲りたら毎日コツコツ勉強してくださいね」



今まで歴史以外ひどかった黒海がここまで上がったのはおそらく記憶力の問題だろう。彼は基本的に興味さえもてば記憶力が良い。そのため苦手だった英語や国語は試験範囲の丸暗記に走ったのだ。理系教科でも暗記である程度は点が取れる。そのため急激に得点が伸びたのである。


一方の蓮様は基本的に暗記が苦手だ。本人曰く、意味の無い物を覚える気にならないらしい。理系教科はかなり上がったが、英語など単語を覚える必要があるものはあまり上がらなかったのだ。



「でもまあ順位も点数もかなり上がってると思いますよ?短冊が配られますから、そっちに期待しましょう」

「おう……でも日和がなあ……」

「それはまあ……」



ちらりと日和を伺えばによによと何やら思案する顔に成績の向上を喜ぶ暇なく三人して青ざめた。願わくば僕たちに可能な「命令」ではなく「お願い」であるように。




******




「三人とも!お願いする内容決まったよ!」

「お、おお……な、何にしたよ」



授業後嬉々として日和が宣言する。腹を括りつつも慄く蓮様の心情は然もありなん。僕も含めて思わずこわばる。なんでも来い。するかは別の話だが。



「写真、とらせてくれない?」


「写真、ですか……?」

「そう写真!」



にこにこと屈託なく笑って見せる彼女に肩すかしを喰らった気分になる。あれだけいろいろ考えていたのだ。さぞ恐ろしいものを考えているに違いないと思っていたが、想像以上にかわいらしいお願いであった。



「そんなんで、いいのか……?せっかく、いろいろやらせられる、機会だぞ……?」

「黒海!唆すな!」

「良いの良いの!また色々してもらうのは次私が勝ったとき!」



まさか次があるとは……軽く言って見せる彼女に戦慄が走る。次をやっても絶対彼女が勝つだろう。負け戦などしていられるものか。



「それで、なんで写真なんですか?ほかにいろいろあるでしょうに……、いや、写真で僕は全然良いのですが」


「いやさぁ、最近部活の方でほとんど人撮ってなくてね。最近は風景とか静物とか建物とかばっかでつまんないから、人を撮りたいんだ。で、部員同士で撮りあったりしたんだけど、せっかく撮るならイケメンが良いし。イケメンが、良いし!」



拍子抜けながら、理由もまともで同時に彼女ならあり得そうな内容のため納得する。それに中等部のころを含めて僕らはあまり写真を撮っていない。特に理由はなくなんとなくこれといった撮る機会がなかったのだ。三年も一緒にいながら、撮った写真といえばクラス全体の集合写真や修学旅行などで業者が撮っていた写真など、意識的に撮ったことがなかった。



「まあ撮るなら日和も一緒に撮ろう。お前はいつも撮る側だし、部活の最中ならほかに撮ってくれる部員もいるだろ?」

「んー、私はあんまり撮られるの好きじゃないんだけど……たまには良いかもね」



そう朗らかに笑った後、小さな聞こえるか聞こえないかというくらいの声量で、「初めにこういうお願いにしておけば次の試験の賭けにも乗ってくれるかもしれないし、ね……」と呟いていて背筋が冷たくなった。次が怖い。




********




写真は結局その日のうちに撮ることになった。他の部員たちもそれぞれ勝手に被写体を連れてきているらしい。曰く、今日は顧問が出張でいないため、顧問の意向を無視するにはもってこいの日なのだそうだ。ただ部活中となるとガッツリ部活をやっている黒海は部室まで来れない。そのため黒海に関してはまた別の日に、ということになった。それで良いなら後日みんなで撮れば良いかと思うが、今日どうしても撮りたいらしい。まあ自分だけ被写体がいないというのは嫌なのだろう。

黒海抜きの三人で写真部の部室へと向かう。



「そういえば今まであんまり聞いてなかったけど、写真部ってどんな活動してんだ?それこそ体育祭とか文化祭とか……そういうイベントの時に腕章を付けてんの見るくらいだったし」


「写真部だから写真を撮るよ!年に一回撮った写真をコンクールに応募してるんだ。主な活動はそれ。あとは普段から写真を撮ってる。活動は隔週だからそれで十分だね。今の顧問の先生は果物とかガラスとか、生き物以外をを撮るのが好きみたいで……今の部室はそういうモチーフで溢れかえってるよ」



そのせいで新聞部から文句を言われて最近肩身が狭いの……と続けた日和に首を傾げる。



「何でそこに新聞部が……?」

「ああ、やっぱ外部の生徒はあんまり知らないよね。写真部と新聞部ってあんまり活動の場がないじゃん?だから部費も少ない上に部室を確保するのもきつくて……、結局新聞部と写真部は合併することになったんだ。新聞部は前々から写真部が撮った写真を掲載してたし。ま、合併っていうのは形式上の話で、実質は部室を分け合ったり情報を共有してるだけだよ」



要するに、弱小部に回せるものは少ないため弱小部同士をくっつかせて何とか存続させている状態らしい。両部ともにイベントでの撮影、校内新聞など委員会にも似た仕事があるため吹けば飛ぶとは言い難い。しかしながら部員も少なければ活動の場も少ない、よって部費も少ないというのが実情らしい。


そのため合併させることにより、実質的部員数を増やすことでなんとか弱小から脱出を図ったのだ。結果的にそれは成功しているらしい。新聞部は写真部から写真をもらい、写真部は外部とのつながりの多い新聞部から、外部で出展できそうな情報をもらっている持ちつ持たれつの関係なのだそうだ。ただ同じ部室に詰め込まれているということで、写真部のモチーフが邪魔だの、新聞部の資料がうっとおしいなどお互い思うところがあるらしい。


そんなこんな話していると一つの教室へとつく。引き戸を見れば手作りらしいがかわいらしい「写真部」と書かれた張り紙がすりガラスに貼られていた。



「合併したのに貼り紙は写真部だけなんですか?」

「ううん。教室の戸って前と後ろに二か所あるでしょ?後ろの戸は写真部の貼り紙、前の戸が新聞部の貼り紙があるの。ちなみに中も写真部と新聞部で半分こされてるよ」



合併されながらも一応住み分けはされているらしい。


話を聞きながら引き戸を引いた。


中には籠に入った果物や銀の水差し、ガラスの瓶や花瓶が所狭しと並んでいる。



いや、それよりも真っ先に目に入ったのは。先日邂逅を果たしたばかりの桃色の彼女だった。

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