6-17 『詩人』の真価
ギャン! ギャン!
渾身の力で竪琴をかき鳴らすたびに、辺りの空気がビリビリと震える。壁に灯された松明も、音に呼応するかのように激しく揺らめく。その音に反応しているのか、ゾンビや甲冑騎士たちの動きが少し鈍くなった気がする。おお、何だかずい分効いてないか? もっとも討伐隊の方ももう限界なのか、一気に反撃とはいかず現状維持が精一杯のようだ。うう、しょうがねえ、もっと魂込めて弾くか!
オレは自分の中に眠る幾ばくかのメタル魂を呼び覚ましながら、なおも必死に竪琴を弾き続けた。ふと見れば、裸の女幽霊がオレの方をじっと見つめている。その表情は特に憎しみに満ちているわけでもなく、この戦いの場には不釣合いなほどの無表情だ。オレはいつの間にかその女幽霊がライブの観客であるかのように、死に物狂いで演奏を続けた。
そのうちに、辺りの空気が少しずつうねってきた。竪琴の音は壁に反響し、それが音の厚みを増していく。しかもただの反射音のはずなのに、なぜかそれらの音がキレイにハモってあたかもフルオーケストラの伴奏なんじゃないかって錯覚するくらいの重厚な音となり、辺り一面に満ちていく。もはや魔物たちはその動きを止め、ゾンビたちが一体、また一体と灰になって散っていく。
「す、すごい……」
「これ、一体どうなってんの……?」
気づけばステラとリアも、呆然としながら何やらつぶやいている。今や魔物は次々と灰へと変わり、討伐隊のメンバーもある者は地面にへたりこみ、またある者は地面に武器を突き立ててそれにもたれかかりながらその光景を見つめていた。
あんなにいたゾンビもみるみる消えていき、残るは紫の霧を従えた女幽霊と彼女を取り巻く少し立派な鎧の騎士たちだけとなった。オレの奏でるレクイエムはいよいよその荘厳さを増し、フロアの上方には美しい七色のオーロラの帯が輝いている。傍らの甲冑騎士が一体、また一体と灰塵に帰していく中、幽霊は相変わらずの無表情でこちらを見つめている。オーロラのカーテンは紫の霧へと降りていき、その色を少しずつ薄めていく。やがて彼女自身も極光の帯に巻き取られ、徐々に身体が透けていく。そしてその姿が完全に消える最後の瞬間、彼女はオレに向かって微笑んだように見えた。
絶望的な戦いは、一人の犠牲も出す事なくその幕を閉じた。
先ほどまでの死闘から一転、ウソの様に静まり返った洞窟内。オレも演奏を終え、すっかり脱力してる。女幽霊がいた場所にはもう彼女の姿はなく、紫の霧も晴れてギュスターヴたちの姿が見える。どうやら無事だったみたいだな……。彼らもオレの方を見てる。いや、なんかみんなしてこっちを見てないか? ステラがこちらに駆け寄り、隣でリアが大声を上げる。
「ちょっと、ルイ! すごいじゃん! ゾンビたちが全部消えちゃったよ! 何あの曲! もう、さすがの私もびっくりしちゃった!」
いや、当の本人が一番驚いてるから! まさかあの歌にあんな効果があるなんてよ! そんな事は露知らず、この~、とオレを肘でグリグリしてくるリア。そんなオレに、ステラが心配そうに近寄ってくる。
「助かりました……。ルイさん、ありがとうございます……」
「いや、ステラが無事でよかったぜ」
「そんな……。ルイさん、お体は大丈夫ですか?」
オレのカッコいいセリフに顔を赤らめるステラ。いや~、張り切った甲斐があるってもんだぜ。
「大丈夫大丈夫。よっし、それじゃ今日はみんなでうまいもん食って……」
そう言いながら歩き出そうとしたその時、膝から力が抜けてオレは無様にすっ転んでしまった。くっ、みんな見てるってのに恥ずかしいぜ……。さっさと立ち上がろうとするが……あれ……? 身体に力が入らない……?
「ちょっとルイ、みっともないなぁ。早く立ちなって」
そう言いながらリアが手を差し伸べてくるが、ヤバい、腕が上がらない……。それどころか、視界も霞んできた……? おい、これマジでヤバくないか……?
「ル、ルイさん!? 大丈夫ですか!?」
「ちょっ!? ルイ、しっかりしてよ! ルイってば!」
異変に気づいたステラとリアの声を遠くに感じながら、オレの意識はどんどんと遠のいていく。まさか、さっきの歌でホントにオレの魂消費しちゃったとか……? おいおい、ウソだろ……? 何だよ、この展開……。




