1-5 三日で曲作れとか、ムチャ振りすぎるよね
「さーて、次回はがんばるよ」
ギルドを出るとリアが肩を叩いてきた。
「なあ、今度はどこに行くんだ?」
「うん、13階でツインリザードの皮を取ってくるよ」
「おい! ちょっと待て! 急に階数上がりすぎだろ!」
「前は8階まで行ったんだし、別に心配ないよ」
そう言うと、おっさんくさくオレの肩に手を回す。
「次はたっぷりしごいてあげるからね」
「また逃げ回らなきゃならんのか!?」
「大丈夫、今度はちゃんとフォローしてあげるから」
「やっぱワザとだったのかよ! 今日のバトル!」
「てへっ」
てへっ☆ じゃねー! 命かかってんだぞ! 夢だけど!
「今日の歌も変だったし。何あれー、ケッサクー」
「うっせえ! あれはああいう歌なんだよ!」
ギャルっぽい口調でオレの肩をバシバシ叩きやがる。
「なんか憶えちゃったよ。はーまのーみーなとーぉ」
「お前絶対バカにしてんだろ!」
「そういえばさ」
オレから離れると、思い出したかのようにリアが口を開いた。
「今日は竪琴どうしたの?」
「竪琴?」
「いつも持ってんじゃん」
ああ、思い出した。いや、オレの記憶じゃないけど。どうやら今のオレの役柄であるルイってヤツは、事あるごとに竪琴を持ち歩いてたようだ。
「今日もあのヘッタクソな演奏聴けると思ってたのにー」
ヘタなのかよ! てか本人の前ではっきり言うんじゃねえ!
「次回は忘れないでよ?」
「なきゃダメなのかよ!」
このルイってヤツ、どこまでコイツに舐められてんだ!
「あ、そうだ」
「今度は何だよ」
「次のクエストまでに、私の応援歌作ってよ」
「はぁ?」
「私の名前入りでさ、お願い」
「そんなポンと作れるか!」
抗議しようと思ったところで、交差点に差しかかった。
「じゃあ、しあさっての朝に迎えに行くね。応援歌よろしくー」
「おい! マジで作るんかよ!」
またねー、と手を振って、リアはそのまま真っ直ぐ行ってしまった。えー、ホントに作んなきゃいけねえのー? まあ、コードに歌つけるだけならパッとできるけどさ。いいや、オレも帰ろ。
家に帰ると、まずは竪琴を探してみた。てか、あったよ。探すまでもなく棚の上にあったわ。それにしても殺風景だなこの部屋。ネットつながらないとかどこの田舎だよ。
あーあ、今日はホント疲れたんですが。もう眠いし、さっさとメシ食って寝るか……。
……そろそろ現実と向き合わないとならないかもしれん。これ、ホントに夢か? いや、「異世界に飛びました」なんてあり得ないとは思うんだけどさ。しかし夢でこんなに疲れたり痛み感じたりするか? 大体夢の中なのに眠くなるってどんな夢だよ? よし、明日起きた時点で判断しよう。そうしよう。そうと決まればまずはメシだ。さーて、食お食お。
……ホント、マジで夢であってくれ。このパン、信じられないほどマズいわ……。
ていうかルイ、お前手ぶらだったのかよ(笑)。
演奏がヘタとか、それってホントに職業と言えるのかさえ疑わしいレベルですね。
そしてようやくこの世界が夢である事に疑問を抱き始めたルイ君。悪い夢から覚めるといいね。