9話
龍とみんながとりのこされて、どれくらいたったことでしょう。
やがて、森のむこうから、ものしりフクロウがもどってきました。うしろを、だれかが歩いてきます。
「まおくん、じゃ」
みんなが集合した川のほとりまでもどってくると、ものしりフクロウは胸の羽毛をふくらませ、得意そうに紹介しました。
森の近所に住んでいる、小学生の男の子でした。くりっとした目で野球帽をかぶっています。半袖シャツと半ズボン。
こほん、とフクロウがせきばらいしました。
「この子は学校で勉強しておるから、ワシたちよりも、ずぅっと、かしこいはずなのじゃ。だから、きっと、なんとかなるじゃろ。こういうのを、てきざいてきしょ、というのじゃよ」
へえ~、と感心しているみんなの前で、えっへん、とフクロウはいばります。ものしりフクロウは、難しいこともよく知っています。けれど、まおくんは、ほめられてしまって、責任じゅうだい。
「みんな、よろしくね」
ちょっと、こまってしまいましたが、みんなに、きちんとあいさつしました。そして、龍の皿の前までいって、ひざをかかえて、しゃがみました。
「こんにちは、龍さん。あのねえ、きみは、どうしたいの?」
黄色い爪で顔をこすって、龍はうぉんうぉん泣きました。
《 早く外に出たいんだ! 》
「ふうん。どうして出られないの? 出てこられないのは、なんでなの?」
《 おなかがまんなかでちょん切れちゃって、しっぽがなくなってしまったからさ! 》
みんなも、うんうん、うなずきます。体が半分にちょん切れちゃって、しっぽの方がなくなっちゃったんだ!
まおくんは、くりっとした目をまたたきました。
「ねえ? なら、しっぽがあったら、出られるってこと?」
《 そりゃあ、しっぽがあったら出られるさ 》
でも、龍の皿は半分に割れて、龍の体は長い胴体のところで、ぶつ切れています。
ふうん、とまおくんはそれを聞き、木の枝をひろって振りむきました。
「だったら、ぼくが、地面につづきをかいてあげるよ。しっぽがあれば、いいんでしょ?」
龍は両目をみひらいて、ぶんぶん首を振って、あとずさりしました。
「やめてやめて! へたくそなしっぽなんか、くっついたら、ボクの体、ぐちゃぐちゃになっちゃう!」
頭のほうは、絵師が描いたりっぱな龍です。なのに、しっぽのほうは、子供が描いたぐにぐにの線? たしかに、いやかもしれません。
「そっか。それもそうだね」
まおくんは、すなおにみとめました。まおくんだって、じぶんだったら、ぜったい、いやです。
けれど、それなら、どうしたら、いい?
龍のしっぽが描かれた皿は、まん中のほうが飛びちって、もう、ぴったりくっつかないのです。もしも、つづきを描くのであれば、頭のほうとおんなじように、上手でなければいけません。けれど、龍を描いた絵師はいません。
「ぼくたちも、いろいろやったんだよ。でも、どれも、だめだったんだ」
みんなの意見を代表し、キツネがこまった顔で「お手あげさ」と手を広げました。
ほじくっても、だめ。
くすぐっても、だめ。
ぶんまわしても、だめ。
割れたお皿どうしを合わせても、お皿のあいだのカケラがたりない。
これは、むずかしい問題でした。
ついでに言うと、ひっぱってみても、だめでした。みんなも、おおいに首をひねって、頭を肩にくっつけます。
うーん、
うーん、
うううーんっ!
けれど、いつまでそうやっても、もう、なんにもでてきません。どんなに色々考えても、龍のちょん切れた胴を見ると、ぷっつん、とおわってしまうのです。
まおくんも、ほとほとこまってしまい、皿の龍を、もう一度見ました。
「ねえ、もう一回きくけどさ、そうしたら、どうやったら出られるの?」
《 もう! だからっ! 》
じれったそうに首を振り、龍はとうとう、かんしゃくをおこしてしまいました。
《 ちょん切れたしっぽがもう一度できたら、外に出られるにきまってるじゃないか! 》
まぶしい太陽を反射して、川の水面が、きらきら、きらきら、かがやいていました。
まおくんは口をへの字に曲げて、水のきらめきを見ています。「あ!」と口を大きくあけて、飛びあがるようにして立ちあがりました。
「おなかができれば、いいんだね?」
ひょい、と皿をもちあげて、ずんずん川にむかいます。
龍はあわてて言いました。
《 だめだよ! やめてよ! 水で洗ったら、消えちゃうよ! 》
まおくんはにっこり言いました。
「大丈夫、大丈夫! いいこと思いついたんだ!」