表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
絵師の皿  作者: カリン
9/10

9話

 龍とみんながとりのこされて、どれくらいたったことでしょう。

 やがて、森のむこうから、ものしりフクロウがもどってきました。うしろを、だれかが歩いてきます。

「まおくん、じゃ」

 みんなが集合した川のほとりまでもどってくると、ものしりフクロウは胸の羽毛をふくらませ、得意そうに紹介しました。

 森の近所に住んでいる、小学生の男の子でした。くりっとした目で野球帽をかぶっています。半袖シャツと半ズボン。

 こほん、とフクロウがせきばらいしました。

「この子は学校で勉強しておるから、ワシたちよりも、ずぅっと、かしこいはずなのじゃ。だから、きっと、なんとかなるじゃろ。こういうのを、てきざいてきしょ、というのじゃよ」

 へえ~、と感心しているみんなの前で、えっへん、とフクロウはいばります。ものしりフクロウは、難しいこともよく知っています。けれど、まおくんは、ほめられてしまって、責任じゅうだい。

「みんな、よろしくね」

 ちょっと、こまってしまいましたが、みんなに、きちんとあいさつしました。そして、龍の皿の前までいって、ひざをかかえて、しゃがみました。

「こんにちは、龍さん。あのねえ、きみは、どうしたいの?」

 黄色い爪で顔をこすって、龍はうぉんうぉん泣きました。

《 早く外に出たいんだ! 》

「ふうん。どうして出られないの? 出てこられないのは、なんでなの?」

《 おなかがまんなかでちょん切れちゃって、しっぽがなくなってしまったからさ! 》

 みんなも、うんうん、うなずきます。体が半分にちょん切れちゃって、しっぽの方がなくなっちゃったんだ!

 まおくんは、くりっとした目をまたたきました。

「ねえ? なら、しっぽがあったら、出られるってこと?」

《 そりゃあ、しっぽがあったら出られるさ 》

 でも、龍の皿は半分に割れて、龍の体は長い胴体のところで、ぶつ切れています。

 ふうん、とまおくんはそれを聞き、木の枝をひろって振りむきました。

「だったら、ぼくが、地面につづきをかいてあげるよ。しっぽがあれば、いいんでしょ?」

 龍は両目をみひらいて、ぶんぶん首を振って、あとずさりしました。

「やめてやめて! へたくそなしっぽなんか、くっついたら、ボクの体、ぐちゃぐちゃになっちゃう!」

 頭のほうは、絵師が描いたりっぱな龍です。なのに、しっぽのほうは、子供が描いたぐにぐにの線? たしかに、いやかもしれません。

「そっか。それもそうだね」

 まおくんは、すなおにみとめました。まおくんだって、じぶんだったら、ぜったい、いやです。

 けれど、それなら、どうしたら、いい?

 龍のしっぽが描かれた皿は、まん中のほうが飛びちって、もう、ぴったりくっつかないのです。もしも、つづきを描くのであれば、頭のほうとおんなじように、上手でなければいけません。けれど、龍を描いた絵師はいません。

「ぼくたちも、いろいろやったんだよ。でも、どれも、だめだったんだ」

 みんなの意見を代表し、キツネがこまった顔で「お手あげさ」と手を広げました。

 ほじくっても、だめ。

 くすぐっても、だめ。

 ぶんまわしても、だめ。

 割れたお皿どうしを合わせても、お皿のあいだのカケラがたりない。

 これは、むずかしい問題でした。

 ついでに言うと、ひっぱってみても、だめでした。みんなも、おおいに首をひねって、頭を肩にくっつけます。

 うーん、

 うーん、

 うううーんっ!

 けれど、いつまでそうやっても、もう、なんにもでてきません。どんなに色々考えても、龍のちょん切れた胴を見ると、ぷっつん、とおわってしまうのです。

 まおくんも、ほとほとこまってしまい、皿の龍を、もう一度見ました。

「ねえ、もう一回きくけどさ、そうしたら、どうやったら出られるの?」

《 もう! だからっ! 》

 じれったそうに首を振り、龍はとうとう、かんしゃくをおこしてしまいました。

《 ちょん切れたしっぽがもう一度できたら、外に出られるにきまってるじゃないか! 》

 まぶしい太陽を反射して、川の水面が、きらきら、きらきら、かがやいていました。

 まおくんは口をへの字に曲げて、水のきらめきを見ています。「あ!」と口を大きくあけて、飛びあがるようにして立ちあがりました。

「おなかができれば、いいんだね?」

 ひょい、と皿をもちあげて、ずんずん川にむかいます。

 龍はあわてて言いました。

《 だめだよ! やめてよ! 水で洗ったら、消えちゃうよ! 》

 まおくんはにっこり言いました。

「大丈夫、大丈夫! いいこと思いついたんだ!」



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ