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絵師の皿  作者: カリン
6/10

6話

 それから、どれくらいたったでしょう。

 深い森のしめった土が、急にもくもくもりあがりました。

「どうしたの?」

 ずぼっ、と何かが、土から顔を出しました。

 シャベルのように大きな手、顔からにょっきりつきでた鼻、ずんぐりしたネズミのような、もう少し大きい生き物です。

 それはモグラでした。時おりこうして顔を出しては、様子をながめていたのですが、泣き声があんまりやまないので、やっと、こわごわ、あらわれたのです。

 龍は皿から、いかつい顔をつきだして、かくかくしかじか、涙ながらに訴えました。すぐにも絵師を追いかけたいのに、皿から出ることができないのです。

「ふーん。それは、おきのどくに」

 ことのあらましを聞きおえると、モグラは小さな目をしばたかせました。もらい泣きをしたようです。なんとかして出してやりたい、モグラはそう思いました。

「よおし! まかせて!」

 シャベルのような手をのばし、龍の背中のりんかくを、ギーギー、爪で引っかきます。

《 痛い! 痛いよ! やれてくれよお! 》

 龍は悲鳴をあげて、身をよじりました。とっさに頭が飛び出したので、割れた皿がカタカタ鳴ります。

 けれど、ちょん切れた胴のほうは皿の割れ目にくっついたまま、龍は皿から出てきません。皿に引っかき傷がついただけです。

 シャベルのような手をあげて、モグラは頭をかきました。

「だめかあ」

 ほじくり出す作戦は失敗のようです。

 

 モグラは大きな手で腕をくみ、皿のまわりを歩きまわりました。うろうろ、うろうろ、うろうろ、うろうろ──。

 やがて、肩を落として首をふり、元いた穴へ、もそもそ、おしりから潜りこみます。長い鼻をひくひく動かし、皿の龍に言いました。

「ちょっと、ここで、まっててよ。だれか応援を呼んでくる」

 ひょい、とモグラの頭がひっこみました。

 しーん、と静まった草むらに、半月形の丸皿がひとつ、ぽつんと、とり残されました。


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