6話
それから、どれくらいたったでしょう。
深い森のしめった土が、急にもくもくもりあがりました。
「どうしたの?」
ずぼっ、と何かが、土から顔を出しました。
シャベルのように大きな手、顔からにょっきりつきでた鼻、ずんぐりしたネズミのような、もう少し大きい生き物です。
それはモグラでした。時おりこうして顔を出しては、様子をながめていたのですが、泣き声があんまりやまないので、やっと、こわごわ、あらわれたのです。
龍は皿から、いかつい顔をつきだして、かくかくしかじか、涙ながらに訴えました。すぐにも絵師を追いかけたいのに、皿から出ることができないのです。
「ふーん。それは、おきのどくに」
ことのあらましを聞きおえると、モグラは小さな目をしばたかせました。もらい泣きをしたようです。なんとかして出してやりたい、モグラはそう思いました。
「よおし! まかせて!」
シャベルのような手をのばし、龍の背中のりんかくを、ギーギー、爪で引っかきます。
《 痛い! 痛いよ! やれてくれよお! 》
龍は悲鳴をあげて、身をよじりました。とっさに頭が飛び出したので、割れた皿がカタカタ鳴ります。
けれど、ちょん切れた胴のほうは皿の割れ目にくっついたまま、龍は皿から出てきません。皿に引っかき傷がついただけです。
シャベルのような手をあげて、モグラは頭をかきました。
「だめかあ」
ほじくり出す作戦は失敗のようです。
モグラは大きな手で腕をくみ、皿のまわりを歩きまわりました。うろうろ、うろうろ、うろうろ、うろうろ──。
やがて、肩を落として首をふり、元いた穴へ、もそもそ、おしりから潜りこみます。長い鼻をひくひく動かし、皿の龍に言いました。
「ちょっと、ここで、まっててよ。だれか応援を呼んでくる」
ひょい、とモグラの頭がひっこみました。
しーん、と静まった草むらに、半月形の丸皿がひとつ、ぽつんと、とり残されました。