4話
川のほとりに腰をおろして、絵師は絵筆を走らせました。
きれいになった丸皿のふちに、さらさら、すいすい、思い描く線をたどっていきます。
絵筆に迷いはありません。描きたくて描きたくてたまらなかった「森」の絵です。食べるのも忘れ、眠るのも忘れ、休むのも忘れて、絵師は筆を動かします。
次の日の朝、絵師が描く丸皿に、見事なりんかくが現れました。
うろこにおおわれた長い胴、鋭い爪の四本足、がっしりした四角いあごと、ぎょろりと丸い二つの目、そして、鼻の横からヒョロリとはえた長いひげ──
それは立派な龍でした。
鋭い爪は空をつかみ、腹をりゅうりゅうとうねらせて、丸皿の縁をぐるりと一周しています。これが絵師に見えていた「森」の姿だったのです。
絵師はすっかり楽しくなって、わき目もふらずに描きつづけました。鋭い爪の一本一本、うろこの一枚一枚にいたるまで、心をこめて、ていねいに。
やがて、絵師は下書きをすべて描きあげました。次はいよいよ、龍に色をつける番です。
絵師は筆をとりあげて、近くのこずえにすべらせました。
森にただよう透明な精気が、絵筆の先にすいよせられて、みるみる緑に染まっていきます。
きらきらかがやく「龍の緑」を、絵師は慎重にすくいとり、龍の背中をなぞっていきます。ペタペタペタペタ──
《 くすぐったいよ、おじいさん! 》
いつかの、あの声がしました。
見れば、皿の縁に描かれた龍が、身をよじって笑っています。背中を絵筆でさわられて、くすぐったかったようなのです。
大口をあけた龍の笑顔に、絵師は顔をほころばせました。
「すまんすまん。すこーし、しんぼうしておくれ」
川のせせらぎを聞きながら、絵師は龍のあまたのうろこを、一枚一枚心をこめて、きれいに、たんねんにぬっていきます。
頭から首までぬりおえて、絵師は休けいすることにしました。
草の上に皿をおき、絵の具を風でかわかします。こった肩をとんとんたたいて、よっこいしょ、と腰をおろし、笑って川をながめました。
「一度でいいから、見たいなあ。青くて広い大海原を」
川の流れは海に続いているはずですから、この川をたどっていけば、きっと海に出られるでしょう。
草の上でひなたぼっこしながら、龍はごきげんで言いました。
《 だったら、ボクがつれていってあげるよ。この皿から出たあとに 》




