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絵師の皿  作者: カリン
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4/10

4話

 川のほとりに腰をおろして、絵師は絵筆を走らせました。

 きれいになった丸皿のふちに、さらさら、すいすい、思い描く線をたどっていきます。

 絵筆に迷いはありません。描きたくて描きたくてたまらなかった「森」の絵です。食べるのも忘れ、眠るのも忘れ、休むのも忘れて、絵師は筆を動かします。

 次の日の朝、絵師が描く丸皿に、見事なりんかくが現れました。

 うろこにおおわれた長い胴、鋭い爪の四本足、がっしりした四角いあごと、ぎょろりと丸い二つの目、そして、鼻の横からヒョロリとはえた長いひげ──

 それは立派な龍でした。

 鋭い爪は(くう)をつかみ、腹をりゅうりゅうとうねらせて、丸皿の縁をぐるりと一周しています。これが絵師に見えていた「森」の姿だったのです。

 絵師はすっかり楽しくなって、わき目もふらずに描きつづけました。鋭い爪の一本一本、うろこの一枚一枚にいたるまで、心をこめて、ていねいに。

 やがて、絵師は下書きをすべて描きあげました。次はいよいよ、龍に色をつける番です。

 絵師は筆をとりあげて、近くのこずえにすべらせました。

 森にただよう透明な精気が、絵筆の先にすいよせられて、みるみる緑に染まっていきます。

 きらきらかがやく「龍の緑」を、絵師は慎重にすくいとり、龍の背中をなぞっていきます。ペタペタペタペタ──

 

《 くすぐったいよ、おじいさん! 》

 

 いつかの、あの声がしました。

 見れば、皿の縁に描かれた龍が、身をよじって笑っています。背中を絵筆でさわられて、くすぐったかったようなのです。

 大口をあけた龍の笑顔に、絵師は顔をほころばせました。

「すまんすまん。すこーし、しんぼうしておくれ」

 川のせせらぎを聞きながら、絵師は龍のあまたのうろこを、一枚一枚心をこめて、きれいに、たんねんにぬっていきます。

 頭から首までぬりおえて、絵師は休けいすることにしました。

 草の上に皿をおき、絵の具を風でかわかします。こった肩をとんとんたたいて、よっこいしょ、と腰をおろし、笑って川をながめました。

「一度でいいから、見たいなあ。青くて広い大海原を」

 川の流れは海に続いているはずですから、この川をたどっていけば、きっと海に出られるでしょう。

 草の上でひなたぼっこしながら、龍はごきげんで言いました。

《 だったら、ボクがつれていってあげるよ。この皿から出たあとに 》



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