テラー
『前回のあらすじ』
桔梗と如月はエックスが黄泉の国へ到着するよりも早く着いており、静けさと礼儀正しさは真逆。
彼女達も閻魔大王から指示を与えられ、無間地獄行きの列車へと強制的に乗せられる。
列車内でスピーカー越しに副王と会話。最悪の未来を映像で教えて貰った後、急な揺れに襲われる。
揺れの正体は、無間地獄で暴れる魔王二人が原因だと知るも。対決前に列車が転倒し意識を無くす。
魔王達の喧嘩に巻き込まれ、無間地獄へ墜落し意識を失った桔梗と如月。その数分前の事──
アトア達と話しながら進んでいる為か。歩く先は自然とドラコーに誘導されているエックス。
「魔王?」
「えぇ。sin歴に入ると魔王が各地に現れては支配し、統治し始めたそうです」
話は遥か未来。sin歴へ到達した人類と幻想種の住む場所に、突如として魔王の称号を持つ存在が現れ。
各地を支配し統治を始めたと言うアトア。だが聞き返すエックスに疑問が浮かぶ。支配するのは兎も角。
統治するメリットは何だろうか?住民の居ない地域を手に入れても、静寂を求めない限りは恩恵は薄い。
されど住民の居る地域を支配しようとも、発展させ利益を与えねば土地から離れてしまう可能性も高い。
仮に魔王の称号を持つ者が他の魔王等に敗けた場合、支配エリアはどうなるのだろうか……とも考える。
「その時代にはディクテイターなる組織が誕生済みで、魔王の存在が抑止力」
「…………」
新たなる時代に更なる脅威、未知の組織・ディクテイター。それに対抗し現れるは、抑止力たる魔王。
何故新組織は誕生したのか?魔王の人数と種族は?支配された領地は何処までで、どんな統治を?
歩きながら考えれば考える程、疑問は増えて行く。直後、上層階から振動音と共に砂埃が舞い落ち。
何事かと上を見上げる三人。上層階で激突する二人の魔王が片や黒紫、片や白と黄色の魔法を放ち。
ぶつけ合った結果──地面に亀裂が入り、広く深く拡大。エックス達が居る奈落の深淵へ天井が崩落。
次々と崩落する無数の瓦礫に紛れて列車も三人へと落下。大きな音と一緒に風圧と土煙を巻き上げる。
「いい加減に敗けを認めたらどうだ?魔王カーマ・ラスト」
「敗けを認めるのはアンタの方じゃない?魔王パイモン・ラース」
「「やっぱ、実力で分からせるしかないよな!!」」
瓦礫が降り注いだ後。真っ暗闇の底へ突如差し込む、夕焼け色の光。その中で双方距離を空け。
ゆっくりと降下する二人の女魔王が放つ魔力と霊力の根源・マナが、舞い上がる土煙を逆に押し潰し。
下へと追いやられた煙と風圧が再度三人を飲み込み、風が吹き抜ける様に過ぎ去って行くと……
エックスの展開した半透明で青白い球状の障壁に守られ、雨霰と迫る瓦礫の山と煙を防ぐ。
「貴方様へ閻魔大王から救援要請が出された理由は十中八九、アレでしょうね。……あら?」
「あの列車は──ゼロライナー!?」
視界が晴れ眼に映るは──前大戦で仲間達が作り、旅を助けてくれた蒸気機関車ことゼロライナー。
ドラコーは全身に命の危険を感じ取り、差し込む暁の光に包まれた二つの影を見上げれば、其処には……
片や夢魔と言った黒と薄紫色の小悪魔風ボンテージに、股すら隠せない短いミニスカートと尻尾。
薄桃のサイドポニーに上向きの双角、緋色の瞳と幼い顔立ち、貧乳幼女体型の女魔王カーマ・ラスト。
片や短い金髪碧眼で所々裂け目がある黒の長ズボン、太股まで丈が長い白のノースリーブシャツを着用。
その上に白と青の羽織を纏い、カーマ・ラストの衣装とは真逆で露出が少ないパイモン・ラース。
「桔梗、如月!」
(マズイ。今、あの方の心が恐怖心に大きく振り切ったら──)
(嘘……だろ?心臓が……動いて、無い?)
ゼロライナーの側に倒れていた桔梗と如月を見付け、魔王同士の激突すら無視して駆け寄るエックス。
心肺の有無や脈拍を測る彼の怯えた姿を見つめるアトアは、心の中で最悪の展開を危惧する。
最悪の予想は二重の意味で的中。心肺音や脈拍が無く、その場にへたり込む彼は暁の光を見上げ……
大粒の涙が何度も頬を伝い、出逢いからの出来事を思い返し──愛する者達の死が絶望と恐怖心を産む。
天候も何もない黄泉の国。それも奈落の深淵と言う場所へ突如、降り注ぐ豪雨と幾度も鳴り響く轟雷。
「嘘。黄泉の国に……天候?」
「それに何だ、この……ッ!!異常なまでのマナは?!」
その気付きは──至極当然のモノだった。頭に、頬に、全身に降り注ぐ痛い程打ち付けてくる雨粒。
自身らのマナ衝突すら切り裂き、場の注意を上へ引き付け、喧嘩さえも止めてしまう程の轟雷と閃光。
極めつけはエックスから放たれる……否。止めどなく無限に溢れ出す底無しの緋・ネイビー・紫のマナ。
そんな彼へ視線を向ける時……気付く。身動きが取れない程の重圧に、魔王達は否が応でも気付く。
「ッ──ああぁぁぁぁッ!!」
「「──!?!?」」
愛する者を失った恐怖心が彼の泣き叫ぶ顔に『真っ黒なお面』が生成され、覆い尽くせば。
緋色の燃える三眼が顔に灯り、魔王二人を捉えんと眼が動く刹那、魔王二人は夕焼け色の光が照らし。
暁色に染まった地面へ顔を押し付ける形で押さえ付けられていた。余りにも突然過ぎる出来事に対し。
魔王達も何が起きたのか理解が及ばず、ただ唖然とするばかり。但しそれは当事者からの体験談。
一部始終を視ていたアトア、ドラコーからしても刹那。よくて一瞬の光景だろうが、今はよく見える。
片手で魔王二人の頭を鷲掴み、地面へと押さえ付け背に乗る赤き骸骨を鎧にした鬼顔の武者達の姿を。
(魔王たるオレ達が……手も足も出ない?!)
(嘘ッ?!カーマ達が赤子の手を捻るみたいに、一瞬で!?)
「…………」
全く動けない魔王達。彼女らを押さえ付ける紅き骸骨武者はまさに、ナイトメアゼノ・スカルフェイス。
前大戦で幾度も現れては彼自身を苦戦させたり、共闘した際はその強固な身を身代わりにし散った。
現役時代の姿形そのままで今。エックスの意思に従い、抵抗する二人の懸命な努力を冷徹に見下ろす。
そんな二人に何も語らず、ただ静かに。静寂の中へ砂利を踏む足音だけを鳴らし、近付くエックス。
反論はある。だが面を上げ相手の顔を視た瞬間、圧倒的な威圧感に言葉を飲み込む。それもその筈。
這い寄る混沌の異名。燃える三眼に眼が二つ左右の頬へ現れ、自身らを塵でも見るが如く見下ろす。
(アレが……ヨグ=ソトース様が破壊者様の代わりに送り出した生贄達に起きた、テラー化現象の一つ…)
第三者として、目の前で起きている出来事を冷静に。されど無造作に溢れ出すマナと恐怖に堪える二人。
それは原初と呼べら恐怖心。数多くの結果を持ち、生きとし生けるモノへ平等に与えられる概念。
死への恐怖──である。アトアが心の中で思う通り、これはテラー化現象の一つに過ぎない。
自身の震える肩を両手で掴み……「この恐怖心は自身に向けられたモノではない」と必死に言い聞かす。
ドラコーは今にも泣き出しそうな表情で左手は己の首を。右手は頭を抱え、身を屈め震える。
(ッ!!例え手足が出なくとも、首が動くのなら睨み付けてや──)
(何っ?!何が起き──)
流石は魔王の称号を持つ者。心ではまだ敗けてない!と意気込み、パイモンが睨み付けようとした瞬間。
カーマが視る前でパイモンは自らオーバーリアクション気味に。それこそ強力な磁石で弾かれた様に。
明後日の方向へ飛んで行き、目の前の現象に理解が追い付かないカーマも、パイモンとは逆方向へと。
吹っ飛ばされながら、遅れて来る右頬への鮮明な痛みを覚えつつ、魔王としての誇りが崩れて行く。
「…………」
標的がこの場から消えたからか。赤き骸骨武者達は自ら主へ対し御辞儀をすると跪き、次の指示を待つ。
しかし。テラー化したエックスは自身の顔を覆うお面を右手で触れて下ろすと、引っ付いていたお面は。
油で滑りが良くなったかの如くスルリと外れ、黒い粒子と化して消える反面。隠す物を無くした顔から。
再び大粒の涙が零れ落ち、彼自身もその場へ座り込む。得た勝利よりも──愛する者達の死や。
ベーゼレブルから如月を守れなかった。人喰い妖怪として暴走した桔梗を自身で殺した等の記憶が。
己の無力さ、大きく揺れ動く心の天秤、一人では何も出来ず成し遂げれぬ不甲斐なさを呪い地面を叩く。
(漸く分かりました、副王様。何故あなた様や魔皇様が、破壊者様を選んだのか。その意味を)
(力を求め続けるんはただ、宝物を護る為。心に空いた虚空を塞ぐ温もりを守る為なんやな)
(故に……欲望が底無しに深く、同時に欲の無い者がオメガゼロの器として相応しい理由)
自身の無力さ・不甲斐なさ・心の弱さを幾度も思い返しては悔やみ、握り拳を作り何度も地を叩く。
衝撃に堪え切れず皮膚が裂け、血が滲み出ようとも止めない。端から視れば惨めで情けない奴。
そんな印象すら覚える背中を見て漸く、何故魔皇や副王が彼を選ぶ意味を心で理解した二人。
人智を凌駕する力を受け止められる器として、底無しの欲望を持ちつつもそれを枯らした存在。
更に言えば偶然にも龍の印象が一つたる、宝物を集める習性。それが枯れた心を埋めようと働き。
繋がりを求めては作り、何処までも貪欲に。際限無く求め続け、無限に強くなる素質と人間の可能性を。
(英雄ヘラクレス。アイツは輝かしい栄光の果てに死んだ……ッ!!)
「貴方様!一度、冷静になってください!」
片やヘラクレスの歩んだ道を思い返し、苦虫を噛み潰したような、居心地の悪さを覚えると顔を背け。
片や自傷行為・地面への八つ当たりを止めないエックスへ冷静になる様、寄り添いながら行うアトア。
言葉だけでは冷静になれない時。ふと魔力感知に引っ掛かった反応に彼の動きは止まり、振り返る。
何処を?勿論──死んだと認識していた、桔梗と如月が倒れているゼロライナーの方へと。
「何で……心音や脈拍すら無かったのに」
「此処は黄泉の国です。現世と違い脈や心臓は動いていないのです」
「それじゃあ……あの二人は」
「生きてます。現世へ戻れば、脈や心臓も再び動き出しますから」
恐る恐る桔梗達の方へ歩み寄り、二人の口元へ手を近付けると微かに息がある。されど疑問が浮かぶ。
心音や脈拍も無かった。ポツリと呟いた言葉に、隣へ屈み寄り添うアトアの説明を聞き漸く理解する。
改めて断言された事で心に余裕が出来たのか。涙でぐしゃぐしゃになった顔を両手で拭い、笑顔を作る。
大人の心と子供の心を併せ持つ。それは如何なる場所でも諸刃の剣だが……彼には必要不可欠なモノ。
(副王様。あなた様が勇者や正義の味方を救世主に選ばれなかったかの理由が今、私にも分かりました)
彼の無邪気な笑顔を見て、再び理解する。自身ら邪神や星の危機に対し何故、物語でよくある存在。
勇者や正義の味方を選ばなかったのかを。勇気だけでは狂気に呑まれた挙げ句、力に滅ぼされてしまう。
正義の味方もそう。幾ら個人の正義を掲げ群衆を巻き込もうとも、別の正義に背後から刺される。
されど自ら悪党を名乗り、悪い行いと知り責任を背負い。繋がりを得た誰かの為に走り続ける者なら?
一つの絆が無数に広がり、他の誰かへと続いて仲間を増やす。可能性と現実性が一番高い選択だったと。




