インベーダー
『前回のあらすじ』
奈落の深淵にて暗闇から聞こえ、歪な京都弁を使う少女の声に従い襲い来る八匹の巨大蛇。
飢餓から来る生存本能と知り、少女達に能力で作った餌を与え、襲われる事は無くなった。
漸く閻魔大王から受けた救援要請を出した理由を探る為、アトアと歩き出すエックスなのだが……
蛇を操る少女も散歩と称して同行する中、呼び名を決めるよう言われ少女にドラコーと名付ける。
エックスが奈落の深淵へ到着する数時間前。副王から先に行けと黄泉の国へ飛ばされた桔梗と如月は。
天国と地獄へ分かれ、閻魔大王の判決を受ける裁判所に足を運んでいた。この時はまだ──
無数の青白い霊魂達は礼儀正しく四十人一列で長蛇の列を作り、自身の番が来るのを静かに待っている。
「はぁ~……すっごい長蛇の列ねぇ。こりゃあ閻魔大王に逢うのは数週間位掛かりそうだわ」
「先頭が見えない……これ程の死者が何処から雪崩れ込んでるのかしら?」
「外界じゃあ、飢餓なり領地戦争やら地域紛争で結構な死者が出てるって聞いてたけど、これは……」
二人の位置から先頭の列が全く見えず、進んでいるのかも怪しい。仮に進んでいたとしても。
閻魔大王の判決を貰えるのは速くて数週間後。この死者が並ぶ列を見て、如月は出所は何処か?
何が原因なのかと不思議に思う。その疑問に対し、前大戦で外界へ出て戦っていた桔梗が答える。
が……余りにも数が多過ぎると驚愕する中。背後から通り抜ける霊魂達が次々と増えては列を作り並ぶ。
「そこのお二人さん、車に乗るオニ。閻魔大王様から地獄行きの列車へ乗せる様報告を受けてますオニ」
「語尾がオニ……他の方との差別化を図る為かしら?」
「いや、普通に地獄行き列車へ乗らせようとしてる点に突っ込めよ」
待機列が減るよりも早く増える最後尾を眺める中、最前列からタイヤの無い浮遊する黄色い車に乗り。
桔梗と如月。二人の前で停車するや否や運転席の窓を開け、話し掛けて来る駅員の服を着た赤鬼。
後部座席へ乗る様促し、後部ドアをスイッチで開ける。如月は霊魂達との差別化を図っての語尾?
そんな疑問を真剣な顔で頭に浮かべ左手で右肘を掴み、軽く握った右手を顎に当てて考える如月に対し。
地獄行き列車へ乗る様に促している点を気にしろ。と、真顔でツッコミを入れる桔梗であった。
「早く乗るオニ~!列車の出向時刻が迫ってるオニよー!」
「あぁ、はいはい。無駄な時間は無いって事ね」
そんな二人を見て、速く後部座席へ乗れと憤る赤鬼。外界の出来事を知る桔梗は小さな島国とは言え。
運行時間厳守やモラル、ルートの大切さは理解している為。未だに何故駅員鬼の語尾がオニなのか?
と考える如月の手を引っ張り、黄色い車の後部座席へと入る。すると自動的にドアが閉まり。
その場で急速Uターン。速度違反も関係無しな程にアクセルを踏み、赤と黒で塗装された地獄行き駅へ。
出発の汽笛が鳴っていた為。最後尾の車両へ放り込まれた途端、列車の扉が閉まり地獄へと出向。
「強引にも程があるでしょ。てか、見知った内装をしてるわね」
「そうなの?にしても──私達以外乗客が居ないわね。貸し切りなのかしら?」
頭から放り込まれた為か。半前転状態で反対側の扉へと背面を凭れさせ、やや苛立ち気味に愚痴りつつ。
身を横に転がせて立ち上がり、車内を見渡すと。見知った内装である事に疑問を抱き、腕を組み訝しむ。
されど如月は外界から幻想の地へ迷い込んで以降、外界へ出てはいない。故に知らない代わり。
自身ら以外乗客が居らず、千八百八十八年にイギリスで活動していた彼女は列車こそ知り使えど。
貸し切りである点が不思議に思った様子。二人は互いの疑問点を合わせ、より強い違和感に気付いた時。
『数時間振り。私はヨグ=ソトース。彼──破壊者に再び世界の破壊を依頼した者』
「あの時の……それで?その依頼主様が私達に何の用件かしら?」
「うげっ……顔は笑っても眼は笑ってないんでやんの。これだから殺人鬼の眼ってヤツは」
車内放送で副王の声が突然放たれる。経過時間と自己紹介に続き、自身が破壊者を呼び戻したと告白。
初めて逢った時は自己紹介をしていなかった名と、再び世界を敵に回す依頼を出したと知り。
如月は目を細め、スピーカーを睨む表情から一旦目を閉じ深く息を吐き。顔を上げ笑顔で訊ね返すも。
表情こそ笑顔を作れど、目は一切笑ってない。寧ろ僅かに目を開け、相手の様子すら伺っている程。
己が妖怪故か。如月の紅い瞳から赤い殺意が揺れ、肌を切り裂く威圧感すら覚え、うんざりする桔梗。
『用件は彼に協力する貴女達に、二つの未来を見て欲しいが為って言うのが一つ』
「うへぇ。この気色悪い虫連中が未来ぃ?」
「……ッ!!待って、桔梗!二つ目の未来。これって……どう言う事?!」
だが彼女の殺気すら全く通じず、淡々と内容を話す副王が二人に見せる二つの未来の映像。それは──
片やエックスがアトアに見せて貰ったモノと同じ。桔梗は露骨に気色悪いと言葉、表情で言い表す中。
如月が二つ目の未来に動揺し、映像から目を離さぬまま右手で彼女の肩を叩き、注意を向けさせる程。
一体どんな未来なんだ?と見た瞬間……桔梗は口を開け絶句。その映像とは、一つの惑星を映したモノ。
その惑星は自身らが住む青く美しい奇跡の星──だった。それが今、青と桃色になっているではないか。
「あ……あぁ。お──おい、副王!これはどう言う事だよ!?」
『虫に支配され蠱毒の惑星と化すのが、前大戦と同じ結果の未来。二つ目は──あなた達が敗北した未来』
余りにも恐ろしい未来に、思わず鬼気迫る勢いで問い掛ける桔梗。なれど如何なる気迫で迫られても。
副王は全く口調を崩さず、先程と同じくただ事実だけを話して行く。前大戦と同じ結果の未来。
それ即ち、裏に居る黒幕を倒せなかった場合。後者は至ってシンプルに、黒幕達に敗北した結果の世界。
解答を聞き、再び二つ目の未来を映す映像へ目をやると、星に映像が近付き、地表を映したのだが……
それを見た如月は目を見開くと込み上げる吐き気から車内窓を両手で開け、外へ吐き出す程に恐ろしく。
直視し続ける桔梗は緑を、自然に生まれる命を滅ぼした桃色の存在が放つ異常な雰囲気に体が動かない。
『命住む星だけを狙い、適した相手を犯し繁殖して埋め尽くす。奴等を我々邪神はインベーダーと呼ぶ』
「イン、ベーダー?それとアイツがどう関係してるって言うのよ」
『……この星を何度も終焉の脅威から護り、人類と神々に怨まれ、憎み続けられて来た英雄は誰?』
「そりゃあ私らと絆を紡ぎ、世界の王すら救ったオメガゼロ・エックスだけ……あぁ!?」
邪神達がインベーダーと呼ぶ存在が未来世界の地表を覆い尽くし、繁殖に適した存在。即ち──
女を繁殖の器に、男は殺す。シンプル・イズ・ベストな行動を行う侵略者に人類の科学力が通じるのか?
人智を越える外宇宙の生命に。と考えれば怪しいが事実。何度も発生した異変、脅威を幾度も打ち払い。
人類達に忌み嫌われ続けながら、それでもと闇を倒した者は誰か?
副王の問いに桔梗が答える中で、ふと理解する。何故破壊者を再び幻想の地へ呼び戻したのかを。
『そう。毒をもって毒を制し、悪を為して巨悪を討つ為に』
「……彼ならインベーダーを殲滅出来る。その確信は何処から来てるのかしら?」
『前と同じ。彼が関与し勝利した世界線だけ侵略を免れた。但し、彼だけに任せると敗北確定だけどね』
侵略者と言う害を滅する為、終焉を破壊する者をぶつける。それは分かるが、彼なら殲滅出来る。
その確定・確証は何が理由?と聞けば、前大戦でワールドロードが唯一計画を挫かれたこの世界線。
此処に破壊者と仲間達が揃ってこそ侵略者を倒し、人類は未来へ進める。伝えられる言葉に二人は頷く。
幻想の地や外界で引き起こされ、数多くの異変。人智を越えし黒幕達を破壊した男と戦ったが故の信頼。
「その辺りは心配ない。前大戦の反省点を踏まえて、今度は最後の最後まで一緒に戦い抜くから」
『なら、あなた達は誰にも捕まらない事ね。でないと彼──此方側へ踏み込むわよ?』
破壊者の強さと弱さを知るからこそ。今度は完全に雌雄を決するまで共に戦い続けると決意を表す桔梗。
故に、二人へ──否。彼の家族や仲間達全員に向けて忠告する。決して他者に捕まっては駄目だ……と。
しかし頷く桔梗は表面上しか理解しておらず、インベーダー達には~で考えが止まり、反対に如月は。
副王の言葉の意味を全て理解し、頷く。破壊者は見た目こそは平凡だが……誰よりも寂しがり屋だと。
「ッ!?結構……揺れたぞ?!」
『無間地獄で魔王達が暴れてるだけよ。ただ激突時の振動が、黄泉の国全体に響いてるだけ』
「魔王達?それって魔王が複数居る……であってる?」
『えぇ。魔王の夢魔と悪魔が丁度喧嘩してるみたいね』
忠告と認識が終わった直後。列車が線路から外れそうになる程の、大きな揺れに襲われ緊急停止。
あの世で地震が起きたのか?!慌てて車内窓から外を見渡すも、見えるのは赤く染まった空と灰色の雲だけ。
スピーカーから何が起こったのかを話す副王の言葉に、如月は自身の認識が正しいかの確認を行えば。
どうやら正解らしく、魔王と呼ばれる実力・領域まで辿り着いた夢魔と悪魔が、無間地獄にて。
何が理由か分からないものの、喧嘩をしていると話す。事情を理解すれど、まだ揺れは続いたまま。
「魔王って奴等はッ!!あの世でも暴れる位、暇なのかよ!」
「暇なんでしょうね。お嬢様曰く、満足に戦う相手すら居なくてストレスが溜まるそうだし」
衝撃波の揺れに続いて激突音まで響き、列車や雲さえも揺れ動かし遂には線路から外れ回転しつつ落下。
出入口の座席付近にある手すりへ右腕を絡ませ、耐え凌ぎ愚痴る桔梗の言葉へ返しつつ、宙に浮く如月。
音と衝撃波が止み、後は落下の激突に備えるだけ。なのだが……突然落下の軌道が大幅に変わる。
下ではなく、響く渡る音の出先へと列車が赤い雲と共に無間地獄に引き寄せられ、赤い空は黒く変化。
直後。異常な吸引力は止み、今度は黒紫の球体が膨張しながら周辺の空間を飲み込みながら迫り来て……
「おいおい、マジかよ!」
「ッ!!」
列車も飲み込まれ、真っ暗で浮遊する車内に走る紫色の雷。外装も全方位から強力な圧力を受け。
黒板を爪で引っ掻いた様な耳障りな音を鳴らしえ圧縮され、二人の能力でも脱出出来ない程に。
圧縮されて終わる。そう思った時──何故か圧力や浮遊、雷さえも効力が消えて地面へ墜落。
頭や腕から赤い血を流し、死に物狂いで壊れた列車の窓から這い出る二人だが……突然意識を失う。
逆さまの列車に降り立つ一匹のフクロウは眠る様に意識を手放した二人を見下ろす形で覗き、首を回す。




