蜘蛛
『前回のあらすじ』
魔皇アザトースが眠る混沌の中心へ帰還した副王ヨグ=ソトース。其処へ集まるベーゼレブルとナイア。
並行世界へと帰された破壊者を見付けれたのは、彼の宿敵たるベーゼレブルのお陰。
瀕死の破壊者を解剖中、大幅に戦力低下した仲間を補充する為。彼の心と四神の面を被る子供達を使用。
TETRA-FANGの千泣を生み出し、新たな脅威と変態が迫り、襲い来る罪の歴史へ一行は時間跳躍をする。
此処は黄泉の国。天国と地獄へ分かれる駅であり、閻魔大王と面会し生前の行いを判決して貰い。
行き先を決めて貰う場所。左側の白く塗装された駅は天国行き、右側の黒と赤で塗装した駅は地獄行き。
判決は中央の裁判所にて行われるのだが……到着した破壊者が目にしたモノは、無数の青白い霊魂達が。
縦横無尽に飛び回る光景。まるで──何かから必死に逃げ出そうとしている雰囲気すら感じれる程。
「地獄行き~、地獄行き~。此方の列車は無間地獄へと続く、片道切符となってオニま~す!」
「長い長い旅路もこれで漸く終わりを迎えた訳か……と思ったのにさ。また旅を続けとるんよねぇ」
地獄行きの駅。線路図は横一直線で、此処は八大地獄行き入り口……と書かれており。
駅員らしき青鬼が黄色いメガホンを手に、淡く燃え揺れる青い人魂達が並ぶ長蛇の列へ声を掛け。
人魂達は次々鉄格子の檻へ自ら我先にと入って行く。前大戦を戦い抜き、役目を終え消滅した筈が。
また旅を続けているんだよなぁと思いに耽る中、霊魂達に疑問を感じて駅員の下へ歩み寄る。
「すいません。大人一枚……で宜しいでしょうか?」
「あぁ、はいはい。大人一枚オニね。お客さん、オニ前は?」
「オニ前……オメガゼロ・エックスで」
「えぇ~っと。オメガゼロ・エックス……っと」
死後の体験等、大抵は一度っきりなのが当然。故に、分からないからこそ、分かる相手に聞く。
相手の紫鬼も慣れた様子で名前を確認すべく訊ね、答えられた名前を探すべく辞書並の本を取り出す。
頭文字から探すのを待っている間に鉄檻の列車は出発。されど焦らず、次に乗る為駅員の言葉を待つ。
すると漸く名前を見付けたのか。ページを捲る手が止まり、丸眼鏡を装着し本へ乗り出し何かを確認中。
「あぁ~……残念ですが、貴方はまだ死んでオニませんので、地獄へは行けませんオニね」
「……まあ、仮死状態だしな」
「他の人魂達と違って肉体も残ってオニます上、此方の閻魔大王様から奈落へ救援に行って欲しいと」
駅員の紫鬼は駅員帽子のツバを右親指で押し上げ、溜め息混じりに地獄へ行けないと言い出す。
確かに黄泉の国へ来ているが、エックスは仮死状態。更には閻魔大王からの救援要請が出されており。
駅の奥から赤と青の警備員らしき鬼が此方へ駆け寄るや否や。左右から両腕両足を掴み。
持ち運ばれる形で白い雲漂う足場を駆け抜け──生ゴミや屑鉄等を捨てている場所と思わしき穴へ。
「あの……確かにジャンクと呼ばれたりしたけども。この扱いはジャンクと言うよりスクラッ──」
弁明・釈明・言い訳。そのどれでも無く、過去に呼ばれたあだ名を自ら皮肉りつつ言い切る直前。
エックスはあの世の曇が漂う不思議な足場に、不自然な形で空いてる穴の上で手を離され──落下。
命綱無しの身投げバンジージャンプに悲鳴と……こんな落とし方は理不尽だ!と叫ぶ声は上まで届かず。
底が見えぬ程の暗雲へ入ったのを確認後、警備員の鬼二人は俯くと深い溜め息を吐き、顔を上げる。
「珍しいオニね。死に切れていない上、何度もあの世へ来ているだなんて」
「んだんだ。けんどぉあの迷い人。担当閻魔様がいるらしくてぇ、今回の判決も担当者らしいべ?」
「一個人に担当閻魔大王様が付くとか、あの迷い人は何やらかしたんだべさ?」
「分がんねぇ。ただ……なまらすげぇ女難の相が出てただよ。ありゃ──史上最悪の『蜘蛛』だぁよ……」
死者の魂が集うあの世へ何度も来訪、更には担当閻魔付きと言うエックスに疑問を持つ鬼二人。
赤鬼の質問に青鬼は分からないと返し。その上で女難の相が最悪レベルで出ていたと笑って話した直後。
青鬼の表情は酷く恐れ始め、両手で肩を抱きながら……エックスを史上最悪の蜘蛛と表現。
それを示す様に光を反射する細い糸が鬼二人の首へ巻き付き、彼らの発する声を当人へ伝えていた。
「誰が史上最悪の蜘蛛じゃい。まあ……少しでもアイツの仕事を受け持って、休ませてやるか」
落下中の風を大の字で背に受け、靡き音を鳴らす白シャツ。下の海は着水時の衝撃が強く命にも関わる。
にも関わらず、右人差し指に嵌めた銀の指輪から出る細い糸は遥か雲の上へ伸び、会話を所有者に伝達。
エックスは愚痴りながらも身を翻し、真っ暗闇の奈落。その深淵へ向けて真っ直ぐ落ちて行く。
その中で呟く姿を脳裏に浮かべるは、エックスを担当する閻魔大王。前大戦・幻想の地にて死した時。
何度もお世話になり、共に黄泉の国で起こった異変を解決した仲間である。尚、身長は百四十八センチ。
「よっ……と。落下して来たこの上だけ光が差し込んでるんだな。どう思うよ?ゼロ、霊華、ルシファー」
奈落の底へ頭から勢い良く激突する瞬間。突然エックスの体が宙に止まり、半回転し何食わぬ顔で着地。
上を見上げれば落とされた部分だけ上層階から光が差し込み、足元の薄紫色をした地面と──
四方八方へ伸び、彼の体や周囲に巻き付いた糸が両手の指輪へと目にも止まらぬ速度で戻って行く。
小説・カンダタの糸を思わせる光景に意見を聞くも……当然ながら誰からも返事は返って来ない。
口に出した三名は前大戦で己の心が自身を護る為に産み出し、幻想の地にて姿形を得た別人格。
しかし──ワールドロードとの最終決戦で最後の融合を使った結果。姿形どころか人格も無い。
「またやっちまった……それで?いつまで其処に居る気だ。アトア」
「やはり御気付きでしたか。流石は世界の王を破壊し、セラエノ図書館に名と物語を刻まれた破壊者様」
「アンタが居るってこたぁ、此処はン・カイの地底湖の奥底にでも通じてんのか?」
右手で前髪をかきあげ、過去の癖を悔やむ──のも束の間。薄目を開け、暗闇の中に潜む相手へ訊ねる。
呼び掛けに返答を返すは、落ち着いた口調の女性。深淵の暗闇から光の下へ現れるその姿は……
真っ直ぐ腰まで伸びた黒の髪、紅い刺繍で蜘蛛を描いた黒い着物。草履に深い紅色の瞳の女性。
双方はお互い認知の関係らしく、気兼ね無く話す二人。アトアに対し疑問点を訊ねると。
彼女は首を短く二度振り、質問の内容を否定。陽だまりの端からエックスの居る中央へと近付く。
「未来を劇的に変貌させるモノが現れ、私達邪神も再び、貴方様にお力を貸す時が来ただけ」
「……また、ナイトメアゼノみたいな連中が現れたのか?」
「いえ。こればかりは観て頂いた方が分かり易い為、少しだけ失礼するわ」
陽だまりの中で向かい合う二人。話し始めたのはアトア。自身も含めた邪神達が再び、エックス──
破壊者へ力を貸すと言う。未来を劇的に変貌させるモノ発言に、前大戦で現れた遠い未来の新人類。
ナイトメアゼノシリーズに類似する存在が現れたのか?と聞き返すも再度首を横へ振り、否定すれば。
失礼すると言ってエックスの頬を両手で優しく触れ、額をくっ付けて彼女の記憶を通して覗き観る。
「──!?」
記憶を通して垣間見た未来。それはパッと見こそ見慣れた現代で、車も車道を走り歩行者は歩道を行く。
最中、道行く人々の頭が縦に割れると百足や無数の寄生虫が生え、犬や猫も足が昆虫や虫。
中にはカブトムシやクワガタの角を頭や腕に生やす者も。人類が衣服を着る様に虫達が人類を。
人々を衣服として纏い、互いに獲物を狙い狙われる人狼ゲーム状態。もっと言うなら……惑星一つを壺。
もしくは虫籠に見立てた蠱毒。邪神達が支配するのは容易いが、娯楽が無い。信仰心や供物も無い世界。
退屈で、刺激が無く、何も無い。人類としては絶滅したも同然。いずれは共食いを行い、滅びるだけ。
「こんな未来、私達は望んでいません。ですが、我々が本来の姿で迂闊に表舞台へ出ると……」
「奴らは姿を隠し、機を狙い慎重に動く。この世界の神々は余り人類に友好的じゃない為、助けは無い」
くっ付けていた額を離し、頬に触れたまま悲しい表情で話すアトア。彼女達はただ、この惑星が欲しい。
と言う訳ではない。人類が生み出す娯楽や文化を、人類が映画や舞台劇を観る感覚で楽しむ為。
絶滅させたい訳ではなく、助けようとしても過剰な助力は余計な警戒を産み、潜伏されては面倒臭い。
更に言えばこの世界の神々は人族に関心が薄い癖、嫉妬心は異常に高く、自身らに匹敵・凌駕する人間。
オメガゼロ・エックスには憎悪と嫉妬心を向ける者が大多数な反面、邪神からは好かれ易い。
「……っ!!あ……アトア。お前!」
「えぇ。貴方様の想像通り。私のアビリティ、終焉の蜘蛛と知識を覚えて頂きました」
「まだこのアビリティ残ってるのかよ。便利だし窮地を何度も救われたけど、明確に頭痛の種なんよなぁ」
直後──エックスの両目が大きく見開き、神経細胞を通して脳へ直接電気信号が送られ、驚くや否や。
自身の頬に触れる相手の両手を内側から払い、後ろへ二歩下がり息を切らし彼女の名前を呼ぶ。
すると自身が行った行為を認め、アビリティを習得させ虫に関する知識も与えた件を。
着物の右裾で口元を隠し、クスクスと笑いながら話すアトア。逆にエックスはやや面倒臭そうに。
自身のアビリティがまだ残っていた事に対し、副作用が苦しくて好ましくない為、素直に喜べず。
頭痛に苛まれる頭を右手の五指で触れ、目を閉じて痛みが収まるまでの間下手に動かず立ち尽くす。
「それから私のフルネームは蜘蛛糸アトアと申します。以後、終わりと始まりの町で待ちますね。王様」
「いやいや。ツッコミ所が多くて台詞量が一定数を越えそうなんだが?」
「もし遅れそうなのであれば、ユニコーンに乗って来るのもありかしら?」
「処女厨かMSか船かで話は変わるぞ?馬なら最悪、女装して香水振りかければ行けるけど──よっ!」
改めて自己紹介をし、待ってますと言う場所や名前すら教えず話を進めるアトアに対し。
ツッコミ所が多過ぎて思わずメタ発言をしてしまうエックス。されどその返しすらスルーして進む会話。
ユニコーンに乗って発言に、神話か宇宙世紀か空母のどれだ?と返す中、死角の暗闇から迫る何か。
地を這う音が複数、音も無く二人へ飛び出して来るモノも複数。それが暗闇から陽だまりを囲い迫る。
しかし。完璧と思われた奇襲すら気付き、雪崩れ込んで攻め立てて来るソレを的確に、順序良く。
襲撃者の頭や背に飛び乗って避け続け、鱗を纏う黒く長い存在が闇の中へ戻った頃、二人は地面へ着地。
「……成る程。確かにコレは──救援を求めるのも当然だわな」
「我々は互いに捕食し合う者同士。まあそれ以前に、虫が極上の餌と思える位空腹なのでしょう」
「アトラク=ナクアを。蜘蛛の神を餌に思う程に……か。飢餓状態かよ」
周囲へ張り巡らせた糸を通じて、陽だまりを囲う形で包囲されていると理解する二人。
その数は多勢に無勢。閻魔大王が救援を要求するのも理解出来ると確信した時、アトアが口を開く。
アトラク=ナクア。蜘蛛の神にしてン・カイの地底湖の奥底に封印されており、無限の時を。
蜘蛛の巣を張り続けて過ごす。一説ではコレが巣を完成させた時、世界が滅びる時だと言われている。
コレを餌と認識出来る程にソレは異常な位の飢餓状態。蜘蛛は二人を襲うモノと捕食し合う関係図。
「淡白な鶏肉に似た、非常にあっさりした味らしいが──骨が多いのならスープかねぇ?」
「私に珈琲は無しで。私達蜘蛛は酔ってしまうので。いえ、貴方様に襲われるのなら……それもアリ?」
敢えて食べるならば。で襲撃者の調理法を口にすると、アトアや蜘蛛はカフェインで酔うと言うも。
合コン等で言うお持ち帰りを思い返し、邪神に好かれる相手へ持ち帰られるのもありですね。
と言いたげに朱色に染めた頬を両袖で隠しつつ、照れ隠しとばかりに顔を背けるも深紅の眼は獲物へ。
「ねぇよ。迷惑防止に持ち帰っても手は出してやるもんか」




