自殺
『前回のあらすじ』
第二の故郷、幻想の地へ副王の力を借り帰還する破壊者。しかし彼が見た光景は、予期せぬモノ。
黄泉の国と強制的に繋がれ、亡者達が現世へ雪崩れ込む瞬間だった。オメガゼロの力を受け取り。
この騒動を仕掛けたであろう張本人を探し当て、黄泉の国と現世の中間にて戦い。
戦闘経験値の差で優勢に持ち込み、黒幕を仰向けに倒したのだが……突然の体調不良に襲われ膝を着く。
予期せぬ眩暈で左手と右膝を足場に着けた途端、動悸・息切れ・頭痛と次々に症状が現れ始める。
突然の出来事に頭の中では混乱状態。敵の攻撃?この場所が何らかの影響を与えているのか?等々。
幾ら考えても正常な思考は出来ない上、周囲で沸騰するマグマの放つ温度が更に体力と思考力を奪う。
「狙い通りだ。力を取り戻してから馴染ませるのに、どれ程時間を掛けた?」
「ッ……」
「十ヶ月の空白に常識を凌駕する力を体に宿し、即激しい動きをしたら?当然体は直ぐ限界を迎える」
馬面西洋兜の下は何もないのに、黒幕の体は何事も無かったかの如く両手を使って起き上がり。
先程とは逆に破壊者を見下ろし、狙い通りと言いつつ右足で仰向けに蹴り倒し、理解出来るように話す。
理由は単純明快。準備運動もせず鈍った体で全速力を出せば、直ぐ体力が底を尽くのと同じだと説明。
それを聞き、漸く理解する。時間停止空間や黄泉の国との強制接続、この場へ誘い込まれた事も全て。
取り戻した力を馴染ませる前に体力を大幅に消耗させ、邪魔者たる自身を手早く葬る為の罠だったと。
「無駄話は貴様に手助けの暇を与えるだけ。死ね!!終焉の破壊者!」
黒幕は破壊者と戦った面々が、冥土の土産とばかりに無駄話をした所為で逃げられたり。
逆転の数々を知っている。故に余計な時間は与えず、自ら斬馬刀の刀身を左拳で半分に折り短くし。
破壊者が逃げられないよう馬乗りになり、腕を封じる為に両足で押さえ付けると言う徹底振り。
助けは来ない、助けようにも此処は黄泉の国と現世の狭間。介入するには空間移動や干渉能力が必須。
勝った。勝利を確信する黒幕が刃を振り下ろし、破壊者も最後の抵抗とばかりに睨み返す。
「一か八か──ッ、龍轟咆!!」
「無駄な足掻きを。貴様の咆哮では人間の平均体重程度しか吹き飛ばせん」
残された最後の一手、龍轟咆。龍の咆哮は相手を威圧して萎縮させ、戦意を奪い、吹き飛ばす技。
しかし──それは人智を越えた龍が行ってこそ、真価を発揮する。因子と繋がりこそ持てど、彼は人間。
見た目や手応えから、数百キロは下らない黒幕の体重を吹き飛ばすには及ばず、ビクともしない。
無駄な足掻きと言われ、万事休す打つ手無し──そんな時、突然黒幕の体が右側へ吹っ飛ぶ。
「チッ。そうか、そうだったな。貴様の所持品には、時間や空間すら飛び越える乗り物があったな」
「アインスト……フューチャー?!」
「だが、所詮は自我を持たぬ機械!一丁前に主の窮地を救いに来たか、スクラップのゴミめが!!」
「や……止めろぉぉ!」
もう少しでマグマへ滑り落ちると言う所で止まり、何事もなく起き上がる黒幕は破壊者専用のバイク。
V-ストローム250を魔改造したアインスト・フューチャーに向き直り、その存在を思い出し握り拳を作る。
戦えない主に代わり、黒幕へ挑もうとアクセルを吹かし──突進するマシン。だが直進と言うのもあり。
一歩横へ退いて避けられ、側面へ重い左拳を受け転倒。破壊者の静止も聞かず、動力部を刃で一突き。
バイク自身が嫌がる様に首を左右へ振るも……次第に止まり、ヘッドライトもゆっくりと消え爆発四散。
「ジャンクパーツにも成れないスクラップ風情が」
「ッ……」
燃え盛るバイクに対し、罵声を浴びせる黒幕。自身の無力を噛み締め俯せになる中。
眼前に転がって来た愛車のハンドルを右手で掴み、煮え滾り、昂る感情に敢えて蓋をし……立ち上がる。
相手が振り返り、見た破壊者の姿は素人目でも立っているのが精一杯と分かる程に服装もボロボロ。
拳を一発当てれば倒せる。のに……黒幕は震え、一歩ずつ後退り──炎上するバイクに躓き倒れる。
「人に隠れ世に隠れ、人に知られずとも悪を討つ」
「き、貴様が正義だとでも言うつもり──」
「Judge in king──死だ」
一歩、また一歩と自身へ近付いて来る破壊者。彼の言葉に対し、己が正義の味方や使者気取りか!
と言い切る直前、緋色の閃光が縦に走る。糸が切れた風に垂れていた右手は頭上へ振り上げられ。
前方の足場から壁まで。数秒送れて緋色の斬撃波が軌跡をなぞる形で追い掛け、閉じたジッパーも切断。
黒幕が纏う鎧は斬撃波に切られた直後。Ωの文字が大きく浮かび、皮肉にも灰化してバイクの炎上を鎮火。
「俺が正義だと?馬鹿馬鹿しい。俺は悪だ。誰かの夢と希望を打ち砕き、破壊する悪党──破壊者だ」
握り締めたバイクのハンドルから伸びる緋色の刃を前へ突き刺し、支えにすると灰化した相手を睨み。
自身は正義の味方ではない。夢と希望を破壊する悪党だと言い、限界を迎えその場へ座り込む。
勝利とは、相手から何かを奪う行為。故に勝つまで諦めない自身は絶対の悪──破壊する者。
罪なるかな、咎なるかな、悪なるかな。その問い掛けだけが、不思議と心の中で復唱され。
これは罪か、咎か、悪か。暫しの休憩を何度も挟み、その都度何度も繰り返し、思いに耽る。
山の中で拾った木の棒を杖に、家族達や副王が待つだろう神社への帰還途中、湖付近で倒れ伏した。
「桔梗、やっぱり駄目。地獄の亡者達を操ってた黒幕、相当用心深い」
「そっちもか。アタシん所も、医療用品を大半やられてたわ。他の面々は?集まれないの?」
「それも無理ね。時間停止は解けたものの、まだ各地で亡者達との抗争や怪我人の治療で動けないって」
湖の館・客間の扉を開け、偵察より帰還したメイド・如月は、桔梗との会話で黒幕が用心深いと判断。
仮に自身が敗けても破壊者が満足な治療を受けられないよう、亡者達には医療品を優先して狙わせ。
更には黄泉の国と繋がっている限り、生者を妬み羨む亡者が生ける者と争い続ける様に仕向けている。
これにより医療者や医療品、仲間達がバラけ、消耗させて破壊者の治療をさせなくする作戦。
此処へ来ている二人は住んでいる場所に、亡者すら立ち寄れない強者達が住んでいる為、任せている。
「ねぇ、副王さん。アナタの力で何とか出来ない?」
「出来るわよ。けれど、助けたところで彼が取る選択肢は変わらない」
「選択?どう言う意味?」
副王へ緑茶の入った湯飲みを机へ差し出し、藁をも掴む気持ちで訊ねる如月。返って来た言葉は……
至極簡単過ぎる。と言いたげに落ち着いたまま差し出された湯飲みを両手で包み、一口飲み一言。
だが……助けても結果は変わらないと付け足し、問い返せば受け皿へ湯飲みを静かに置き──
「今彼を助けようと、彼は自殺の道を選ぶ。仮に死なない場合は……私が彼を殺す」
「「──?!」」
破壊者は自殺か他殺の方法で死因が変わるだけと発言。その言葉は余りにも唐突過ぎる上。
何故死ぬ行為が前提なのか?その理由さえ説明も無く、彼女達には理解出来ない為に驚きは隠せず。
彼を殺す発言に思わず横長のソファーで胡座を描いてた桔梗は膝を立て、闇を集め漆黒の大剣を右手に。
隣の如月は膝こそ立てないが……指の間にナイフを三本挟み、いつでも喉を切り裂けると睨み乗り出す。
「っ……桔梗、如月。頼む。武器をっ、下ろしてくれないか?これは……必要なんだ」
「──!!」
「あぁ~……もうっ!」
しかし。隣の寝室で寝かせていた破壊者が起き、半分開けた扉に凭れ、頼むも力が抜け倒れ込む。
刹那。頭から木造廊下へ倒れる筈だった破壊者の直ぐ隣に現れ、肩を貸して支える如月。
理由も何も話さない状態で納得等行く筈もなく。眉間に皺を寄せ、不服な様子の桔梗。
空いている左手の背爪で苛立つ感情のまま頭を掻き唸り続けるも、感情の整理がついたのか。
右手に持つ大剣を闇に返し、座り直し両膝に手を置けば。麦わら帽子で顔が見えない副王へ向き直り。
「アタシらも同行する。それが条件よ。それでも良い?」
「……それはあの世へ行く。と言うのを理解しての発言?」
自身らも破壊者に同行するのが条件だ!と言い出す桔梗。巻き添えにも思える如月でさえ驚きは無く。
何の合図も無しに桔梗がソファーから退き立ち上がり、如月が高熱で苦しげな破壊者を横に寝かす時。
近くの椅子に敷かれていたモノクロクッションを桔梗が掴み、流れる様に頭の下へ敷く連携を見せる。
「「当然!」」
二人の紅い瞳に宿る揺るぎない決意は黄泉の国へ行く事さえ恐れていない。それもその筈。
前大戦終結後、幻想の地へ一人帰還した桔梗の報告を受けた一同は……共に戦えれず、支えれなかった。
それ以上に──消滅と別離になるまで無理をさせたと言う事実が、彼女達の心に深く刺さる。
しかし……彼に関する記憶が消失する気配が無く。逆説的に破壊者生存説が高い可能性として浮上。
当然!と力強く答える二人は、帰って来た彼が再び消滅する危機だと心で感じ、阻止したいのだ。
「了解。それじゃあ、貴女達は先に行ってなさい」
「ちょっ……」
決意を聞き取り、同行を了承した副王は右指を擦り合わせ、音を鳴らす。二人は一緒にと思ってた為。
不意を突かれ、先に黄泉の国へと飛ばされてしまう。これで邪魔者はいない。
床に足が届かないまま椅子から降り、両足で着地した後。破壊者が寝かされているソファーへ向き。
無言で黙々と近寄り、右手を向ければ超能力でも発動しているのか。彼の体は宙ぶらりんに浮かび。
天井へ左手を向けた途端、何処からか現れた縄が自ら輪っかを作り、天井に括ると電気が消える。
そして廊下の照明が開いた扉より差し込む中。右手を輪っかへ向け、軋む音と共に静寂が場を支配する。
「……時間通りに来たわね。ディクテクターの総帥じゃない、ゼノ・クライム」
「全ては計画通り。破壊者の死や現実と幻想の戦争。余がディクテクターの創設者、及び総帥へ成る事も」
そんな中。廊下の照明に照され、暗い部屋の中へと伸びる影が一つ。それに気付いてか……
時間通りに来た点や、意味深な内容と相手の名前をフルネームで呼ぶ副王が、ゆっくりと振り返ると。
茶色い革製の長靴、黒いローブを纏い顔も影で隠れて見えない人物が其処に居た。だけではなく……
何やら相手側も意味深な内容を発言。それを聞いて副王は短く頷き、ゼノの後ろへ退くと。
いつの間にか白いスマホを取り出し、誰かに電話を掛け、目的の存在に電話が変わるまで待つ。
その間、ゼノが破壊者の首吊り写真を角度や向きを変えながら撮影。それが終わるや否や……
「身体は此方でカイシュウするけれど、アナタはどうする気?」
「無論、余は破壊者に要件があります故に。それでは、余はこれにて御免」
同じ様に右手を破壊者へ向けて縄から外せば、力無く干し物みたく宙にぶら下がる彼を連れ。
ゼノに対しどうするのかと訊ねたら。自身の一人称が余のゼノは破壊者に要件があると言って姿を消す。
その後。長い間鳴っていた呼び出しコールを相手が漸く取り、繋がるものの何も話して来ない為。
何かの拍子で繋がった?と思えるが、副王の見立ては通話相手は此方が要件を言わない為警戒中と予想。
「罪なるかな、咎なるかな、悪なるかな」
『──!?』
「罪と歴史は繰り返され、悲劇も繰り返される。どう?もう一度、舞台劇で踊る気はない?」
故に言葉を釣り針と餌にして口にすると……電話の相手は椅子から音を立てて立ち上がったらしく。
ガタッ!!椅子から立ち上がる音を響かせ、次の言葉を聞いた瞬間。今度は勢い良く扉を開ける音。
玄関の鍵を閉めた音が響く。すると左手を左側へ向け、空間を開くや否や、狂気の音色が響く。




