黒幕
『前回のあらすじ』
魔神王を倒し、消失した悪党──破壊者は何がどうなったのか。取り戻した元々の世界へ帰還し。
平凡な生活を送っていた彼の前へ、少女の姿へ擬態したヨグ=ソトースが現れ、協力を求める。
此処には自身の居場所が無いと痛感した彼は快く了承。帰還してから十ヶ月のブランクがある為。
早く勘を取り戻したいと語る。何故なら、サポートしてくれていたゼロ達はもう……居ないのだ。
光に包まれ、転移した先は──日本の京都観光でチラホラ見受けられる、木造建築で和風な庭付きの家。
此処は破壊者たる彼が力に目覚め、戦い抜いた第二の故郷。なのだが……庭へ出ると空は茜色に染まり。
人間が住む里や人外の住まう山や森、湖。あちこちが赤い焔で燃え上がり、阿鼻叫喚の悲鳴が轟く。
余りにも唐突な展開に頭が追い付かない時──副王の左手から虹色の球が浮かべば、球は自らの意思で。
彼……破壊者の胸へ飛び込み、一体化。茜空に見える白黒の何かが破壊者目掛け、急加速して来る。
「!?!?!?」
「おっと……加減をミスった」
戦闘機が音速の壁を越えた時の様な、空気を切り裂く音と共に繰り出される体当たり。
誰しもが予測する。回避すら許されず、腹部へ直撃すると。だが──副王は口角を小さく吊り上げる。
その理由は至極単純。飛来する対象が破壊者へ命中する直前、急に後方目掛け高速逆回転をし始め。
現在地から飛翔して来た西の方角へと、土煙と高所から重量物が落下した様な轟音を響かせて墜落。
「相変わらずの手癖……いえ。足癖の悪さ──と言うべきかしら?」
「俺を産んでくれた母親の癖でな。両手が塞がってる時によくやってるのを見てたら真似してたんだわ」
「この親にしてこの子ありね。大方、寝そべりながら足でリモコン取ったりしたんでしょ?」
「御名答。一々立ち上がるのが面倒臭くてな」
今の視認出来ない内容を理解してた副王は顔を向ける事もなく、破壊者へ話し掛けて足癖の悪さを指摘。
言われた当人も母親の真似から足癖が悪くなったと言いつつ。世間話的に鎌を掛ければ、自ら肯定。
実は破壊者の瞳は相手を正確に捉え、研ぎ澄まされた感覚と視界はスローモーションも同然の映像。
右膝を正面に向け蹴り上げ、対象の顎を蹴り上げて来た方角へ送り返すのを──彼は瞬く間に行った。
ただ注意すべきは……彼は得た力で無双しているのではなく、戦い続けた経験値と熟練度の集大成。
「──この感覚……時間停止か?」
「限定的な時間停止空間に、黄泉の国との強制接続。黒幕はどうも、余程貴方の介入が邪魔みたいね」
突如。破壊者が守り抜き、第二の故郷と呼べる様になったこの地に広がる時間停止空間が、時の流れを。
この時間で生きる全てを停止させた上。空が割れ、深紅の内部から半透明で紫色の浮遊霊達が飛び出す。
西側の山はチャックのジッパーを開けたが如く口を開き、ドス黒い骸骨の軍勢や鎧武者達が溢れ出す。
これを行っている黒幕は副王が言う通り、破壊者の介入が余程邪魔に感じている様で最初から最大戦力。
守るべき第二の故郷、意識や身動きすら静止状態の住民達。全てを救うには、圧倒的に手が足りない。
「此処……幻想の地は俺を受け入れてくれた第二の故郷。その土地と命を脅かす者は──俺の復讐対象だ!!」
怒りに震える手で握り拳を作り、力強く地を蹴って山中にある神社から浮遊霊が襲う人里へ跳躍。
手持ち武器がある訳でも無い為。爪で引き裂き拳で貫き、脚で砕く。されど敵は地獄の亡者、数は無数。
更に進行ではなく防衛。幾ら頑張っても個人では守り抜けず、時間停止で住民達は避難すら出来ない。
彼の努力も虚しく、防衛戦をすり抜けて行く亡者達。自身の無力感を堪えるべく舌を噛み、戦う中……
「全く……アンタの帰宅を全員で待ち望んでたら、とんでもない厄介事まで招くとはね」
「此方でお休みを取ってた分、しっかりと働いて貰うわよ?」
突然背後から女性の声が聞こえ、前方斜め下へ次々と放たれ、亡者達を次々屠るは黒く細いレーザー。
空を飛ぶ浮遊霊達は雨の如く降り注ぐ無数の短剣が刺さり、地に落ちては縫い付けられて動けない。
トドメに亡者達は突然体が発火して、蒼い焔に包まれ灰と化したり大鎌に裂かれて成仏して行く。
この場に駆け付けた身長の大小や男性女性を問わぬ、各々髪色すら違う破壊者の仲間……否、家族達。
されど灰色髪の狐と赤髪の死神はトドメと同時にこの場を離れ、次の場所へ飛んで行ってしまう。
「桔梗!それに……如月も」
「三賢者が黒幕の位置は西の地獄山と割り出してる。アンタはさっさとソイツをシバいて来な!」
「各地の防衛は私達に任せて。三賢者曰く、黒幕の狙いは貴方だから。ほら」
「ッ……任せろ」
残ったのは背に届く真っ直ぐな金髪、真紅の瞳に幼さがやや残る顔。黒いノースリーブワンピース。
上着の下に着た白い長袖シャツ、黒い靴。金の桔梗の花ネックレスや左薬指に嵌めた金の指輪が特徴の。
前大戦でも共に戦い抜いた、闇を操る人喰い妖怪──桔梗。もう一人は過去に切り裂きジャック。
ロンドンを恐怖に染めた殺人鬼の異名や金と銀、二つの懐中時計を持つ三つ編み白髪のミニスカメイド。
お互いに向かい合い、並び立つ二人の身長は桔梗の方がやや高く、如月は破壊者の胸元までしかない。
再会を喜ぶ間も無く桔梗は討伐を任せ、如月からハルバートを受け取り、黒幕が居る地獄山へ飛び出す。
「全く……現世から持ち込んだ装飾品に救われるとはね」
「ロンドンに居た私からすれば、遠い未来の装飾品。けど今回の時間停止は限定的な上、弱点があるわ」
「確か『一つの年代』しか止められない。だったっけ?あの馬鹿の拘りが危機を凌いだ訳だけど」
桔梗はネックレスと指輪を見つつ右側に闇を集め、右手を入れ自身の身長と同じ漆黒の大剣を引き抜く。
チェーンで左足付け根にぶら下がる銀の懐中時計を手に取り、頭のスイッチを押せば蓋が開き。
針が動くのを確認してから閉じ、手を放せば迎撃に使った無数の短剣は消え。代わりにいつの間にか。
如月の左手にはククリナイフが握られており、今回の時間停止に関して場所・時間が限定的と見抜く。
彼女達が持つ装飾品は破壊者が現世で購入し、渡した物。年代が違う為、装着者を護り駆け付けれた。
「……お前が黒幕か。帰宅直後、俺に突っ込んで来た臆病者」
「フフッ。臆病者なのは御互い様。と言うべきではないのか?」
山に出来たジッパーから内部へ突入し、音を立てて泡立つマグマが異常な熱気で侵入者を出迎える。
円形の足場へとゆっくりと降り立ち、破壊者に向かい合うは……馬頭型の銀色西洋兜に縦長の白ボディ。
体に比べサイズ違いと思う左右の黒い両手足。右手には一般成人男性を刀にした様な横幅と厚みに加え。
全長二百六センチの刀。長さは安土桃山から室町時代に使われていた刀に斬馬刀と酷似しているものの。
横幅や厚みは西洋風。どうやら目の前の存在が黒幕であり、臆病者と呼べば御互い様と返される。
「悪いが、遊びに付き合ってやる気は微塵もない」
「それは丁度良い。この場に君を誘い込んだ時点で、遊びや目的は達成しているのでね」
「……成る程。ならば、速攻でお前を倒し──対処するとしようか」
倒す相手との余計な会話は不要。情を抱いては決意が弛み、死に繋がる為。故に口数は少なく済ます中。
返された言葉は相手の目的達成。ジッパーの閉じる音が響き、上を見れば唯一の出入り口が塞がれ。
脱出出来なくなった。しかし彼は焦らず慌てず、結果を受け入れ、ハルバートを構え……飛び込む。
怒涛の突きを繰り出すも、全て甲冑──いや。拘束具に刃は弾かれ、軽い金属音しか鳴らない。
「そんな刃如きではこの装甲は貫けん。そして──」
「ッ!!」
鬱陶しいとばかりに右手を振るった瞬間。槍並みにリーチのある刀身が薙ぎ払う形で眼前に迫り。
刃を払い終えた後に破壊者の姿は無く、代わりに刀を持つ右手が軽快な振動を感じ、視線を向ければ。
巨大な刀身の側面を走り、距離を詰める破壊者の姿が見え。振り払うべく力一杯刀を振り上げるも。
彼は既に跳躍済み。ハルバートの矛先を足場に突き刺し、マグマへ落ちる事なく曲線状を描き着地。
「装甲が分厚いのなら、打ち貫くまで!リボルビング・インパクト!!」
「ぐッ……この装甲に亀裂を入れるばかりか、内側にまで響かせるか!」
幾ら矛先で突いても、装甲を抜かなくては勝てない。ならばと早々に武器を手放し、懐へ飛び込む。
当然近付けまいと斬馬刀を振るう相手だが……長物かつ重量系武器と言う特徴を見切られ、当たらない。
長物故に突けず、空振れば隙だらけ。重量系故に真価を発揮するのは振り下ろしたり振り回す時だけ。
つまり、攻撃パターンは薙ぎ払うか振り下ろすかの二択。屈んだり軸を移動するだけで避けられ。
引き絞った左腕に六発の霊力弾を込め、繰り出した正拳突き。右腕で防がれるも、広く亀裂が入る。
「掛かったな!!」
「なっ──!?」
しかし、それは敢えて動きを読ませる為の罠。確かに攻撃パターンは同じである振り下ろしだが……
魔力か何かで無数に増えた刀身が隙間無く振り下ろされ、破壊者は視認し驚いた時間が大きく。
相手へ近付いていたのもあり、走って避けるには一瞬遅い。相手を怯ませようにも、分厚い装甲が邪魔。
意を決し、足に魔力を込めて駆け出す直後──無数の刀身がミンチでも作るかの如く足場を叩き付け。
残骸と呼んで違いない程ズタズタに引き裂かれ、土煙と共に宙を舞う黄色いマフラーと黒のニット帽。
「見えてる見えてる。後ろだ破壊者──?!」
「もっと深く、鋭く」
「何だ?!何が視界を遮って……冬用の黒い長袖とロングコート?」
されど、それは避けれず命中したと思わせる為の囮。逃げず、敢えて相手の懐へ一瞬で飛び込み。
攻撃範囲から逃れた。が……相手もそれを見逃してはいない。声が聞こえ、振り返るのと同時に。
斬馬刀で背後を薙ぎ払う最中、突然視界が真っ暗になり、振り切ってから左手を柄から離し。
視線を遮る何かを掴み、引き剥がし確認すると……ただの黒い冬用長袖とロングコート。
「奴を貫け!!アローナックル!」
「しま──」
緋色に光輝く魔力が視界の下側に見え、破壊者が技名を叫び、屈伸状態から体を伸ばすのに気付くも。
真下から迫る右拳が、馬面西洋兜ごと顎をかち上げる寸前。勿論回避は間に合わず、緋色の拳を受け。
装甲分厚く、重量もありそうな相手の体が六十センチ浮き……仰向けに倒れ、外れた兜がマグマへ落下。
宙を舞い落ちてくる黒いロングコートを皮膚が捲れ、血が滲み出る左手で掴み、着直せば。
倒れた相手を警戒し、視線を向けた破壊者は唐突な眩暈に襲われ、左手と右膝を足場に着ける。




