the damned
『前回のあらすじ』
全世界平和を実行する救世主を妨害し続け、遂に倒した悪党一味。歪められた歴史は正されたが……
人類は歴史を繰り返す。と言わんばかりに幻想生物相手に第三次世界大戦を仕掛けるも──敗北。
歴史は歪んだ道を再び歩み、約五千年後。元オラシオンが最強メイドの一人、琴音を押し返すは。
ゼノ・クライムと名乗る人物。宇宙にあるセラエノ図書館でも重大問題が発生。ハスターは前大戦の立役者の死を知る。
かつての英雄……否。悪党は魔皇アザトースと副王ヨグ=ソトース。二柱と交わした契約を全て成し遂げ。
かの世界に平和と言う可能性をもたらした後、自身は取り戻した本来の世界へと帰還していた。
平凡極まりない能力へ戻り、特筆する能力も無い彼は大きな会社に就職している訳でもなく。
給料に見合わない!と辞めていく先輩同僚後輩達を見送りながら、日々中小企業で働いていた。
「……一月一生懸命働いて、手取り二十五万と五千円。ま、細々とやれば食い繋げるか」
但し、それが幸せかと言われると彼の答えは否。毎日の退屈から抜け出した、刺激的な体験の日々。
あちらでは契約達成目的もあり。比較的に親切を貫き、命懸けで守りたい場所や相手を助け続けた結果。
第二の故郷と居場所を掴んだ。だが……本来は人付き合いが必要最低限のモテない一般成人男性。
貰った給料明細の紙を黒く薄汚れた、上下共に白い作業着の右胸へ入れて狭い通路を一人歩く。
仕事量は増えど給料は変わらず、休日もする事がない日々。そんな十二月二十三日の午後七時三分頃。
「元の生活は楽しいかしら?終焉の──破壊者さん」
「……アンタか。悪いけど、此処でアンタと話す事は出来ん」
「あら。随分と冷たい塩対応ね」
職場の出入口より、黒いニット帽とロングコート、黄色いマフラーに白い布マスクの防寒着を着た男。
飾りも何もない。無機質で、心許ない電灯に照らされながら──双方しか理解せぬ内容で問い掛けるは。
季節外れの麦わら帽子を眼が見えない程深々と被り、白いノースリーブのワンピースを着る幼い少女。
視線の先に現れた少女を見るや否や。嫌そうに黒い瞳の目を細め、マスクの内側で左口角だけを引く。
淡々と冷たい言葉を吐き、相手と向かい合って足を止める彼に対し、オウム返しが如く冷たく言い返す。
「此方の対応は妥当だし、酷いのはの方アンタだ。自分は家に帰らせて貰う」
「……貴方の『家族』と第二の故郷が──『魔神王』の悪意に滅ぼされるとしても?」
自身の対応は妥当で酷い対応は相手の方だと述べると。自宅へ帰る旨を伝え、右側へ歩いて行く。
目線や顔で追う事はせず、独り言を呟く様に。相手へ伝わる程度には大きな声で聴こえる風に話す。
すると彼は進めていた足を止め、睨み付ける形で振り向く。すると少女は両端の口角を吊り上げる。
「単刀直入に言うわ。貴方の力を──違うわね。もう一度、貴方の勇気を私達に見せて欲しいの」
「…………」
「どう?私達に力を、勇気を見せてくれるかしら?」
獲物が話題に興味を示した。ならば後は釣り針の餌に食い付かせるだけ!と言わんばかりに。
細く白い自身の左手を相手へと向け、舞踏会でエスコートを求める風に差し向けるのだが……動かない。
未だ睨む形で目を細め、警戒中の猫同然に相手の動きを見る。それは手を取る選択肢より、逃走。
近付いてくれば逃げる。近付かないと判断すれば、職場の駐輪場へ駆け込み、自転車へ乗り逃げる。
報酬に見合わぬ依頼。例えるなら──コップ一杯の水を得る為、人類と敵対し勝利するも同然の難易度。
沈黙と不動の時間が場の空気を支配し、相手は差し向けていた左手を力無く降ろし口角も降り真顔に。
「…………嫌なの?」
「……あのな。今自分が置かれている現状、分かって言ってるのか?」
「何の事かしら」
少し間を空けて、つまらなそうにポツリと呟く。そんな姿を見てか。肩を落とし、面倒臭そうな態度へ。
背中に背負っている赤いリュックサックを手に取り、相手に見せ付けながら言葉を返す彼だが……
その行動・意味・内心を理解しない相手はそれがどうかした?と言いたげに聞き返し、彼は更に落胆。
同時に、今話している相手がどう言う存在かを改めて再認識し。手にしたリュックを背負い直す。
「毎日の残業を終えて、漸く平日に残された自由時間。速く帰ってご飯や風呂を済ませたい。それに──」
「それに?」
彼が伝える内容は、社会で働く大抵の者が一度は思う感情。社会に生きる上でお金は必要不可欠。
されど心身の回復や自由時間を考えれば、速い帰宅と必要な行動は済ませたい。それに付け加えて……
彼は相手に言うか言うまいか──否。言っても事の重大さを理解されないと認識しており言い出せない。
とは言え、言うしかない。聞き返される言葉に意を決し、両手で握り拳を作りながら細めた目を見開き。
「此処は西暦二千十二年なんだよ!!夜の寒空で幼女姿の副王と話してたら此方が社会的に殺されるんだよ!」
右人差し指で相手を指差し、真っ当な理由を感情的に吐く。第三者から見れば、幼女と話す成人男性。
しかも片や冬場に生地が薄いノースリーブのワンピース、片や完全防寒装備。良くてそう言うプレイ。
常識的に考えれば警察案件。最悪社会的抹殺の可能性すらあり、最初から此処で話すのを拒んだり。
敢えて此処での対応を拒み、酷い対応をしているのはアンタだ。と言い返していたのである。
当人からすれば魔神王を倒し、元の生活へ戻ったら今度は社会的に抹殺されるとか、洒落では済まない。
「んん~……あぁ、その点は大丈夫。貴方に逢う時は、何時も時間を止めてるから」
「はは……ははははは──ハァ……」
右人差し指を顎に押し当て、夜空を見上げると……彼の意図を理解したらしく。向き直り、説明をされ。
逆に考えてみると、確かにそうである。秘密の会話をするのに、場所や対策をしないのはおかしい。
過去──光闇戦争時の思考であれば、暗黙の了解でスルー出来ていた事実もあり、渇いた笑いしか出ず。
自身の抜けた思考と自己嫌悪から落胆が分かる程の深い溜め息を吐き、人差し指で白マスクを下ろし。
「そもそも、何で自分なのさ?他にも頭脳、力、勇気と言う点で強い人物は居ると思うんだが」
素朴な疑問を副王へ投げ掛ける。確かに前の戦いでは、彼以外我こそは!と自発的に出る者がおらず。
復讐心と相違の違いで立ち上がったに過ぎない。されど今回は地球人類から選びたい放題な為。
わざわざ自身を選ぶ理由がない。オメガゼロの力が無い現状、知恵・力・勇気も他の人物に大きく劣る。
故に理由を聞きたい彼は副王へ問う。すると副王は少し口を開け、右人差し指で頬を軽く掻き……
「そうね。私も貴方に連投させない為に、別の人材を選別したんだけどね」
「おい!なんかルビがおかしいんですが?!」
「選別した人類の半数は死亡。生き残った半数はテラー化。生存した四人は黒幕の味方に付いたのよ」
前任者たる彼へ声を掛ける前に、他の者へ事情を説明し派遣したと語り、彼の前へ左手を差し出すと。
大きく透明な水晶玉が現れては浮かび、証拠映像を映す。白色人種・黄色人種・黒色人種。
色々な国へ渡り、男女問わず様々な相手と話し送り出したと分かる。自然に右手が水晶玉へ触れると──
話している相手の心情や本音が、彼の頭へ流れ込む。アニメや小説の展開に心踊らせる者や。
下心丸出しな者等々。中には『望むモノを与える』と言う言葉に善悪の双方で溺れた者達もチラホラ。
しかし、何百万人と送り込み半数は死亡。半数は謎の現象・テラー化、それを越えた者は敵側に。
「貴方しか我々には残されていないの。如何なる力にも飲まれず、自我を貫ける存在は」
「オラシオンの皆は?!第二の故郷に居る家族が動けば、ソレ位……」
「オラシオンは解散済み、ヴォール王国も黒幕達の手で壊滅。幻想の地は現実世界──現想境には不干渉」
「ッ!!」
半数は半壊。残りは敵陣営へ吸収され、生存者は寝返った。平和ボケした気分だけ勇者の初心者や。
例え戦争慣れしていても、それは対人特化に過ぎない上。受け取る『オメガゼロの力』は繋がりの力。
他者を信じて繋がれど、増幅する力に溺れず飲まれぬ者が必要なのだが……此処に特大の罠と爆弾がある。
器となる存在は『欲望が底無しに深く、同時に欲の無い者』が最適。相反する器を持つ者が必要。
彼は自身の仲間達に救いを求めれば?と言うも片や解散済み、片や防衛戦は出来れど下手な干渉は不可。
故に現実と幻想を往復出来、オメガゼロとして戦い抜き、魔皇や副王との契約を果たした彼しかいない。
「ハァ……分かった分かった。で?今回は報酬として何をくれる訳?クソゲーはもうお腹一杯だぞ」
「貴方の好きな声優が担当する音声合成ソフトウェアよ。腐女子から貴腐人にランクアップした女性のね」
「その声で言うのは止めろ!割りと本気で好きなんだぞ!?いや、今でもあの声と喋り方、性格は好きだけど」
「あぁ、そう言えば言ってたわね。この姿での声が、夕張市出身の大好きな声優さんと瓜二つの声だって」
これ以上無駄に命を散らした報告も聞きたくない。呆れの混じった深い溜め息を吐き、了承後。
報酬は何かと訊ねれば。彼の好きな声優が担当する音声合成ソフトウェア……までは良かったが。
要らぬ情報まで足してしまった為か。少女姿の副王が使う声が件の声優と瓜二つであり。
好きな声優御本人が公言してる風にも聞こえ、両耳を必死に塞ぎながらも確かに届く声で二重に苦しむ。
「声フェチやオタクと言うのも、相当面倒な生き物ね」
「人生そんなもんさ。無駄を楽しんでナンボだ。と言うか、報酬の内容は変更だ変更」
「……どうしてかしら?」
「アンタが来てよく分かった。どうやら──此処に『俺』が満足する居場所は無いってな」
日本特有の文化や趣味趣向に理解と経験が無い副王には、それを良しとする生物を面倒な生き物と発言。
それに反発せず、人生とは無駄を楽しんでこそ。と言い返し、副王に報酬の変更を求める。
何百万人と契約を交わし、求む報酬の傾向が趣味や欲望と理解していた為。急な報酬変更に聞き返す。
とは言え、彼の報酬変更は至極単純かつ当然のモノ。元々居たこの世界では、満足出来なくなったが為。
「どうやら俺も、戦闘狂の仲間入りをしていたらしい」
「good。十ヶ月分のブランク、さっさと埋めるでしょ?」
「当然。鈍った勘は早く取り戻さなきゃ、向こうじゃ即死もあり得る」
理由は戦闘狂や多種多様な強敵と戦い続けた結果、自身も軽度な戦闘狂になっていた。
告白する彼に対して右手でグッドサインを作ると手を開き、自身の手を取れる様に差し出せば。
今度は差し出された右手に自ら近付き、左手を乗せながら空白期間の鈍りは早々に解消すべきと発言。
「貴方をサポートしていたゼロ達は?」
「もう……居ないんだ。魔神王を倒す為の融合で、別人格を全部取り込んだから」
手を取り合ったからか。副王は前大戦で肉体を得て、彼と共に戦い抜いた七人の別人格達。
されど最後の戦いで完全な融合を発動。力を分けた与えた別人格達を取り込んだ為、もう存在しない。
話終えると二人は淡く白い光に包まれ──彼は故郷へ二度と帰らず、警察の捜索すらお手上げ状態に。




