姿無き侵略
『前回のあらすじ』
奈落の深淵にて、未来世界の西暦が変わり新たな敵組織が現れた旨を二人の会話から知るエックス。
天井に穴が空き、夢魔と悪魔の魔王が激突しながら降下。更に落ちて来た列車には桔梗と如月が。
心拍や脈の無さを知るや否や、強い恐怖心に襲われテラー化を引き起こし、魔王二人を一蹴。
だが黄泉の国では心臓や脈の動きは無いと知り、落ち着き己の無意識と向き合いテラー化を解除。
桔梗と如月。意識を失った二人の目覚めを待つ中。轟雷は鳴り止み、雨もカーテンを開ける様に止む。
無数の紅い粒子が目の前で集まると白装束に青い袴、紅く長い髪を括り、足袋と草履を履く男へ。
その男は幾度も破壊者へ助言を授け、時には戦いを仕掛け、助け船すら出すも敵組織に身を置いた者。
紅き龍神族が一人、紅心。紅蓮の瞳で破壊者達を眺め、自身らへ近付く彼に警戒し身構える蜘蛛と蛇。
「久し振りだね。人類の敵にして、世界の破壊者」
「……お久し振りです。ですが、霊華や紅絆は居ませんよ?」
警戒心を行動で示されても全く意に介さないどころか。一行の前で立ち止まると気さくに破壊者へ挨拶。
話し掛けられた当人も内心警戒は解かず、視線も逸らさず敬語で言葉を選び、来訪理由の先手を打つ。
可能ならば、現状戦いたくない相手。何故なら──強大な実力を持つ龍種や魔に関する者達は。
その瞳に特別な力を宿す者が多い為。千里を見通す千里眼、未来を視る未来視等々色々あるが……
「いやいや。君に逢いたかったんだよ。我が息子の肉体ではなく、本来の肉体を取り戻した君に」
(本っっ当ぉぉぉ~に……一体、その運命眼は此方の何処まで視えてんだか)
紅心が瞳に宿す力は相手の運命を見通す眼──運命眼。対象が如何なる道や運命を辿り誰を娶るのか?
そう言った内容を見通す、ヨグ=ソトースが持つ権能の極々一部だけを真似た下位互換能力の眼。
人類種では絶対に獲得出来ず、資格を持つのは他の追随を容易に許さぬ龍種や最上位の限られた魔族。
仮に獲得出来ても、視える範囲は数秒先から転生先までピンキリ。故に、破壊者は警戒を解かない。
紅心は何処まで視えているのか?自身の能力が運命眼に対し、どんな作用を与えているのかすら不明。
余りにも情報不足。相手の底が分からない今、下手に此方の情報を与えるのは危険極まりない悪手。
「人族や神々は君の敵であり、人間は君の味方である。面白い事にね」
「……貴方達だけでしょうね。自分が倒すべき真の黒幕を知る存在は」
そう。破壊者とは、人類の敵であり人族やその星の神々に嫌われている。何故か?理由は至極単純。
自身らの夢と希望を、欲望を粉々に破壊される為である。神々も信仰者達の希望や夢を打ち砕かれては。
存在に悪影響が出る為。しかし宇宙的恐怖たる外なる神や旧支配者には全く関係無い。
他には試練を乗り越え続け魂レベルが高まった余り、地球のエネルギーに合わなくなった者──
破壊者が護る価値を見出だす存在の人間だけは、破壊者の味方に成る選択を取り易い。
少し間を空け、自身が倒すべき真の黒幕に気付く者達は紅心を含め、限られた一部だと言い返す。
「勿論。死・不平等・不幸・欲望。そんな概念を無制限に生み出す、悪を越えた巨悪」
「えぇ。人類こそ、私が倒すべき巨悪。故に私は世界の破壊者であり──人類の敵」
「君が今まで倒して来た敵達には、全て共通点と理由がある。それは──」
「人類が吐き出す言葉、あらゆる概念や想像・空想・妄想・知識」
返答へ対し、当然とばかりに巨悪が息を吐くも同然に繰り返し行う悪行を破壊者も同意した後。
特別な力も無い一般人でさえ世界や宇宙すら滅ぼす真の黒幕で、その人類に敵対し幾度も世界を救い。
無意識から来る世界滅亡の願望を破壊する終焉の破壊者こそ、真に人類の敵であり救世主足りえる。
並行世界を巻き込んだ魔神王や宇宙からの侵略者達は全て──人類が求め、招き、生み出した我が子。
「つまりぃ……何や?人類ってのは全員、破滅願望でもあるんか?」
「まあ……その認識で良いとも。君だってあるだろう?主に対する恐怖心や不服位は」
「…………」
次々と並べ続けられる言葉。右人差し指を頭に押し当て、整理した情報から漸く自身の言葉にすると。
紅心はドラコーの目線まで腰を降ろし、彼女自身にも共通する感情が有るのではないか?と訊ねれば。
彼女は顔を背け、黙り込む。その沈黙と行動を肯定と受け取り、優しく微笑めば腰を上げて目を開く。
「君が得た新たな力、テラー化は君だけが使える力じゃない」
「分かっています。コレは心を持つ存在全てが意識的、無意識的に発現出来る諸刃の剣」
「テラー、恐怖心。しかし何故、恐怖心が自身をあの様な異形へ変えてしまうのでしょうか?」
「そうか。終焉の糸を紡ぐ君も未来を視たんだね。その質問の解答は至極単純。恐怖とは──死に繋がる」
破壊者へテラー化の忠告をするも当人は体験者。心持つ者が使える、意識・無意識的に発現可能な力。
同時に対応をミスると危険性が極めて高い諸刃の剣。ポツリと呟くアトアの素朴な疑問に対し。
彼女が未来を視た事実を踏まえ、答えは複雑に考えずとも単純だと発言後──死に繋がる内容の恐怖。
命に関わる、関わらないに限らず誰しも死に繋がる恐れがある。孤独や拒絶・失脚が人類には最も近い。
「無機物有機物の損失に限らず、関係性等で心が刺激され、強い恐怖心を抱くと発生するみたい」
「それは厄介極まりないなぁ。それに現代人って奴等はウチらの時代と違って心身共に貧弱なんやろ?」
「肯定。便利を追求し続けた結果、人類の多くは生きる目標・目的を見失い、弱々しくなったのが現状」
人類とは繋がりを重視する部分が強く。平和な国、戦争が多い国……何処でも誰かとのラインがあり。
漸く国として一つの命として安定的に、まともに動く。食糧・武器・移住、その全てに死が隠れている。
命や安全が脅かされれば、未熟な魂や心は恐怖に支配され、容易く心を乱してパニックになり易く。
恐怖もまた──他者へ感染し爆発的に被害と数を増し、テラー化の被害は一国を簡単に潰す。
人外二人は理解する。便利な世と化したが為に人類の心は弱り、外敵を招き入れた挙げ句。自身らは……
ギリシア神話のエキドナ、メソポタミア神話のティアマト、仏教の鬼神母子、日本神話のイザナミへ。
「魔物の母……それが今の人類の姿。まさにこの星は蠱毒の壺っちゅう訳やな」
「我々としてはウボ=サスラ……いえ。アレと人類で計っては天秤がアレに傾くのは明白ですね」
魔物の母。ドラコーが放つ言葉の通り、今の人類は星を壺に見立てた蠱毒を行う破滅志願者。
アトア達旧支配者の認識だと、アレは地球上全生物の生命の源。宇宙の不浄全ての母にして父。
アレと人類では決して吊り合わない。しかし──この親にしてこの子あり、行う事は似たり寄ったり。
そう。人類は『ウボ=サスラ』と似たり寄ったりな行為を、悪い意味で実行してしているのだ。
「影を探し、受け入れろ。その先に──可能性は生まれる」
突然差し出される紅心の右手。一度手に視線を下ろし、もう一度彼の顔を見上げると真剣な顔。
恐らく、この握手には何か意味がある。不思議な確信と勇気を胸に抱き、恐る恐る右手を伸ばして握る。
すると力強く引き寄せられ、左手で抱き締められた。突然の行為に驚き、理解が追い付かない中。
左耳へ助言を囁いた途端、そのまま再び粒子と化して眼前で消失。何度目かの……第三の父親の消失。
膝から崩れ落ちた後、彼だけに何故か紅心の声が聞こえる。「その手は顎であり爪でもある」と。
「大丈夫なん?」
「あぁ、大丈夫。七転八倒七転び八起き。自分には、挫けてる暇なんて無いからな」
「…………左様か」
彼の頬を伝い、流れ続ける涙。敢えて涙には触れず、気遣うドラコーにもう大丈夫だと伝えた上。
立ち上がりながら激しい苦痛に転げ回ろうと、何回失敗しても立ち直ってやり遂げる他無い。
流れる涙も拭わず茜色の光が降り注ぐ天井穴へ顔を向け、何かを決意する破壊者の横顔に言葉を失う蛇。
幾許かの間を空け、漸く短く素っ気ない言葉を絞り出す彼女の脳裏に自身を討った英雄が過る。
(コイツ……望まれぬ生を受け、運良く産まれただけか。そして続く一人目の妹はその逆…)
己を討伐した英雄の自身を見下ろす顔が記憶として思い出された時。黄泉の国の特性故か……
生者の記憶が偶然にも当人以外の脳裏に流れ込む。行為の末に母親の子宮で新たな命を灯すものの。
それは父親からすれば望まぬ結果。生活面や責任?又は──大人に成れぬ子供心から来る独占欲か。
だが発見が遅く中絶は不可。父親の傲慢・嫉妬・憤怒・強欲・暴食を受け、母親達からは愛情を。
両親の犯罪から色欲を学んだ結果が、目の前に居る破壊者。しかし父親は二の舞を防ぐべく。
長女を早期発見後中絶。所詮この世は誰かの幸せは誰かの不幸の上に築かれ、常に不平等だと吠え騒ぐ。
「少し……長居し過ぎましたね。拒絶反応の暴風が来ます!」
「せやなぁ。経緯がどうあれ、此処には生者が長居してえぇ場所や無いし」
「っ……砂嵐が──ッ!?」
過去や思い老けるのも時間切れ。と言わんばかりに、奈落の深淵へ発生する砂塵の大嵐。
吹き付ける砂と強烈な風に袖で口を覆い隠し、発生理由を話す二人。一刻も速く去れと風量を増す砂嵐。
余りにも唐突な大嵐に踏ん張り切れず、渦に飲み込まれる四人は規模の収縮を始める嵐から抜けれず。
残る破壊者も何処からか飛んで来た、一枚のやや茶色味を帯びた手紙が視界を奪う様破壊者の顔へ直撃。
ほんの一瞬。吹き飛ばされない様に踏ん張っていた力が緩み、彼も巻き上げられてしまう。
「気ぃ付けや!!此処、黄泉の国と現世で流れとる時間、飛ばされる場所もちゃうからな!」
(マジか──何だ?!この記憶は…)
渦に飲まれ、高速で振り回される中でも忠告してくれるドラコーに返事を返す余裕すら無い破壊者。
心の中での返事を邪魔するかの如く、突然視えるは見知らぬ場所と人物。否、一名だけはよく知る存在。
やや黒めの黄色い軍事用拠点型テント内には、場にそぐわない礼服を着た白髪の年老いた男性が一人。
自身もよく知る少女姿の副王が会議用の長方形机を挟み、席に座って何やら手振りを加え話す光景。
『……分かりました。人類には長く辛い体験になるでしょうが、滅亡だけは避けなければなりません』
『苦渋の決断、感謝するわ。人類最後の天皇陛下。他国の総理達は殺す選択肢以外なかったもの』
『日出ずる和国の大統領かね?幻想種との戦争だ。地殻破壊爆弾Z・三七五=六四式の使用も許可しよう』
副王との対談も終わり、事の深刻さを理解した天皇陛下は人類滅亡を回避すべく苦しい条件を飲む。
感謝の意を言葉と握手で示し、他国のトップは死ぬ他無いと不吉・意味深な発現を言い放つ副王。
有言実行。天皇陛下は礼服のポケットからスマホを取り出し、自国の大統領へと電話を掛ける。
内容は幻想種との戦争開幕宣告。記憶が流れる中、第三次世界大戦が行われ、黒い爆弾が投下され。
想像を絶する大爆発が起き、立ち上るキノコ雲。更に時間は加速し続け……五人は別々に飛ばされた。




