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悪役令嬢、ヒロインの座を奪うシリーズ

悪役令嬢なので、ヒロインから主役の座を奪いました

作者: 福嶋莉佳
掲載日:2025/10/10

春の風がまだ冷たさを残す朝。

新学期が始まった学園の廊下を、私はひとり歩いていた。


「カルミア様だ、前回首席の」

「でも性格悪いんだろ?」

「美人なのに、もったいないよな」


学園の人々は、私を“悪役令嬢”と呼ぶ。

見た目、立ち居振る舞い、単独行動の多さ――理由はいくつも思いつくが、

そんなことはどうでもいい。


あの女――リリアナに勝てれば。


「――カルミア様!」


背後から鈴のような声。

振り向けば、リリアナがいた。

両手いっぱいに本を抱え、春の花のように笑う。


「前回の舞踏会、素晴らしかったですね。

殿下と堂々と踊られてて…羨ましいなと思っちゃいました」


そう言って、少し恥ずかしそうに目を伏せる。


「カルミア様を見て…私も変わらなきゃって思ったんです」


大きな瞳をキラキラさせて。


「最終学年ですし、カルミア様を目標に私も頑張ってみます!」


相変わらず素直で前向きな発言。

ここは「一緒に頑張りましょう」とでも言うのが淑女の返しなのだろうけれど――


カルミアは優雅な笑みを浮かべ、声の温度をほんの少し下げて告げた。


「宣戦布告と思っておくわ」


空気が一瞬で凍る。


「そ、そんなつもりじゃ…!」


と慌てるリリアナに、私は穏やかに微笑んだ。


「ここは学園ですもの。競い合ってこそ、でしょう?」


そのまま背を向けて歩き出す。


「カルミア様、相変わらずきついわね」

「リリアナ様可哀想に」


そんな声が背中を追いかけてきた。


ええ、はい…好きに言いなさい。

足取りは崩さず、絹の裾を揺らして進む。


――リリアナのために用意された小説の世界で、主役の座を奪ってみせる。

それが――悪役令嬢カルミアとして生まれ変わった私の、最高の嫌がらせ。


(リリアナは恨むなら、神様を恨みなさい)


理由なんて単純――私がリリアナを嫌いだから。



リリアナは学園の人気者だ。

周囲の人たちも、読み手も口をそろえて言う。


「頑張り屋さんだし、応援したくなっちゃう」――と。


とある昼下がりの図書室。

リリアナのテーブルには、いつものように人だかりができていた。


「えっ、そうやって解くのですね!すごい…私もやってみますね!」

「そうそう、こうやって公式を使うと簡単だよ」

「この問題、ずっと分からなかったんです。教えてくださりありがとうございます!」


一方の私は、相変わらず山のような書物と格闘中。


――周りに恵まれていて羨ましい限りです。

(というか、図書室で喋るな!静かにしてよ!)



ある日のダンス練習場。


「うぅ…どうしよう、何度やっても上手くいかないわ」


焦りをにじませ、リリアナは足元を見つめた。

――その瞬間、光が差したように場の空気が変わる。


金の髪を揺らし、蒼の瞳をもつ青年が現れた。

レオンハルト殿下である。


「どうしたんだい?」

「ステップがうまくできなくて…少し、見ていただけますか?」


潤んだ瞳で見上げる彼女に、殿下は柔らかく微笑んだ。


「よかったら、一緒に練習しよう」

「…ありがとうございます!殿下となら、できる気がします!」


――まるで“努力するヒロイン”を描いた物語そのもの。


(これ、原作のワンシーンじゃない!)


…にしても殿下、相変わらず優しくて素敵。

さすが私の推し。


しかしリリアナよ、ダンスに限ってなぜ一人練習なのさ。

(いつものモブ達どこ行ったの)


二人から離れた場所で、私は鏡を見つめながら黙々とステップを踏む。


(せいぜい今のうちに殿下とのダンスを楽しめばいい…)

最後に、殿下の隣でドヤ顔するのは私よ!



それにしても――なぜかリリアナの周りには、いつも有能な講師と支援者が揃っている。


「魅力的な人柄が人を惹きつける」なんて言われているが、

(リリアナ、割と中身は普通の子設定なんだけど…!?)


主人公補正、酷くない?


リリアナの成績は驚くほど伸びていく。


「リリアナ頑張ってる!」

「本当にすごいね!」


そんな声が、彼女の背中を押していた。


「ありがとう…!頑張ってよかった…!」


(確かに、頑張ってはいるけど…)

――すごいのは、周囲のサポート力のほうじゃない!


リリアナはぱっと見こそ努力家。

でも私から見れば、お膳立てがなければ何もできない子。

こういうところが、嫌いなのよ――。


ふと視線を向けると、レオンハルトがリリアナに声をかけていた。


「がんばっているんだね」

「…はい。殿下にそう言っていただけるなんて、光栄です」


ああ、殿下までリリアナを褒めるのね…。

(つら…でも、その優しい眼差しは、やっぱり良き)


「相変わらずあのお二人、仲がよろしいこと」

「殿下とリリアナ嬢、お似合いね」


周囲の囁きが、耳に刺さる。

(ぐわっ…それ言わないで…)


可憐な令嬢と、美しい王太子。

誰が見ても絵になる光景だった。

――私が見ても、なお。



小説では、殿下は“頑張るリリアナ”の姿に惹かれるシーンがあった。

だからこそ私は、一人で努力を重ねてきたけれど――


卒業を前に、リリアナの名前が成績上位者の常連になっている。


このままでは、首席を彼女に攫われかねない。


(やっぱり、この“リリアナ中心の世界”で抗うことは不可能なの?)


そんな思いを抱えながら、放課後の練習室。

鏡に映る自分の姿を見つめ、ひたすらステップを確認していた。


――扉が開く音。


「…カルミア嬢は、いつも一人だな」


その声に、心臓が跳ねた。

振り向けば、そこにはレオンハルト殿下。


「人望がないだけですわ」


自嘲気味に返すと、殿下はふっと笑う。


「いや、君は違う。

人の目を気にせず、黙々と積み上げている。

僕は、それを尊敬しているよ」


…ぐはっ。たまらん。好きすぎる。


胸の鼓動を抑え、令嬢らしく微笑む。


「殿下こそ、よく周りをご覧になっていますね」

「立場上、いろんな人を見てきたからな」


その横顔がまぶしくて、胸が痛い。


「せっかくだ。練習、付き合ってくれないか?」

「わたくしと…ですか?」


思わず問い返すと、殿下は穏やかに笑った。


「君のステップは、誰よりも正確だ。――見習いたいくらいだよ」


その微笑みに、抗えるはずがなかった。

そっと手を重ねる。


(私はまだ戦える…!)


このご褒美を糧に、私は最後まで運命に抗うと決めた。



そして迎えた、卒業の日。


王城の大広間に全校生徒と来賓、王族が集う。

荘厳な空気の中、成績上位者の発表が始まった。


「―首席、カルミア・ヴァーレン!」


(…うそ。や、やったわ!)


ざわめきが広がる。


「カルミア様!?」

「リリアナ惜しかったな…」

「でも頑張ったよ!」


リリアナは唇をきゅっと結び、大きな瞳を潤ませた。


「…頑張ったのに、悔しいな…」


周囲が一斉に駆け寄り、

「リリアナ大丈夫?」

「努力してたの知ってるよ!」

と声をかける。


――まるで青春ドラマね。


冷めた目で眺めていると、レオンハルトが彼女に歩み寄るのが見えた。


「リリアナ、最後まで努力して偉いよ」

「レオンハルト殿下…」


…あ、終わった。

やっぱり殿下は、リリアナを選ぶのね。


(結局、小説通り…カルミア・ボッチ・ジ・エンドか…)


静かに息を吐き、踵を返す。

リリアナと殿下の婚約発表なんて、聞きたくなかった。


逃げるように歩き出そうとした、その時。


「―カルミア嬢」


足が止まる。

振り返ると、広間が一瞬で静まり返った。


「今年も見事だったな」


蒼の瞳が、まっすぐ私を射抜く。


「君が孤独の中で積み重ねてきた努力を、私は知っている。

誰もが易きに流れ、誰かの助けを借りる中で、君は一人立っていた」


息が詰まる。


「カルミア・ヴァーレン。

私は君を、私の隣に立つ人として迎えたい」


―ざわり、と空気が揺れた。


リリアナの方を見なくてもわかる。

あの子の世界が、音を立てて崩れていくのを感じた。


胸がじん、と熱くなる。


(ああ…もう、一生あなたのために尽くします!!)


けれど私は、顔を上げ、優雅に微笑んだ。


「―光栄です、殿下」


その手を取った瞬間、どよめきが広がる。

リリアナのすすり泣きが、微かに背をかすめた。


(リリアナ、残念だけど――あなたには殿下の隣は相応しくない)


殿下が求めているのは、助けを乞う姫ではない。

共に歩める者。


「相変わらず、君の笑みは美しいな」


もはや悪役令嬢の笑みではなかった。

それは、王太子の隣に立つ者の、凛とした微笑だった。

ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

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助けを乞う姫ではない。 共に歩める者。 国を治める意味を知っている王族なら、まさしくこれだと思いました。 よく王子妃に癒しを求める王子様の話を見るけど、癒されたいなら猫でも飼っとけ! 奴らは最強…
リリアナの現在の身分(親の爵位)がわかりませんが、平民上がりで主席でもないのに殿下に選ばれると思っていた(選ばれなかったからといって涙を流す)というのは、かなり図々しい性格してますよね。 まわりが殿…
個人で自分を高めるカルミアと周囲を頼って高めるリリアナ。 方向性が違うだけでどちらも凄いのよね。
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