自業自得
病院に運ばれて検査をされたが、異常は見つからなかった。精神的な影響による体調不良だろうと言われた。点滴を受けて、翌朝、退院した。
部屋に戻ると、またストレスがかかってきた。これからの生活のことを考えると、平静でいられるわけはなかった。まったく金がないのだ。というより、借金があるのだ。
なんとかしなくてはならない、
焦りが募ったが、なんともならなかった。連載は一本あるが、それだけでは生活ができない。といって、新たな小説の準備は何もできていない。プロットどころか、走り書きのメモさえもない。株に集中しすぎて本業をお座なりにしていたから当然ではあったが、新たな飯の種になるものは存在しないのだ。
ダメだ~、
頭を抱えた時、スマホが鳴った。出版社からだった。恐る恐る出ると、とんでもないことを告げられた。唯一残されていた文芸誌の連載を打ち切るというのだ。
いや、ちょっと待って!
そんな一方的なことは認められないと突っぱねたが、聞き入れてもらえなかった。それに、本来なら交わしておくべき契約書が存在しなかった。口約束で引き受けていたのだ。
それでも、受け入れるわけにはいかないので、何度も掛け合って再考を促したが、「会社としての決定ですから」という言葉が覆ることはなかった。静養を優先して欲しいという。
でも、それは表向きの理由で、真相は違うに決まっている。担当編集者から見捨てられたのだ。作家としてのわたしの能力を見限ったのだろう。わたしの入院を知って、これ幸いと打ち切りを決めたに違いない。
その後も電話をかけ続けたが、遂には居留守を使われるようになった。もうなんともならなかった。
ジ・エンド!
自業自得とはいえ、大変なことになった。連載中止は毎月の安定した収入が途絶えることを意味している。単行本の増刷予定がないわたしにとって連載は唯一の収入源だったが、それが断たれるのだ。目の前から完全に光が消えたも同然だった。次から次と襲いかかる悪魔のような仕打ちに自らの運命を呪った。
…………運命?
いや、違う。運命ではないし、誰のせいでもない。金儲けにうつつを抜かして仕事をおろそかにした罰が当たったのだ。ビギナーズラックを実力と勘違いした間抜けなバカ者が墓穴を掘っただけなのだ。
いや、それだけではないのかもしれない。父の期待を裏切ったことも影響しているだろうし、才高家のご先祖様の怒りに触れた可能性だって否定できない。
どちらにしても自業自得なのは明らかだった。 そう思い至ると、思い切り落ち込んだ。自分の価値が無になったようで立ち直れそうもなかった。病み上がりということもあって、気力はマイナスを彷徨い続けた。そんなわたしにガールフレンドが追い打ちをかけた。
「借金どうするの? 私が貸した分を先に返してね」
慰めてくれるどころか、恐ろしい顔をして返済を迫られた。
「なんとかする」
顔を背けて呟いた。