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守り人

 

 ホームページ『女宮大工・才高宮の千年日記』を見た人から問い合わせが来るようになった。ホームページの作成依頼だ。依頼をしてきたのは、伝統に裏打ちされた優れた技術を持ちながら受注減少と後継者不足に悩む人たちだった。

 鍛冶(かじ)職人、和太鼓職人、和傘職人、和紙職人、和ろうそく職人、線香花火職人、西陣織職人、漆器(しっき)職人、漆蒔絵(うるしまきえ)職人、足袋(たび)職人、ふすま職人、畳職人、仏壇修理職人、古家具修理職人、木彫刻(もくちょうこく)師、製硯(せいけん)師など、長い年月をかけて修行することでしか身につかない専門性の高い職人ばかりだった。


 彼らの仕事は大量生産と対極にある手作業のため、時間がかかり、高価になり、日常生活の中から消えていき、需要減少から来る廃業が相次いでいる。そんな状況だから弟子の成り手もなく、高齢の職人が細々と続けているだけで、その技がいつ途切れるかも知れないという危険性が増している。宮大工の数が100人を割り込もうとしているのと同様に、刀鍛冶職人は200人を切り、和紙職人も600人ほどになっている。どの専門職人の数も大幅な減少が続いているのだ。また、西陣織職人の半数以上が自分の代で転廃業するという調査結果もある。本当に切羽詰まった状態になっているのだ。


 そしてそれは職人だけの問題にとどまらず、関係する産業にも影響を及ぼしている。例えば、手()き和紙はその出荷額が激減しているが、そのことによって主な原料である(こうぞ)三椏(みつまた)の栽培面積減少にもつながっているのだ。つまり、伝統産業を支える仕組みそのものが危機に瀕していることになる。


 もちろん、彼らも手をこまねいていたわけではないはずで、なんとかしようとしていたに違いない。自分が頑張れているうちにその技を誰かに引き継ぎたいと思っていたに違いない。誰だって磨き上げた技を廃れさせたくはないのだ。しかし、どうすればよいのか、解決策に辿り着くことはなかったのだろう。


 そんな彼らが自分で偶然見て、または、家族や友人、知人、取引業者などから教えられて、『女宮大工・才高宮の千年日記』を知ったらしい。宮大工という自分たちと同じ境遇に置かれた職人の姿が生き生きと描かれているのを見て、ほとんどの人が食い入るように見つめたという。そして、このようなホームページができれば自分たちが抱える問題を解決できるかもしれないと、(わら)にもすがるような思いで連絡してきたのだ。

 自分達の仕事を多くの人に知ってもらいたい、

 その魅力を知ってもらいたい、

 自分たちの仕事を引き継いでくれる若い人を探したい、

 口々に訴える彼らの言葉は正にわたしが待ち望んでいたものだった。


 すぐに現場に(おもむ)いて、職人さんたちと膝を突き合わせるようにして話を聞き、その熱い想いに圧倒されながらも必死にメモを取った。そして、どうしたら彼らの要望に応えられるか、夜遅くまで話し合った。

 それを繰り返す中で、自分の想いが更に確固としたものになっていった。伝統の技を廃れさせてはいけない、後世に引き継いでいかなければならない、その一翼(いちよく)を担わないといけない、と。


 すると、脳裏に美顔の社長から聞いた彼の母親の言葉が蘇ってきた。


「あなたには創業家の意志を受け継ぐ責任があるのです。古から綿々と引き継いだ意志を守らなければなりません。あなたは守り人になるのです」


 わたしはその言葉を胸に深く刻み込むと共に、この重要な役割を一代で終わらせてはならないと強く心に言い聞かせた。工匠と同じように守り人にも後継者が必要なのだ。個人事業主としての活動にとどめてはならないのだ。更に一歩前に進めなくてはならないのだ。体の芯から湧き上がる熱い想いが大きな決断を促していた。


 やるしかない!


 敢えて声に出した。

 その瞬間、心が決まった。

 未来に向けて時が動き始めた。



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