信用取引
その後は当然のように値動きの激しい新興株の投資にのめり込んだ。最初のように一企業だけでがっぽり設けることはできなかったし、思惑に反して一時的に株価が下がるものもあったが、それでも毎月15万円以上稼ぐことができた。
ところが、株式投資にはまり込むのを戒めるかのように原稿依頼が減ってきた。連載が一つになってしまったのだ。それは、手にする原稿料が大幅に少なくなることを意味していた。
焦った。
といって、編集者に泣きつくことはできない。原稿依頼を増やすためには魅力のある小説を書くしかないのだ。それでも、株式投資を止めて執筆に専念するのは怖かった。株の売買による儲けがなければ今の生活を維持することが難しくなるからだ。
どうすればいいか?
考えるまでもなかった。原稿料収入の減少を補うためには更なる投資収益を上げなければならない。迷わず、信用取引に手を出すことを決断した。
しかし、それは素人の投資家にとって禁じ手と言われているものだった。今まではすべて現金で売買していたので、損をしても手持ちの金が減るだけで借金を背負うというリスクはなかった。
しかし、信用取引は違う。大きな取引ができる反面、大きなリスクを背負い込むことになる。破産から人生崩壊へとつながるリスクだ。
信用取引とは、証券会社に保証金を預けることによって保証金の約3.3倍までの取引をすることができるものである。つまり、100万円の保証金を預ければ330万円までの取引ができることになる。少ない自己資金で大きな商売ができることから、レバレッジ(梃)とも呼ばれている。言い換えれば、他人の褌で相撲を取ることができるのである。
ただ、信用取引で購入した株が基準を超えて値下がりした場合は追証とよばれる追加の保証金を払わなければいけないことになっている。更に、信用で借りた金は6か月以内に証券会社に返済する義務がある。もし利益が出なくても、6か月経ったら全額返済しなければならない。
その場合、損が発生する可能性があることを頭に入れておく必要がある。つまり、うまくいけば大きな儲けを手にできるが、最悪の場合は大きな借金を背負う可能性があるということだ。
さて、どうする?
危険を承知で突き進むか?
それとも、リスクが少ない現金投資を続けるか?
考えた。
考え抜いた。
今までで一番頭を使って考え抜いた。
でも、諦めるという選択肢を選ぼうとは思わなかった。わたしはリスクに目を瞑り、大きなリターンの可能性に賭けることにした。株式投資を始めてから一度も損をしたことがなかったので、自分には才能があると思っていた。だから、大きな勝負がしたかった。負けるとは露ほどにも思わなかった。