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次の夢

 

 その後、二人で過ごす時間が増えるにつれ、お互いが置かれた立場について話し合うことが多くなった。


「継ぐべき家業が無くなった私と家業があっても継がなかったあなたがこうして一緒にいるのは不思議ね」


「本当だね。切望しても叶わなかった君と切望されたにもかかわらず断ったわたしが出会ったことも何かの縁なのだろうね」


「それも大阪でね。京都出身のあなたと島根出身の私が大阪の小さな会社で一緒に仕事をするようになるなんて、本当に不思議」


「もしかしたら運命かもしれないね。出会うようにできていたのかもしれない。生まれる前から運命の糸が繋がっていたのかもしれないね」


「そうかもしれないわね。でも、その糸はどこに結ばれているのかしら」


 彼女が両手の10本の指をじっと見つめたので、「そこじゃないよ、ここだよ」とわたしは彼女の心臓の上に手を置いた。丸くて、柔らかくて、温かった。


「離さないでね」


 彼女もわたしの心臓の上に手を置いた。


「繋がったね」


 お互いの生命の拍動が同期しているように感じると、溶け合って一つになったように思えた。


 大切な人……、


 わたしは愛おしく彼女を抱きしめた。そして、彼女との行く末に思いを馳せた。


        *


 わたしが作詞したデビュー曲は新人としては大成功の10万枚のヒットになり、150万円の印税が入ってきた。その上、2作目の作詞依頼が来た。『爽やかで、かつ、甘酸っぱい恋の歌』を求められていた。契約金は無かったが、印税率は1.7パーセントにアップした。


 この曲がヒットしたら、わたしの、いや、わたしたちの次の夢が叶うかもしれないと思うと、思わず肩に力が入った。しかし、そんな状態で爽やかな歌詞を生み出すことは無理なので、大きく息を吐いて、体中の力みを追い出した。そして、心を無にするために目を閉じた。すると、静かな森や、そこを流れる小川、爽やかな風、穏やかな海、日暮れの街角が浮かんできた。それはイメージにぴったりの情景だった。その中に結城の顔を重ねると、付き合い始めた頃の切ない想いが蘇ってきた。わたしはペンを握り、ノートに向き合った。


        ♪  ♪


 『リメンバー』     作詞:高夢才叶


 忘れかけてた愛の日々は、通り過ぎる夏のように

 一つ一つぼくの胸に、言葉もなく甦るよ


 それは、静かな森の小川の流れ

 それは、静かな風のかすかな微笑

 あなたのために、アイラヴユー、アイラヴユー、ワンスモアタイム


 忘れかけてた愛の日々は、一人ぼっちの海のように

 いつの間にか僕の胸に、そっと静かに忍び込んで


 それは、秋の海の少女のように

 それは、冬の街の日暮れのように

 忘れられない、アイラヴユー、アイラヴユー、ワンスモアタイム


 それは、静かな森の小川の流れ

 それは、静かな風のかすかな微笑

 あなたのために、アイラヴユー、アイラヴユー、ワンスモアタイム


        ♪  ♪


 出来上がった曲は、わたしのイメージ通り、いや、それ以上のものだった。爽やかで甘酸っぱいメロディーラインが男性デュオのハーモニーにぴったりだと思った。発売は初夏に決まった。


 発売元の音楽会社が広告宣伝に力を入れ、ミニ・ライヴを数多くこなした結果、男性デュオはテレビのベストテン番組に出るようになった。すると、口ずさみやすいシンプルなメロディーラインが多くの人に支持されたのか、予想以上のスピードで売上を伸ばしていった。しかも10代や20代だけでなく、流行のJ・POPについていけなくなった30代や40代の層までファンが広がっていき、最終的に20万枚のヒットになった。その結果、印税として340万円が入ってきた。わたしは心に温めていたことを実行することにした。



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